鍛錬の成果を出す組手
「はぁ、はぁ、はぁ……。なるほどね。この鍛錬は魔力だけじゃなくて集中力も同時に削っている。だから、何度やっても霧散するんだ。これじゃあ、ただ魔力を無駄遣いしているだけの阿呆だよ」
「先ほどの集中力を得るには時間が掛かりそうですね。一日一回が限界でしょうか」
「そうだね……。集中力は無限じゃない。出来る回数は限られている。ん~、感覚からするに一日一匹が限界かな。そう考えると続けやすそう。毎日毎日、魔力体を作っておけば、いざという時に魔力切れが起こらないよね」
「そうですね。あれだけ小さな魔力体にキララ様の魔力が全て集約されている訳ですから、何匹もうろついていたら相当な恐怖になりますよ。なんせ、キララ様の分身体みたいな存在ですから」
「まぁ……。考えようによってはそうか。私と同等の魔力を有しているんだもんね。はぁ~。毎日努力すれば、魔力が枯渇したとき用に予備として保存しておけるとか、すごいじゃん。これから毎日続けて行こう。バートン車で移動している時とか、すごい暇だし、時間を有効活用できるかも」
「キララ様は時間を気にしますからね。隙間時間という厄介な時間をキララ様は良いように使えると思われます」
「うん。短い時間を使って魔力体を作る。そうしておけば、魔力が枯渇しても、一匹の魔力体を体に戻せば全回復できる。予防線は張っておかないと危ない。今後どんな敵が現れるかわからないし、魔法の素となる魔力はいくらあっても困らない」
「他の虫たちに与えてもキリがなくなってきていたので丁度いい魔力の消費方法が思いついてよかったです。これで、キララ様の体が爆発せずに済みますね」
「もう……、怖いんだって。爆発とか……。あ、もしそうなるのだとしたらあの魔力体は爆発しないの?」
「大丈夫かと思われます。魔力体ですから実態はありません。あと爆発するほどの魔力を体内に溜めていません。私が爆発する理由として、キララ様の魔力を凝縮しているからです。あの個体は凝縮していないので、不発に終わるかと」
ベスパは両手を縮めていき、その後、爆発に見立てて大きく開く。
「そうなんだ。なら安心だね」
私達が鍛錬を終えるころにはライトやデイジーちゃん、ガンマ君達も鍛錬を終えており、皆ヘロヘロになっていた。日が昇り、正午になったころ。川の近くにある広場で最後の鍛錬を開始する。
まぁ一日の集大成を見せる場所とでもいうべきか。
「シャインとガンマ君、ライトとデイジーちゃんの二組でちょっとした組手を行ってもらいます。シャインはライト、ガンマ君はデイジーちゃんを狙うように。逆も同じね。ただし、初心者の二人が危険に陥った場合は経験者の二人が助けに入っていい。わかった?」
「はい!」×シャイン、ライト、ガンマ、デイジー。
「じゃあ、試合形式での組手を早速始めるよ。今日行った鍛錬の動きをなるべくするように。シャインは魔法、ライトは剣術を主に使って試合をすること」
「えぇ~」×ライト、シャイン。
双子は同じ声を出し、凹む。
「えぇ~、じゃありません。いつも同じ戦い方じゃ、考えが固まっちゃうでしょ。たまには別の戦い方も模索してみた方がいいと思うよ。だから、どっちも苦手な方を基準にして一度動いてみて。何か思いつくかもしれないよ」
「まぁ、姉さんが言うなら仕方ないか……」
「まぁ、お姉ちゃんが言うなら仕方ないよね……」
シャインは木剣を腰の黒いベルトに着け、ライトは杖をローブの中にしまった。
「それじゃあ、五メートルくらい離れて組手を始めようか。ネ―ド村の人に迷惑をかけないよう気を付けてね。何か魔法が飛んで行きそうになった場合は私が対処するから、無理しないよう、自分の力を発揮して動いてみて」
「はい!」×シャイン、ライト、ガンマ、デイジー。
四人はさっと分かれて向き合った。一礼して構える。
「では……。行きます。用意、始め!」
私が始めの合図を言うと、四人の足元が爆発したのかと勘違いするほどの、一歩目が踏み出された。砂煙が舞い、現状が全く見えなかった。だが、声をあげていないということはどちらもやられていないということになる。つまり、まだ砂煙の中で攻防が繰り広げられているようだ。
「うん。何も見えない……。『ウィンド』」
私は砂煙を河川敷の方へと流し、広間で何が起こっているのかを見る。
「ふっつ! はっつ!」
「ふうっつ! せいっつ!」
