不可解な音
「タタタタ~ンタタタタ~ンタタタタンタンタンタンタ~ン。ほらほら、どうしたんですかー? 私の数百倍も大きいのに、びびってるんですかー? ざーこ、ざーこ」
ベスパはブラッディバードの頭上で未だに踊っており、親玉を引き付けていた。いや、引き付けていたと言うより、煽っていたと言う方が正しいかもしれない。
『グギャアアアアアアアアアア!』
ブラッディバードは早すぎて攻撃が当たらないベスパにいら立ち、叫び続けている。耳の近くで蚊がずっと飛び続けているような感覚に陥っているのだろう。コバエが辺りに飛んでいると考えてもいいかもしれない。ベスパがあまりにもうざすぎる……。
「この大きなブラッディバードを倒すか、大量の通常ブラッディバードを倒すか、どっちがいいんだ……」
ニクスさんは多数のブラッディバードを視界に映し、迷っていた。
――親玉か小物か、迷う必要はないと思うんだけどな……。ま、数の力は強いけど、指揮している個体を倒すのが、一番効率がいい。
私はニクスさんの背中を押すため、親玉の隙を作ることにした。
――ベスパ、小爆発。
「了解!」
私はベスパがいる方向に指を向けて『ファイア』の魔法陣を指先に展開したあと、練った魔力をうち放つ。
「『ファイア』」
私が『ファイア』を放つと、火の塊が真っ赤な残像を空中に残しながらベスパに吸い込まれるように一直線に放たれる。
「やっふーっ! 爆ぜろっ!」
待ち望んでいたと言うようにベスパは両手両足を広げ、大の字になり、『ファイア』を全身で受け、親玉の目の前で爆発した。空中で小さな花火が爆発したような音が鳴り、真っ白な光を放ちながら魔力が弾ける。ブラッディバードを殺傷できるほどの火力はない。だが、隙を作るくらいなら丁度いい火力だった。
『グギャアアアアアアアアアア!』
ベスパの爆発により、親玉の頭が揺らぎ、三半規管に傷を負ったのか足がおぼつかなくなり体勢が崩れる。
「爆発……。いったい誰が。って、考えている場合じゃない。今が好機だ!」
ニクスさんは剣を強く握り、親玉に向かい、走る。地面を蹴り、すぐさま跳躍すると『女王の輝き(クイーンラビンス)』の影響で脚力が常人を超えており、親玉の頭上を取るほど飛びあがっていた。親玉の頭が下がっていたのを考えると五メートルから六メートルは飛んでいる。二階建ての家の屋根に悠々と着地できる高さだ。
ニクスさんはあまりに脚力が上がっていたため、空中で戸惑い、体幹で体勢を整えながら剣身を親玉の頭にあてようと思いっきり振る。
『グギャアアアアアアアアアア!』
ニクスさんが戸惑っている間に親玉は右足を大きく前に出し、四股を行うように地面を強く踏みつけ、体勢を立て直した。そのまま踏み込んだ力を利用し、後方にいるニクスさん目掛け、右脚を軸に左脚の回し蹴りを繰り出す。親玉の体幹が強すぎて、Y字バランスをするような体勢にも拘わらず、歪みが無い。ニクスさんから見たら、目の前から音速に到達するほどの巨木が押し寄せてくるような感覚だろう。
「くっ! 剣で防げ! 振り遅れるなっ!」
ニクスさんは大声を出し、頭で考える前に行動に移す。空中で体を捩じりながらタイミングを計り、親玉の巨大な脚に両手で握る剣を当て『確定急所』を発動させた。その証拠に剣と脚が当たっている接地面が光っている。その瞬間、ガラスの表面が割れるような嫌な音が聞こえた。
ニクスさんの剣と親玉の左脚は同じ力で打ち付け合ったのか、両者共に全く同じ反発を受け、後方に跳ね返る。
「っつ! 重い。でも、あの脚の攻撃を防げた。僕の身体能力が各段に上がってる。これならいけるかもしれない!」
ニクスさんは後方回転を行い、体勢を立て直し、地面にストンと着地した。体勢が崩れている親玉のもとに走り、最短距離で背後を取る。今回は飛び上がらず、強力な脚を狙い、地道に倒していく作戦のようだ。
