ブラッディバードの女王とモテたい男
「はあっ!」
ロミアさんは地面を蹴り、高く跳躍し、大きな斧を女王に振りかざす。
「せいやっつ!」
トーチさんは女王の足下に槍の穂先を向ける。
「せいやっ!」
マイアさんは剣を頭上に掲げ、跳躍し、女王の首に切り掛かる。
「ふっ!」
フレイさんは大剣を下から上に振り上げ、女王の脚を狙う。
『グギャアアアアアアアアアアッ!』
ブラッディバードの女王は大きな翼で体を守る。すると四名の武器は女王の羽毛に阻まれ、全く通らない。物理耐性でもついているのだろうか。そう思うくらい、攻撃が跳ね返されていた。
攻撃が通らない上に女王が翼を広げると、四名の女騎士達は羽虫のように吹き飛ばされる。
体力と気力には限界があり、身体能力にも限度がある。女騎士達は脚を攻撃して体制をくずさせ、頭を取ると言った作戦を考えているのだと思うが、女王の脚が早く、足癖が悪いせいで攻撃が当たらない。
「このブラッディバード、強いよ! トーチ、どうするの!」
「巨大化に加え、変態もしている。もう、新種のブラッディバードと言っても過言じゃない。今までのブラッディバードを倒す訓練は全く以て意味をなさない。さぐりながら倒すしかないぞ!」
「探りながら倒すって言っても……、こんな大きな魔物が止まってくれるわけありませんよ! 毎度毎度吹き飛ばされて、体がボロボロです」
「マイア、弱音を吐かない。私達がこのデカい魔物を倒さないと、せっかく復興してきた街がまた壊される。何としてもこの場は死守しないといけないわ。私が火属性魔法を纏った大剣でブラッディバードをひるませるから、その時に皆は脚を狙ってちょうだい!」
「了解!」×ロミア、トーチ、マイア。
ロミアさん、トーチさん、マイアさんの三名はフレイさんの後方に下がり、体力を温存させた。
「ふぅ……。『バーニングソード』」
フレイさんは自分の体よりも大きな大剣に炎を纏わせ、右脚を引き、腰を低くしながら大剣の穂先を後方に向け、構える。
『グギャアアアアアアアアアアッ!』
女王は地面を抉り取りながら、大声を上げ、走り出した。
「く……。ふっつ!」
フレイさんはブラッディバードの女王が放った突風を受けながら撓っている木に向かい、走る。幹を踏みつけ、木の高さと撓りを利用し、八メートルほど跳躍しながら、燃え盛る大剣を頭上に掲げた。
「『バーニングストライク!』」
フレイさんが持っている大剣を纏う炎が女王と同じ七メートルほど大きくなり、辺りを真っ赤に照らす。振り払うと三日月型の炎の斬撃が飛び、女王を襲った。
『グギャアアアアアアアアアアッ!』
女王は炎の斬撃をかわすため、地面を強く蹴り、跳躍する。強靭な脚を振り抜き、炎の斬撃を真横から相殺した。
――フレイさん。あんなすごい魔法が使えたの。女王には相殺されちゃったけど、魔法も使えるなんて凄い。
「キララ様。フレイさんの攻撃は魔法ではなく、魔道具の効果だと思われます」
ベスパは顎に手を置きながら呟く。
「魔道具? あの炎が?」
「はい。キララ様も使っておられます『転移魔法陣』の描かれた木版も言わば魔道具の一種に数えられるかと」
「じゃあ、フレイさんの持っている大剣に何かしらの魔法陣が描かれているってこと?」
「そうですね。炎属性魔法の魔法陣が描かれているのだと思われます。いわゆる魔剣と言う武器でしょうね」
「魔剣……。なるほどね。魔力は一律誰もが持っている力。魔法陣を発動できない人達が魔法を使えるように武器に魔法陣を描いてあるってわけか。便利だね」
「まぁ、臨機応変に魔法を変更させるのは難しいと思いますから、自分で使えた方が使い勝手はいいかと思いますよ」
「そうだけど、魔法が使えなくても剣激の方が得意な人が牽制目的で使えたら強いと思う。フレイさんみたいに、敵をよけさせて進行を妨げるとかさ」
『グギャアアアアアアアアアアッ!』
女王はフレイさんの攻撃を相殺したあと、私の体が一瞬浮きそうなほど地面を強く押し付けながら着地し、辺りの草木を振るわせたあと大きく叫び、人間を威嚇していた。
「皆! 一斉に掛かるよ!」
同じく地面に着地したフレイさんは再度走り出し、大声を出す。
「了解!」×ロミア、トーチ、マイア。
女騎士の四人は女王の四方を囲み、一斉に飛びかかりながら脚に向って攻撃する。
『ムグ……』
女王は脚を攻撃されると詠んでいたのか、モコモコの体の中に脚を隠すように縮んだ。母鳥が卵を温める時にかがむ体制と同じだ。
「なっ!」×ロミア、トーチ、マイア、フレイ。
四人の一斉攻撃は女王の白い羽毛に当たるも、衝撃を吸収され武器が沈み込むだけで終わる。
「く……。物理攻撃が通らない。魔法攻撃でなければ体に傷を負わせられないのか」
トーチさんが使っている穂先の鋭い槍ですら、女王の体に刺さらず、羽毛に沈み込んでいるだけだ。
『グギャアアアアアアアアアアッ!』
