問題の解決
夕食時になり、家族会議が始まった。
今はどこの土地を買って牧場を広げるのかと言う話合いをしている。
「ふむふむ……。やはり、次の牧場を作るならブレーブ平原がいいんじゃないか?」
お父さんはパンを食べながら言う。
「私もそう思うわ。この村から近いし、広い。人の通りも少ないから、動物たちものびのび暮らせると思うけど……」
お母さんは何か引っかかる点があるのか、口をつぐむ。
「でもさ、やっぱりここは魔物と毒草が蔓延ってるし、別の位置に変えた方が良いんじゃない? いっそ山を開墾して牧場を広げるのもありだと思う」
ライトは別の提案を出した。
「ん~、私はもっとみんなと一緒に過ごしたいから、近くに家のある牧場を広げた方が楽しいんじゃないかな?」
シャインもライトと同様に別の意見を出す。
お父さん、お母さん、ライト、シャインはそれぞれの意見を言う。
今のところ候補は二案。
一案目は村から街の間にあるブレーブ平原と言う広い土地を買い、整備して動物達を育てる。
二案目は今ある牧場を拡大し、動物達を育てると言う、道。
はてさて、どっちがいいのか、私も考えあぐねている訳だけど、いい点と悪い点がそれぞれあるので悩んでいる。
「キララはどう考えているんだ?」
お父さんは私に聞いてきた。
「ん~、私はどっちも捨てがたいんだよ。ブレーブ平原は確かに魔物と毒草が多い。街に牛乳を配達している途中にたまに見るし。でも、だからこそ、他の人が寄り付かないし、土地の値段も安い。もともと、土地を持っていた街の領主がいなくなって今は格安に売られているそうだし、買っておくのは悪くない」
「そうだよな」
お父さんは顎に手を置き、考えていた。
「でも、動物達が危険にさらされると言う事実に変わりはない。危険と言うストレスはモークル達の成長を阻害するし、乳の出も悪くなるかもしれない。品質で勝負しているのに牛乳の質が落ちたらもとも子もない」
「ムムム……」
お父さんの表情は険しくなる。
「逆に牧場を広げればその分多くの牛乳を得られるし、動物たちも安心して暮らしていける。でも、限界はあるし、のびのび暮らせるかはわからない。もう、半年前よりも八倍くらいに増えちゃってるから、このまま行くとモークル達が窮屈に感じてしまう」
「そうだよね……」
天才のライトも考えあぐねていた。
「ん~、どうしたら、両立できるんだろう……。二ついっぺんにやっちゃうとか?」
シャインは面白半分にぽろっと呟いた。
「………………それだ」×お父さん、お母さん、キララ、ライト。
「え? いいの? いっぺんにやっちゃって」
シャインは目を丸くし、苦笑いを浮かべる。
「停滞しているよりも行動した方が良い。土地も他の人が買うかもしれないし、今から開墾を進めて整備をしておけば牧場が狭く感じて来た時に移動できる。まぁ、王様から支援金を貰っている訳だからさ、お金の面は気にしなくても大丈夫だと思う。そうなれば、二ついっぺんにしてしまおう」
私は手を合わせ、すっきりした気分で話す。
「でも、それじゃあ、皆の仕事が増えちゃうんじゃ……」
シャインは自分の発言が通り、焦っていた。
「大丈夫。私のスキルにやらせれば問題ない。仲間は多いし、夜通し働いてくれる。急ぐ必要は無いけど、土地が無くなる方が問題だ。土地を買いに行かないとな……」
私達の家族会議の第一題はシャインの一言で解決した。続いての議題に移る……。
「あと二ヶ月ちょっとで聖典式がある。その後、年が明けて一月二月三月って流れていくわけだけと、いよいよ、私の受験が近づいてきた。このまま、私が学園に行くと、私の仕事を誰かが代わりに行わないといけなくなる。その話し合いをしておきたい」
私は議題を変える。
「そうだな。今、キララの仕事として朝の牛乳配達、仕事の現場監督、こまごまとした仕事の整理、街への牛乳配達、畑、その他諸々……。翌々考えたら、キララ、仕事しすぎじゃないか?」
お父さんは顔をどんよりさせ、私を心配してくれた。
「大丈夫、大丈夫。大体スキルがやってくれていることだからさ、私のしている仕事は結構少ないよ。でも、逆にそれが問題なんだよね」
「そうだね……。姉さんのスキルが異様に便利だから、今のところ滞りなく進んでいるけど、姉さんがいなくなったら、上手くいかない所が沢山出てくるはずだよ」
ライトは顎に手を置いて考えていた。
