時間が過ぎるのはあっという間
「あいた……」
私はつまずく物のない地面でわざとつまずき、子供っぽさを演出する。
「えへへ……、こけちゃった~」
「キララさん、大丈夫ですか?」
ガンマ君の声が近くに聞こえる。
「大丈夫大丈夫~。今から、ガンマ君を捕まえちゃうからね~。ムギュ~って抱きしめちゃうんだから~」
私は立ち上がり、服に付いていた砂を払う。はっきりとは見えないので大まかに叩いて落とす。
「お、お姉ちゃん~、私はここだよ~、早く捕まえてよ~!」
シャインは何か感ずいたのか、声を大きくして話す。
「シャインの位置はわからないから、あとでね~」
「ちょ! お姉ちゃん! 絶対にわかってるでしょ!」
「ぜ~んぜん、わかんな~い」
私はガンマ君のもとに一歩一歩近づいてく。
「キララさん、もう少しですよ~。頑張ってください」
「うん、頑張るよ~。ガンマ君のがっしりした体に抱き着いて、スハスハ……、じゃなかった、頬をスリスリするの~」
「う、うぅ……。お、お姉ちゃん……。だめぇ~!」
シャインは台の上から降りて、ガンマ君の方に走る。
――かかった。
私は狙いをガンマ君からシャインに変え、飛びつく。
「とりゃ~、シャイン捕まえた~」
「うわっ! そ、そんな。まさかわざと……」
私はシャインに飛びつき、ムギュっと抱き着く。シャインは背中から倒れ、私の顔はシャイン胸に当たっていた。さらしによって潰されているものの、まったいらではなく、結構大きい。潰しているのにBカップはありそうだ。何で……。
「何でなのぉ~!」
私はシャインの胸に顔を付けて叫ぶ。
「きゃ。お、お姉ちゃん。くすぐったいよ」
「はぁ~、後はガンマ君だけだね」
私はシャインの汗のにおいを嗅ぎ、厭らしすぎて嗅ぐのをやめた。女の子の匂いじゃなくもう、女性っぽい匂いがしたのだ。
「さっきのキララさんの動き、シャインさんが見えているようでした。何かしらの方法で視界を得ているんじゃないですか……?」
ガンマ君の鋭すぎる勘に私はビクッと肩を跳ねさえる。
「そ、そんな訳ないよ~。私、全く見えていないよ~」
「ほんとですかね……」
「ど、どうしたの、ガンマ君……」
「いえ、ちょっと試したいことがあって」
ガンマ君は腰に掛けてあった木剣を抜く。いったい何をする気なんだろう。
「う、うわぁ~い、ガンマく~ん」
私はとりあえず近づく。
「ふっ」
「うわっ!」
私は尻もちをついた。ガンマ君が木剣を横に振ったのだ。ただ、木剣が空を切ったのに無音だった……。
「キララさん、どうしたんですか。いきなり倒れて、何か怖い物でも見ましたか?」
ガンマ君は私のもとに歩いてきて、目隠しをずり下げる。
「キララさん、僕が攻撃したの見えてましたよね」
「う、うぅ……」
「キララさん、ずるはしちゃ駄目ですよ」
ガンマ君は私のおでこに優しくデコピンをして、微笑んだ。そのまま私の手を取って立ち上がらせてくれた。八歳児とは思えないゴツゴツした手に筋肉質な腕、微笑みの爽やかさ、どれをとっても好少年すぎる。
――なんだ。このイケメン! カッコよすぎ! いや、まてまて、キザ過ぎないか!