ブラッディバードの女王は羽を大きく広げるように翼を動かし、四人を四方に飛ばす。
「うあっ!」×ロミア、トーチ、マイア、フレイ。
森の木々に叩きつけられる者、地面を擦る者、川に落ちる者、岩に叩きつけられる者。皆、それぞれ攻撃を受けてしまい、血を流していた。痛みによって体が動いているので死んでいる訳ではなさそうだが、女王は地面を抉りながら西門に向き、走り出す。もうすぐ、街の岩壁に到達してしまう。その前に男性が女王の巨大な脚に踏みつぶされてしまう。
『グギャアアアアアアアアアアッ!』
女王は地面にペタンコ座りをしている男性に叫んだ。手に持っている金色に光るエッグルに反応したのかもしれない。
「うわああああああああああああああああ! あ……」
男性は恐怖のあまり叫び、大声を出した影響で脳に血が上ったのか、はたまた血圧が一気に乱高下した影響で脳に血が巡らなくなったのか、理由は定かではないが気を失った。空を見上げながら、魂が抜けたようにただただ座り込んでいる。
――あれはやばいな。ベスパ、助けてあげた方がいいよね。
「いえ、あのままでいいと思います。今、男性の中で何かが変わりました」
――え? そうなの、ただ恐怖から気絶してるだけだと思うんだけど。
『グギャアアアアアアアアアアッ!』
女王は巨大なかぎ爪の付いた足で地面を抉り、巻き上げながら勢いよく走る。
男性まであと二五メートルほどになった。あと三妙もしないうちに、男性は踏みつぶされてしまう。
「はぁ、またか。仕方ない……。戦わないとな……」
気絶していた男性は立ち上がり、女王を前にしても全く微動だにしていなかった。
「土の聖霊グリュウよ、チャーチル・キンチの名において顕現せよ。して、我に力を与えたまえ」
男性は装飾品の付きまくった剣の鞘から茶色の宝石を取り、空中に投げ、右手に持っていた質素な剣で砕く。すると質素だった剣に茶色の光が纏い、男性の頭上に跳ねの生えた小さな子供? よくわからないが、小人のような生き物がふよふよと飛んでいた。
「チャーチル君。今回の魔石はまあまあお粗末だね。あいつを完全に倒すのは難しいよ」
「なら、退けるだけでもいい。この黄金のエッグルさえ返せば、おとなしく退いてくれるはずだ」
「りょうか~い。んじゃ、チャーチル君に魔力を渡すね」
男性の名前はチャーチルと言うのか、小さな生き物が男性の頭上で数回飛び回り、キラキラとした魔力を振り注がせる。
――何か、付与魔法でも掛けているのかな?
「そのようですね。あの見た目、妖精族か何かかと思われます。エルフのように長い耳、小さな体、バタフライのような虫の翅。見かけから察しても妖精でしょうね」
ベスパは苦笑いを浮かべ、推測する。
――妖精。そんな存在もいるんだ。というか、あのチャーチルって人、印象がさっきと全然違うんだけど、性格変わってるよね?
「魔力の質が変われば人の性格も変化します。魔造ウトサで人格が変化していたのと同じですよ。男性が気絶し、魔力の流れ方が変わった影響で性格が変わったと思われます」
――なるほど。魔力がふつふつと沸き上がると気持ちが上がるのといっしょか。にしても変わりすぎな気がする。
私はチャーチルさんの背中をずっと見ていたが、先ほどはあまりにも情けなかったのに、今はとても頼もしい。
「は~い『土属性魔法強化』の付与が完了したよ。ここら一帯の地面は自在に操れるようにしておいた。あとは任せるね」
「ああ、感謝する」
チャーチルさんの周りを回っていた妖精は姿を消した。魔石は砕かれたままなので、一度呼び出すには魔石を対価として支払わなければならないようだ。
『グギャアアアアアアアアアアッ!』
女王はチャーチルさんの目の前に到着し、大きく太い脚を使って踏みつけようとした。
「『グランドランス』」
チャーチルさんが何か詠唱を放ちながら、茶色に輝く剣身を地面に突き刺す。すると、槍のように尖った物質が地面から突き出し、女王の進行を止めた。脚に少々傷を負い、黒い血が流れている。
「ふっ!」
チャーチルさんは杭だらけの地面を跳躍で飛び越え、停止している女王の前に出て行った。
「すまなかった。どうか、身を引いてくれ」
ボンサックのように肩に担がれていた革袋の中身を取り出し、女王の口もと目掛け、金色のエッグルを投げる。
『グギャ……』
女王にとっては涙かと思うほど小さなエッグルだが、嘴を起用に使い、しっかりとついばんだ。すると、そのまま方向をひるがえし、走ってきた道を帰っていく。
女王が帰ると他の個体も帰った。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします。
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。
毎日更新できるように頑張っていきます。
これからもどうぞよろしくお願いします。




