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ブラックベアーだったモンスター

「ベスパお願い!ノルドさんをリーズさんの病院に運んで!」


「了解しました!最速で運びます!キララ様は目をお閉じください!」


「わ…分かった!」


私はぐっと目を強く閉じる。


すると…耳を劈くほどの羽音が聞こえる…私は想像したくなかったが、きっと今目の前には大量の『ビー』たちがいるのだろう。


何とか気絶するのを我慢し、ベスパに命令する!


「ベスパ!リーズさんのもとへ!」


「了解しました!」


聞こえていた羽音が一気にしなくなる。


「キララ様、もう目を開けていただいてもいいですよ」


私はゆっくりと目を開ける。


あり得ないくらい強く目を閉じていたので視界がボヤつく…


そこに居たはずのノルドさんはいなくなっていた。


しかしまだ事態は収まっているわけでは無い。


「グアァアアアアアア!!」


ステージから登り始め既に観客席からその巨大な顔面が見え始めている…。


「ヒィ…」


私はそこで初めてブラックベアーがこの観客席に乗り込もうとしているのに気づく。


「キララ様!今すぐ逃げましょう!このままでは、ここは危険です!」


「そ…それが、こ…腰が抜けて…。立てないの…」


私はその姿を見てずっと忘れていたトラウマをさらに鮮明に思い出してしまう。


5歳の頃…この世界で昔の記憶を思い出したばかりの頃…。


私は一度食われかけた…あの恐ろしい物体が、私のすぐ目の前まで近づいて私を食べようとしてきたのだ。


こんな経験をしてトラウマにならない人なんているのだろうか…。


「キララ様!早くお立ち下さい!…もう彼らも持ちません!」


ブラックベアーはステージにいる魔導士が何とか『バインド』で拘束している状態だ…だが、相当苦しそうにしている。


拘束していられる時間は短いだろう…。


「クソ…魔力が…」


「諦めちゃだめよ!観客席には、まだ一般人が残っているのが見えるでしょ!!」


「そんなこと言われても…あいつ、こっちに見向きもしませんよ…」


「オラ!!」


剣士がブラックベアーの背後を切りつけるが大量の血が流れるだけで一向に衰えない。


「こいつ!どれだけ血を流せば死ぬんだ!!」


槍士が首元を大きく長い槍で穿つ。


「グ!何だこれ!こっちはスキル使ってんだぞ!刺されっておい!!」


「グオオオオオ!!!」


ブラックベアーが雄叫びを上げ身を大きく振るう。


「クッソ!!」


飛び乗っていた槍士は払いのけられてしまった。


「グ!も…もうダメです…これ以上は…」


「私もです…あいつ、弱まるどころか…どんどん力を増してる気がするんですけど!!」


「糞っがああ!」


魔導士たちの健闘も空しく…。


私含めて、あと数十人で全員逃げられるという所で拘束しているバインドが解けてしまう。


拘束の解かれたブラックベアーのスピードはすさまじかった。


一瞬で残りの壁を上り切る。


石で出来ているはずの壁がまるで豆腐かと言わんばかりに破壊してしまっている。


観客席を薙ぎ払い、土煙が舞ると同時に、石礫というには大きすぎる岩が宙を舞う。


無作為に破壊していたそのモンスターは、私達に気が付いたのか…鼻をひくつかせ、口角を上げる。


あの顔だ…私を昔食べようとしたその顔と全く同じ…。


あの時と違うのは目の前にいるモンスターが大怪我をしていることだ。


そのモンスターが静かに…そして着実に近づいてくる。


「べ…ベスパ…他のビーたちは…」


「すみません…ノルドさんを運ぶのに使用しています…戻ってくるのに後数分かかるかと…」


「それじゃあ…他の友達は…」


「ここに到着する頃には、私たちは食いつくされているでしょう…」


「はは…役立たず…」


「申し訳ございません…」


珍しく、ベスパはあきらめムードだ…


「申し訳ありません…ベスパ…そこは私が戦いますっていうもんでしょ…」


「キララ様…そうです…その通りです!私はキララ様を守るために戦う者…!キララ様!私に魔力を流してください!そして私目掛けて『ファイア』を放って頂ければいつもより盛大に爆発するはずです!」


「そう…自爆するつもりなのね…」


「キララ様を守れるならば…私はいくらでも自爆しますよ!」


「はは…ベスパがその気なら…私の魔力全部注ぎ込むよ!」


私は体に流れる魔力を『ファイア』一発撃てるだけ残し気絶しないギリギリまでベスパに注ぎ込む。


ベスパは瞬く間に光輝いていく。


――いつもの状態では全く光っていないのに…私の魔力をこれだけ注ぎ込むとそんなにも眩しく輝けるんだ…ベスパは…。


「キララ様!行ってまいります!」


「うん!盛大に大爆発してきなさい!」


「了解しました!!」


そしてベスパはブラックベアー目掛けて飛んで行く…。


私はベスパだけに集中した…。


目の前をゆっくりと歩いていたモンスターは、ベスパが飛び出すのと同じくして一瞬で最高速度を出しながら突進してくる。


「大丈夫…大丈夫…大丈夫…私は…クマより…蜂の方が大嫌いだから…絶対に当てられる!!」


――ベスパがモンスターに最も近づいた時…私の『ファイア』を放つ!


