女の子は着飾りたい
「えっと……、そろそろ本題に入ってもいいですか?」
私は自分から、セチアさんとメリーさんのお願いを聞くために話題を変える。
「あ、そうだったそうだった。キララちゃんと話すのが楽しすぎて忘れてたよ」
セチアさんは頭に手を置いて苦笑いをする。
「えっとね。お願いって言うのは聖典式についてのことなの」
「聖典式ですか? 聖典式は一月八日の予定ですよ」
「それは知ってるよ。でもその……、衣装とかさ……あるじゃん。あれは買わないといけないのかな?」
「衣装ですか。私の時はお母さんに作ってもらいました。別に何を着ても良いと思いますけど、人生のうちで一回しかないですから、着飾る人が多いんじゃないですかね」
「そ、そうだよね……」
セチアさんはなぜか悲しい顔をする。いったいなぜなのだろうか。
「キララちゃん。街の服屋に一緒に来てくれないかな……」
セチアさんは呟いた。
「え? 私ですか」
「キララちゃんなら、私達に似合う服を選んでくれるんじゃないかなと思って……、今日はお願いしに来たんだよ」
セチアさんは恥ずかしそうに下を向いて話す。
「私達、お金が無さすぎて真面な服を買えなかったの。だから、どんな服が似合うのか分からないし、どんな服を買ったらいいのかもわからないの。そこで、何でも知っているキララちゃんに聴けばわかるかな~って思ったんだよ」
メリーさんはほわほわした声で言った。
「まぁ、私なら、綺麗な服の着方くらいわかりますけど、二人は着飾りたいんですか?」
「わ、私だって一応女の子な訳だし……、可愛くなりたいと思うことだってあるよ……」
セチアさんはメリーさんの胸を見て答える。
私は「胸が全てではないと思うよ」と言いたいが、昏睡状態のラルフさんが昔、大きな胸の人が好きだと言っていたそうで、あこがれが強いのかもしれない。
「綺麗な服を着たら、皆、喜んでくれるんだよ~。特に男の人は凄く喜ぶの。女の子は顔だけが可愛くても駄目で、服装をしっかりと整えた女性に惹かれるんだって~」
「へぇ……。なるほど。って、メリーさんは男の人に惹かれたいんですか?」
「ま、まぁ~。子供っぽい男を落とすなら、やっぱり大人っぽい服を着ないとね」
メリーさんの表情が子供っぽく赤くなった。
――なになに~、恋の花のにおいがプンプンしますな~。私もビー並みの嗅覚を持っているのですよ~。
「ふぅ……。じゃあ、街に行きますか。二人に似合う服を私が見繕ってあげますよ。ドンっと任せてください!」
私は立ち上がり、無い胸を叩く。こう見えても私の前世はトップアイドルなのだ。服装のことに関してはお手の物。二名を可愛く着飾る想像が頭の中に浮かんでくる。
「ほんと! ありがとう、キララちゃん!」
セチアさんは椅子から立ち上がり、私に抱き着いてきた。イケメンに抱き着かれているみたいでこっぱずかしい。でも、ほんのり香る女の子のにおいが愛らしさを放っていた。
私とセチアさん、メリーさんの三人は思い立ったら即行動。私達は二人が聖典式の時に着る服を買いに、街の服屋にやって来た。
「金貨三八枚……。こっちは金貨五八枚……。どこの高級ブランドだよ!」
私はショウケースの中に入っている綺麗なドレスの値札を見て叫ぶ。
「キララちゃん、落ちついて。仕方ないよ。綺麗な服だもん。値段が高くなって当たり前なんだよ」
セチアさんは私の手を持ち、服が入ったショウケースから離させる。
「私、こんな胸が小さな服じゃ、入らないよ~」
メリーさんは胸に手を置き、服の胸部分を見ながら言った。
「はぁ?」×セチア、キララ。
「え、なになに。そんな怖い顔しないでよ~」
私達がやって来たお店は街で一番高級そうな服屋だった。そのかいあって確かに良い品が多い。だが、どこぞの高級ブランドと肩を張るくらいに値段が高い。
さすがにメリーさんとセチアさんでは購入できない金額だ。これが上の服だけと言うのも厳しい所だ。下も買わなければならない。
加えて靴や髪飾りなんかも必要で合計金額金貨一八〇枚以上と言う計算になった。ここまでガチる必要もないと言うことで却下する。
下を見ればセチアさんとメリーさんの着ている服装で聖典式に出たって何ら問題ない。でも、二人は嫌だと言う。
なら、購入できる範囲内で可愛らしく、素敵な聖典式になるように私が見繕えばいいだけだ。元トップアイドルを舐めるなよ。
――ベスパ。街で一番安い服が売っているお店はどこか探してくれる。
「了解です」
