レーサーのような冒険着
私は六日間仕事漬けの毎日を行い、今日、九月一四日に街に向うことにした。
「ふぅ~。今日もいい天気なこと。あきっぱれは気持ちが良いな~」
秋の気温は最適で心地よすぎるため、二度寝したい気持ちが沸き上がって来るが、ぐっと我慢する。
私はお母さんが作ってくれた新しい服を着ることにした。
私がお母さんにブラッディバードの討伐に行くかもしれないと言った日から冒険者用の服を作ってくれていたそうだ。
長袖長ズボンは変わらないが、動きやすい伸縮性の良い魔物の革で作られており、蝋でも塗られているのか表面がツルツルだ。どうやら、血が付いても弾くようになっているらしい。
上下の服の素材が魔物の革なので全体的に茶色っぽいが、私が着れば完璧に似合ってしまう。
冒険者用の服を着たあと、ベルトを締めて腰にスグルさんから貰った革の試験管ホルスターを巻き着ける。
試験管にはライト特製の特効薬が未だに入っており、綺麗な色を保っていた。最悪、魔物や虫の毒を食らっても特効薬を飲めば消えるはずだ。でも、ただの毒に使うのは少々勿体ない気もする。
「よし。いい感じ。でも……。胸なさすぎ~!」
私が着ている服は、ヒップホップの踊り子が着るようなダボッとしている服ではなく、競技者が着るようなバツっとした服だったので、前がガラ空きだ。足元がよく見えすぎていいね!
服の色が茶色なので、胸がまな板でしかない。
私は胸の前で手を何度も動かしてみたが、やはり何もなかった。
「はぁ……。この服、やっぱりちょっと恥ずかしいな。ベスパ、ローブ取って」
「了解です」
私は深緑のローブをベスパから受け取り、肩に羽織る。
九月は結構肌寒い季節なので、ローブは手放せない。
髪は長い茶色の髪をポニーテールにして動きやすくまとめた。
「おぉ~。いつもの可愛い私じゃなくて、ちょっとカッコイイ系の私になった~。胸はないけど……」
鏡の前で横にくるりと一回転してみる。
「キララ様、よく似合ってますよ。子供ながらに冒険者の人と一緒に行動しても違和感がないくらいの服装です」
ベスパは腕と翅をブンブンと動かしながら話かけたきた。
「褒めてるのか、けなしているのかどっちかな……。別に冒険者になりたいわけじゃないから、適当な服でもよかったんだけど、お母さんが張りきっちゃったから仕方なく着ているんだよ。ま、まぁ、思ってたよりカッコよくて普段着にしてもいいかなって感じ」
私は小さな鏡を見て自分の服装を何度も確かめた。変な部分が無いと確信して部屋を出る。そのまま玄関に向かった。
玄関に置いてある靴が少々ごつい品になっていた。
――軍隊用のブーツかなってくらいゴツイんですけど……。
お母さんの手芸はスキルかってくらい上手い。昔からの特技らしい。
私は手芸なんてからっきしなので尊敬できる。
――靴なんかも素材があれば手作りできちゃうのがすごい。革製だし、水が中に沁み込んでこなそう。沼地でも歩きやすいかもな……。
朝四時三○分くらいに私は家を出た。
早起きのシャインとライトが朝練のため、すでに起きて外で待っていた。
「お姉ちゃん、私も魔物討伐に行きたかった~」
シャインは木剣を振って巻き起こる突風を利用し、道端の落ち葉を片付けていた。
「僕も、経験を得るために行きたかったよ」
ライトはシャインの集めた落ち葉を空中に浮かし、燃やす。
「そう言われてもさ……。二人はまだ八歳だし……。二人が討伐に行ったら他の冒険者さん達の仕事がなくなっちゃうから、今日はお留守番ね」
「何その理由~。今日は行かないでおいてあげるから、お姉ちゃんはブラッディバードの肉と卵、ちゃんと取って来てね。私、食べてみたいから」
「僕もブラッディバードの肉と卵を食べてみたいから、ちゃんと取ってきてよ。あ、あとこれ。空きの試験管に特効薬を補充しておいた。大きな切り傷くらいなら治るよ」
ライトはいつの間にか私の試験管を取り、空いている容器に特効薬を入れておいてくれたようだ。八本中三本しか入っていなかったので心もとなかったが、八本中八本となり、安心感が増す。
