肉を焼く
「ふぅ……。皆さん、ブラッディバードの解体が終わりましたよ。皆さんが戦ってくれたので、私は解体と言う形でお返しさせていただきました」
私は一歩前に出て、くるりと振り返り、ニクスさん達に頭を下げる。
「あわわ……。ほ、ほんとに全部終わっちゃったよ……」
ニクスさんは口をあんぐりと開けながら、驚いていた。
「こ、こんなことって……。キララちゃんのスキルか何かなの?」
ミリアさんは鋭い質問をしてきた。
「はい。一応、私のスキルが解体を行いました」
「す、すごい便利なスキルね……。ここまで大きな魔物の解体が短時間で終わるなんて……」
長い時を生きているハイネさんも、そこはかとなく驚いていた。
「さ、解体も終わりましたし、遅めの昼食と行きましょうか」
「あ! 昼食! すっかり忘れてたよ!」
ミリアさんは叫び、走り出した。いったいどうしたと言うのだろうか。
私達はミリアさんを追いかけ、ガッリーナ村の広場にやってきた。ベスパには素材を荷台にまとめておいてとお願いして置く。
「ああぁ……。焦げ焦げ……」
ミリアさんは焚火を付けっ放しにしていたようで、焼いていた肉が真っ黒になってしまっていた。
肉が食べられず、もったいないのは仕方ない。でも、火を付けっ放しにいておくのは危険だとニクスさんに怒られ、ミリアさんは普通に反省している。
焦げまくった肉は私が受け取り、ローブの内側からディアのいる木板を取り出して、転移魔法陣を展開し、ディアを一匹出した。手の平に漆黒のつるりんとした体を持つディアが昇ってくる。
「キララ女王様。お呼びですか?」
――はい、食事。焦げまくった肉。
私はディアを黒焦げの肉に近づけた。
「ありがとうございます! では、いただきます!」
黒光りするディアは焦げまくった肉を文句など一切つかずバクバク食べていく。ゴミ処理係がいるととても助かるが、他の人に見せる訳にはいかない。ブラッドディアに食事をあたえているなんて変人でしかない。私はこの世界を生きてきて、そう言う認識を得ていた。
ディアが肉を食べ終えると、私は横腹をさっと摘まみ、転移魔法陣の中にもどして繋がりを切る。
「ふぅ……。よし、ゴミは自分で片づけないとね」
「キララ様、そう言うとディアがゴミみたいになりますよ……」
ベスパは私の頭上で優雅に飛び、呟く。
私がゴミの処理をしている間、ミリアさんは新しい肉をしぶしぶ焼き始めた。
村人が使っている炭を分けてもらったらしく、遠火でじっくりと焼き、肉に火を通していく。
――疲れた体に炎はなぜこれほどまで心を安らかにしてくれるのだろうか。ただ見つけているだけで眠気が襲ってくる。
私が眠りそうになると、秋の訪れを知らせる冷たい風が吹き、眠気はとんだ。風は髪が少々靡くほど強めに吹き、身震いするほどの冷たかった……。きっと秋なんて一瞬で過ぎ、冬がすぐやってくるのだろう。
「えっと、キララちゃん。木剣と魔法をありがとうね。あれが無かったら僕は絶対に勝てなかったよ。と言うか、今でも巨大なブラッディバードを倒した実感がわかないよ」
ニクスさんは自分の手を見て、苦笑いをしていた。手が震えているのを見ると、武者震いだとわかる。それだけ、何か掴んだものがあるのだろう。
「私は援助係として仕事をしただけです。ニクスさんが頑張ったから、倒せたんですよ。最後の方なんて、ほぼニクスさんの力だけで戦っていたじゃないですか」
「そうだけど、最後の最後は誰かに助けられた。ブラックベアー事件の時も誰かに救われて助かったし……。僕の手だけで達成したことが一度もない。でも、今日は少しだけ変われた気がするよ。ありがとう、キララちゃん」
ニクスさんは握り拳を作り、私に笑顔を見せた。
「いえいえ、お気になさらず。私も皆さんのおかげで沢山の収穫を得ましたから、十分です」
「ほんと、キララちゃんはすごいな~。本当に一一歳なの~」
ミリアさんは肉を焼きながら、またもや鋭い発言をした。獣族は直感でもいいのだろうか。だが、面白半分で言っているようなので、私の中身が本当は歳を結構とっているとまではわかっていないっぽい。
「ほ、本当に一一歳ですよ。ほら、胸だってぺったんこですし……。うっ!」
私は自分で年齢の低さを主張するために胸に手を当てた。だが、あまりの脂肪の無さに自分が攻撃を食らう。周りの女性を見ても、大きい人がやはり多い。
――いったいなぜだ。神のせいか。あの駄女神のせいで女性は皆、胸が大きいのか。なら、私だって……。うっ!