その瞬間は一瞬で訪れた…


「ハアアアアア!!!!」


ベスパが珍しく雄叫びを上げながらモンスターへ突撃する。


その距離にして1m…


「グアアアアアアア!!!!」


モンスターはそのバカでかい口を開きベスパに襲い掛かる。


「今だ!『ファイア!!!』」


私の放った『ファイア』は一直線の軌跡をなぞり、物凄い速度で飛んで行く。


渾身の『ファイア』…その魔法はベスパに当たり…一瞬で大爆発を起こした。


「グ……」


私は爆風に吹き飛ばされ、闘技場の真後ろにある壁へと衝突する。


冷や汗をかく私の肌に熱い爆風が吹き…冷えた空間を吹き抜ける熱波が私の服と髪をなびかせる…。


――頭が痛い…血が流れてるかも…。


「キララ様…すみません…」


地面にはすぐさま再生したのか…弱りきったベスパの姿が…。


「ベスパ…大丈夫…」


――いつにもまして復活が速い…それに、すみませんて…もしかして…


爆発し先が見えなくなるほど燃え上がる爆炎を私は見る。


爆炎が揺れ…中から高速で突進してくるブラックベアーが飛び出してきた。


「グオアアアアアアアアア!!!」


顔面の皮膚はただれ…下あごは既に吹き飛んでいる…それなのに…。


ブラックベアーだったはずのモンスターは食欲を満たすため、こちらに全速力で突進してくる。


「そんな…もう私の魔力…全然ないのに…」


――でも…幸い…私以外の人は全員逃げられたみたい…。


私は意識を失いかけた…その時だった…。


「しぶっといんだぁよ!!いつも!お前は!!――ゴラアアアア!!」


怒号を放ちながら、上空から大剣に乗った青年が落ちてきた…。


大剣がモンスターの頭部を貫通する。


血しぶきが舞い…青年の黒い服装が真っ赤に染まる。


――私は、この青年に見覚えがある…でも会ったのはもう5年も前だ…。


「大丈夫か!そこのガキ!あとさっきの爆発もお前がやったのか?」


私は首を縦に振る…


「そうか…遅くなってすまなかったな。だがお前が時間を稼いでくれたおかげで、犠牲者はゼロだ。しかし…こんなバカげた、闘技は初めてだぜ…いったい誰が、こんな化け物を戦わせようとしたんだ…。それにこいつの様子もおかしかった。何頭もぶっ殺してきたから分かるが…俺の知ってるブラックベアーじゃねえ。普通あの威力の爆発なら首ぐらいは吹き飛ぶはずなんだがな…」


青年は大剣に突き刺さった頭部を首元でねじり切る…


「よっと…。ん?…やけに重いな、頭だけだぞ」


そしてその青年はブラックベアーの頭と胴体を持ってステージの方へ向かっていく。


「あ…あの!」


「ん?なんか用か?」


「な…名前はなんて言うんですか…」


「名前?ただのフロックだ、普通の名前だろ。そんじゃあな、俺はこいつを色々と調べないといけないんでな。それに奴らの正体を突き止めねえといけないんでな…」


――フロックさんだ…やっぱり、全然あのころと変わってない。


前会った時が15歳だったから、今はたぶん20歳…しかし彼の身長は…5年前とほぼ変わっていなかった。


彼は私のことを覚えていなかった…それはそうだろう…私だってアイドルの時、話しかけてきた子のことを覚えているかと言われたら全然覚えていない。


「あ!そうだ、さっきの魔法…中々良かったぞ!ちゃんと食ってるらしいな」


「!!」


そう言うと彼は石壁を飛び降りステージに下りる。


私はギリギリまで石壁に近づき、叫んだ!


「フロックさん!助けてくれてありがとう!私!もっと強くなるから!」


そう言うとフロックさんはブラックベアーのささっている大剣を振った…


――何だろう…私、覚えられてたみたい…ちょっとカッコいいじゃん。…なんか悔しい。


私は色々と彼に負けた気がした。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


もし少しでも、面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、差支えなければブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。


毎日更新できるように頑張っていきます。


よろしければ、他の作品も読んでいただけると嬉しいです。


これからもどうぞよろしくお願いします。

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