生誕祭でごった返す街
レクーに途中から何とか落ち着いてもらった。レクーが全力の速度で走り続けてたら私が持たない。さっきまでジェットコースターにずっと跨っているような状態だった。
落ち着いたと言っても、普通に走ってくれているだけなのでそこそこ揺れる。
「僕、村以外の場所で走るの初めてです」
レクーは楽しそうに呟いた。
「あ、確かに。初めて走った知らない道の感想は?」
「はい、面白いです。目まぐるしく景色が変わって行くので、どこまでも走り続けられそうです」
「そう、良かった。街までもう少しだから、焦らずゆっくりとね」
「はい、キララさんを安全に運びますよ」
――レクーは姉さんと違って物分かりがいい、姉さんみたいにならなくてよかった。
「ん? 今日は前に来た時と様子が違うような……」
街の外側は、人やバートン車などでごった返していた。
――前に来たときはあんなに人が居なかったのに、何かあったのかな。
「どうかしましたか、キララ様?」
私の上空を飛ぶベスパが話しかけてきた。
「いや、今日は前に来た時と雰囲気が違うなと思ってさ。ベスパ、街の方をちょっと見てきてよ」
「了解しました。視覚共有は使用しますか?」
「そうだね……。何かに止まったら視覚共有して。いきなり視覚共有をしたら危ないから絶対にしないでよ」
「了解です! 何かわかりましたら、お知らせします」
「うんお願い」
ベスパは街に向ってブーンと飛んで行った。
「ブルル……、ブルルウ?」
「え……、あ! そっか、ベスパがいなくなったら声が聞こえなくなるんじゃん。当たり前になりすぎて忘れてた。まぁ、たまにはいいでしょ。あとちょっとの道のりだし、問題ない」
ベスパが離れてからすぐに連絡が来た。
「キララ様、視覚共有してもよろしいですか?」
ベスパは私の脳内に話しかけてくる。どうやらもう着いたらしい。
私はレクーから一度降りる。視覚が悪い状態でバートンに乗るのは危ないからだ。
街までもう少しの距離なので私は軽く歩く。
「ベスパもういいよ。『視覚共有』をお願い」
「了解しました!」
ベスパが見た風景が私の眼に入ってくる。
多くの人が街中で賑わっていた。簡単に言えば祭りみたいな状況だ。
「こんなに人が沢山……、今日は何かのお祭りなのかな。それとも記念日か何か?」
「待ちゆく人々の話しを聞くと今日はこの街の生誕祭らしいですよ」
「生誕祭! そんな催し物があったんだ。なんかすごく楽しそう……。もしかしたら珍しい物が売ってるかもしれないし、高い品が安くなっているかも。私も早くいきたい! 良し、レクーかっ飛ばしていくよ!」
私は我慢できずにレクーにもう一度跨る。
「ブルウウ!」
レクーは一気に加速し、街まで走り抜けた。
街の入り口である門の前には多くのバートン車が並んでいた。
「この人たちも、生誕祭に来たのかな?」
「キララ様。無事にお着きになったのですね」
ベスパは上空からすーっと降りてきて、私の前に現れる。
「これくらいの距離なら問題ないよ。それにしても、今日は人がほんとに多いね」
待ちゆく人々は様々な服装、喋り方、容姿、私の見た覚えがない動物が行き乱れている。
――あの生き物はなんだろう……。大きな鶏? 卵でも取れるのかな。あれ、あの人は普通の人間と耳が違う。凄い……、人にも色々いるんだ。
「よーし! 一応軍資金は結構持ってきたから。レモンに似たものが見つかるまで片っ端から食べていくぞ!」
――さっきも食べたけど、レクーに乗っていたらエネルギーになって消えちゃった。
「嬢ちゃん、この街に何しに来たんだ? 一応この門をくぐる人には聞かなければいけない質問だから、答えてくれ」
門の前に立つ兵士のおじさんが私に話しかけてくる。
「えっと、美味しい食べ物を探しに来ました!」
――うん、それっぽい回答。
「そうか。じゃあ……そっちの大きなバートンは嬢ちゃんのかい? ちゃんと飼育されているんだろうな?」
「はい、レクーはとてもいい子ですよ。ほら」
私が手綱を強く引くとレクーは後ろ足でうまくバランスをとる。
「ほらね、暴れたりしないでしょ」
「そのようだな。荷台もないし、危険な品を運んでいるわけではない。よし、問題ないな。楽しんできなさい」
「は~い、ありがとうございます!」
私は街の中に入ることが出来た。検問に捕まって街に入れなかったら残念過ぎるのでよかった。
街の中に入ると道行く人々の多くが私たちを見てくる。
「なんかすごい視線を感じるんだけど……どうしてかな」
私は耳を澄まし、周りの反応を聞いた。
「なあ、あのバートン凄くね!」
「ああ、ものすごく大きいな……。走ったらもっと凄そうだ」
――なるほど。私じゃなくてレクーを見てたのか。確かにレクーは他のバートンに比べて相当大きく育ったから、他の人が驚くのも無理はないよね。まぁ、気にしない。これが大事! アイドルの時もそうだったけど、気にしてたら外出歩けないもんね。
私は吹っ切れ、周りの目を気にするのを止めた。
「ベスパ! この街にある木の実や果物を片っ端から調べてくれる。見つけたら私たちを案内して」
「了解です。友達の皆さんに協力してもらい、早速調べます!」
ベスパはロケット花火のように空の方へと飛んで行く。すると街の至る所からビー達がベスパ目掛けて集まってくる。
集まったビー達は、水面に石を投げ込んだときに起こる波紋のように街全体に広がって行った。
八分ほどして、ベスパが戻ってくる。
「キララ様調べ終わりました!」
「毎度のことながら異様に速いな……。それで品はどれくらいあった。一〇〇個くらい?」
「結果から申しますと、この街にある木の実と果物合わせて三一五〇種類あることがわかりました」
「三一五〇種類! 多すぎでしょ……。と言っても、まぁそれくらいあるよね。どうしよう。今日だけじゃ絶対に回り切れない」
「キララ様、私にキララ様が想像する果物をお教えください。それに似た品だけに絞り込んでみましょう」
「そうだね、その方が効率がいい」
私はレモンを鮮明に頭に思い浮かべる。
――レモンの形はラグビーボールみたいな楕円型で、色は黄色、緑でも可。大きさは手のひらに収まる程度。
「なるほどなるほど、キララ様の想像する品で絞り込んでいきますね」
ベスパはパソコンの遅延マークのようにくるくる回っている。見ているこっちが目を回しそうだ。
「見つかりました! キララ様の想像するレモンとやらに似た品は三一五〇個中一三個あります!」
「一三個。中々に絞れたね、良し、一三個なら余裕で回れる。ベスパ、一個目の所に案内して」
「はい! こちらです」
ベスパは街行く人々の頭上を飛んで行く。
私たちはベスパを見失わないように追いかけた。
「キララ様、あちらです!」
ベスパが示す露店に、私が想像していたレモンと少し違うが、確かに似た品が売っていた。
私はレクーからすぐさま降りてその食べ物を観察する。
――フムフム、レモンより大きいけど形は同じ。色は橙色だ。
「どうしたんだい、お嬢ちゃん。これが気になるのか?」
露店で商売をしているおじさんは私が見ていた品を持ち上げた。
「は、はい! その実はなんていう食べ物なんですか?」
「これかい? これは『シトラス』という果物だよ、ちょっと食べてみるかい?」
おじさんは気前よくそう言ってくれた。
「ほんとですか! ぜひお願いします」
おじさんはシトラスの皮を剥き、私に渡してくれた。
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