喋って動くだけで一八禁の獣族
――ベスパ、ガッリーナ村までどのくらいでつきそう?
「そうですね。距離にして三○キロメートルくらい先なので、レクーさんなら三○分くらいで到着できそうです」
――わかった。じゃあ、門を出たら道案内をよろしく。私、街から西へいった覚えが無いからさ、虫たちからガッリーナ村への行き方を教えてもらって。
「了解しました。では、レクーさんの前を飛ぶのでついてきてもらうようにしますね」
ベスパはレクーの前を飛び、馬に人参ならぬ、バートンにビー状態になっていた。速度の出しすぎは危険なので、レクーの脚が疲れない程度の速度を保ち、門まで走る。
途中、何度か速度違反を食らいそうになり、街のバートン走行の法律が厳しくなったのかな~なんて、思いながら西門へ移動した。
西門が開きっぱなしになっており、門番の兵士さんに事情を伝えて通る。西門を抜けて見える景色は北門、東門を出た時と何ら変わらない。広い荒野があるだけだ。ただ、地面が押し固められており、それなりに通行の跡がある。
「よし、レクー。ガッリーナ村へ行くよ!」
「はい!」
私は手綱を鞭のように撓らせる。すると、レクーは先ほどまで溜め続けた脚を解放し、思いっきり走り始める。
「うわっ! はやぁあ~!」
「きゃっ! に、ニクス! どこ触ってるの!」
「い、いや、いきなり早く走り出した影響で体が動き過ぎちゃったんだよ。わざとじゃない」
「もう、二人だけでイチャコラするなんてズルいじゃないか。私も混ぜてよ」
後の荷台からニクスさんの声が聞こえ、ミリアさんの悲鳴のような歓喜のような喘ぎが響き、厭らしいハイネさんの美声が放たれる。
――えっと、荷台の中で一八禁の光景が流れております。放送事故ですのでいったん綺麗な映像をご覧ください。的な報道が流れちゃうよ……。まったくもぅ。リア充たちめ……。
私は少々ムカムカしながら移動していった。
五分ほどすると、後ろからミリアさんが近づいてきて、前座席に飛び込んでくる。
「はぁ~。ここは爽快だね~。九月に入ったけど、まだまだ蒸し暑いよ~」
ミリアさんは胸当てを少し下げ、胸もとの服を大きく開け、手をパタパタと仰いでいた。胸の谷間に汗がたまり、光を反射している。
――今日は大量の汗を掻くまで熱くないと思うけど……。
「ミリアさん……、汗かきですか?」
「え……。よくわかったね。そうなの。私、汗っかきなんだよ。だから、蒸しっとしたところは苦手なんだ」
私は後方を見て帆が閉まっているのを見る。
――あぁ、これじゃあ、確かに熱いかも。ベスパ、帆を開けて風通しを良くしてくれる。
「了解です」
レクーの前にいたベスパは後方に回り、荷台の入り口を縛っている紐をほどき、内側に丸めて帆が靡かないようにした。
すると、荷台の前と後ろが空き、風通しが一気に良くなった。
「ふわ~。涼しい……。キララちゃん、ありがとう。熱くて蒸しパンになるところだったよ」
ニクスさんとハイネさんも汗を描いており、顔を手で仰いでいた。
「すみません。帆の中が熱くなるのを忘れていました」
私は謝り、ベスパに水の入った牛乳瓶を配らせる。
「これは?」
「水です。汗を掻いたら水を飲まないと脱水症状になりますから、しっかりと飲んでください」
三人は牛乳瓶の蓋を開け、水を飲み干した。
「ぷはぁ~。美味しい~! 水ってこんなに美味しかったっけ~!」
ミリアさんはいい飲みっぷりで一気に飲み干してしまった。
川の水を煮沸してライトの「クリア」で微生物を消滅させたミネラルウォーターが入っているから美味しいのは当たり前だ。まぁ、この世界の水は大体美味しいと思うけどね。工場とかほぼ無いし。まぁ、人の多い村の近くの川は汚物だらけかもしれない……。
「ほんと、こんなに美味しい水、故郷でも飲んで覚えがないわ……」
ハイネさんが呟く。
――ハイネさんの故郷……。森の民の国でもあるのだろうか。
「キララちゃん、この水はどこの水なの?」
ミリアさんは私に質問してきた。
「私が住んでいる村の近くを流れている川の水ですよ。山がすぐ近くにあるので、もとから美味しい水なんですけど、色々手順を加えて安全性を向上させ、もっと美味しく仕上げました」
「み、水は全部同じじゃないの……。でも、美味しいって思うのは確かだし……。れちゅ……うぅ、もっと水飲みたいのにぃ……」