「が、ガンマ君……、いつからそんなにカッコよくなっちゃったの……」
「え? 別に僕はカッコよくありませんよ。少し前まで街で泥水を啜っていたような男です。テリアのために頑張って修行している身でしかありません」
この場にいた者達は思った。『ガンマ君がカッコよくないだと?』と。
――ガンマ君は自分で自分の顔を見た覚えがないのだろうか。あなたをイケメンじゃないと言ったらこの世界のイケメンの八割はイケメンじゃなくなるんだよ。
シャインなんて私が羨ましすぎて泣きそうになっているというのに……。
デイジーちゃんも「私も優しくデコピンされた~い」と言った表情で私を見てくる。
ライトにいたっては、憎悪に満ちていた。
「ガンマ君。自分のカッコよさをもっと自覚した方が良いよ……。この筋肉とか、顔とか、性格とか……。色々カッコよすぎるから、女の子達が皆、虜にされちゃう」
私はガンマ君の腕の筋を撫でながら言った。
――もし、私が同年代だったら確実に好きになっちゃってるくらいカッコいいんだよな。年下すぎるし興味はないけど……。
「僕はライトさんの方がカッコいいと思いますけど……。あ、キララさんの服が汚れてしまっています。ちょっと待ってくださいね」
ガンマ君はズボンのポケットからハンカチを取り出し、私のお尻当りに着いた砂をササっと払った。
「はい、綺麗になりました。やっぱり、綺麗なキララさんには綺麗な服が似合いますね」
ガンマ君は満面の笑みでキザな発言を、使いこなし、臭みが一切無い。カイリさんの完全上位互換のような存在だった。
――だ、騙されるな。どう考えてもただ砂を取り払ってくれただけだ。相手は八歳児だぞ。私の精神年齢は三〇歳を超えている。落ち着け落ち着け。私はショタコンになった覚えはない。
「ん、んん……。ありがとう。ガンマ君」
私はガンマ君に感謝したあと、この場を離れようとした。なぜかって? 私が死ぬかもしれないからだ。
「姉さん……、ずるしてたってホント~?」
「お姉ちゃん……、全部見えていたのかな~?」
ライトとシャインは瞳を黒くして、悪魔の形相になり近づいてくる。
「え、えっと~、そ、そうだな~。見えてなかったわけじゃないと言うか~。さらばっ!」
私はレクーのもとに走る。
「あっ! まてっ!」×ライト、シャイン。
ライトとシャインは私が駆けだしたのを見るや否や、飛び出してきて私の腕を掴む。
「お姉ちゃんだけズルい! 私もガンマ君にデコピンされて心配されたかった!」
「姉さんだけズルい! 僕もデイジーさんに抱き着きたかった!」
シャインとライトは自分の欲求が私に先を越されて怒っていた。まだ八歳なのに……。
「ご、ごめんなさい! ゆ、許して~!」
私はライトとシャインにもみくちゃにされ、擽りの刑に合い、笑い死にそうになった。
私達は午後五時頃まで一緒に遊び、別れの時間がやってくる。
「じゃあね、デイジーちゃん。また七日後に畑の様子を見に来るけど、それまで元気でね」
「はい。キララさんもお仕事を頑張ってください」
デイジーちゃんは満面の笑みを私に向けてくれた。夕方なのに太陽がさんさんと輝いているようだ。ライトは悲しみから泣き、シャインは安堵の気持ちからホットしている。
「デイジーさん。今日もあっという間でしたね」
ガンマ君はデイジーちゃんの手を握り、微笑みかけている。いや、なんで手なんて繋いでいるんだよ……。
「ほ、本当だね……。あっという間に過ぎちゃった……」
デイジーちゃんはガンマ君の手を握りながら視線を下げる。
「デイジーさんの手、土を触っていたのにとても綺麗です。手の平だってまだまだ小さいのに僕と同じくらい仕事をしていたんですから、すごい頑張り屋さんなんですね。でも、頑張り屋さん過ぎるのも疲れてしまいますから、ほどほどにしておいてください。キララさんみたく仕事ばっかりしていたら仕事人間になってしまいますからね」
ガンマ君は頑張り過ぎてしまうデイジーちゃんに助言し、馬車に乗り込む。
「う、うん。わかった。ありがとうね、ガンマ君」
しっかり見られていたというのが嬉しいのか、デイジーちゃんはまんざらでもない。もう、ガンマ君に落ちてしまっているのか、恋する乙女の顔をしていた。
――私が仕事人間だって……。私、ガンマ君にそんなふうに思われてたの。じゃあ、他の子にも仕事人間だって思われてるのかな。
「まぁ、キララ様の恋人は仕事ってことなんじゃないですか」
ベスパは苦笑いをして、私に話かけてくる。
――仕事が恋人って、そ、そんなの嫌だよ。でも仕事をしないとお金が入らないし、皆を生活させて行けないから……、別れられない。あ……、私も恋人(仕事)に沼っちゃってる。
「キララ様の場合は仕事と遊びが丁度良い具合になっているのでいいのではないですか? 周りからは仕事を行いまくっていると思われいますが、キララ様自身があまり仕事をしていないと思うのであれば関係ないかと」
――確かに。他の人と私の感覚が違うから仕事人間って見られちゃうわけか。まぁ、それならそれで悪くない。
私は荷台の前座席に座る。ライトとシャイン、ガンマ君は荷台に乗っていた。
私達はネード村を出て、私達の住んでいる村に帰る。
麦が出来るのは五カ月後くらいだから、来年の三月から四月あたり。あっという間に来るんだろうな……。
私は時の流れが早いと知っている。だからこそ、五カ月と言う案外長そうな時間でもすぐにやって来てしまうとわかる。
まばたきをすればあっという間だ。きっといつの間にか一〇月が終わり一一月が終わり、一二月まで終わるのだろう。
まぁ、仕事はいつの間にか終わっていてくれないのだけれど……。
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