「はあっ!」
『グギャアアアアアアアアアア!』
親玉は弾き飛ばされた左足を地面に叩きつけ、回転の軸にしたのち、跳ね返った反発力と右足の遠心力を使い、またもや太く硬い脚を撓らせながら回し蹴りを披露する。
「さっき見た!」
ニクスさんは親玉の攻撃に気付いており、回し蹴りの予備動作を目で見て、落下地点を予測し、軽い身のこなしで回避した。どうやら視力もクイーンラビンスによって強化されているので、しっかりととらえられているようだ。
親玉の足は地面に打ち付けられた。その瞬間、巨大な土柱が立ち昇り、辺りに衝撃音を響かせた。その影響でニクスさんは衝撃波と土砂に巻き込まれ、吹き飛ばされる。
「くっ! 見失うなっ!」
ニクスさんは衝撃波と土砂に剣を振る。すると剣身が光り、鉛筆で真っ黒に塗りつぶした紙を消しゴムで擦ると下地が見えるように、振り抜いた瞬間、視界を覆っていた土煙が一瞬で張れた。そのおかげで親玉の位置を見失わずにすみ、再度切り掛かろうとする。
『グギャアアアアアアアアアア!』
だが、ブラッディバードの足技は達人級で軸足を右脚に即座に変えた。そのまま左脚を真横から、ニクスさんに蹴り掛かる。ニクスさんが気づいた時には左脚が目の前に迫っており、回避できそうもなかった。
「くっつ! おらああああっ!」
ニクスさんは振り抜いた剣を無理やり戻し、親玉の左脚に切りつける。剣身と脚の接地面が光り、衝突による衝撃波が生まれ、辺りの塵を吹き飛ばし、解像度が上がる。その時、またしてもガラスに罅が入るような音が聞こえた。
『確定急所』により、ニクスさんが持つ剣の位置で親玉の脚が止まっている。だが、ニクスさんの地面が陥没し、蜘蛛の巣状に地割れが起っていた。相当踏み込んでいるようだ。
――ブラッディバードの蹴りはどれだけの威力が出てるのかな……。あの蹴りを防ぐニクスさんも凄いけど『確定急所』が思ったよりも優秀だ。私も欲しい。でも、あれだけ強力なスキルなら、何かしら弱点があるはず。魔法の付与が受けられないと言うのも弱点の一つなのかな。他のもあるのだろうか。
私はニクスさんのスキルである『確定急所』に、何か弱点が無いのかとさぐるも、魔法の付与が受けられないと言う部分しか見つからない。
ニクスさんはスキルにより、魔力を使っているわけでもなく攻撃が当たるとすべてが『会心の一撃』になるのだ。
――普通の人なら努力を怠りそうなくらい優秀なスキルだけど、ニクスさんは自分の弱さをしっかりと理解して体を鍛えている。将来有望そうな男性だ。もし、ニクスさんの持っている剣が聖剣とかの伝説の剣になった時にはどれほどの威力が出るのだろうか? でも、聖剣を持たせたからと言って剣聖に強い装備をさせた方が有能そうだよな……。攻撃が当たらなかったら意味が無いし。
「はああっ!」
ニクスさんは剣を振り抜き、親玉の脚に傷を入れた。すると脚の傷から大量の黒い血が噴き出す。ニクスさんの剣は一五〇センチメートルも無い。加えて、押し切っただけなので太い脚に入った傷はほんの一〇センチメートルほどしかなかったらだろう。でも大量の黒い血が噴水のように出ているのを見るに『確定急所』が発動しているとわかる。ただ、またしてもガラスに罅が入るような音がした。
『グギャアアアアアアアアアア!』
親玉が叫び足をもたつかせながら後方に下がる。図体がデカいため、巨大な脚に負担がかかっているはずだ。脚に傷を負ったのはきっと大きな痛手だろう。
このまま勝てそうかなと私は思っていた。ただ、先ほどから不可解な音が攻撃の衝突時に鳴っており、不穏な空気が流れているのが気になる。
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