「ありがとうライト。大切に使うよ。シャインの要望もちゃんと応えるから、今日はおとなしくガンマ君とイチャイチャしてて」
「な、べ、別にそんなことしないし。普通に鍛錬するだけだから!」
シャインは顔を赤くして吠えた。わかりやすい子だ。
こんなわかりやすい美少女に攻められているというのに、鈍感主人公系シスコン兄属性のガンマ君は一向に気付く気配がない。いったいいつ進展するんだろうか。
「ライトもデイジーちゃんの心を掴めるよう、努力しないとね」
「ま、まぁね。努力するよ。姉さんは死なないようにね。姉さんなら大丈夫だと思うけど、何かあったらクロクマさんに助けてもらうといいよ」
「そうだね。何かあったらクロクマさんに抱き着いて逃げるよ」
私はライトとシャインに見送られながらレクーの背中に乗って街に出発した。
「キララさんを背中に乗せて走るのは久々な気がしますね。もう、あの事件以来乗ってなかったんじゃないですか?」
レクーは走りながら、器用に話す。
「そうだね。もう二カ月くらい前になるかな。色々と忙しくて乗って上げられなくてごめんね」
「いえ、毎週一緒に仕事が出来ているだけでもうれしいので、気にしないでください。今はこうしてキララさんの脚になれているのですごく幸せです」
「レクー……。ありがとうね」
私はレクーの首元を撫でて感謝を伝えると尻尾が大きく揺れた。
「キララ様。クロクマさんを異空間に入れたままでいいんですか?」
ベスパは両手を真上にあげ、クロクマさんが怒った体勢を取る。
「いや、クロクマさんを外に出して普通に走らせるほうが危ないでしょ。周りが……」
「そうですけど……、クロクマさんを異空間の中でずっと放置しているのは可愛そうなのでは?」
「それもそうだけど……、ずっと出しておくわけにはいかないよ。もう少し我慢してもらわないといけないかな」
「ま、クロクマさんなら異空間にいても魔法耐性のおかげで無傷ですし、移動させるのも楽ですね」
「うん。まさか本当に出来るとは思ってなかったよ」
私の胸ポケットには二枚の木板がある。一枚にはブラットディア、もう一枚にはブラックベアーと書かれていた。
木板は『転移魔法陣』を利用したカードというか、まぁ、サモンズボードとでもいうべき品だ。
今、異空間にブラットディア達とクロクマさんが入っている。出口がないので異空間に入りっぱなしだ。
私がサモンズボードを利用し、出口を開けばすぐに現れる。もう、召喚魔法みたいだ。
クロクマさんは魔物なので精神汚染をされにくいらしく、一頭で広い空間に放置されても精神が壊れないらしい。なので潔く了承してくれた。自分のせいで私に被害が及ぶのが嫌なのだそう。
いい性格してるよ。ブラックベアーなのに。
「ディアは私のブローチになってくれているけど、仲間は難しいし、こうやって運べるのは便利だよね」
「はい、ブラットディアは単体だとゴミですけど、数が多ければ案外役に立ちますからね」
「ベスパ、ブーメラン発言だよ……」
「?」
ベスパは首を傾げ、わかっていないふりをした。
私は虫を使役し、ブラックベアーまで使役していた。こうなるとテイマーとしての資格は取れるのだろうか。
――すぐに取れてくれるとありがたいんだけど……。そうなれば、ブラッディバードの討伐に行ける。
テイマーの資格がすぐに取れたら、討伐にすぐに行けるかもしれないと思い、荷台もサモンズボードの中に入れて一応持ってきたが使うかはわからない。
荷台の中にクロクマさんを隠しておく手もあったが、重いのでレクーの負担にならない方を選んだ。荷台の前座席に乗ってもいいのだが、いつも同じ場所に乗っているのでたまにはレクー本体の背中に乗ってもいいかなと思ったのだ。
私とレクー、ベスパは街に約三時間で到着し、いつもながらレクーの脚は早いなと感心させられる。
普通のバートンなら五時間六時間は余裕でかかるのでレクーの脚は相当早い。
街の周りをぐるっと囲っている壁の東入り口を守っている兵士のおじさんのもとへと私は移動した。
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