唐突にキス
「すみません。遅くなりました。寒かったですよね」
私はセチアさんとメリーさんが待つギルドの敷地に戻って来た。
「いや、ライト君の魔法陣のおかげで体はぽかぽかだよ」
セチアさんは上着の裏を私に見せて来た。ライトが紙に描いた『熱』の魔法陣が張り付けられており、魔力を流すだけでカイロのように温かくなる代物だ。カイロより持続力はないものの、何度も使える優れもので、冬の必需品となっている。
「そうですか。凍えてなくてよかったです。ギルドで革が買えたので、この革で靴を作りますね」
私は荷台の後ろに回り、革を置く。
「よし。後は……何か必要なものでもあるかな」
私は自分の聖典式の時を思い出す。他に必要なものが思いつかなかったので、今日はこれで十分だと思い、買い物は終了した。
私が服を身繕うはずが、高すぎて買えず、作るという方向に変えた。きっと私の判断は間違っていないだろう。
「セチアさん。街に来たついでに病院に寄りますか?」
「…………う、うん。行かせてほしい」
セチアさんは泣きそうな表情で頷く。苦しいなら行かなくてもいいのに……。年が変わる前に挨拶したいのかな。
私達はリーズさんの病院に移動した。メリーさんもリーズさんには貸しがあり、助けてもらった恩人だからといって病院の中にまでついてきた。
病院の中はせき込む人が多く。風邪を引いている人が多い印象だった。
――風邪を移されたら面倒だな。口と鼻に魔力でも覆わせておくか。
私は口と鼻に魔力の膜を張り。少しでも細菌が体内に侵入するのを防ぐ。
「じゃあ、行きましょう」
私とセチアさん、メリーさんはラルフさんが眠る病室に向った。
ラルフさんが昏睡状態になって早六カ月。もう、六カ月も経っているのかと思うと時の流れは早い。そもそも、六カ月も眠り続けるなんて……。いや、一〇年以上昏睡状態だったけど眼を覚ましたという人がいるくらいだ。まだ、死んだわけじゃない。生きているんだから、もしかするかもしれないじゃないか。私は諦めないぞ。
私達はラルフさんがいる病室の前にやって来た。扉を横に動かし、中に入る。病室は明るく。日の光が入ってくるいい場所だ。少しでも覚醒する確率に掛けている。
「ラルフ……。久しぶり……。元気だった……?」
「………………」
ラルフさんはいまもベッドに寝ており、セチアさんが話しかけても眼を覚ます気配はない。
「私ね、今度スキルを貰うんだよ……。もしかしたら冒険者になれるくらい強いスキルが貰えるかもしれない……。子供達は皆キララちゃんの牧場で楽しそうに働いてるよ……。あとはラルフだけなんだから……、早く来てね。私、ずっと待ってるから」
セチアさんはラルフさんの顔を覗き込むように語りかけている。
ラルフさんはいまも眠り続けており、息はしているものの、何の反応も見せなかった。
「ラルフ……」
セチアさんはラルフさんの唇にキスをした。
あまりに唐突で私は顔がぼっと熱くなり、映画の一場面を見ているような感覚に陥る。でも、映画ではなく実際に起こっている場面なのだ。
セチアさんはとても恥ずかしそうにしているものの、先ほどの泣き顔とは打って変わって笑顔になっていた。
「わ、私の初めてのキスなんだから……。ちゃんと起きて返事を聞かせてよね……」
セチアさんは遠回しで告白をしているようなものなのだが、ラルフさんに届いているだろうか。もし、聴覚が直っているのなら聞こえているかもしれない。
「えっと……、二人共、外に行こうか」
セチアさんはもう、十分なのか、私達の背中を押して病室を出る。
「せ、セチアさん……。何でいきなり……き、キスなんて……」
「な、何でかな。し、したくなっちゃったから……かな。うぅ……、な、何であいつなんかに私の始めて、をあげちゃったんだろう……」
セチアさんは両頬に手を置いてプシュ~っと赤くなっていた。相当恥ずかしいらしい。まぁ、そりゃあ恥ずかしいでしょうよ。周りに私とメリーさんがいたわけだからね。