「私のスキルの影響はビーだけじゃない。ビーを通して、他の魔物や動物達と繋がってる。私と縁が切れることはないけど、操作できる範囲には限界があるから、言葉を聞いたりして何を思っているのかを伝えてあげられなくなる。ビーにしては制限がないけど、今と同じような仕事ができるかは難しい所だと思うよ」
「じゃあ、もう動物の皆と会話できなくなるの……」
シャインは少々悲しそうな表情をした。動物の友達でもいたのかもしれない。
「そうだね。私のスキルで会話していたようなものだから、私がいなくなったら動物達の声は普通に聞こえなくなるよ」
「そんな……。うう、チーズちゃんと話すの面白かったのに……」
シャインは結構落ち込んでいた。
「モークルの乳しぼりとか、バートンの散歩とか、動物達と心を通わせないといけない作業があるけど、今のうちから心を通わせる力を付けておいた方が良い」
「そうだね。他にも、牛乳配達の代わりを誰がするのかと言うのと、牧場の管理を誰がするのかと言う話もしないと……」
皆の視線がライトの方に一気に向かう。
「え? なになに? みんなして僕の方を見るのはやめてよ。僕は無理だよ。だって製造の行程で魔法を使わないといけないし、街に配達しに行くのも僕になる予定だし、仕事が多すぎるって」
ライトは当たり前の反発をした。そう、私達の牧場には物凄く高い能力を生かし働いている人と、最小限の能力で働いている人がいる。
私やライト、お爺ちゃんなんかが物凄く高い能力を生かして働いている人の代表例だ。
私はビー達を使ってあらゆる工程を迅速に行い、滞りを限りなくゼロにしている。
ライトは牛乳などの製造の行程をほぼ全て魔法で行っているため、商品を作るために欠かせない。
お爺ちゃんはプロフェッショナルな訳で、どの仕事でも完璧にこなしてくれる。穴が開いたらお爺ちゃんを埋めこめば何とかなるくらいの働きっぷりだ。ただ、私は学園に行く、お爺ちゃんも歳で体の調子が悪い、そうなると、重圧がライトの方に流れていく結果になった。
最低限の能力で働いているのはシャインやお母さん、お父さん、子供達だ。
シャインはめっぽう強く体力があるが、おっちょこちょいな性格やこまごました作業が苦手なので、何かを運んだりするときに頑張ってくれている。だが、他の仕事を与えるとなると失敗が増えて難しい。まぁ、物販だとガンマ君がいるので多少はましになっている。
お母さんはチーズやバターと言った牛乳以外の品をせっせと作ってくれている。ビー達が協力してくれているのでとても作るのが早い。でも、牧場内で働くのは抵抗があるらしく、なるべく家で仕事していた。
子供達はまだまだ小さいので、危険な仕事をさせられないし、難しい話はよくわからないようだ。
ガンマ君とメリーさん、セチアさんの三人が特に優秀なので私達の代わりを担ってくれることを願うばかりである。
テリアちゃんは皆の天使となったわけで、元気の源になってくれる大切な存在だ。
カイト君はバートンを纏めるのがうまく、お爺ちゃんからも一目置かれている。
他の子供達に目立った特徴はないが、一言で説明すると皆、頑張り屋さんだ。今までが地獄過ぎたせいもあるだろうが、今の生活が物凄く楽しいと言ってくれる。
「ライトに頼めないとなると、誰が適任なんだ……。俺は向いてないとわかる。母さんも無理だろ、シャインにも人を纏めるのは難しいとなると、今のところキララ以外で纏め役がいない訳か……」
お父さんは水を飲みながら考えを皆に伝えた。
「子供たちの成長を見て、考えるか、ライトの仕事内容を見直して纏め役にまわってもらうかのどちらかしかないよね」
私達は腕を組み、考える。
本当に問題を一つ解決しても、あとからあとから問題が湧いてくる。
問題の無限地獄みたいな状態だが、私達はいつもニンマリしながら考えている。
なんせ、こんな考えが出来るのは今、儲かっている証拠なのだ。
普通の生活ができており、心に余裕があるからこそ問題と向き合えている。
もし、今が五年前くらいの時は明日はどうやって生きようと言うくらいにあたふたした生活で今日を生きる力しかなかった。
なのに今は問題を考えられる。
考えて考えて、問題が解けた時、さらに前に進めるこの感覚が皆、気持ちよすぎるのか、問題の答えを考え続けるのを止めない。
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