芋ほり
私は子供達に芋ほりの話をしに行った後、ウシ君に荷台を引いてもらい、牛乳を配達する。
レクーが雪に脚を取られ、滑ると骨を折る可能性があり、危ないので足腰が力強いウシ君を採用していた。
まぁ、最近は雪続きで私と外に出歩けないレクーはお怒りなのだが、たまにはレクーにも走らせてあげたいと思っているものの、万が一こけて脚の骨でも折ったら一大事だ。
それなら、足腰が丈夫なウシ君に頼んだ方が良い。
今、モークル達は育休と言うか、繁殖時期ではないらしく、おせっせの行いが出来ない。ウシ君もストレス発散に運動が丁度よく、元気に働いている。
私が牛乳を運んでいると、ライトとシャインが子供達を引き連れて牛乳を運び出す。
子供達は詠唱をしっかりと覚え、まだ補助がいるものの、魔法が使えるようになった者が増えた。めぼしい進歩である。
加えてシャインの影響か、子供達に体力が付き、動きが機敏になっていた。食べ物や環境でここまで変化するとは思っておらず、子供達の成長が止まらない。
皆で牛乳を運ぶとあっという間に終わってしまい、時間が空いた。この時間を利用して私は芋ほりを行う。
私と子供達は畑に移動し、私は皆の前に立った。
「え~、皆~、芋ほりを行います! 手伝ってくれた子には美味しい美味しいトゥーベルをごちそうしますよ~」
「うわ~い!」×子供達。
昔、私は幼稚園や保育園の先生に憧れている時期があった。
特に理由はないが子供が好きだったのだ。
そのことを聞きつけたグラサンプロデューサーが、教育番組の仕事を持ってきた。
初めてちゃんと仕事したなとほめたくなるも、私の思っていた教育番組とは違い、体を張って実験を行う、半分バラエティー番組だった……。まぁ、たまに幼稚園や保育園を訪れて皆で踊ったり歌ったりするほっこり場面もあったわけだけど、体力がつきそうになるくらい子供達が元気だったのを覚えている。
「じゃあ、二〇人いるので、五人の組に分かれてください~」
「は~い!」×子供達。
私は子供達を五人組に分けた。ライト、シャイン、ガンマ君、メリーさん、セチアさんの五人をリーダーとして、私は全体を仕切る。
「五人組に分かれてもらいましたね~。では、今この畑には一六本の蔓と葉が見えています。一組に三回芋ほりを行ってもらうので、無理せず焦らないように楽しみましょう~!」
「は~い!」×子供達。
私は五人のリーダーを集めて、余る一本の蔓を使ってお手本を見せる。
「じゃあ、皆、見ててね」
「わ、わかった」×ライト、シャイン。
「わかりました」×ガンマ君、セチアさん、メリーさん。
私は五人によく見えるように芋を掘っていく。特にこれと言った方法は無いのだが、どういった風にトゥーベルが実っているのかくらいは知っておいてもらおう。
私は手袋をして、土をかき分けていく。トゥーベルが沢山実り、重くなっていると蔓を引っ張ってもトゥーベルが土から出てこないことがある。出来るだけ土を履けてから、引っ張るのがコツだ。
「おぉ……。なんか、出来てる……。姉さん、これがトゥーベル?」
ライトはトゥーベルをしっかりと見るのは初めてなので、興味津々だった。知らない知識を知るのが大好きなので仕方ない。
「そうだよ。これがトゥーベル。土から頭を出していて可愛いでしょ」
「か、可愛くはないけど……」
ライトに、かわいいはまだ早かったようだ。
私は土から頭を出しているトゥーベルの周りの土を捌けて行き、取り出す。
トゥーベルは思っていた以上に大きく、私の手で作る握り拳よりも各段に大きい。多分、お父さんの握り拳よりも大きかった。一二センチくらいのトゥーベルが取れ、私は興奮する。
「うわ、うわうわっ! すごい! すごいすごい! こんなに大きくなってる~!」
「………………」×ライト、シャイン、ガンマ君、セチアさん、メリーさん。
