骨がある仕事
「よ~し、皆。収穫はここまでにしょう。牧場に入る前に手をしっかりと洗ってライトに『クリーン』を掛けてもらってね。昼食にトゥーベルを出すから。皆、楽しみに待っていて」
「は~い!」×子供達。
子供達は泥だらけの手を真上に上げて微笑む。本当にかわいい子達だ。この子達が街で死ななくて本当に良かったと心から思う。
子供達は畑から牧場に移動し、ライトに『クリーン』を掛けてもらった。
「トゥーベルが全部で三八八個も取れた。今回三〇個食べるとして、六個は常連さんに持っていく。沢山食べたいところだけど、個数がまだまだ少ないから、全部は食べられない。一〇〇個残しておこう。そうすれば、来年の春ごろには六〇〇〇個を超えるトゥーベルが収穫できるかもしれない!」
「何とも夢のような話ですね。初めは八個の小さなトゥーベルだったのに、いつの間にかこんなに大きなトゥーベルが沢山出来るなんて……」
ベスパは魔力体の自分とほぼ同じ大きさのトゥーベルを見ながら呟いた。
「これが野菜の凄い所だよ。小さな種から大量の野菜が出来る。ほんと魔法みたいだよね」
私は枝豆を空に掲げ、駄女神に見せる。
――駄女神にこの枝豆、ちゃんと見えてるかな? 冬の聖典式にお供えでもしておくか。豊作だったと報告したい。
「キララ様。トゥーベルの葉はどうするのですか?」
ベスパは土の上に置かれている葉を指刺す。
「トゥーベルの葉には毒が多く含まれているから、食べられないよ。だから、ディアにでも食べてもらおうと思って」
「なるほど、ディアなら毒を食しても無事そうですよね。何なら、私達も食べてみたいんですけどいいですか?」
ベスパはトゥーベルの葉を持って聞いてくる。
「別にいいけど……、死ぬかもしれないよ」
「私は死んでも生き返るので大丈夫です」
ベスパはトゥーベルの葉を手に取り、パクリと食べた。しぶ~い顔をして、美味しくないと言いたそうに唾をペペっと吐いている。
――だから言ったのに。子供のようになんでも口にしたがるのは悪い所だ。
「ディア、どこにいるの?」
私は掃除屋兼、ごみ処理班のディアを呼んだ。
「はい! ここにおります!」
ディアは地面を高速で移動してきた。いつ見ても気持ち悪いくらい黒光りした容姿をしているが、害は無いので気にしない。
「トゥーベルの葉が邪魔だから、食べてくれる。毒が含まれているから、美味しくはないけど……」
「私達にとって食べられれば何でも美味しいのですよ! ありがたくいただきます!」
ディアはトゥーベルの葉に走っていく。周りからもブラットディアが大量に集まり、葉を食い尽くした。仕事が本当に早い。
「ありがとう、ディア。またお願いするね」
「はい! ゴミ処理は私の得意分野ですから!」
ディアは村のごみを探しに地面をかさかさと走っていく。
「ほんとあの雑食性には助けられるな……」
私は感心しながら、トゥーベルの保存をするために紙で包んでいく。水で洗わずにそのままだ。光や日光に当たると芽が出やすくなり、毒素であるソラニンが大量に作られてしまう。そうならないために、紙で光を遮断し、出来るだけ低温の場所に保管する。そうすれば六カ月は持ってくれる。
来年の春ごろに種芋を植えれば、土地が枯れない限り、半永久的にトゥーベルが作れる。そうなれば、食卓に食べ応えのあるトゥーベルが増え、子供達も満足してくれるだろう。
「よし、全部を紙で包んだ。この後は木箱に入れて~、冷蔵庫に保管しておけば来年の春ごろに使える~」
私は村に巨大な農園を作ると決めた。なんせ、実験でここまでうまく行ってしまったのだ。作らない方がもったいない。土地はある。なら、農業をしたってなにも減らない。むしろ食卓が豊かになり、お金も入ってくるなんて、最高じゃないか。
私は紙で包んだトゥーベルを木箱に入れ、蓋をする。蓋に炭を使ってトゥーベルと書き、何が入っているかわかるようにしておいた。
「ベスパ。トゥーベルの入っている木箱を冷蔵庫に入れてきて」
「了解です」
ベスパはトゥーベルが三〇〇個入っている木箱を持ち、大きな冷蔵庫に運んで行く。
