ブラッディバードの肉を使った料理
「よ~し! 腕によりをかけて作っちゃうよ~!」
私はお母さんと共に台所に立った。薪コンロはすでに温まっており、フライパンを置けば肉を加熱できそうだ。
――ベスパ、余った肉とバター、ミグルムを取ってくれる。
「了解です」
ベスパは私の言った食材を台所に運んでくれた。
私は鉄鍋に魔法で作りだしたお湯を入れ、ブラッディバードの肉を低温で下茹でする。
無駄な油を落とし、肉が硬くなりすぎるのを防ぐのだ。
肉の厚さが一センチと薄めなので、一五分ほどで下茹でを終了し、お湯から肉を取り出す。残った出汁を使ってお母さんがスープを作った。
私はフライパンにバターを塗り、香りが立つまで温めた後、下茹でした肉の周りに付いた水気を乾いた布で取ってから置く。美味しそうな音がジュ~っと鳴り、耳が心地よい。バターが焼かれている香りは部屋中に広がった。牛乳のうま味の塊と肉の相性が悪い訳がない。
――家に塩があればどれだけ嬉しいか……。でも、買ってないから家にあるわけがない。
私は五人分の肉をササっと調理した。液体のバターに胡椒を砕いて投入し、香辛料の刺激を加えた後、山菜と生クリームを少々入れ、さらに炒める。
季節はもう秋に近いため、森には大量のキノコ類が生えているのだ。ベスパ達が食べられて美味しい品だけを集めてくれた。森には松の木が生えていないので松茸に似たキノコは無い。
――シイタケがあったらうま味がもっと出せるんだけどな……。仕方ないか。
私は焼いた肉を木製の皿に移し替え、テーブルに持っていく。
「お待たせしました。山菜とブラッディバードのバター炒めです」
「はわわ~!」×ライト、シャイン。
肉は表面がカリッとなるまで香ばしく焼き上げて触感を楽しんでもらい、中は歯で簡単に噛み切れるように下茹処理を施した。
山菜がシナシナになり水分を出すも、熱で蒸発しているので水っ気はない。キノコのうま味が溶けだした生クリームとバターのソースが掛けられており、適量が含まれているミグルムのピリッとした刺激が癖になること間違いなし。
私は盛り付けをあまりこだわらない人間なので、さっと盛り付けてライトとシャインに出したら、両者は食べてもいないのに眼を輝かせていた。
昔、ボワの肉を焼いて食べたが、いまいちだったので、肉の上手さをライトとシャインは知らない。私自身も調理した美味しい肉を食べていないので今回は増えた食材でなるべく美味しそうに仕上げてた。
「お、お姉ちゃん。食べていいの……」
シャインは震えながら聞いてくる。
「良いよ。今回はお変わりがないから、味わって食べてね。あ、でも、もう少し待ってて」
「わ、わかった……」
シャインは口から涎を垂らし、舌で舐めとる。その姿はまさに子供。先ほど巨大な肉を空中に投げ、包丁を一振りすれば肉を何十枚にも切り分けてしまう天才が、眼を美味しそうな料理に釘付けにされていた。
「も、もう見ただけで美味しいってわかるよ……。こんなの、我慢できるわけない。姉さん。早く食べよう!」
ライトは両手にナイフとフォークを持ち、眼をギンギンにしていた。お腹が空いているのに加え、美味しい肉が食べられるというのだから、仕方がない。
「もう少し待ってね」
「うぅ……。お腹が空き過ぎてどうにかなりそう……」
私は台所に戻り、お母さんが作っている鶏がらスープを見る。すると、こちらにも小さく切られたブラッディバードの肉と山菜とキノコが入っていた。油が浮き、水面がてらてらと光っており、中華スープのようだ。
――白湯って感じかな。くっ、ここに塩があれば……って、こればっかりだな。
スープの匂いは鶏と近く、食欲がそそられる。山菜とキノコ、ミグルムに香辛料を少々入れてあった。
「お母さん、仕上げにこれを入れるよ」
私はエッグルを持ち、空を割って木製の器に中身を入れる。
「へぇ……、これがエッグル。本当に卵なのね……」
木の器に入ったエッグルは黄身がとんでもなく濃かった。もう、オレンジ色を越えて褐色に近い。卵白も水っ気がなく、質がしっかりとしていた。フォークで持ち上げられるくらい切れにくい。
私はエッグルを贅沢に使う。木の器に四個のエッグルを入れ、卵白が切れるまでフォークでしっかりとかき混ぜる。卵液をかき混ぜながら、熱せられている鶏がらスープに円を描くように優しく入れて行った。そこからなるべく動かさず、荒熱で固める。