シャインとライトが共に戦闘を行っていた。
シャインはライトの攻撃をかわし、手に魔力を溜めている。
ライトはシャインに剣を振りかざしているが、一向に当たらない。ただ、木剣の周りに風が纏ってあり、振るだけでシャインの髪が靡くほどの威力をほこっている。木剣に風魔法を付与して戦っているようだ。
シャインの動体視力はえげつなく、ライトの攻撃が一向に当たる気がしない。もとから剣術の天才なだけあってライトの動きが完璧にわかるようだ。
ただ、ライトも剣術が回避されるとわかっている。そのため、木剣に風魔法を付与してシャインに攻撃を当てやすくしているのだろう。
「はっ! そんなぬるい振り方じゃ、一生当たらないよ!」
「シャインだって、ずっとかわしているだけじゃ、僕に攻撃を当てられないよ!」
「くっ、言わせておけば……」
シャインの攻撃範囲は腕と脚の距離だけ。対して、ライトの方は風魔法の効果で伸びる刃を手にしており、攻撃範囲がシャインの三倍以上ある。
シャインは思いっきり踏み込まないと攻撃をライトに当てられないのに対し、ライトは木剣をとりあえず振っていればシャインに近づかれる心配がないと言った我慢比べのような戦いになっている。この戦いは長い間続きそうだ。
そのため、私はもう一方を見る。
「はっつ!」
ガンマ君は綺麗な姿勢でデイジーちゃんに切り掛かる。
「ふっつ!『ファイアボール』」
デイジーちゃんは魔法だけでなく身体能力も高いので最低限の動きでガンマ君の木剣を回避した。そのまま至近距離で火球を放ち、カウンター攻撃をする。
「くっつ!」
ガンマ君はすんでのところで木剣が間に合い、火球を頭上にはねあげた。跳ねあげられた火球はむさんし、魔力となって大気中に戻る。
「はぁ、はぁ、はぁ……。デイジーさん。動きが凄く軽やかですね」
「はぁ、はぁ、はぁ……。ガンマ君もね。剣の筋がすごく綺麗だよ」
両者は互いに笑い、試合を楽しんでいる。
――うんうんいい感じ。やっぱり戦いはこうでなくっちゃ。実力が丁度均衡しているから見ていて楽しいよ~。
「キララ様、見ているだけでいいんですか? キララ様も混ざればいいじゃないですか」
ベスパは私の頭上で周り、話し掛けてくる。
――いや、やっぱり乱取りをする時は観衆の先生がいないとね。
「?」
ベスパは頭を横に捻り、私の言葉を理解できていないようだ。
――まぁ、気にしないでよ。あの四人が安全に戦えるように私達が見張っているの。私まで中に入ったら危ないし、助けが必要な場合があるからね。
「なるほど。キララ様は見張り役なのですね。理解しました」
――あ、そうだ。この戦いも映像で残しておいて。あとで見返せるようにね。
「了解です。他のビー達にお願いして戦いを多方向から撮影しておきます」
ベスパが一度光ると、ビー達が数匹飛び立ち、広間を多方向から撮影しだした。これで、どの方向からでもしっかりと見れる。試合後に自分がどのような動きをしていたのかを見るのはとっても大切だ。なんせ、何が失敗だったのかを理解すれば、次に生かせるのだから。
私がガンマ君とデイジーちゃんの試合に夢中になっていると……。
爆発音のあとに地面が一気に揺れ、地震かと思った。だが、地震ではなくシャインの拳が地面に打ち込まれただけらしい。
――地震と間違えるほどの威力が出る拳って何……。爆弾でも地震ほどの揺れは起きないよ。
「シャイン、拳が僕に当たっていたら、確実に死んでるよ!」
「どうせ当たらないんだから、殴っても一緒でしょ!」
「何、その暴君な性格……。早く直した方がいいよ。このままじゃ、余裕で取られるね!」
「な、なによ。ライトの方だって、そのねちねちした性格を直さないと取られるよ!」
「ね、ねちねちって……。僕はそんな性格してないよ!」
ライトとシャインの口喧嘩がまたもや勃発していた。ほんと、似た者同士のくせに嫌いあっているのか仲がいいのか、わからない。
喋りながらも手足を止めないのは流石としか言いようがないが、よく舌を噛まないなと思う。
シャインは攻め始め、ライトは守りに回る。
ライトは風魔法を使い、シャインの攻撃の軌道をずらしているようだ。そうしないと、シャインの拳が当たれば怪我では済まない。そのような事態になると誰の目から見ても明らかになっている。
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