守られる側から、守る側へ
「じゃあ、キララちゃん。これがテイマーの資格の証なのにゃ」
トラスさんは銅板に紐を通したペンダントを持ってきた。バルディアギルドの模様が刻まれており、剣、盾、槍、杖などの武器が重なっているように見える。銅板には私の名前とテイマーの文字が打ち込まれており、点字のように盛り上がっていた。
「あ、ありがとうございます。これは首にかけておくもの何ですか?」
「いや、別に持っていればいいのにゃ。まあ、首にかけておくのが一番わかりやすいけどにゃ。あと、冒険者ランクが上がるごとに板の素材が変わるのにゃ。キララちゃんは冒険者ギルドにまだ登録されていないから、冒険者ランクは上がらないのにゃ。だから、どれだけ凄い功績を残しても銅板は変わらないのにゃ」
「わかりました。冒険者ランクは上がらないですけど、素材の買い取りはしてもらえるんですよね?」
「そうにゃ。ギルドは素材を買い取る場所だからにゃ。例え冒険者登録されていなかったとしても素材の買い取りはしっかりと行うのにゃ」
「なるほど。了解です」
「じゃあ『妖精の騎士』はキララちゃんをしっかりと守るように。あ、でも守られるかもしれないから心の準備はしっかりとしておいた方がいいのにゃ」
「は、はい?」×ニクス、ミリア、ハイネ
『妖精の騎士』はトラスさんの発言の意味がよくわかってないらしく、首をかしげていた。
「ま~とりあえず『妖精の騎士』はキララちゃんが危険にならないようしっかりと守ること。いつも守られてばかりいると思うから、たまには守ると言う行動も経験してみるといいのにゃ。最悪、キララちゃんに助けてもらうといいにゃ」
「は、はい?」×ニクス、ミリア、ハイネ。
『妖精の騎士』は、トラスさんの発言の意味がまたもやよくわかっていないらしい。
まあ、私の力を知らないからだと思うし、トラスさんは私を信用しすぎな気がする。
トラスさんの瞳は未だにお金になっており、ブラッディバードの報酬でウハウハになりたいようだ。すでに私の卸している雨具でウハウハしていると思うのだが、さらにウハウハしたいらしい。
きっとシグマさんに滅茶苦茶褒められたのだろう。そうじゃないと、吐息をはぁはぁと漏らして頬を赤らめたりしない。
――褒められる行為は癖になってしまうので、過度なご褒美は逆効果になる可能性がありますよとシグマさんに教えておいた方がよかったかな。トラスさん、なんでもかんでも儲かるわけじゃないし、儲かりそうなら飛びつくなんて詐欺にあってしまうかもしれないですよと言っておくべきか……。ん~、悩ましい。
「じゃ、じゃあ。僕達はガッリーナ村に行ってきます」
ニクスさんはトラスさに手を振ってギルドを出ていく。
「は~い、行ってらっしゃいなのにゃ~。いっぱいいっぱい儲けてきてニャ~」
トラスさんは私たちに手を振って見送ってくれた。
「はあ、なんかよくわからないけど……、キララちゃん、僕達についてきても大丈夫なの? はっきり言うと守れる自信があまりないんだけど……」
ニクスさんはため息をつき、私の方を見てきた。自分たちがいつも守られている側なのに、私を守るなんて不可能だと言いたげな表情をしている。
「とりあえず、ガッリーナ村と言う場所に行きましょう。あとできるかできないかはブラッディバードを直接見て、判断すればいいじゃないですか。うじうじ考えていても意味はありません。行動あるのみです!」
「キララちゃんは怖くないの?」
ミリアさんは苦笑いしながら聞いてきた。
「ブラッディバードは遠目からなら見た覚えがありますが、目の前で見た覚えが無いので恐怖がどれくらいかわかりません。まぁ~、ブラックベアーよりは怖くないと思うので、多分大丈夫だと思います」
「な、なんか……楽な考え方をするんだね……」
ハイネさんも私の発言を聞いて苦笑いを浮かべた。
「人生はどれだけ楽にお金を稼いで自分の時間を作り出すかが重要ですからね。辛い考え方をしていても未来は明るくなりませんよ。楽しいことをするから未来も楽しいことができるんです。楽に考えて良いじゃないですか。まぁ~、結婚はちゃんと考えないといけませんよ。特に相性とか……」
