うざい人
「キララ様…無事でしたか」
ベスパが所々にぶつかりながらと飛んでくる。
「うん、何とか無事。ベスパのおかげだよ、ありがとう」
「キララ様をお守りするのが私の使命でありますから…」
――反対になって地面に突き刺さってる…。全然格好がついてない…。
「それより、ノルドさんは大丈夫だったの?」
「はい、先ほど連絡がありまして、無事病院まで到着し、今治療中だとのことです。私たちも病院へ急ぎましょう」
「そうだね…私も…もう、全く魔力ないし…、立ってるのも限界…」
酸欠か…又は貧血のような状態になり上手く立っていられない。
私は、ちょっと吐出した石ころにすら躓き、その場に倒れそうになる…
「おっと!大丈夫かい、レディー?」
――その呼び方…それにこの人は…確か…。
「久しぶりだね、レディー。随分と大きくなったじゃないか。あの頃はまだ小さな若葉のようだったのに、今は美しい花を咲かせる前のつぼみのようだ」
――話し方がうざい人だ…
「魔力が相当少なくなっているね、仕方がない。僕がレディーを病院まで連れて行ってあげよう。冒険者ギルドからブラックベアーが暴れていると連絡が入り、光の速度で来て見れば…美しく倒れ込むレディーを見つてしまい、すかさず手を差し伸ばし助ける。ああ、僕はなんて紳士なんだ…」
――どうしよ…ほんとにうざくなってきた…
私はそのうざい人に抱きかかえられ、闘技場を出る。
…すると、ものすごい足音が聞こえる。
地面を揺らすような轟音、私はこの音に聞き覚えがあった。
――この足音は…レクー!
「おらららあああああ!!!!」
レクーは先ほどのブラックベアーと同じかそれ以上のスピードでウザイ奴に衝突した。
「どうわわわわ!!」
綺麗にうざい人だけを吹き飛ばし、私の襟を口でキャッチする。
うざい人は地面に衝突し伸びてしまった。
レクーは急停止を行い、私を静かにその大きな背中に乗せる。
「キララさん!大丈夫ですか!さっきから大勢の人がここから出てくるのが見えたので…中で何かあったんじゃないかって思って僕心配になっちゃって…。後…あの、ごめんなさい」
私は厩舎の方を見ると…。
「あ~、大丈夫!遺伝子だから…」
厩舎は見事にぶっ壊されていた…はは、姉さんとおんなじだ。
「レクー、ちょっと向かって欲しい所があるんだけど」
――あ…やばいかも…。
「はい、お任せください」
「ベスパが…誘導…するからその方向に向かって…」
――もう限界だ、意識が…。
「キララさん!」
「キララ様!」
レクーとベスパは至急キララをリーズのいる病院まで運んだ。
異様な光景が街の道を駆け抜けていく。
ビーが先導し、巨大なバートンが少女を背中に乗せ全速力で爆走する姿を見た街の人々は、困惑し、その光景を理解することが出来なかった。
「ん…あ…眩しい…」
私が目を覚ますと、そこは病院のベッドの上だった。
「私は…どうしてここに…」
「キララ様!ご無事でしたか…良かったです」
「ベスパ…貴方は元気そうね」
「はい!キララ様の魔力さえ戻れば私はいくらでも、復活しますから。先ほどは私も消えかかりましたが…」
ベスパは飾られている花弁に寝そべるようにして待機している。
通常サイズよりも相当小さいため、私の魔力が相当少ないんだと認識した。
飛ばないビーには、そこまで恐怖心を抱かないことに気づく。
私が普段絶対に思わないであろうことを思っていた矢先に、リーズさんがやってきた。
「お、キララちゃんも目を覚ましたようだね、良かった良かった。それにしてもキララちゃんだいぶ魔力の回復が早い体質みたいだね、僕の魔法を使うことなく自力でそこまで回復するなんて。僕驚いちゃったよ、キララちゃんは冒険者に向いているかもね」
「は…はぁ…」
――いきなりそんなことを言われても、冒険者になる予定なんて全くないんですよね。
「そうそう、キララちゃんを乗せたあの大きなバートンの時もびっくりしたけど、少し前に黒い塊から大怪我した人が出てきたときはもっと驚いたよ。あれが何か知らないかい?それと一応バートンは厩舎に連れて行ったけど、良かったかな?」
「あ、はい。ありがとうございます。それと、前の質問ですが…黒い塊なんて知りません」
「そうか…知らないか」
「その人は無事だったんですか?」