私は胸に手を置いて攻撃をまたもや食らった。
「まー、キララちゃんが一一歳なのはちょっとしっくりこないけど、頭のいい子ってことで片づけておくね」
ミリアさんは尻尾を振りながら笑う。
「はは……。どうも……」
「ムムム……。ムムム……」
ハイネさんは私を真上から見下ろすように威圧してくる。目が光っており、何かのスキルを発動していると思われる。
「え、えっと……、ハイネさん?」
「減ってない……。どうなってるの? あんなにスキルを多用していたのに、魔力が全然減っていないんだけど」
「えっと……。私の魔力量は多いので……」
「魔力量が多いにしても限度ってものがあるでしょ。キララちゃんの体と年齢なら、あれだけ大きなブラッディバードを浮かせて解体するなんて作業を行ったら魔力は、少なからず減るはずよ。なのに、初めて会った時から全く減ってない……。異常だわ……」
「そう言われても……」
――ベスパ、私の魔力量を少しずつ減らして。ハイネさんが化け物を見るような眼で見てくるから、異常っぽい。私のスキルは魔力が遅延して減るってことにするから。
「了解しました。では、常時周りの虫たちにキララ様の魔力を送ります」
別の場所で作業をしているベスパの声が脳内で響くと、倦怠感が少々現れる。
「あ、あれ? 魔力が減り始めた……。魔法を使っていないのに……」
「え、えっと……。私のスキルは遅延があって……、スキルを使ってから少しして減っていくんです……。魔力の回復するのが早いので、減るのが遅いんですよね」
――誤魔化せるかな。相手は長い間生きてきたハーフエルフ。嘘と気づかれそうで怖い。
「そうなの? 変わった体質をしているのね。でも、魔力が減ってくれてよかった。あんなにスキルを使って魔力が減らないなんて異常だもの。にしても、キララちゃんの魔力量の底が知れないわね。実力もまだ隠してそうだし、いったい何者なの……」
「私はモークルの乳を売っているただの酪農家ですよ」
「キララちゃんが酪農家……。そう言えば、自己紹介の時にそう言っていたような……」
「でも、酪農家って、こんな小さな女の子がやるような仕事じゃないでしょ」
「モークルの乳って……。あんなに臭い飲み物を売っているの?」
ニクスさん、ミリアさん、ハイネさんは個人の感想を持ち、私に疑いの目を向けてきた。
「そこまで疑うのなら、皆さんにもモークルの乳を飲んでもらいましょうか」
「え?」×ニクス、ミリア、ハイネ。
――ベスパ。
「はい、モークルの乳が入った牛乳瓶三本です」
ベスパは私が命令する前に牛乳瓶を持ってきていた。
――仕事が早いね。
「取柄ですから」
ベスパは小さくお辞儀をして、三名の目の前に牛乳瓶を持っていく。
「これが、モークルの乳? えっと。蓋を開けて飲めばいいの?」
ニクスさんは牛乳瓶を握り、上下を見渡したあと紙の蓋に手を伸ばす。
「はい、蓋を取っていただいて、中に入っている白い飲み物がモークルの乳です」
「えっと……、ミリア、モークルの乳って白かったっけ?」
「いや、ちょっと黒ずんでたと思うけど……」
「ええ、酷い臭いもするはず……。こんな容器に入っていてもあの臭さは抑えられようがないわ」
ニクスさん、ミリアさん、ハイネさんと共も、モークルの乳に対する認識があまりに低い。でも、飲める品を知っているということはモークルの乳が飲めるくらいの地位にいたということ。ニクスさんの家系は貴族と言うだけあって日々の料理にモークルの乳が出ていたのかな。
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