私は甘えん坊ワンコのミリアさんと母性たっぷりのハイネさんを見る。
「私とニクスの相性は抜群だよ~。何たって三歳のころから一緒にいるもんね~」
ミリアさんはニクスさんの腕に抱き着き、体の匂いを、鼻を動かしながらスンスンと嗅いでいた。尻尾も大きく振っており、本当に主様が大好きなんだなとわかる。
「ちょ、くっ付くなって……。あつ苦しい」
ニクスさんはミリアさんの顔に手を当てて押し返す。
「ニクスを大人にするのは私の役目だと思っていたのだけれど、なかなか手をだしてこなくて困っているのだが、どうしてだろうか?」
「ハイネが叔母さんだからだよ」
「おば……」
「あー、もう、そのくだりはいいですから。ガッリーナ村に早く行きましょう! 早く行かないとブラッディバードとエッグルが取りつくされてしまいます!」
ハイネさんがまたもやキレそうになったので、私は首を突っ込む。
「は、はい」×ニクス、ミリア、ハイネ。
私は三名を連れて厩舎に向う。
「キララちゃんはバートンを持っているの?」
ニクスさんが不思議そうに聞いてくる。どうやら、ニクスさん達はバートンを持っていないらしい。歩いていくつもりだったのか、バートン車で運んでもらう予定だったのか。ただ、この世界でバートンを持っていないと言うのはド田舎で車を持っていないと言う状況に等しい。それは非常事態だ。非常事態でもバートンを持っていないと言うことは、つまり『妖精の騎士』はお金を全く持っていないと言うことになる。
「はい、私はバートンを連れていますよ。今、厩舎から出すので待っていてください」
私は三名に厩舎の外で待っていてもらう。厩舎の中に入り、レクーを繋いでいる手綱を解き、出てもらった。
「キララさんの目的地には行けるようになったんですか?」
レクーは私に頬擦りしながら聞いてきた。私も頬擦りしながら答える。
「うん、資格を取ったら冒険者パーティーに所属出来たの。すぐそこにいる人達も一緒に荷台に乗るから、いつもより少し重くなるけど、レクーなら問題ないよね?」
「はい。問題ありません」
私はレクーを『妖精の騎士』のもとに連れて行く。
「はわ、はわわ……。お、おっきぃ~」
ミリアさんは万歳をしてレクーの大きさを確認していた。ピョンピョンと飛び跳ね、大きな胸を揺らすのはわざとなのか、ただただ無意識に動かしているのか、どうなのだろう……。
――『妖精の騎士』はお金がないからブラジャーなんて買わないわな。ミリアさんとハイネさんは……ノーブラ? ま、まあ、革製の胸当てがあるし、まだましか。
ミリアさんの胸が盛大に揺れているのをニクスさんが見てしまい、恥ずかしそうに視線を逸らす。ただ、何度もチラチラと見ているので気にはなっているみたいだ。自分を好いている子の胸が大きかったらそりゃあ見るよなぁ。健全な男なのだもの。
「えっと、この子が私の相棒のレクティタです。あだ名はレクーと言います。体は大きいですけど、心優しい子なので怖がらなくても大丈夫ですよ」
妖精の騎士はレクーの頭をなで、自己紹介していき、仲を深めた。
「では、皆さん。荷台に乗ってください。私がガッリーナ村まで無料で案内します」
私はギルド側に置いておいた荷台とレクーを縄でつなぎ、妖精の騎士に話かける。
「無料でいいの? 普通はお金を払わないといけないと思うんだけど……」
ミリアさんは体に触れ、お金を探しながら呟く。
「今、私は『妖精の騎士』のパーティーメンバーですからね。メンバーにお金を貰うなんてしませんよ。ささ、早く乗ってください。こうしているうちに、他の冒険者さんがブラッディバードを全て狩ってしまうかもしれません」
「わ、わかった。ありがとう、キララちゃん。凄く助かるよ」
ニクスさんは頭を大きく下げ、感謝してきた。
「いえいえ、私も依頼に参加できたので、皆さんには感謝しています」
私は妖精の騎士が荷台に乗り込むのを確認したあと、荷台の前座席に座り、自家製の哀愁漂う革手袋を嵌めて手綱を握る。そのまま、手綱を撓らせてレクーに合図を送った。
レクーは歩き始め、大通りへと出て街の西門へと向かう。
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