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闘技場へ流される

「シトラスって言うんですか……」


 ――見た目はオレンジそっくりだな。私はオレンジ色の果肉に齧り付く。


 私の予想は当たっていた。一粒一粒の小さな果肉が弾け、少し酸味がある味わいが口に広がる。


 ――これ、オレンジと同じ味だ! 久々に柑橘系の食べ物を食べたよ。この世界に来てから初めてだな。


 以前、街に来た時もリンゴに似たゴンリと言う果実があったのだから、予想はしていたけど、まさかオレンジもあるなんて。


 ――相当期待できるぞ……。オレンジがあるんだから同じ柑橘類であるレモンが無いわけない!


「おじさん、シトラスは一個いくらですか?」


「一個銅貨五枚だ」


 ――銅貨五枚……。シトラスはハンドボールほどの大きさがあるのだから銅貨五枚なら安いほうなのではないだろうか。味もすごく美味しいし、レクーにも食べさせてあげよう。


「それじゃあ、シトラスを二個ください!」


「はいよ。シトラス二個ね。銅貨一〇枚か銀貨一枚だよ」


「はい!」


 私は銅貨一〇枚をおじさんに支払う。


「お嬢ちゃん、今日はお使いかい?」


「ま、まぁ、お使いと言えばお使いです」


「そうか、偉いね! これはおじさんからのおまけだ。後で食べな」


 露店をしているおじさんは赤色の球体の食べ物を紙袋に入れてくれた。


「あ、ありがとうございます!」


「礼はいらない。今日は生誕祭だからな。それじゃあ、楽しんでくるといい!」


 ――気前がいいおじさんだな。


 私は道で待たせていたレクーのもとに向かう。


「お待たせレクー、これお土産」


 私はさっき買ったシトラスの皮をむき、果肉部分をレクーに食べさせる。


「美味しいです。初めて食べる味で面白いですね」


 レクーは頭を縦に軽く動かしながら食べる。うんうんと頷いているように見えて微笑ましい。


「ベスパもほら、少し食べてみな」


 私はシトラスの果肉をベスパに投げる。


 ベスパは綺麗に掴み、一口かじる。


「フムフム……。なるほど、酸っぱいとはこういった感覚なのですね。覚えました」


「覚えた……。酸味を覚えたってこと?」


「はい、次回からこのシトラスと似た品を探す場合は、味を考慮に入れることが可能となります」


「というと?」


「このシトラスと呼ばれる食べ物と系統が似た物を探すことが可能です!」


「じゃ、じゃあ。このシトラスよりも、もっと酸っぱい品が街の中にあるか調べられる?」


「可能です。シトラスより酸っぱいと感じる品があるか、残り一二個の品の中で調べてまいります」


 ベスパは翅を鳴らし、ぶーんと飛んで行く。


「毎回、飛んで行く必要あるのかな……」


 八〇秒ほどしたら、ベスパは戻ってきた。


「キララ様、残り一二個のうち、シトラスよりも酸っぱい品が一個だけありました!」


 ベスパは短い手足をブンブン振りながら伝えてくる。


「ほんと! それじゃあ、早速調べに行こう!」


 私は品が売っている場に向いたかったのだが……。


「いや! 人が多すぎ! 前に全然進まないよ!」


 街は生誕祭のため、多くの人が買い物をしている。その影響で道が混んでいた。

 元々の道は広いのだが人が多すぎて通れる道幅が余りにも狭い。と言うか地面がほとんど見えない。


「キララさん、大丈夫ですか?」


 レクーが話しかけてくれた。


「うん、私は問題ないけど、レクーの方は人にもまれて大丈夫?」


「はい、僕は問題ないです。でも、僕が大きいせいで中々進めなくてすみません」


「少しずつ進んでるんだから気にしないで。今は急がなくてもいいし、このお祭りを楽しもうよ」


「は、はい!」


 ――にしても、レクーの上に載っていると目線が高いから普段見えない景色が目に飛び込んできて全然飽きないな。


 私はレクーの上で人間観察を行っていた。


 気づいたのだが、この街にいるのは人間だけではないらしい。