「よし、完成!」
完成した親子スープは匂いからして美味しそうだ。少し味見をすると薄味ではあるが、肉から出汁がしっかりと出ており、キノコのうま味とよく合う。
現代人だったころなら一〇○パーセント「うっす!」と口に出していたが、今の私は舌が味に極限まで敏感になっているため、出汁だけで美味しいと感じれるようになっていた。ミグルムのピリッとした刺激とツンとする香りが食欲をそそる。
「はい、汁物。黒パンには合わないかもしれないけど、美味しいと思うから、皆で食べてみようか」
「うん! もぅ~、こんな日に限ってお父さん遅い~!」
シャインは今にも食べたいのに、お父さんが帰ってきていないので、まだ食べられない。
料理を作り終えて五分後。お父さんが帰ってきた。
「はぁ~。今日も疲れたって……、なんだなんだ、今日はやけに豪華だな。何かあったのか?」
「お父さんお帰りなさい。別になにもないけど、肉が余ったから作って見たんだ~」
「キララが作ったのか凄いな。キララには料理の才能があるんじゃないか」
「そ、そんなことないよ」
私は以前の記憶をたどり、食材の扱い方を知っているだけ。前世の記憶だから、私が考えたわけじゃないけど鮮明に覚えている。
食を得ることが私の生きる嬉しさであり、楽しみだった。だからか、別の世界に来ても魂には料理に対する熱意が冷めていなかった。少しでも美味しい料理を作りたいと思い、全力で向き合っている。
お父さんは手洗いうがいをして、椅子に座った。
お母さんも椅子に座り、私も座る。家族全員がテーブルを囲って両手を握り合わせ、神に祈りを捧げた。
「さ、祈り終わったし、皆で食べよう」
「うん!」×ライト、シャイン。
ライトとシャインはいち早くフォークとナイフでブラッディバードの肉を切り、口に含む。
「んんッ……! こ、これ……、これが……肉」
ライトはあまりの衝撃から、体を震わせていた。
「ハグ、ハグ、ハグ、ハグ、ハグ……」
シャインはあまりの美味しさから無我夢中で食べ進め、周りが見えていないようだ。そんなに早く食べたらすぐになくなっちゃうのに……。
「は……。も、もうない……。そんな、どうして……」
シャインは自分で食べきったのにも拘わらず、全く食べていないと言った表情をしていた。
「シャイン、味わって食べてって言ったのにあんなにむしゃむしゃ食べていたらすぐになくなるのは当然だよ。肉で残っているのはスープに入れた方だけだから、今度こそ味わって食べるんだよ」
「わ、わかった。でもお姉ちゃん、こんな美味しい物を口に入れたら味わうどころじゃないよ。美味しすぎて、手が止まらなくなっちゃうんだもん」
「はは……、そう言ってくれると凄く嬉しいな。私も頑張って狩ってきたかいがあったよ。ブラッディバードの肉が美味しいって言うのは本当だったでしょ」
「うん! ボワの肉もあれはあれで好きだけど、私はブラッディバードの肉の方が好き。臭みがないし、ふわふわの噛み応え、噛めば噛むほど油の美味しさが広がって、口の中がうま味で一杯になるの」
「お、シャイン、説明が上手いね。美味しそうに聞こえたよ」
「えへへ、ありがとう。お姉ちゃんっぽく言ってみた」
シャインは黒パンを千切り、余ったバターソースに付け、口に含む。
「ん~! 肉も美味しいけどやっぱりうちの牧場で作ったバターと生クリームが最高の味だよ。こんなに美味しい料理を食べたら、他のところで美味しい料理を食べても美味しいって感じなくなっちゃうかも~!」
シャインは両頬に手を置いて、嬉しがっていた。あまりにも美味しそうに食べてくれるので、私も嬉しい。
私は皆の反応を見て気を楽にさせた後、ナイフでブラッディバードの肉に切り込みを入れる。すると力を入れていないのにスーっと切れた。鶏肉にしては珍しい。
牛肉のような霜降りがあるわけではなく、筋繊維ばかりなのにここまで切りやすいとは思わなかった。繊維の方向だったかもしれないけど、柔らかいのは確実だな。
私は肉を一口の大きさに切り、フォークとナイフで山菜やキノコを盛り合わせる。そのままフォークで肉を差し込み、ソースにしっかりと絡めて……持ち上げる。
「いざ、尋常に……」
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