ブラッディバードの討伐依頼
私はおじさんに向っていつものように挨拶をかわす。
「おじさん、おはようございます。今日もいい天気ですね」
「お、嬢ちゃんか。今日は一日早いんじゃないか? 配達はいつも七日に一度だろ。と言うか、珍しい服装だな。いつもと全然違うじゃないか」
「えへへ、どうですか。結構にあっていると思うんですけど」
私は腕を広げて服装を見せる。
「ま、まぁ、似合っていると言えるんじゃないか」
「何か、変わった反応ですね……。まあ、いいです。おじさんの言う通り、いつもは七日に一度なんですけど、今日は別のようがあってきました」
「別のよう……。また、嬢ちゃんが何か良くわからないことを考えているのか……。まあ、俺には嬢ちゃんを止める権利なんてないからな、好きなように生きるといい」
「はい、私の好きなように生きるつもりなので、気にしないでください。あ、もしかしたら凄く美味しいお肉と卵が手に入るかもしれないので、おじさんにもおすそ分けしますね」
「美味しい肉と卵……。そんなものが貰えるのなら、一生懸命仕事するが……、美味い物を他人にほいほい譲るんじゃない。良い食い物は嬢ちゃんの成長に必要不可欠だろ。肉と卵なんて滅多に食べられないんだから、渡そうとするな」
おじさんは私のどこを見ているのかわからなかったが、胸のあたりを見ているような気が少々した。
「おじさん、騎士団に通報しますよ。今の発言は少女の心を深く深く傷つける発言です」
私は無い胸を隠すように腕を交差させる。
「な、何でそうなるんだ。成長の話をしただけだろ」
「私に成長の話はしないでください。もう、絶望したくないんです!」
「い、いったい何を考えているんだ……。おじさんには全くわからん」
兵士の中年おじさんには私の小さい小さい胸の悩みなんてわかりっこない。
なので、特に話す必要もない。
「では、おじさん。また帰りに会いましょう」
「ああ、気をつけてな」
おじさんは門を開けてくれた。
私は門をくぐって街の中に入って行く。街の中はもうすっかりと活気を取り戻していた。二カ月前は、絶望という言葉が似あう場所だったのだが、今は笑顔と活力の溢れている街になっている。
「はぁ……。街も変わったなぁ~。私はこっちのほうが断然良い。まぁ、物静かな街も好きだった。でも、今の方が人達にとって暮らしやすい街なのは確かだ。建物も増えたし、なんか人も増えてる気がする。地面が見えにくいほど人の流れがあればお金は十分稼げるよね」
私は街の大通に出る。すると、多くの人が歩いてた。加えて人ならざる者も歩いている。
よくよく見ると獣族さん達も結構歩いていたのだ。帽子やフードを被っているせいでわかりにくい方もいるが、日焼けしたくない人達か、日が苦手と言う種族かもしれない。
私は街の変わりようを楽しみながら、バルディアギルドに向かう。
「ふぅ……。白パンは美味しいな」
私は屋台で白パンを一個買って食べている。オリーザさんのお店には勝てないが、なかなかいける。パンのぼそぼそ感は否めないが、歯が折れそうなほどガチガチの黒パンよりはましだ。
持ってきた革製の水筒から水を補給し、喉を潤わせさらに進む。
街に作られた道でバートン車と何度もすれ違う。そのため、交通事故が起こらないよう、騎士達が交通整備をしている大通りまで存在した。
――昔は交通整備なんて一切無かったのに、騎士団の体制が変わったのかな。
進みは遅くなったが、安全性が向上したのでレクーとベスパは、血眼にならず、気を少し抜いてもいいと思ったのか、ホッとしている。
交通整備をしている騎士の誘導のもと、私達は大通を進み、バルディアギルドまでやって来た。
バルディアギルドの前の通りは昔よりも遥かに人の数が多い。多くの方がギルドを利用しているのか、はたまた、今回の私の得た情報と何か関係があるのか……。
――皆も美味しい肉とエッグルが狙いかな。そうなのだとしたら、好敵手が多すぎる。こんなに大勢の人がブラッディバードを討伐しに行ったら、すぐに狩られちゃうよ。
私はレクーを厩舎に入れておく。その後、バルディアギルドの中に入ろうとした。だが、ギルド内が人で飽和状態。満席も満席。冒険者がここまで多かったかと思うほどだ。
他の国や街、村から出稼ぎにでも来ているのか、私の知る言葉以外を話す人も結構見受けられた。それくらい、ルドラさんが教えてくれたブラッディバードの大量発生は多くの冒険者を魅了する仕事なのだろう。