 私の記憶によると亜人? と呼ばれる種族だろうか。亜人は明らかに人間と違う部位がある。例えば、長い耳とか、尻尾とか、翼、牙など、それぞれ違うが明らかに人ではない。


「獣人、エルフ、リザードマン、魔族、みたいな感じかな。街に他種族がいるということはそこまで、種族間での仲は悪くないと言うことかな? 戦争とか起こってたらいやだもんね。あ……、でも魔王とかなんとかが復活したとか、前聞いたような……」


 私がレクーの背中の上でブツブツ呟いていると、大きな声が聞こえてきた。


「さあ! お立会いの皆様! ただいまより生誕祭の恒例行事の『闘技』が始まります! 観客の皆様はぜひとも闘技場の方へとお越しくださいませ!」


 大きな声が街に響き渡り、多くの人が移動を始めた。


「あわわわ……、押し流されてる!」


「キララさん、どうしますか? 押し倒すこともできますけど」


 レクーは全身の筋肉を膨張させ、後ろ足で地面を擦る。


「いや。人を吹っ飛ばすのは倫理的に問題だからしたら駄目。はぁ、仕方ないから流れに身を任せよう」


「わかりました」


 レクーは緊張を解き、ゆっくりと歩く。


 私たちは人の流れに身を任せ、闘技場とやらに流れていく。


 遠目からでも分かる闘技場の全体像はコロッセオ(ローマ市に残る、古代の円形闘技場)に似ていた。


「近くで見ると、異様に大きいな……」


「すみませんお嬢さん。こちらのバートンは闘技場内に入れられませんので、厩舎にお預けください」


 私が闘技場の近くまで来たとき、騎士さんが話しかけてきた。きっと闘技場の見回りをしている方だろう。コンサートで人を誘導する警備員みたいな人だ。


「そうなんですか。じゃあ、仕方ないですね」


 私は闘技場外に備え付けられている厩舎にレクーを預ける。


「ごめんねレクー、すぐ戻ってくるから」


「はい、僕は気にしないのでキララさんは楽しんできてください」


 私はレクーを置いて闘技場内に入った。


 とても大きなドーム状の闘技場は中心が普通の地面よりも低く作られていた。高さで言うと四から五メートルくらいの差があるんじゃないだろうか。


 ステージを囲むように階段状の観客席があり、段差の違いで中央部が見やすいように設計されていた。


 まぁ何ら地球にあるドームとあまり変わらない。


 ――ステージが低いのが気になるけど、中央部で人が戦うのなら観客に被害が出ないように配慮しないと行けないから仕方ないか。


 私は多くの人に押され、最終的に観覧席の中央付近に座った。どうせならもっと近くで見たかったんだけど。


「はぁ……」


「どうしたのですか、キララ様?」


 ベスパは私の前に下り、話し掛けてきた。


「いや……。レモンを見つけに来たのにどうしてこんな戦いを見に来てるんだろうなと思ってさ。なんで無駄に戦ったりするんだろうね……」


「きっと戦いがこの街の文化であり娯楽なんですよ。村でバートン達の競争を見て楽しむのと同じです」


 文化か……。確かに住む環境が違えば文化も全然違ってくる。日本とインドが全然違うようにこの街も、私の村とは全然違うのだ。


 地球にもボクシングやプロレスなど戦いを見る娯楽……、というかスポーツがあるけど……。


「私は、戦いとか野蛮な娯楽はあまり好きじゃないな。まぁ、一回くらい生で見て経験するのは悪くないよね」

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


もし少しでも、面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、差支えなければブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。


毎日更新できるように頑張っていきます。


よろしければ、他の作品も読んでいただけると嬉しいです。


これからもどうぞよろしくお願いします。

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