「はぁ~、良いな~良いな~。私の始めてなんて知らないおじさんだよ~。セチアちゃんは正しい行いをしたと思うから、気にしなくていいんじゃないかな~」
メリーさんはいきなり重い発言をした。お金を稼ぐためとはいえ、知らないおじさんに初めてを上げるなんて中々できたものじゃない。すごい勇気だ。それだけカイト君を助けたかったんだろうな……。
「じゃあ、私はリーズさんにお礼を言ってくるね~」
「あ、メリーさん。待ってください。私もラルフの件でお礼を言いたいです」
メリーさんとセチアさんは病院の中を回り、リーズさんを探した。リーズさんが待合室にいたところを捕獲し、二人そろって感謝を言葉にしていた。何度も頭を下げている。それだけ感謝の気持ちが大きいということだろう。
私は他の病人に迷惑が掛からないように病院の外で待っていた。少しすると、少年が一人の少女を抱きかかえて病院にやってくる。
「レイニー。どうしたの?」
「え……、キララ? お前こそ、病院にいてどうしたんだよ」
身長の高いレイニーは厚手の黒いローブに長い布のマフラーを付け、歩いていた。
「私は知り合いの友達をお見舞いしに来たの……」
「なんだそりゃ? まぁ、俺は教会の子供が風邪を引いたっぽくてさ。薬を買うにしても俺は医者じゃないからわからねえし、一度病院で見てもらったほうがいいかなって思ったんだ。診察料は何とか払えそうだからな」
「そうなんだ」
私はレイニーが抱きかかえている少女の額に手を当てる。熱が四〇度近くった。さすがにただの風邪でここまで熱は上がらない。
「レイニー正しい判断をしたみたいだね。これ、ただの風邪じゃないよ」
「え……。そうなのか。じゃ、じゃあ。医者に早く見せないと……」
レイニーは病院に入り、リーズさんのもとに向かう。
「え……、レイニーさん……」
「え……、レイニー」
セチアさんとメリーさんはレイニーの顔をみて、驚いていた。
「セチア、メリー。久しぶりだな。お前たちも風邪か何かか? 大切な体なんだから大事にしろよ。あ、リーズさん。うちの孤児が酷い熱を出して、しまって。見てもらえませんか?」
「ええ、もちろん見ますよ」
白衣を着た医者のリーズさんはレイニーが抱きかかえていた少女の診察を受ける。
「ん~。この体温は中々高いですね……。一度しっかりと調べましょうか」
リーズさんは少女の脇に棒を挟み、体温を測っていた。魔法陣が掛かれているので魔道具か何かだろう。リーズさんはレイニーから少女を受け取ると、レイニーと共に診察室に向った。
すると、なぜかメリーさんもついていき、私とセチアさんだけが待合室に取り残される。
「なんで、メリーさん、レイニーについて行ったんだろう」
「キララちゃんはレイニーさんと知り合いなの?」
「え……、セチアさんはレイニーを知っているんですか?」
「知っているも何も、私のお兄ちゃんみたいな人だよ。私が孤児の時に何度も助けてもらったの。パンとか、道具の盗み方もレイニーさんから教えてもらったんだよ」
「えぇ……。そうだったの……」
「昔のレイニーさんはとても辛そうだった。でも、さっき見たレイニーさんはすごく優しそうになってた。何かあったのかな……」
――セチアさんはマザーがどうなったのか知らないのか。まぁ、知らなくてもいいけど。
「じゃあ、メリーさんがレイニーについて行った理由はわかりますか?」
「さぁ……。メリーさんとは孤児の時に拘わりが無かったからわからないかな」
「じゃあ、私達も行きますか」
「そうだね」
私とセチアさんはリーズさんの向った診察室の前に向った。
メリーさんは診察室の外で待っており、深刻そうな表情を浮かべている。
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