皆の反応は私の反応と全くの逆。何がすごいのかよくわかっていないようだった。
まあ、別にいいだろう。地上に近い芋がただ取れただけだ。トゥーベルの蔓を一度引っ張ってみようではないか。
私はトゥーベルの蔓を持つ。グググっと引っ張ると少し動くものの、重すぎて全然抜けない。
「皆、一緒に引っ張ってくれる」
私がお願いすると、五人は私の後ろに連なって引っ張り始めた。
いや、これじゃあ絵本の話でしょと思い、こんな引っ張り方をしても私の握力が弱すぎるので、簡単に後ろに転がった。
再度皆で挑戦し、今度は皆で蔓を持って引っ張る。すると、柔らかい土がボコボコッと動き、何かが現れ始めた。
「うわっ! うわうわっ! うわわわわっ!」
私が見た光景は大きなトゥーベルが二〇個ほど土からゴロゴロと出てくる瞬間だった。もう、小さなダルマが何個もくっ付ているような状態でちょっと恐ろしい。
「す、すごい。さっきの芋がこんなにたくさん……」
全員、眼の色を変えていた。
やはり芋ほりは楽しい。時期は少々遅めだけど、魔力のおかげで腐らず、私の愛情かわからないがトゥーベルは大きくしっかりと育ってくれていた。
「皆、どんなことをするのか大体わかったかな?」
「はい!」×ライト、シャイン、ガンマ君、メリーさん、セチアさん。
「じゃあ、皆は他の子供達と一緒に芋を掘り出して行ってね。掘り出せた芋はこの布の上に置いて行って」
私は土の上にブルーシート代わりの、ブラウンシートを敷き、皆に見せる。
「了解!」×ライト、シャイン、ガンマ君、メリーさん、セチアさん。
皆はバラバラになり、子どもたちのもとに向った。
私は掘り起こした穴を見る。まだトゥーベルが残っているかもしれないと思ったのだ。
「ふふふ~ん。あ、発見。また発見。またまた発見」
私は土を優しく掘ると、根から千切れてしまったトゥーベルが現れる。結果、五個ほど土の中で発見し、一六本中一本を終えらせた。
「今回得られたトゥーベルの個数が、二八個すごい量だな。こんなの見た覚えないよ。魔力のおかげかな~」
通常は一〇個ほど取れたらいい方なのだが、なぜか二倍以上、何なら三倍に近い個数が取れた。私としてはとても有難い。なんせ、たくさん食べられるから。
私はトゥーベルに着いた土を払い、ブラウンシートに置いて行く。一個ずつ手に持って割れている物や腐っている物がないか確かめていき、品質を調べる。どれも一級品の品質で汚い部分が一切無い。少し小さい個体はあるけれど、今度の種芋として使えるので全然問題なかった。
「一個で、二八〇グラムくらいあるのかな。これだけ大きかったら食べ応え抜群だ」
私はにやけ顔が止まらない。はしたない表情なのはわかるが、トゥーベルが食べられるのだ。そう思ったら、にやけ顔になってしまうのも無理はない。
「さてさて、皆はどんな感じかな~」
私はトゥーベルに付いた土を払い終わり、全てをブラウンシートに乗せ終わった。
子供達の方に向かうと、顔を土塗れにしたり、服装を泥まみれにしたりしながら、子供達は楽しそうに芋ほりをしている。
――うん、うんうん……。これこれ、私はこれがやりたかったんだよ……。何だよ、全身で電気を受けてみましょうとか。ダイラタンシーの上を沈むまで全力で走りましょうとか。あんなバラエティー番組よりこっちの方が全然いいよ。
子供達は困難なく、芋ほりを行っていたので私はビーンズの方の収穫に向う。
「うわ……。たくさん房が付いてる~。毛もフサフサだ~」
私はビーンズになる前の枝豆をもぎっていく。木で作った笊に、もぎった枝豆を乗せていき、山もりになった。まだ、半分以上残っているので種として残しておこうと思う。ビーンズとしても何かに使いたいし、ゆくゆくは味噌を作りたい。ビーンズを沢山収穫出来れば醤油や納豆なんかも作れる可能性が出てくる。そう考えるだけでやる気が漲った。
