ブラッディバードの大群
「く、クロクマさん、強い……」
「うわぁ~い、キララさん、やりました~」
クロクマさんは立ち上がり、四メートル以上の巨体で二足歩行をしながら私を追いかけてくる。
「ちょ、ちょちょ、その状態で近づいてこないで~!」
レクーは面白がり、ゆっくりゆっくり走り、クロクマさんのあんよが上手状態……。私は辛いだけなのだがレクーとクロクマさんは楽しんでいた。
「『転移魔法陣』」
「うわっ!」
クロクマさんはベスパが発動させた『転移魔法陣』に落ちていく。
「はぁ……。助かったよ、ベスパ。ありがとう」
私はレクーの首にもたれ掛り、ベスパに感謝を伝えた。
「いえいえ。今回、私はあまりやくに立っていませんからね。これくらいはやりますよ」
「ほんとだね」
「ちょっとは否定してくださるとありがたかったんですけど……」
私の独り言を見ているニクスさんは口をぽかんと開けながら草原に腰を落としていた。
私はレクーから降りてニクスさんのもとに走る。
「ニクスさん、体の調子は大丈夫ですか?」
「う、うん……。痛みがないから問題ないよ。ただ、体を纏っていた光は消えちゃったけど……」
ニクスさんはお腹を摩り、痛みが感じなくなったのか微笑んでいた。
「痛みが引いたなら、問題なさそうですね。さ、ブラッディバードの変態個体を解体してガッリーナ村に戻りましょう」
「そうだね。ミリアとハイネを待たせてるんだ。早く帰ってあげないと心配させてしまう」
ニクスさんは立ち上がり、倒したブラッディバードの方へと歩いていく。私も彼の後をついて行った。
「キララちゃん、僕の見間違いじゃなければなんだけど、さっきブラックベアーを見た気がするんだ。いや、どう見てもブラックベアーだったんだけどさ、どこから出てきたの?」
「えっと……、企業秘密ってことで」
「き、企業秘密……。キララちゃんのスキルは魔物を召喚できるスキルなの?」
「いえ、違います。私のスキルはたいしたことないので知らなくてもいいですよ」
――ビーを使役できるスキルと言うのが恥ずかしいから、言いたくないだけなんだよな。
「えぇ……。気になるなぁ。ブラックベアーを操っていたようにも見えたし、テイマーの資格を持っているってことは何かしらの魔物を使役するスキルを持っているんだよね。そうじゃないとテイマーには簡単になれない」
「まぁ、そうなりますね」
私とニクスさんはベスパの索敵のもと、変態型のブラッディバードを安全に解体した。
変態個体は通常の白い個体と比べると赤黒い羽が白い羽よりも柔らかい気がする。触っている感覚は高級な絹のようだ。この世界ではまだ絹を見た覚えは無いが、きっと私の知らないどこかにはあるだろう。
ニクスさん曰く、変態個体の肉は通常よりも上質になり、魔石の価値も上がると言う。
私達はブラッディバードを綺麗に解体し、袋に詰めた。素材が大量に取れたので、持ち物が多くなってしまった。このままでは荷台に入りきらない。
――ベスパ、ビー達に荷物を運ばせて。
「了解です」
ベスパは一瞬光り、ビー達を集めたあと素材の入った袋を持ち上げて運ぶ。
「おお……。パンパンの袋が持ち上がった……。魔法? でも、魔法陣は無いし、どういう原理だ?」
ニクスさんにはビーの姿が光学迷彩によって見えておらず、荷物がひとりでに持ち上がったと思ったのか、また驚いていた。
「荷物が浮いているのはキララちゃんのおかげなの?」
「まぁ、私のおかげと言えばそうですけど、何か?」
「い、いや……。一〇袋もぷかぷか浮いているからさ……、こんな技量、一一歳の少女が普通は出来るのかなと思って」
「物を持ち上げるくらい、私には簡単です。なので、気にしなくてもいいですよ。ニクスさんはもしものために、警戒していてください剣が必要になる時が来るかもしれません」
「はぁ……。僕も魔法が使えたらもっと戦いの幅が広がるのに。キララちゃんはすごいね、まだ小さいのに僕より頼もしいよ」
ニクスさんはため息をつきながら左手で剣の鞘を握り、警戒を強めた。
「いえいえ。私は自分で自分の身を守れないので、まだ子供ですよ。剣だって真面に振れません。火属性魔法が得意なんですけど、森の中じゃ使えません。私が出来るのは援助くらいなので、ニクスさんが落ち込む必要はありません。ブラッディバードの腹部を切り込んでおいてくれたから、追撃の攻撃がすんなり入ったんです。倒せたのはニクスさんのおかげですよ」
私はニクスさんをできるだけ褒めた。彼は褒めれば伸びる人間だと思ったのだ。冒険者としてまだひよっこだが、いずれ大成するかもしれない。今のうちに媚びを売っておくのも悪くないだろう。
「そ、そんな……。僕なんてまだまだだよ。でも、あの魔法の効果を受けている時はすごかった。ブラッディバードの攻撃がよく見えて体もあり得ないほど自然に動いた。剣だって流れるように振れたし、スキルまで発動してしまった。もう、訳がわからないよ」
