引き分け
「おらっああ!」
シャインが一度拳を振れば、上級魔法程度の風が巻き起こり、ライトを吹き飛ばす。そんな拳に当たってしまったらどうなるのか。死あるのみである。
「くっつ!」
ただ、ライトも負けておらず、シャインの放った風を魔力操作で反転させ、攻撃に転じていた。
「どわっ!」
得意分野を少々封印されているとはいえ、両者共になかなか戦えている。
まぁ、シャインの方は魔法と言うよりかは物理的な攻撃と言うべきだが、大目に見よう。魔力を拳に溜めて放っているのは変わりない。
ライトは魔力操作や他の魔法に頼っているものの、剣も一応使っているのでよしとしよう。今までは全く使っていなかったのだから、新鮮な気分を味わっているはずだ。
――これはまだまだ長引くかな。どっちかの魔力が切れたところで終わりって感じか。
私はシャインとライトの戦いから、ガンマ君とデイジーちゃんの戦いに視線を移す。
「『ファイア』『ファイア』『ファイア』」
ガンマ君は覚えてほやほやの魔法を三発放ち、デイジーちゃんを狙う。威力はあまりないが、速度は申し分なく、火の石を打ち出しているような攻撃だ。
「ふっつ、はっつ、やっつ!」
デイジーちゃんは軽やかに全てかわす。踊り子と言ってもいいほどの身のこなしで運動神経の良さがうかがえた。子供のころから街までバートンを使わずに往復できる体力がある化け物なので、何らおかしくはない。
「『ファイア』『ファイア』『ファイア』」
「ふっつ、はっつ、やっつ」
「はっつ!」
ガンマ君は『ファイア』を放った後、地面を抉るほどの脚力ですぐさま跳躍し、木剣をデイジーちゃんに振りかざす。
「くっつ!」
デイジーちゃんは『ファイア』を回避した影響で次への動作が遅れていた。
「『ファイアボール』『ウォーターボール』」
デイジーちゃんは焦らず、二種類の魔法を放って強烈な爆発を起こし、ガンマ君を弾く。威力は攻撃速度重視のためほぼ無く、抑止のための魔法だった。
「くっつ!」
ガンマ君は爆風で攻撃を止められ、後方宙返りをしながら地面に靴裏を付ける。
――デイジーちゃん。威力調節があそこまでうまく出来るようになっているとは……。魔法を二つ使うだけでも難しいのに……、指導者のおかげかな。
「はぁ、はぁ、はぁ……。デイジーさん、さすがですね。今の僕じゃ、攻撃が当てられる気がしません」
「はぁ、はぁ、はぁ……。ガンマ君も、すごいよ。果敢に攻めてくるとこっちが気圧されて一瞬ひるんじゃう。当たらなくても私も攻撃に移れないから、お互い様だよ」
「はは……。ありがとうございます。僕、魔力と体力が尽きるまで攻め続けますね」
「じゃあ、私は、ガンマ君の攻撃を全部受け流してみせる。さぁ、勝負だよ!」
「はいっ!」
ガンマ君とデイジーちゃんは好敵手のようで、実力の均衡から互いの力を引き出しあっている。
デイジーちゃんの攻撃をかわすという戦法は体力の多い彼女なら、とんでもなく強くなる。なんせ、体力が化け物みたいに多いのだから、ずっとかわされ続けたら、攻めているほうの体力がゴリゴリ削られて疲れ果ててしまう。その隙を狙ってデイジーちゃんは攻撃を仕掛ける。何とも、ライトの一番弟子っぽい戦い方だ。ねちねちしている。
逆にガンマ君の方は攻めて攻めて攻めまくっている攻撃で、相手に反撃を許さないと言った戦闘形態になっており、シャインの弟子なんだなってすぐにわかる。
ガンマ君の性格を考えると、攻め続ける作戦は悪くない。人は守りに入ると前に出るのが難しくなる。ガンマ君はその傾向が強い。だが、一度攻め続けると集中状態に入りやすいとも言える。
なので、ガンマ君とデイジーちゃんの戦闘スタイルは互いの長所を伸ばし合える相手なのだ。
シャインとライト、ガンマ君とデイジーちゃんの戦いは三○分ほど続いた。
「はあっつ!」
「せいやっつ!」
魔法をいくつも付与したライトの木剣と魔力を拳に溜めまくったシャインの鉄拳がぶつかり合い、辺りに爆風が吹き荒れる。レモネの葉が舞い散り、砂塵が広がった。砂塵が納まるとライトの持っていた木剣が折れており、組手の続行が不可能となったので両者の戦いは引き分けとなる。
「ふっつ!」
「やっつ!」
ガンマ君は全身から汗をかくほどデイジーちゃんを攻めていた。だが、攻撃が一向に当たらない。
デイジーちゃんは未だに余裕そうな表情だが、攻撃をかわすのはいつも紙一重だ。攻撃がじりじりと迫っている状況を考えると、ガンマ君の剣戟が洗礼されてきていると言える。