ベスパは服が安いお店を探した。すぐに見つけ、私達はレクーが引く荷台に乗って移動する。
「銀貨五枚……。た、確かに安いけど……。ただの布地やんけ!」
「キララちゃん、落ちついて。仕方ないよ。安いんだもん。布を巻き着けて服にする家族もいるくらいだから、一応れっきとした服だよ」
セチアさんは私の手を持ち、布から離させる。
「そ、そうですね……。確かに……」
私は布地を見て触る。触り心地は明らかに高級な服の方が上だ。布は糸で編みこまれているのかと思ったが、スキルによって生み出された品だった。だから、大きな布でも安いのか。
「ん~。作るか……」
「え? 作る?」×セチア、メリー。
「はい。服を作りましょう。私の時もお母さんが服を縫ってくれたんです。布を何枚も使って私専用の一張羅を作ったんですよ。お母さんに頼むのも悪いですから、私達で作りましょう」
「で、でも……。私達、裁縫なんて出来ないよ」
セチアさんは苦笑いをしながら呟く。
「わ、私も……」
メリーさんは指先を弄りながら言う。
「いえ、二人に作ってもらうのは髪飾りだけです。後は私に任せてください」
「そ、そんな。髪飾りだけなんて……、キララちゃんに悪いよ」
セチアさんは無駄に責任感が強いので、自分のことは自分でやりたがる主義なのだ。
「気にしないでください。私が作るんじゃなくて、私のスキルが作るので」
「キララちゃんのスキル……」
――ベスパ。布地があれば、色鮮やかな衣装が作れるよね?
「はい、可能です」
ベスパ達は森にある色しか使えない。白色や黒色、赤色と言った服に使える色が森にはあまりなく、いつも暗い色の品しか作れない。でも、材料があれば話は別だ。白い布地があれば白い服が作れる。その要領で、二人の衣装を作ればいい。
「よし! そうと決まれば、白、黒、ピンク、黄色、赤、青、緑……」
私は出来るだけ色の薄い布地を選ぶ。色が濃すぎると少し落ち着きが無く、馬鹿っぽく見える。落ち着いた色であれば、大人っぽい印象が与えられるはずだ。
私は筒状に丸められた布地を買えるだけ買った。ただ、靴などは自分で作るとなると難しいため、購入するしかないかな。
「キララ様。色が付いた革を買えば私達でも革靴が作製可能ですよ」
ベスパは私に足裏を見せながら言う。
――色が付いた革。魔物の革とかに色が付いているのかな……。ベスパ、探してくれる。
「了解です」
私達は荷台に布地を乗せていると、ベスパが戻って来た。
「キララ様、革に色が付いた品が売っていました」
――ほんと。じゃあ、案内して。
「了解です」
私達はベスパに連れられて冒険者ギルドにやって来た。
「こ、ここ。バルディアギルドだ! キララちゃん。ここに何しに来たの!」
セチアさんは目を輝かせながら興奮していた。
――そうか。セチアさんは冒険者になるのが夢だったな。そりゃあ、興奮するか。
「この場所に革が売っているそうなので、見てきます。セチアさんも来ますか?」
「い、行きたいのはやまやまなんだけど……。私、ラルフと一緒に入るって決めてるの。だから、まだ入らないよ」
セチアさんは歯をぐっと噛み締めて、泣きそうになりながら堪えた。
「うぅ……、ラルフ……」
我慢したと思ったが、セチアさんはメリーさんの胸に頭を埋め、肩を引くつかせる。どうやら涙をこらえきれなかったらしい。そりゃあ、大好きな人が未だに目を覚まさないんじゃ、仕方ない。
「大丈夫、大丈夫。きっといつか目を覚ましてくれるよ……」
メリーさんの母性が爆発し、セチアさんを包み込むように抱擁していた。
私はレクーをバルディアギルドの空き地に移動させ、荷台から降り、バルディアギルドの入り口に向かった。
入口に到着したので、中に入ろうとする。
「ん……。いや、待てよ……。少し身をずらしてと……」
私は身の危険を感じ、バルディアギルドの扉の前からどく。
私が退いた瞬間、バルディアギルドの扉が粉砕し、男性が吹き飛んできた。情けない声を出しながら地面を何度も跳ね、木壁に衝突する。
何度この光景を見ればいいのかと言うほど、同じ状況に私はため息と言う名の呆れ声を出した。
「はぁ……。またですか……」
「うぅ……」
「おい、ブレイク。嬢ちゃんにまで呆れられてるぞ」
壊れた扉から出てきたのは怖すぎる顔のシグマさんだった。
あまりに怖いので、眼をそむけざるを得ない。どこかの組長だと言われても信じるくらいだ……。
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