ニクスさんは腕を振り、先ほどの感触を思い出すかのように語った。
「私の作った魔法『女王の輝き(クイーンラビンス)』は練りに練り込んだ高濃度の魔力を他者に送り込む魔法です。普通の魔法と違って魔力に何かをさせている訳じゃないので、スキルの効果を阻害しなかったんだと思います。まぁ、簡単に言えば大量の魔力を浴びている状態ならニクスさんのスキルは使えると言うことですね」
「そ、そうなんだ……。初めて知ったよ。でも、キララちゃんみたいに僕の体に魔力をそのまま留められるほどの量を浴びせられる人なんてほぼいないと思うから、実質意味がないかな」
ニクスさんは腰に手を当て、笑った。
「まぁ、私といるとき、ニクスさんはものすごく強くなれるってわかっただけでも収穫ですね。えっと『確定急所』が発動するのは剣だけなんですか?」
「いや、拳や槍、弓でも発動するよ。でも身体強化の乗っていない拳を相手に打ち込んでも決定打にはならない。だから殺傷能力の高い武器を使って攻撃するしかないんだ」
「なるほど……。武器が攻撃の要なんですね。あと、ニクスさんの身体能力しだいで、強敵をいくらでも打倒せる可能性があると」
「そうだね。でも、人には限界があるからさ、どれだけ頑張っても限界にぶち当たるんだ。僕の母さんはハーフエルフで非力なんだ。魔力は多いんだけどね。でも僕は非力な部分を受け継いだ。父さんは剛健なんだけど、魔力量が少ない。こっちも僕は剛健ではなく魔力量の方を受け継いだ。僕は父さんと母さんの良いところを全部受け継げなかった。まぁ、八男だったから良かったよ。逆に一番上の兄さんは父さんと母さんの良いとこ取りだから、ものすごく強いんだよね」
ニクスさんは苦笑いをしながら人差し指で頬を掻く。笑ってはいるが、悔しいだろうな。
「父さんの剛健と母さんの魔力量が合わされば僕も兄さんたちみたいに強くなれると思った時は何度もあるけど、今は自分の力をつけて自分だけで生きて行けるようになるって言う目標のために努力してる。ま、まぁ……ミリアと一緒に生活したいって言う下心もあるけど……」
ニクスさんは頬を赤くし、赤い髪を手で掻いた。
どうやら、ニクスさんはミリアさんが相当好きらしい。いやはや、若いのにお熱いね……。
私達が出発の準備を進めていると、他のビーからベスパのもとに情報が届いたのか、ベスパは翅で警報音を鳴らす。
「キララ様! 緊急事態です! 今すぐ、ガッリーナ村に向ってください!」
ベスパは眼を赤くし、翅を力強く動かした。
――え、何が起こってるの?
「変態したブラッディバードたちが有精卵のエッグルや仲間のにおいを嗅ぎつけてガッリーナ村に集まってしまった模様です」
――そ、そんな……。じゃあ、今、ガッリーナ村は何頭のブラッディバードに襲われているの?
「今のところ、変態している個体の数は八頭です。ただ、一頭が他のブラッディバードよりも一回り大きい個体で、大量発生の親玉かと思われます」
――えっと、ガッリーナ村にいる冒険者さん達は皆、大丈夫なの?
「ただいま、交戦中です。ただ、ブラッディバードの討伐により、多くの負傷者が出ている状態なので、押されている模様。『妖精の騎士』であるミリアさんとハイネさんも村の中で待機しています。すでに負傷者の数が増えており、死傷者が出てもおかしくありません」
――じゃあ、私達がブラッディバードたちをおびき寄せて一網打尽にするか……。でも、レクーよりも足が速いとなると下手な真似は出来ないな。
「ニクスさん、落ちついて聞いてください」
私はベスパから聞いた情報をニクスさんに伝える。
「え? キララちゃん。そんなに改まってどうしたの……」
「今、ガッリーナ村の周りに変態したブラッディバードが集まってしまったようです。ミリアさんとハイネさんも村の中にいるので危機に陥っています。冒険者さんが戦っているようなんですけど、不利な状況らしくて……」
「そんな……。ミリア、ハイネ……。くっ!」
ニクスさんは落ち着きを無くし、ガッリーナ村まで走り出した。
――ニクスさん、さっき走り過ぎてもう動けないとか言っていたのに、さっき以上の速度で走っている。愛の力かな?
愛の力かと思ったが、相手がどれだけ好きでも体力の限界は覆せないだろう。
私は疲労困憊だったニクスさんがなぜ動けるのか考えた。推測だが、私が与えた『クイーンラビンス』によって肉体の疲労まで回復させてしまったのだと思われる。
――私の魔力、万能すぎないかな? ああ、私にも使いたい。
私は荷台を放棄し、レクーに乗った状態でニクスさんを追いかけた。
八分後、私達はガッリーナ村へと戻ってきた。生い茂った草むらに隠れ、村の様子を外側からうかがう。
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