私はますます行きたくなり、ギルドから大量の冒険者さん達が飛び出していったのを境に、中に入る。掲示板の方を見ると依頼書が綺麗さっぱりなくなっていた。だが、掲示板の一番上に貼られた古びた紙は未だに残っていた。
――ドラゴンなんて倒しに行こうとする馬鹿はいないでしょ。一〇〇年前の依頼だし、さすがに夢物語だって。
「にゃ、にゃあ……。疲れたにゃ……。まだ、朝の八時前だっているに……。この疲れ具合は異常にゃ……」
カウンターには額を木台につけ、ぐてーッと倒れ込んでいる獣族のトラスさんがいた。
トラスさんは細く長い尻尾をうねらせ、柔らかそうなもふもふの耳をピクピクと動かし、辺りの警戒は怠っていない。
私は疲れているところ申し訳ないがトラスさんに話かける。
「あの、トラスさん。少しいいですか?」
「ん……。何なのにゃ……、ってキララちゃん。どうしたのにゃ、服装がいつもと違うのにゃ。もしかして雨具を運んで来てくれたのかにゃ? 」
トラスさんは面をあげ、カウンターより背の低い私を見下ろす。
「いえ、雨具は明日にでも持ってきます。今日は別のよう出来ました」
「別のよう……。いったい何なのにゃ?」
「ブラッディバードの大量発生について話を聞かせてもらえないかと思いまして」
「にゃにゃ……。キララちゃんまでブラッディバードの大量発生の話を聞きに来るにゃんて……」
トラスさんは「何度も説明したのに、は~めんどいにゃぁ~」と言いたげな顔をして、木台に肘を置き、頬杖を着く。
拳により、むにっと持ち上がった頬がとても柔らかそうでムニムニしたいと言う気持ちを押さえながら、トラスさんの話を待った。
「ブラッディバードの大量発生は街の西の方角にあるガリーナ村周辺の森で起こっているのにゃ。発生したのは六日くらい前で、今も沈静化していないのにゃ。多くの冒険者が向かっているけど、なかなか倒しきれいないみたいなのにゃ」
「そうなんですか。やっぱりブラッディバードは強いんですか?」
「強いにゃ。ブラックベアーほどじゃないけど、脚の速さならブラッディバードの方が上にゃ。あと、脚の力が強くて、もろに蹴り込まれたら人の骨はぼっきぼきに折られ、内臓は破裂しまくりなのにゃ」
「こ、こわ……。ブラックベアーよりも足が速いのは何となくわかりますけど、でもブラックベアーも相当早いですよね。ブラッディバードの脚の速さはバートンと同じくらいってことですか?」
「そうにゃ。人を乗せた普通のバートンよりは全然早いと思うのにゃ。だから、討伐するのが結構難しいのにゃ。火属性魔法が弱点だけど、森の中で火属性魔法を使うのは原則禁止なのにゃ。加えて、ブラッディバードの買い取りは一律で高いいんにゃけど、肉を傷つけると一気に価値が落ちるのにゃ。だから、首を一発で切り落とす必要があるのにゃ」
「なるほど、斬撃系の攻撃で首を切り落とすのが一番高い買い取りを得られる方法なんですね」
「そうにゃ。でも、ブラッディバードの素材で一番高いのはエッグルにゃ。エッグル一個取れればブラッディバードの三体分くらいの価値があるのにゃ。でも、エッグルを取るのはとんでもなく難しいのにゃ」
「どんな風に難しいんですか?」
「エッグルは無精卵と有精卵に分かれてるのにゃ。まず、有精卵の方を選ぶと食材で使えないのにゃ。中にブラッディバードの子供がいるからって理由にゃ。無精卵の方を選ばないといけないんにゃけど、この見分けがとんでもなく難しいのにゃ。加えて、親が近くにいるから、殻を割らずに抱えて逃げるか、倒すしかない。まあ、倒してからエッグルを取るのが一般的な方法にゃ」
「親を倒してから、エッグルを得る。なんか、可愛そうですけど……」
「相手は魔物なのにゃ。ブラッディバードは人も容赦なく食いよる獰猛な魔物にゃ。ガッリーナ村では多くの老人や子供が奴らに食われているのにゃ。だから、情けは必要ないのにゃ」
トラスさんは目尻を吊り上げて手をパキパキと鳴らしている。あなたが行った方が沈静化が早まるのでは……と思ったが、行かない理由が少なからずあるのだろう。
「そ、それは許せませんね。わかりました。情け無しで倒します」
「何を言ってるのにゃ。キララちゃんに行かせるわけにはいかないのにゃ」
トラスさんは目を丸くしながら呟く。
「で、ですよね……。はは……」
私は勢いで何とか行けないかと思っていたが、トラスさんは普通に拒否してきた。
――まぁ、一一歳のいたいけな女の子を殺人鳥のいる森に行ってもいいよ、なんて普通言えないよな。
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