一激放ってからの二激目三激目の間が限りなく短く、デイジーちゃんもかわすのに一苦労。そのせいで脚がもつれてしまった。
「うワッツ……!」
「あ、危ない!」
デイジーちゃんが倒れる前にガンマ君は木剣を捨て、彼女を両腕で抱え、地面に倒れる。ガンマ君が下になり、デイジーちゃんに怪我はなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ……。大丈夫ですか、デイジーさん。怪我はありませんか?」
「う、うん……。だ、大丈夫……だよ」
――あぁ、やっべ~、やっちまったぁ。デイジーちゃん、完璧に乙女の顔になっちゃってるぅ。ガンマ君、兄力高すぎ。そんなことしたら惚れられちゃうよ~。こうなったらテリアちゃん(ガンマ君の妹)を連れてきて……。いやいや。そんなことしなくても大丈夫大丈夫。
「キララ様。もうすでに審判の意味がなくなっているような気がするのですが……」
――え、あぁ、いや。もう、二組とも終わったっぽいし、ここで終わり~ってことで。
「ものすごく適当な審判ですね。ここはもっときっちりかっちりですね」
ベスパは変なところに気合いを入れたがる性格をしているので、きっちりかっちりしたい部分と適当にする部分が良くわからない。
でも、戦いって勝ち負けが付くし、結果はどっちも負けていないんだから引き分けでいいんじゃないって思うんだけど……。
私が判断を渋っていると、ライトとシャインが言い合いをしながら近づいてくる。
「どう考えても僕の勝ちでしょ!」
「何言ってるの、私の勝ちでしょ! ライトの攻撃より私の攻撃の方が強かったし」
「威力だけでしょ。というか、魔法じゃなくて拳だったじゃないか。僕は剣でちゃんと攻撃していたんだよ。シャインの反則負けに決まってるよ」
「そ、それをいうなら、ライトだって魔法を使ってるから反則負けでしょ!」
ライトとシャインは勝敗を決めてほしいらしいが、どっちも負けず嫌いなので判断をするのが難しい。
でも、両者とも素晴らしい戦いをしてたという事実は変わらないので、私は引き分けと強引に言い切って二人の仲を取り持った。
ライトとシャインがもめる中、ガンマ君とデイジーちゃんも言い合いになっていた。
「僕の負けです。剣を一度も当てられなかった……」
「いや、私の負けだよ。最後、攻撃されてたら当たってたもん……」
「いや、僕の負けですよ。デイジーさんが滑ったのは僕の汗のせいです。足場がちゃんとしていれば確実にデイジーさんはこけなかった」
「いや、私の負けだよ。例え地面が通常じゃなくても私の足がもつれたのは確かだった。その時追撃されていたら私は負けていたの」
「僕の負けです!」
「私の負けだよ!」
こっちもこっちで珍し言い合いをしていらっしゃる。両者共に優しいのはわかる。加えて、相手に勝利を譲ろうとする精神も素晴らしい。だが、相手の意見を聞くという部分がなっていない。なので、両者共に負け、なので引き分けとなった。
「はぁ~あ、疲れたぁ……。今日はいつも以上に疲れた気がするよ」
ライトは腕を回し、折れた木剣を粉々に分解して捨てた。
「はぁ……。ほんと、ライトのねちねち攻撃のせいで体がねちねちだよ」
シャインは空に手の平を向けて大きく伸びをする。
「何言ってるのか、わけわからないよ……」
ライトとシャインは互いに愚痴を言い合いながらデイジーちゃんの家に向かう。その途中、二人は見たくない光景を見てしまった。
「ちょ、ガンマ君、恥ずかしいよ……。私、自分で歩けるから……」
「デイジーさん、何を言っているんですか。さっき、足首を痛そうにしていました。足がもつれた時に捻ったんですよね。家でキララさんに見てもらいましょう。そこまでは僕が背負いますから」
「うぅ……。は、恥ずかしい……。けど、これ、なんかいい……」
デイジーちゃんはガンマ君に背負われ、家まで向かっていた。
その光景を見たライトとシャインは両者共に膝から崩れ落ち、敗北者の顔をしている。
――二人共、諦めるのはまだ早いぞ。ガンマ君の方は気にしてないっぽいけど、デイジーちゃんの方はライトがあまりにも会い過ぎていた弊害か、突然現れたイケメン兄風筋肉質優男に心を持ってかれちゃってる。あの心を奪い返すのは中々難しいぞ。でも、ライトなら……、大丈夫。闇落ちしない程度に慰めよう。
私はシャインとライトの腕を持って立ち上がらせ、共に歩く。
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