重い愛
「ガンマ君。君はもう、私の弟みたいな存在だよ。だから、一人でしょい込まなくてもいい。テリアちゃんも私の妹みたいな存在だから、私もテリアちゃんをガンマ君と一緒に守る」
「僕がキララさんの弟……」
「そうだよ。家名や流れている血は違うけど、私達は姉弟になれる。心の持ちようでどれだけでも姉弟になれるんだよ」
私はテリアちゃんとガンマ君を抱きしめる。彼の背中をさすり、少しでも不安感をなくしてもらった。
今、ガンマ君には家族がテリアちゃんしかない。なら、私が家族になってあげればいい。見かけ上や言葉上だけでも、ガンマ君と私は姉弟になれる。
――まあ、ガンマ君がシャインと結婚してくれれば、私の義理の弟になるわけだけど……。別に今は関係ないからいいか。
「ガンマ君、私の弟になればライトとシャインも姉弟だよ。二人もテリアちゃんを守ってくれる。どうかな? 私達で家族になる気はない?」
「そ、そんな簡単に家族になってもいいんですか……」
ガンマ君は瞳を潤わせながら呟いた。
「いいのいいの~。メリーさんとカイト君だって本当の姉弟じゃないし、セチアさんと他の子供達だって本当の家族じゃないけど、子供達はセチアさんのことを本当のお姉さんみたいに慕っている。子供はね、誰かに依存しないと生きていけないの。だから、助け合わないといけない。助け合う相手がいないなら、見つけて仲間にすればいい」
「お兄ちゃん、私、キララさんと家族になりたい。絶対楽しいよ。キララさんとシャインさん、ライトさん、皆、皆、すごく強いから、私達のことを絶対に守ってくれるよ」
テリアちゃんはガンマ君の顔を見ながら言う。
「テリア……」
「私、お兄ちゃんが好きだよ。でもね、いつもごめんなさいって思っちゃうの。私も自分で何か出来たらいいなって思っても、お兄ちゃんに助けられてばかりだから……、甘えちゃう。少しでも成長できるように、私は私のために頑張る。だから、お兄ちゃんもお兄ちゃんのために頑張って」
「僕がテリアを守らなくてもいいの? テリアは僕に守られたくないの?」
「そうじゃないよ。私はお兄ちゃんに守られてすごく嬉しいよ。でも、そのせいで他の嬉しいが無くなっちゃったら悲しいよ。私、お兄ちゃんが私以外を守ったらきっとすごく嬉しい。優しいお兄ちゃんが沢山の人を守ったら、すっごくすっごく嬉しい」
テリアちゃんは、真剣な表情で言う。
「そ、そう言われても……。僕はテリアを守るのだけで手いっぱいで……」
ガンマ君は視線を下げ、言葉をつまらせる。
「ねえ、ガンマ君。君は何のために、テリアちゃんを守っているの?」
私はガンマ君に聞いた。
「え……。何のため? そ、そんなの……、テリアが生きていくため……です」
「それはもう私達がいるからガンマ君が守らなくても大丈夫なんだよ。他には?」
「他……、テリアの笑顔を守るためです」
「今、テリアちゃんは笑顔なの?」
テリアちゃんは半分泣き、少々怒っている。
「笑顔じゃないです……」
「笑顔になるには嬉しいことが無いと笑顔になるのは難しい。無理やり笑顔にすることも出来るけど、そんなのは本当の笑顔じゃない。テリアちゃんが満面の笑みを浮かべられるのはどんな時?」
「テリアが嬉しがっている時です……」
「そうでしょ。なら、ガンマ君はテリアちゃんの嬉しがることをするのが本当の役目じゃないの? 今のテリアちゃんはもう、ガンマ君に守ってもらわなくてもいいって言っている。それをしっかり受け止めるのも年上の務めだよ」
「受け止める……」
「もし、シャインとライトが私に村を出たいと言ったら絶対に引き留めないし、男や女を引き連れて来て結婚したいと言ってきたら反対しない。なんせ、二人は私のものじゃないから。ガンマ君にとってテリアちゃんは心の安定をもたらしてくれる物じゃない。一人の可愛い女の子なの。確かに妹だけど、ガンマ君の考えで動く生き物じゃない。私の言っていることがわかる?」
「まだ、よくわかりません……。でも、何となくは理解しました。そうですよね、テリアは僕だけの物じゃない。僕はテリアの笑顔を守りたかったんです。なのに、テリアにこんな顔をさせてしまった……。兄失格ですね」
ガンマ君はうなだれ、自分を卑下した。
「それも、ガンマ君が決めることじゃない。良いお兄ちゃんかどうかは妹のテリアちゃんが決めるの。テリアちゃん、ガンマ君はどんなお兄ちゃんかな?」
「カッコよくて、強くて、優しくて、私の大好きなお兄ちゃんです!」
「はてさて、ガンマ君。妹のテリアちゃんがここまで大絶賛のお兄ちゃんなのに、君は兄失格なのかな?」