私は沢山の枝豆を持って皆のもとに戻る。すると、ブラウンシートが埋まり、置き場に困っている子供達がいた。
――ベスパ、新しいシートを敷いてくれる。
「了解です!」
子供達は泥だらけになりながらも終始笑顔で、楽しそうだ。ほんと、この笑顔を見るために私は今日まで頑張って土を弄ってきたかいがあったと言っても過言じゃない。
それぞれの組は三本目の蔓に向っていった。私はブラウンシートに置かれたトゥーベルを調べていく。
「ベスパ、トゥーベルの中に虫食いがある個体は無いよね?」
「はい。虫食いは絶対にありません。なんせ、私が食べないようにと言っておいたので」
「そう。じゃあ、大きすぎて割れちゃっている物とか、小さい物は捌けて行こうかな」
私は土をある程度取ったトゥーベルたちを見て、選別していく。何かの理由でわれていたり、小さかったりするものは別の用途で使うので捨てる訳ではない。
ただ、私が思っていたよりも不格好なトゥーベルは少なく、どの子も一軍でやっていけそうな個体ばかりだった。
「ほんと大豊作だな~。これなら、デイジーちゃんのお家に持って行ってもいい。良いお土産が出たぞ~」
私は両手に芋を持ち、笑う。とてもとても楽しい。これが農業と言う人の文明を支えてきた仕事なのかと感動した。
一六本の蔓をすべて引き抜き、地面の中にあったトゥーベルも全て回収した。
大小抜きにして三八八個のトゥーベルを収穫出来た。大豊作だ! うわ~いっ! と喜ぶのはまだ早い。
美味しいか美味しくないかによって決まる。トゥーベルを蒸してほくほくになるのがガリガリになるのかはまだわからない。
男爵になるのか、家畜の餌になるのかくらい違う。あ、男爵と言うのはジャガイモの品種ね。
おまけ。
教育番組と言う名の、バラエティー番組……。
「み、皆、こんにちはー。キララお姉さんは、今から、体にとっても弱い電気を流していくよー。体に電気が流れたらどうなっちゃうのかなー?」
キララは右手で金属の棒を持ち、苦笑いを浮かべていた。
「えー、どうなっちゃうの、どうなっちゃうのー」×子供達。
子供達はキララの前で小山座りをして、考え込んでいる。
「てーれんっ! ここで問題! 一、体の骨が見える。二、何も起こらない。三、痛くて飛び跳ねる。四、気絶する。さあ、どーれだっ! 制限時間は三〇秒。皆で話し合って考えてね」
キララはディレクターが持つカンペを半泣きになりながら読み、子供たちに聞く。
「うーん、うーん。どうなるんだろうー」
子供達は話し合いながら考えていた。
――ああ、私の余命は後、三〇秒か……。短い人生だった。
三〇秒後。
「答えは二番っ!」×子供達。
「さてさて、回答はー、実際に行っていきましょう!」
キララは何も握っていない手でもう一方の金属の棒に触れた。
「お、おお……。ピンポンピンポン! 何も起こらないでした!」
「うわーい、うわーい」×子供達。
子供達は皆でハイタッチしながら喜ぶ。
――よ、よかった。超弱い電気で……。ん? 五秒後に静電気くらいの電流が流れます、良いリアクションを取ってください……。はい?
カンペに訳がわからない言葉が書かれていた。
私が何を言おうか考えていたら、いきなり、ばちっという音が鳴るくらい強い電流が流れた。
「あ、あががががががががががが……、じ、じぬぅ……」
私は口から泡を吹き、倒れ込んだ。全身が痙攣し、真面に呼吸が出来ない。
「う、うわあああああっ! き、キララお姉さんっ!」×子供達。
「ちょ! カメラ止めて止めてっ!」
「きゅ、救急車! 救急車呼びますっ!」
――え、ちょ、ちょっと。演技なんだけど……。あ、あの、面白いリアクションを取ったつもりなんだけど……。
キララは名演技すぎて、その後、全く問題ないのに救急車で運ばれることとなった。




