子供と大人の話し合い
「ライトさん、大丈夫ですか?」
「うぅ……。ガンマ君……。君ってやつは……。うぅ……」
「何を泣いているのかさっぱりわかりませんけど……。牛乳でも飲んで、心を落ち着かせてくださいよ」
ガンマ君は手に持っていた紙コップをライトに手渡す。
「え……良いの?」
「はい。でも、僕が口を付けてしまっていますけど……」
「い、いい。それでもいい。ありがたく貰うよ! えへへ……。ありがとう、ガンマ君」
「い、いえ……、気にしないでください」
ライトは周りから見たら、ガンマ君の口つき紙コップを貰って嬉しがっている男子に見えるのだが……、まぁ、始めはデイジーちゃんが飲んでたやつだし、一応間接キッスになるのかな。いや、どうなんだろう。上書きされているのだとしたら、ガンマ君と間接キッスする羽目になるのでは……、ライトもそう思ったのか、飲むのを渋っていた。
「ライト君、その牛乳を飲まないの?」
デイジーちゃんがライトに声を掛ける。デイジーちゃんもライトの手もとに自分のコップがあるとわかっているので、話かけたのだろう。
「の、飲みますよ。ふぅ……、いただきます!」
ライトは残りの牛乳を飲んだ。デイジーちゃんは少々赤面し、ガンマ君はライトの勢いっぷりに拍手をしていた。シャインだけは、ライトを羨ましそうに見ている。
結果、一番得しているのはデイジーちゃんの間接キッスを貰い、ライトから感謝され、シャインに誠実で優しい人と言う印象を与え、皆からの信頼を得たガンマ君だった。
紙コップを取り違えただけで、皆の心が丸わかりになるなんて面白いね~。あ~、牛乳うまうま~。
私は飲んだ牛乳がとんでもなく甘く感じた。
「でも、やっぱりガンマ君はやりおる……。シスコンでさえなければ……」
ガンマ君は空を見上げており、脳内に思っていることが私には優に想像できた。
はぁ~、今、テリアは何しているのかな~。カイト君と遊んでるのかな~。も、もしかして遊びでチュウなんかしてたりして、ど、どうしよう。心配になってきた……。と言ったところだ。
どうせ、頭の中は天使すぎる妹のテリアちゃんで埋まっていることだろう。周りにも元気いっぱいなヒマワリを具現化したような少女と、凛として品があり、胸を布でぐるぐる巻きにしているものの、巨乳な美少女がいるというのに……、はぁ、罪な男だぜ。
「キララ様……、何言ってるんですか?」
私が頭を抱えて少し振っていると、頭上にベスパが飛んできた。
「ちょっと子供達のイザコザを見て楽しんでいたんだよ」
「はぁ……、ほんと、いつもながらに性格が悪いですよね」
「否定はしないけど、見てるだけなんだからまだ合法だよ。私は合法でイチャイチャしている子供達を見て元気を貰っているの。この後の成長が楽しみになって仕方ない」
「まぁ、そうですけど、見られているほうが可哀そうですよ」
「見られるようなところでイチャツクのが悪い。そもそも、あの四人はイチャイチャしているつもりはないと思う。自然にあんな関係になってるんだよ」
私はベスパと会話し、子供達の関係を遠目から見守る。三○分ほど経ったころ、種まきを再開した。
午前一二時頃、種まきを終了した。六時間ほど種まきをしていたようだ。
私の腰はガチガチになり、血液の流れが悪くなっているのか、結構痛い。こんな作業を続けていたら腰痛にまっしぐらだ。
腰を反らし、筋肉を解すと血流の流れがよくなり、気持ちいい。
子供の体だからか、少々無理をしても治ってしまう。
二○歳後半、三○代前半になると身体能力が一気に衰えると聞くが、生憎、私は経験した覚えがないのでどういった具合なのかわからない。この世界では経験できるだろうか……。
「姉さん、畑の周りに結界を張ればいいよね」
種まきを終えたライトは私のもとにやって来た。