「さてと~。後は皆で食べるから、光を遮る紙を巻いておこう」
私は五八個紙で包む。三〇個は昼に食べるのでそのままにしておいた。
「今度持って行ってあげよ。絶対に喜ぶぞ~」
私は街に住む常連さん達の美味しそうにトゥーベルを食べる顔がはっきりと浮かんできていた。バターやチーズ、牛乳と言った商品を泣きながら食べてくれる人たちだ。きっと同じように嬉しがってくれるだろう。
「いや、待て……。トゥーベルはありきたりな食材っぽい。なら、美味しい物も確実にある。好敵手となる村のトゥーベルの方が美味しかったら喜んでもらえないかも……」
私はまだ確信できなかった。なんせ、自分で作ったトゥーベルが美味しいのか分からないからだ。早く食して美味しいかどうか知りたい。
「ま、焦らず、騒がず、まったりいきましょう」
私はお婆ちゃんのような顔で心を落ち着かせた。粗茶でもあればずずず~っと一息入れたいくらいだが、仕事があるのでおあずけだ。
「キララ様。ただいま戻りました」
ベスパは冷蔵庫から戻って来た。
「お疲れ様」
私はトゥーベルを紙で包んでいるところだったので、ベスパにも手伝わせる。包む作業が終わり、いったん立ち上がった。
「さてと~。仕事をさっさと終わらせますか~!」
私はジャガバターを作るために仕事をさっさと終わらせる。
今日行った仕事は牛乳の在庫数を調べることと、これから必要になる本数などをおおかた決めること。
各仕事場の状態を調べ、改善できる場所はすぐに改善していく。
無駄な工程を省き、速度と安全性を両立させた牧場へと変えていくのだ。
なんとも、骨がある仕事だ。アイドルとはまた違った責任感がある。こんな重大な仕事を一一歳児にやらせていいのかと思うが、皆、私を信頼してくれているので、とてもやりがいのある仕事だ。
私は人一倍仕事し、他の者が仕事をしている中、昼食の一時間前に抜ける。
「はあぁ~! 終わったぁ~! でも、今から昼食に出す、トゥーベルのバター乗せを作らないと……。子供達がありえないくらい楽しみにしているし、裏切れないよね」
私は家に戻り、台所に向った。
「お母さん、ただいま~」
「お帰り、キララ。今日はいつもより早いじゃない。どうかしたの?」
お母さんは台所でチーズやバターを作っていた。
「ちょっとね~。今から、畑で取れたトゥーベルを使って料理をしたいなと思ってさ」
「あぁ、トゥーベルを収穫したのね。どんな感じになったの?」
お母さんも興味があるのか、私が作ったトゥーベルが気になるらしい。
私はふふふっ~と悪い顏をしながら、空中に浮いているバケツからトゥーベルを取り出す。
「じゃじゃ~ん。大きなトゥーベルが出来ました~」
「こ、これがトゥーベル……。こんなに大きくなるものなの……」
お母さんは私が持っている野球ボールが二個分くらいのトゥーベルを見て驚いていた。
「大きくなるみたいだよ~。私もこんなに大きなトゥーベルは初めて見た。お母さんはトゥーベルを食べたことある?」
「ええ。一応あるけど……、凄く土臭い食べ物だった覚えがあるわ。小さいし、土臭いし、じゃりじゃりとして気持ち悪いし……」
――お母さんはトゥーベルを生で食べたんだろうか。さすがに生で食べようとは思わないよな。
「えっと。一応聞くけど、どうやって食べたの?」
「火であぶって食べたわ。調理法が悪かったのかしら?」
お母さんは頭に? を浮かべ、こまっている。
まぁ、私はトゥーベルを焼くわけではないので、別に気にする必要はなさそうだ。
「お母さん。私が台所を使いたいから、今、台所に置いてある商品をいったん片付けてくれる」
「え、ええ……。わかったわ」
お母さんは台所に置いてある品をパパッと片付け、使いやすくしてくれた。別に難しい料理をするわけじゃないので、手間はかからない。
私は小さな台を持ち、台所の前に置く。足を乗せ、料理台と私の身長の高さが丁度よくなり、作業しやすくなる。
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