小さなブラッディバード
「なっ! 何が起こった!」
ニクスさんは大きな声を出し、周りに聞く。
『グギャアアアアアアアアアア!』
ブラッディバードの悲鳴が聞こえ、同時に重い物体が地面にぶつかる振動を足裏で得た。
「ニクス! ぼさっとしてたら駄目! ブラッディバードの頭が地面に近いよ!」
「わ、わかってる! はあっつ!」
私が眼を開けると、親玉の右脚が千切れ、鶏冠頭が地面に付き、蹴り上げたであろう左脚と体が空中に浮いていると言った変わった光景だった。
私が左手に持っていた魔力の弓は空気のようにすうっと消え、光となった。
前方の木々から砂煙が舞っており、大きな木に穴が開いている。考えたくないが、私が放った矢のせいなのか。そんな馬鹿な。ただの矢の威力にしては高すぎる。
「おらあああああああっ! これで終わりだっ!」
私がいらぬ考えをしている内に、ニクスさんはブラッディバードの頭に木剣を叩きつけた。眩い光が発生し、首の骨が折れるような嫌な音が荒野に鳴り響く。
『グギャアアアアアアアアアア!』
『確定急所』により、木剣は粉々に折れたものの、親玉の頭は不動の地面とスキルによって超火力になった木剣に挟まれ、親玉は気を失った。
絶命したかどうかはまだ判断が難しい。でも、親玉の行動は封じた。残りは回りに群れいている六体の変態したブラッディバードと無数にいる普通のブラッディバードのみだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……。やった。やった! 誰の攻撃かは、わからないけど、ブラッディバードに隙が出来た。あんな高火力な魔法、誰が撃ったんだろう。ミリアは見た?」
ニクスさんは剣身が粉々になった木剣の柄を握りしめ、右手を高らかに突き出す。加えてミリアさんの方を向き、話し掛けた。
「さ、さぁ。私もちゃんと見てなかった。攻撃が早すぎて全く見えなかったけど、たぶん魔法だよね? それとも他の攻撃? ハイネは見た?」
ミリアさんはハイネさんの方を向き、呟く。
「い、いや……。私にも見えなかった。音を遥かに超える速度、光に近い速度で動いていたのは肌の感覚でわかる。だが、いったい誰が……」
私は疑いの目をかけられる前に、演技をする。
「う、ぐぅうぐぅ……。こ、怖いよぉ……。ままぁ……。レクー助けてぇ……」
私はレクーの背中によじ登り、抱き着いて泣きまねをする。
「き、キララちゃんじゃないか……」
「き、きっと違うよね……、そうだよね……」
「そう思いたいね……」
私は『妖精の騎士』から疑いをかけられず、何とか誤魔化せたらしい。大きな音がなったり、光を盛大にはなったり、詠唱も無しにここまで物理攻撃が出来るなら、もっと早くから練習しておけばよかった。
『ボヒュッツ……』
森の方から煙のような小さな狼煙が上がり、すぐに消える。その光具合から、ベスパだと思われるが何かに突き刺さって潰れなかったのだろうか。
八秒ほど経ち、ベスパが私の頭上に戻って来た。
「キララ様、ただいま戻りました」
――お疲れ様。ベスパ、潰れて死んでないの?
「はい。キララ様の魔力に守られていたので潰されていません。柔らかい物を魔力の質と量で強化した場合と、とんでもなく硬い物質をぶつけ合わせたら強化した方が強くなります。それだけ、魔力による恩恵が大きいんですよ。私は矢が発射されるさい『ブースト(加速)』の魔法陣を発動させて飛び出しましたから、魔力による強化、質による強化、魔法陣による強化の三段構えで攻撃を行ったらこの通りです」
ベスパは惨状の方に手を広げ、自分の成果だと言わんばかりのどや顔を向けてくる。
――ちょ、ちょっとと言うか、威力が大分出過ぎなんだけど……。ブラッディバードの体に普通に突き刺さるとかできなかったの?