ミリアさんは牛乳瓶の飲み口を舌でペロペロ舐め、水滴の一粒まで残すまいと奮闘している。だが、その姿が健全なテレビでは放送不可能な顔と言うか、見かけをしているので今すぐ止めてもらいたい。
私はミリアさんの持っている牛乳瓶に目掛けて『ファイア』を放ち、一瞬で燃やす。ミリアさんはいきなり燃え出して驚いていたが、綿の如く一瞬で燃え尽きたのでどこかに引火したりしない。
「き、キララちゃん。いきなり燃やしたら驚いちゃうよ。もぅ、舌、ちょっと火傷しちゃったぁ……」
ミリアさんは舌をレロッと出し、唾液が滴りそうになる。この獣族は何でこうも一八禁なんだ。
私はライトの特効薬が入った試験管を試験管ホルダーから引き抜き、ハンカチに少しだけしみこませてミリアさんの舌の上に乗せる。
「ん……。キララちゃん……、いきなり……」
「静かにしていてください。ミリアさんが喋ったり動いたりすると一八禁になってしまいます」
「はい?」
私がミリアさんの舌からハンカチをどけると、少々赤く腫れていた舌が綺麗な赤色に戻っている。
ライトの作った特効薬は病原菌とかを消す薬だと思っていたんだけど……、勝手が少し変わっているのか、傷を回復させる効果を持っていた。私の考察として細胞の炎症を飛ばし、自己回復能力を引き出しているからすぐに治るのだろう。
「す、すごぃ……。舌が痛かったの、もう治ってるよ……。キララちゃんは回復魔法が使えるの?」
「いえ、ちょっとしたポーションです。私の弟が作ってくれたんですけど、火傷にも効果があってよかったです」
「ありがとう、キララちゃん。舌が痛いとキスするときに大変だからさ、治してもらって凄く感謝してる」
「き、キス……。ミリアさんはき、キスするんですか……」
「キスくらいするよ。ニクスが寝てるときにね~」
ミリアさんは右の口角を上げ、いたずらっ子の顔をしながらニクスさんの方を見た。
「なっ……」
ニクスさんは初耳だったらしく、髪色と同じくらい顔を赤くしていた。
――仲が良すぎるというか、もう恋人やんけ。ま、まぁ……。二人とも冒険者と言うことは成人していると言うことだし、私が何か言う必要は無い。
「み、ミリア。ぼ、僕が寝ている間に、き、キスするとか、何を考えてるんだよ!」
「なになに~、ニクス。私がニクスにキスしてるかどうかなんて、ニクスが気にする必要なくない~」
「き、気にするだろ! 寝ている間とか、僕が全然起きないのをいいことに、キス以外もしているんじゃないだろうな!」
「え~。うぅーん……。さぁ、どうだろうね~」
ミリアさんは小悪魔っぽく笑い、胸元をニクスさんに見せる。
ニクスさんは思いっきり視線を外し、帆の壁を見た。
「お二人はほんと仲がいいですね。三歳のころから一緒だと言っていましたけど……、お二方とも成人しているんですよね?」
「うん。してるよ。私とニクスは同い年の一五歳。私はもうすぐ誕生日だから、一六歳になるんだ。ニクスはもう少し後なんだよ。だから、私の方が一応年上って感じかな」
「三カ月しか変わらないじゃないか……。全く……。ミリアの頭で年上ずらされても困るよ」
「な、なにを~。私だってニクスくらい頭が良いもん。私、馬鹿じゃないもん」
ミリアさんは頬を膨らませ、耳を逆立てる。
「じゃあ、一と九を足して五回同じように計算したあと、五つの数字を全部足してみて」
「一と九を五回足す……。一、九、一、九、一、九、一、九、一、九……。えっと、えっと……。一、九、一、九、一、九、一、九、一、九……」
ミリアさんは指を数えながら計算していく。
「あの……。もう、言わなくていいです。なんか、卑猥なので……」
「一、九、一、九、一、九、一、九、一、九……一九!」
「違う、五○でした。はぁ……、なんで一九になるんだよ……。せっかく僕と同じく冒険者専門学校に通わせてもらっていたのに、よく卒業出来たな」
「えへへ~。校長先生に頼まれて魔物をいっぱい狩ったら卒業させてくれたからさ、助かったよ~。け、計算なんて出来なくても魔物さえ倒せれば冒険者はやっていけるよ!」
どうやらミリアさんは一と九を足す事も出来ないらしく、計算が苦手なようだ。シャインと同じ匂いを感じる。頭が全部筋肉で出来てしまっている方なのかもしれない。
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