木の硬貨で燻製を作る
「そうそう、キララさん。ブラッディバードが大量発生しているのを知っていますか?」
ルドラさんは思い出したように私に話題を振る。
「え……。ブラッディバード……。あの赤黒くてデカい二足歩行の鳥ですか?」
「はい、そのブラッディバードです。街を経由してガッリーナ村という場所の周辺に大量のブラッディバードが現れたそうなんですよ」
「えっと……。私にそんな情報を教えてもらっても困りますよ」
「以前、キララさんは卵が欲しいと言ってましたよね。今の季節は夏の終わりごろ。この時期にブラッディバードが大量に現れた。つまり、産卵したてほやほやのエッグルがあるかもしれません」
ルドラさんは両手で卵の形を作り、眼をお金に換えている。
「エッグル……。確か超高級卵でしたよね。一個金貨五○枚くらいで売れる……」
「はい、その通りです。冒険者の調査隊によると遠目から見ても産卵されたエッグルがゴロゴロとあるそうです。ブラッディバードは大型の魔物で気性が荒く、村人が手を焼いているんです。討伐のさい、エッグルを持ち帰っていいらしいので食材と素材の両方が手に入るいい機会だと思い、お伝えしました」
「エッグルが取り放題……。そそられますね。えっと、私は未成年なんですけど、現地に向かってもいいんですか?」
「いえ、ギルドに一度行って相談してもらわないと危ないです。巨大なブラックベアーと戦っていたキララさんなら心配無用かもしれません。ただ周りから見たらいたいけな少女が危険な場所に行こうとしている訳ですから、知らせておかないと心配されます」
「ですよね。じゃあ、私はバルディアギルドに一度よって事情を聞けばいいんですね」
「そうですね。シグマさんに話を聞けば、色々教えてくれると思います。私も以前訪れた村なので、少し思い入れがあるんですよ」
「わかりました。今度の休みにバルディアギルドに行って話を聞いてきます。今、ギルドに寄る用事が丁度あったので」
「キララさんも何か困りごとですか?」
「いえ、冒険者の職種にテイマーという肩書があるじゃないですか。あれを手に入れたいと考えているんですよ」
「キララさんがテイマーですか……。魔法使いの方が適職な気がしますけど……」
ルドラさんは苦笑いをしながら呟いた。
「別に仕事をしたいわけじゃないんです。テイマーという資格があれば、クロクマさんをどこにでも連れて行けるじゃないですか」
「あぁ……。なるほど。確かにそうですね。ブラックベアーを従えたテイマーですか。なかなか有名になりそうな予感がします……」
「はは……。別に有名にならなくてもいいんですけどね……」
私とルドラさんが話している間に、ベスパは牛乳パックの積み込みを終了させた。
「じゃあ、キララさん。私はもう、行きますね」
ルドラさんは冷蔵車の方に向って歩いていく。
「ちょっと急ぎ過ぎじゃないですか? 一日くらい休んでいった方が……」
「すみません。仕事が立て込んでますから……、もう行かないと」
ルドラさんは少しやつれた笑顔を私に向けた。仕事が忙しいのに毎回遠くまで来てもらって申し訳ない。
「そうですか……。わかりました。気をつけてくださいね」
私はルドラさんを少しでも癒そうと、満面の笑みで送り出す。
「はい。今回も頑張ってきます」
ルドラさんはたった一時間の滞在で村を出発した。
メリーさんがルドラさんに会いたがっていたので呼び留めようと思ったが、きっと彼は仕事を選ぶだろう。
ベスパが積荷をしている間に、私は牛乳パック二○○本分の報酬、白金貨五枚分をルドラさんの報酬として白金貨一枚手渡しておいた。今回の報酬は白金貨四枚だ。残りの一一枚は資本金なので、牧場を大きくするために使う。
「はぁ、こんな大金、私は持っていたくない。さっさと送っちゃお」
私は家に帰り、金庫に繋がる転移魔法陣の上に白金貨を置き、転送した。テーブルから白金貨は消えたのを確認する。白金貨は金庫に移動が完了したみたいだ。
私は家を出て大きな袋の置いてある牧場に戻る。皆が使う場所なのに大きな荷物をそのまま置いておけない。
私は牧場まで走った。大きな大きな袋がバートンの厩舎の横に置かれており、邪魔で仕方がない。さっさと退かさないと。
「ベスパ、大きな袋の中身を取ってくれる」
「了解です」
ベスパは袋の中に潜っていき、袋口から木の硬貨を持って出てきた。