――私が助けたことを教えるのはなぜか気が引けてしまい、嘘を付いてしまった。
「うん、その人は何とか一命をとりとめることが出来たんだよ。あの怪我だったらあと数秒遅れていただけでも助けられなかっただろうね。その人が意識を取り戻したから、誰が助けてくれたのか教えて欲しいと言われたんだけど…」
リーズさんは私の方を怪しげな眼で見てくる。
「す…すみません…ほんとに知らないんです」
「そうか、それなら良いんだ。でもどうしてキララちゃんがここに運ばれてきたんだい?やっぱり今噂になってるブラックベアーが関係しているのかな?」
「そうですね…はい、確かにブラックベアーが関係してます。私、闘技場で闘技を見てたんです。多分運ばれてきた人も闘技に参加していた人だと思います」
「だからか…あんな酷い怪我をするのは、何かしら相当な衝撃を受けた時だからね。ブラックベアーなら納得がいくよ。それじゃあ、僕はまだ仕事が残っているから。元気になったら自由に帰っていいからね」
「はい、ありがとうございます」
リーズさんは、私の様子を見に来ただけらしく、そのまま仕事に戻って行った。
「キララ様!どうして、キララ様が助けたと言わなかったのですか!」
「ん~なんでだろう、恥ずかしかったからかな。『ビー使い』なんてスキルを貰ってしまったことが…」
「ちょっと!それじゃあ私が『雑魚スキル』だとでも言いたいのですか!」
「いや…そうじゃないんだけど、だってビーだよ。私にとっては最も怖い生物だけど、ここに居る人たちみんな、ビーを雑魚扱いしているから…恥ずかしくなっちゃって」
「キララ様!自信を持ってくださいよ!私たちだってやればできるんですから!」
ベスパは花弁から飛び立ち8の字を描くように飛んでいる。
「ま、まぁ助けられただけでいいじゃん。別に何か欲しくて助けたわけじゃ…て!」
私は今回の目的である最も大切な事を忘れていた。
「どうしよう…レモンの事すっかり忘れてた。早く、レモンに似た果実を買いに行かないと!」
すぐさまベッドから飛び降り、出て行こうとした時…ふと窓の外を見たが…すでに真っ暗だった。
「またお母さんに怒られる…」
真っ暗な夜の中を見て一番最初に出てきた感情がその一言だった。
私は急いで連絡の手紙を書く。
「ベスパお願い、この手紙をお母さんに届けて」
「了解です!それでは行ってまいります!」
この頃にはベスパも通常の大きさに戻り、手紙を届ける事くらいなら出来るようになっていた。
「は~、まさかこんなに大変な1日になるなんて…思っても見なかったよ。寝よ…」
私は病院のベッドにもう一度潜り込み、眠ることにした。
「キララったらまたこんな夜遅くまで…手紙には夕ご飯までには帰るって書いてあるのに…ん?また新しい手紙かしら」
キララ宅の机に急ごしらえで書かれた一通の手紙が置いてある。
[お母さんごめんなさい、今日は帰れなくなりました。街で一日泊まっていきます。心配しないでください。キララ]
「あの子、まだ街に居たのね…まぁ、無事ならよかったわ」
「お姉ちゃん今日は帰ってこないの?」
「帰ってこないの?」
「そうみたいね、明日も朝早いから、さっさとご飯食べて寝ましょう」
「は~い」×2
3人がご飯を食べようとしていた時。
「ただいま~はぁ、今日も疲れた…」
「お帰りなさい、お父さん。今日も遅かったね」
「ああ、爺さんが色々と叩きこんでくれてすごく嬉しいんだが…まだ慣れなくてな。この木を切るスキルも牧場を広げるには役に立つし、前の仕事に比べたら全然給料もいいしな。まぁその給料を払ってくれるのが我が娘なんだけど…」
「ははは、良いじゃない。前よりも良いものを食べられるようになったんだから」
「まぁ、それもそうだが、父親としての威厳がな…」
「お姉ちゃんそんなこと気にしてないよ、きっと。ただお姉ちゃんのしたいことをしてるだけなんだよ。だからお父さんが気にすることなんて何もないんだから。お姉ちゃんだって凄く助かるって言ってたし」
「そうか…そう思ってくれてるなら、頑張ろうって思えるな。良し!明日も頑張って働くぞ!」
「オー!」×4
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