お詫びの品
「はぁ~、キララ様。さっきの攻撃は中々効きましたよ~」
ベスパは復活し、私の頭上に飛んでいた。
――もう、ベスパのせいで問題が大きくなっちゃったじゃん。潔く燃えてくれればよかったのに。
「キララ様と少しくらい鍛錬するのも悪くないかなと思ったんですよ。キララ様の力はやはり強大ですから、使いこなしてもらわないと周りを危険にさらすんです。しっかりと理解していただけると嬉しいですね」
ベスパは腕を組み、上から目線だった。
――何勝ち誇った表情をしているの。まぁ、助言はちゃんと聞くけど、胸について弄ったのはしっかり謝ってもらわないと困る。
「そっちを謝らないといけないんですか……。私は逃げている途中に煽った方を言われるとばかり思っていたんですけど」
――じゃあ、どっちも誠心誠意を込めて謝ってもらおうか。
私は手の平を広げ、ベスパに『ファイア』を見せる。
「大変申し訳ございませんでした」
ベスパは空中で土下座の体勢を取り、とても無様な恰好をした。
気分が晴れた私はベスパを許し、吹き飛んだ建物を直していく。
ベスパが爆発したさいに放射された熱でネアちゃんが施してくれた糸の補強が燃えてしまい、民家が炎上てしまっている所があったのだ。ライトが雨を降らせ、村に広がった火をすべて消してくれたから良かったものの、あのままだったら村が焼失していたかもしれない。
ある程度直したあと、私はライトに牧場の裏で正座させられていた。
「もう、姉さん。どうやったら『ファイア』で村一帯を、燃やせるの」
ライトは呆れたように呟いた。
「えっと熱放射かな……。熱すぎる熱波で燃えやすい物質が燃えちゃったんだよ」
「はぁ、姉さんの魔法の火力は物凄く高いんだからもっと自覚してよね。姉さんは僕達のことを天才天才って言うけど姉さんも自分の才能に気付いていないんだよ。僕がいなかったら村の半分以上が燃えてたんだからね」
「面目ない……」
ライトは私に一時間も説教していた。私が怒られるのは当然だが、ずっと正座だと脚が痺れて痛い……。すでに痺れを通り越して無痛になっている。血液がちゃんと流れていないのかもしれない。
「はぁ……、森や燃えやすい物が近くにある場合、火属性魔法は使わないと肝に銘じておくこと。今回のお説教はこれくらいにしておくよ。今度からは気をつけてよね」
「は、はい……」
私は八歳児に正論で叩き続けられ、心がボコボコのフルボッコにされた。私が悪いので何も言い返せず、完封負け……。村の人に心配をかけてしまったお詫びをしなければならないと思い、ブラッディバードの肉を配ることにした。
私は牧場にある荷台用の倉庫にシャインと共に移動し、彼女に荷台を引き出してとお願いする。その後、別のお願いをした。
「シャイン、ブラッディバードの肉を各世帯に分けたいんだけど、一センチメートルくらいの厚さに切れる?」
「もちろん。全部、一センチの厚さで切ればいいの?」
「えっと、半分くらいかな」
「了解。ちゃっちゃと切っちゃうよ。切った肉はお姉ちゃんがどうにかしてね」
「うん。わかってるよ」
シャインは包丁を片手に、荷台の後ろへと向かった。
荷台の中は未だにひんやりとしており、カチカチに凍ったブラッディバードの肉が置かれていた。
肉は大きめの荷台にパンパンに敷き詰まっているので、一家族だけでは食べきれるわけがない。
肉を一センチメートルの厚さで切り、大きい部分は半分に、小さい部分はそのままで。ブラッディバードの肉のステーキっぽく仕上げていく予定だ。
――ベスパ。シャインが切った肉をビー達に運ばせて包紙で各世帯分に梱包しておいてくれる。そうだな、基本は四枚ずつ包んでくれたらいいよ。出来れば、すべての包の重さが合うように分けてくれると助かる。
「了解です」