「どうぞ」
ベスパは木の硬貨を私の掌に置く。
「ありがとう」
木の硬貨は金貨にそっくりで見た目がほぼ同じ。だが、色が銅貨っぽい茶色だ。
ベスパに数枚持って来させると茶色や薄茶、焦げ茶などの複数色あり、本当に木を使っているのだとわかった。加えて、匂いがすごく良いことにも今になって気づいた。
「スンスン……。なんかすごく甘い香り……。なんて言うんだろう……、懐かしい……」
「キララ様。この木はここら辺に生えている木と全く別の種だと思われます。私達は数多くの木を齧ってきましたけど、この木の風味は初めてです」
ベスパは木の硬貨をガジガジと齧っており、クッキーのように砕いていく。
「こんなに良い香りがするなら、ちょっと面白い物が作れるかも」
私は木の硬貨を『ファイア』で燃やしてみた。すると、黒い煙ではなく白い煙がもくもくと上がり、木の香りが広がる。
「うん、凄く良い……。これなら、燻製が作れそう」
「燻製……とは?」
「煙でいぶして匂いを着けた食べ物だよ。長期保存も出来るようになるし、好きな人は癖になる味だと思う」
「へぇ……。いったい何を燻製にするんですか?」
「今、村にある食べ物だと、チーズと干し肉かな。あと、ビーの子も燻製にしたら美味しくなるかも。一回やってみないとわからないし、ベスパ、私の言った通りに小さな箱を作ってくれる」
「はい、もちろんです」
私はベスパに燻製箱を作らせた。
箱の中が二段構造になっており、一階に燻製用の木の板を入れる場所を作り、二階に金網の付いた床、あと蓋だ。簡単な作りだが、燻製は難しい調理ではないので、おつまみを作る感覚で実験してみる。
私は火事が起ると怖いので、川辺で燻製を行うことにした。大きな袋を倉庫裏に移し、木の硬貨を革袋に入れて持ってきてある。
革袋から木の硬貨を一〇枚手に取り、ベスパに渡して砕いてもらい、木の粉とまではいかないが小さな板状にしてもらう。
土性の皿に木の小板を入れ、指先に火をともして着火。燃え過ぎないように火をすぐに消して燻製箱の一階に置き、空気を送り込む。すると、白い煙がもくもくと立ち昇り始めたので、すかさず二段目を被せる。網にビーの子やチーズ、干し肉を置いていき、蓋を閉めた。
この状態で一五分ほど待つ。
燻製箱の中は白い煙が充満しており、木の良い香りが河川敷にすでに漂っていた。
私は一五分間、スクワットを行い、体を少しでも鍛える。
「ふぐぐぐぐ……。ふぐぐぐぐ……。あ、脚がプルプルするぅ……」
「キララ様~、頑張ってください。一〇○回までまだ八八回残っていますよぉ~」
ベスパは私の周りをブンブンと飛び回り、応援してくる。
応援してくれるのは嬉しいが、集中している時の蚊ほどうざったらしい音が無いように、ブンブンと鳴る翅音が耳障りで仕方ない。
でも、その憤怒の気持ちが私の脚を動かす。ぷるぷると震える脚に鞭打って一五分の間にスクワットを五○回終わらせた。なかなか遅いが、太ももがはち切れそうなくらい痛い。
私は歩けなくなったので匍匐前進で燻製箱まで向かい、蓋をパカリと開ける。白っぽい煙が玉手箱を開けた時のようにもわっと立ち、燻製と言っても差し支えない良い匂いがする。
私は一段目に入っている土製の皿を取り出し、水をかけて完全に鎮火する。
二段目の網に乗っている品を見ると、茶色っぽくなっていた。どうやら綺麗に燻製が出来上がっているようだ。
「よし、綺麗に出来た。匂いも完璧。お酒のつまみに絶対に会う」
「キララ様、お酒を飲んだ覚えが無いのに、お酒のつまみに絶対会うなどと言っていいのですか?」
「ま、まぁ。お酒に会うのはちょっと濃い味なんだよ。あと良い匂いがあれば、なおよし」
「例えば?」
「ん~、料理で言うレモネみたいな感じを想像してくれたらわかりやすいかな。何か味気ない料理にレモネを加えたらサッパリして美味しくなるのと同じで、飲み物におつまみとして燻製を出したらより一層お酒が美味しくなるんじゃないかな……って思ったの」
私は苦笑いをしながら答えた。
「なるほど。通常と大人の考えを上手く掛け合わせている訳ですね。さすがキララ様です」
「はは……。ま、まぁね。じゃあ、試食と行きますか」
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