「うん。人はデイジーちゃんの家族と私達が入れるように、魔物と動物、昆虫はビー以外全く入れないようにして」
「了解」
ライトは地面に手を付け、結界を張る範囲を決めるために魔力を広げる。彼は五ヘクタールほどある畑を囲い、魔法陣にちょっと細工した後、『結界』と詠唱を放つ。
魔法陣の効果で魔力の壁が畑の中央のてっぺん付近に集まった。半球状の結界が形成され、知覚出来るほど魔力が含まれている。
「う、うわぁ~、すごい! ライト君、こんな魔法も出来ちゃうの!」
デイジーちゃんが結界に触れようとすると、手がすり抜け、畑に脚を踏み入れる。
「あれ? 入れちゃったよ。これで、種をちゃんと守れるの?」
「大丈夫。これで、無駄な生き物は一切入れなくなった。瘴気も通さないよ」
「す、すごい! すごい!」
デイジーちゃんは畑から出てピョンピョンと飛び跳ねながらライトを褒める。
「えへへー、そうかなー」
ライトはまんざらでもない表情を浮かべ、ニヤつき顔が気持ち悪い。まぁ、好きな子に褒められたらうれしくなるのもわかるが、あからさますぎる。
いつもは冷たい雰囲気のライトがデイジーちゃんを前にするとデレデレになるのだ。ほんと、わかりやすい。
「さてと、皆の仕事はこれでおしまい。後は収穫の時に手伝ってもらうよ。この後はイーリスさんと私でお世話をするから、皆は好きに時間を使って」
「は~い!」×ライト、シャイン、デイジーちゃん、ガンマ君。
四人はデイジーちゃんの家に向って走って行った。デイジーちゃんは弟君を抱きしめながら走っている。
「ふぅ~。イーリスさんお疲れ様です」
私は子供達を家に帰し、大人同士の話し合いをするため、デイジーちゃんのお母さんこと、イーリスさんと共に畑にのこった。
「い、いえ。まさかこんなに早く終わるとは思っていませんでした。にしても、半分しか終わってないように思えるんですけど、大丈夫なんですか?」
イーリスさんは目を細め、遠くの方の畑を見つめる。
「いえ、ちゃんと終わっていますよ。少しこっちに来てください」
私はイーリスさんにビー達が種を植えてくれた場所を見せる。
「ほ、本当に植えられてる……。え、なんですかこれ。均等すぎませんか?」
「まぁ、団体行動が得意な子達なので。でも、これだけ均等に植えてあれば、水の浸透する面も均一になりますし、いい影響しかないので気にしないでください。さてと、水をあげる方法なんですけど、川から引いた水を天候に合わせてあげていきます。あ、デイジーちゃんが魔法で水を出して水やりをすると言うのも良いですね。魔法の練習にもなりますし、天候に左右されませんから積極的に任せてあげてください」
「わ、わかりました」
「麦は乾燥していた方が育ちがいいので、水のやりすぎに注意して、土の乾燥度合を見て判断してくれると助かります。乾き過ぎても枯れてしまいますし、多すぎたら腐ってしまいます。ここの判断は慎重にお願いしますね」
「はい。お父さんに聞いて頑張って覚えます」
イーリスさんのお父さんは麦農家をしていたそうなので、きっと水やりのプロだと思われる。これだけ広大な土地を持っているんだ。にしては貧乏だけど……。まぁ、麦が上手く取れなかったのかもしれない。
「私は少なくとも一ヶ月に一度は見に来ようと思うので、気負いせず、植物と心を通わせて育ててみてくださいね」
「はい。頑張ります」
私とイーリスさんは子供と大人ながら、同等の存在として話合った。
子供を敬えるイーリスさんはやはりデイジーちゃんのお母さんだけあり、とても賢かった。自分の知らない知識を知っている子供なんて怖いはずなのに、一生懸命に聴いてくれる。私はその心意気に胸を打たれ、助けてあげたい気持ちがふつふつと大きくなっていた。
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