「あ、突き刺さってから、私がブラッディバードの内部で爆発した方がよかったですかね?」
――そうじゃなくって……。はぁ、ベスパにちゃんと命令しないとこうなるのか。暴走とあまり変わらないな。
ベスパに考えさせながら動作を行わせると、私の考えと全くそぐわない行動をとるとわかった。
たまにいい仕事をするので、考えさせるのはやめないが、命令しないとポンコツになってしまう可能性がある。やる気のある馬鹿や、無能な味方は一番いらないと、フランスの皇帝も言っていた。
ベスパはやる気満々の良い社畜なので、私の命令は大概聞く。だが、私直属の部下であるため、権力があり、能力が高い。そのため、私の考えていない行動をとってくる。
結果が高火力の物理攻撃(弓)な訳だ。さっきだって、ビーを使って敵の脳天を貫いてた。
――ベスパは攻撃の時、爆発意外にも使い道がまだまだあるのかな。私が制御しないと無駄に目立ってしまう。私も魔力量が多いって自覚しないと……。
『グギャアアアアアアアアアア!』×六頭の変態したブラッディバード
変態したブラッディバード達は通常個体の声を聴き、勢いをぶり返していた。
「はっ! ブラッディバードがまだ残っているんだ。ミリア、ハイネ。一頭ずつ着実に倒していくよ!」
ニクスさんは変態したブラッディバードを討伐するため、走り出す。
「了解!」×ミリア、ハイネ。
ミリアさんとハイネさんはニクスさんの後を追い、凛々しい表情をしていた。『妖精の騎士』は大きく成長したと言っていいだろう。
「ベスパ、木剣を出来るだけ作ってニクスさんに使わせてあげて」
「了解です。もう、一〇○本ほど作ってきます」
ベスパが森に飛んで行き、八分後に森から木剣が現れる。そのまま浮遊しながらニクスさんの方へと向かった。結構異様な光景だが、皆、目の前にいるブラッディバードを討伐することに精一杯なので、浮く木剣など気にしていられないみたい。
私はと言うと……。
「えへへ~。えへへ~。エッグル~、エッグル~」
私は冒険者さん達を出汁に使い、エッグルを独り占め……じゃなくて、先に取っておいてあとで皆に分けようかなと思って森に戻ってきた。
「ニクスさんはあの巨大な個体にも攻撃できるくらい精神が成長した。なら、小さ目のブラッディバードに怖気づいたりしない。他の冒険者さん達も、調子を取り戻していたし、心配無用だね」
「キララ様、泥棒のような真似はカッコ悪くないですか?」
ベスパは私の目の前に出て、言う。
「ちっちっちっ……。役割分担だよ。役割分担。私は戦えないし、皆が私を守ると言う無駄な労力をかけなくて済む。だから、私は単独行動をとっているの」
「はぁ……。キララ様は自分の欲しい物は何が何でも捕りに行こうとしますよね」
「だって、今が好機だと思ったんだもん。ブラッディバードたちがあれだけ集まったのなら、森の中には少なくなっているはずでしょ」
「それはそうですけど……。ん? キララ様。ブラッディバードの少々おかしな個体を見つけました」
ベスパはビーから情報を得たのか、顔を顰める。
「え……。おかしな個体? 変態したブラッディバードじゃなくて?」
「はい。これはいったいどういう状況なのでしょうか。案内します。付いてきてください」
ベスパはレクーの前を先導し、私達を運ぶ。
「キララ様。この個体です」
「え、ちょ、ちょっと待って……。この個体もブラッディバードなの?」
ベスパが連れてきた場所に、先ほどのブラッディバードと姿形は一緒だけど、体の大きさがあまりにも小さい個体がいた。大きくなったり小さくなったり、いったいなんのこっちゃ。
「この個体は危険じゃないの?」
「これだけ小さいですから、普通の個体よりも格段に弱いかと……」
「声は?」
「聞きますか?」
ベスパは苦笑いをしながら聞いてくる。
「う、うん……」
ベスパは『聴覚共有』を使い、私に小さなブラッディバードの声を聞かせてくれた。
「コケ、コココ、コケーコ……」
(コケ、コココ、コケーコ……)
「コケ、コココ、コケーコ? えっと……、性欲すらないの? それとも思考が無い? ってことでいいのかな」
「そうですね。ただ、ただ、動いて目に入る小さな木の実を突いて食べているようです」
ベスパは小さなブラッディバードの頭を短い指で突く。
「はは……。えっと、この個体はもう大人の姿なの?」
私は木の実を突いている小さなブラッディバードを抱きかかえる。大きさは三○センチから四五センチメートルくらい。ほんとうに鶏にそっくりで、結構可愛かった。
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