「僕はテリアの兄、失格じゃない……」
「そうだね。じゃあ、ガンマ君。もう一度聞くけど、これからも一人でテリアちゃんの笑顔を死に物狂いで守るか。私達と家族になって、皆でテリアちゃんの笑顔を確実に守るか。どっちがいい?」
ガンマ君は目尻から涙を流し、私達の方を向いて二人で頭を下げてきた。
「……キララさん、僕達を弟妹にしてください」
「よし! 決まり! ライト、シャイン。私達もテリアちゃんの笑顔を守るよ!」
「もちろん!」×ライト、シャイン。
荷台にいた二人も降りて来て、私と同様にガンマ君とテリアちゃんに抱き着いた。
「あれあれ~、皆で何抱き着き合ってるの~。いいないいな~、私も抱き着きたいな~」
「ふぐ、ふぐぐ、ふぐぐぐ~!」
私達の視界に、大きな胸に顔を埋めているカイト君と、カイト君を抱きしめるメリーさんが牧場の方から帰ってきた。
「め、メリーさん……」
「カイト君!」
テリアちゃんは私達の間を抜け、メリーさんの前に立った。
「はっはっはっ~、騎士カイト君は魔王の乳に落ちたのだ~。姫よ、もう、おまえに勝ち目はないぞ~」
どうやら、メリーさんは芝居をしているようだ。全く怖くない魔王で、カイト君はずっと蠢ている。きっと抜け出したくても、抜け出せないのだろう。
「カイト君、魔王なんかに負けちゃ駄目だよ。頑張って!」
テリアちゃんは元気な声でカイト君を応援した。
「ふぐ、ふぐぐぐ~!」
カイト君はメリーさんの脇を擽り、胸からの脱出を試みる。
「んっ、もぅ~。くすぐったいな~。そんなんじゃ、魔王の拘束は解けないぞ~」
メリーさんは数分間擽られ、たまらず、カイト君を解放した。
「魔王! 僕は姫のために今ここでお前を倒す! 覚悟しろ!」
カイト君はテリアちゃんを守るように立った後、拳を握り、メリーさんの前に出る。
「く、くそぉ~。カイト君は私の何だから~」
メリーさんはカイト君を抱きしめに掛かる。
だが、カイト君はひらりと躱した。
メリーさんはこけて、ヘッドスライディングをかました。そのまま、カイト君はメリーさんの頭に手を置いて、両手を高らかにあげた。
「魔王、打ち取ったり~」
「きゃ~、カイト君カッコいい~!」
テリアちゃんはカイト君に抱き着き、頬にキスをする。まぁ、あと一〇年経てばそれなりの光景に見えるだろう。なんせ、カイト君はすでにイケメンだし、テリアちゃんはすでに美少女なのだ。
「姫、王城に帰りましょう」
「ええ、一緒に……」
カイト君とテリアちゃんは手を繋ぎ、家の中に入っていく。
「うぅぅぅ……。カイト君……。私を置いていかないで~」
「うぅうぅ……。テリア……。僕もテリアの騎士なりたいよぉ……」
ブラコンのメリーさんと、シスコンのガンマ君は少々大人になった、のかな? 悪化していないよね。
「はぁ、はぁ、はぁ……。姉さん、僕達にもあんな風にしても良いよ。もっと僕達を愛してよ」
「はぁ、はぁ、はぁ……。お姉ちゃんが、私達にあんな風にしているところ見たことないよ。私達のこと好きじゃないの?」
ライトとシャインが私の方にずいずいと近寄ってくる。あまりにも、息が荒い。
「え? えっと……。お二人さん?」
あ、よく考えたらこの二人も……。
「キララ様、逃げた方がよろしいのでは?」
私はベスパの助言と共に、レクーの引く荷台の前座席に飛び乗り、レクーを走らせる。
「姉さんっ! 待ってよ~! 僕にも抱き着かせて~!」
「お姉ちゃん! 待ってよ! 私の胸に飛び込んできてもいいよ~!」
私の弟と妹は重度のシスコンだった……。
「なんか! 弟妹の愛が重い気がする!」
「全然重くないよ~、姉さん」
「そうだよ。お姉ちゃん」
二人はいつの間にか私の隣に座っており、ムギュっと抱き着いてきた。恐怖と感動が合わさり、何とも言えない気持ちになる。私が守る必要もないくらい強い二人の笑顔は少々歪んでいた。なんせ、私だけいい思いをしていたからだ。
「姉さん、さっきはデイジーさんの胸を触ってたよね。さすがに羨ましすぎるよ……」
「お姉ちゃん、さっきはガンマ君の体に振れてたよね。しかも抱き着こうとしていた……。ずるいよ」
「あれあれ~、なんかようすがおかしいぞ~」
自分の思い人である相手と、自分の好きな姉がいちゃついている所を見せられてシスコンの二人は切れていた。私は死ぬほど擽られ、意気消沈する。
気付いた時にはレクーが自分から牧場に戻っている途中だった。ライトとシャインは私に抱き着いてすでに眠っている。二人も疲れたのだろう。
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