ベスパもシャインと同様に小さなナイフを持ち、やる気を見せていた。
「ふぅ……。じゃあお姉ちゃん、やっちゃうよ!」
「ど、どんとこい!」
シャインは丸太のように大きなブラッディバードの肉を片手で鷲掴みにして空に投げた。
「はあっ!」
シャインが包丁を数回振ると、ブラッディバードの肉が少しずつ崩れ始める。
鍵盤かと思うくらい綺麗に切りそろえられており、水分が凍っている影響もあってか、互い同士が引っ付いていた。
シャインは全く気にせず、次の肉を掴んでいる。
ベスパが光り、ビー達に命令すると切り分けられたブラッディバードの肉を一枚ずつ持ち、梱包場へと持っていく。
一センチに切られたブラッディバードの肉はベスパのもとに運ばれ一○○グラムくらいに切り分けられる。その後、包紙に肉を四枚いれ、四○○グラムの包が出来た。
この工程を何度も繰り返し、村の各世帯分、包を作る。
村にある家の数は八八八世帯くらい。でも住んでいるほとんどがお爺ちゃんお婆ちゃんなので一世帯のうち、二人くらいしかいない。なので最低一七七六人くらい村にいる計算だ。
大人が入ると少し増える。でも、亡くなっている方もいるから、村の人口は下降傾向にあった。
今回の肉の最低必要量は一七七六○○グラム。一七七キログラムは確実にあるので、心配する必要は無さそうだ。
「はぁっ!」
シャインは包丁を何度も何度も振り払い、ブラッディバードの肉を切っていく。最後の方は一振りで肉が等間隔に切られていた。いったいどういう仕組みなんだろう……。
「はぁ、はぁ、はぁ……。よし! 終了! どうだったお姉ちゃん、私の包丁さばき!」
シャインは額に汗を掻きながら、運動少女みたく、清らかな笑顔を私に向けてきた。
「す、すごかった。鍛錬の成果かな……」
「そうだね。毎日素振りは一万回くらいしてるからさ。やっぱり鍛錬のおかげだよ!」
シャインは笑顔を浮かべ、私は引いた。一万回、木剣を振るなんて普通じゃない。だって一〇○回を一〇○回しないといけないんだよ。ま、まぁ、シャインなら出来るか……。私の方もシャイン達の感覚に狂わされそうになる。一万回とか絶対に多いから。
「キララ様。八八八個の包を新しい荷台の方に乗せておきました。早速配りに行きましょう」
今回の原因の一つであるベスパは負い目を感じているのか、とんでもなく素早い仕事運びで滞る時間を一切作らない。
――わかった。
「ありがとうシャイン。ガンマ君との鍛錬の時間を使わせて悪かったね」
「べ、別にいいよ。ガンマ君はまってくれてるって言ってたし……」
シャインは頬を赤くしてモジモジしていた。包丁を持ちながら言われるとすっごく怖い。ブラッディバードの肉の血が左手と頬に付いており、狂気の妹になっている。
「えっと、肉のにおいが付いてると思うから、ライトに魔法で洗ってもらってきた方がいいと思う。私は今からお詫びの品を村の人達に配ってくるよ」
「わ、私。肉臭い……。もしかして汗のにおいも混ざってる……。ら、ライトに頼んで臭いを取ってもらってくる!」
シャインは自分の体をにおい、血の気を引かせてライトのもとへと走って行った。
「肉の臭いは嫌だけど、シャインの汗の匂いなら、ガンマ君がもしかしたら喜ぶかも……。えへへ~、シャインの汗の匂いでドキドキしちゃってるガンマ君を思うとウハウハが止まりませんな~」
「キララ様、気持ち悪いが過ぎますよ……」
ベスパは若干引き気味になりながら呟いた。
「おっと……しっけいしっけい。ちょっと興奮しちゃってね。さてと、こんなことしている場合じゃない。私が皆に謝りながら渡さないと意味がないからね。時間が無いから急ごう」
「了解です!」
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