剣の鍛錬
私は素振りの鍛錬の回数が一〇〇〇回のところを一〇〇回にまで減らし血豆を作りながら木剣を振る。
シャインとガンマ君の木剣は柄が耐えきれなくなり、剣が折れてしまった。木剣が折れるとかいったいどれだけの速度で振っているんだろう。私には想像もできない。というか、振っている姿が見えないのだ。ライトとデイジーちゃんの振っている木剣まだ見える。
――木剣を振るのが早すぎて剣身が見えないとかどういう原理なんだ?
まさか、ガンマ君もそこまで強くなるとは思っていなかった。
シャインと鍛錬を始めてまだ二カ月も経っていないというのに、死ぬほど頑張れる理由の魂胆が天使であるテリアちゃんを助けることだもんなぁ。
カッコいいようなカッコ悪いような……。いや、妹を守る兄はかっこいいでしょ。でも、高校で話していた女子たちは兄貴が嫌いとか、うざいとか言ってたな。ん~心境がよくわからん。私、一人っ子だったし、姉弟が欲しかった。でも今はいるから大満足。
今の私の考えからするに妹を守る兄はカッコいい基準に入る。
ガンマ君にはシャインを守れるほど強くなってほしい。シャインより強くなるとか、いったいどんな鍛錬を行えばいいのだろうか。シャインとライトを合体させたような化け物がいなければ、学園生活も安泰だと思う。
いや、まだ私も世界をよく知らない。
アイクの剣技は普通に見えなかった。シャインだってアイクには刃が立たなかったって言っていたし、もう、剣聖って凄いスキルなんだと改めて思う。
あの剣聖と並ぶスキルが勇者と賢者と聖女。どれもこれもかけ離れて強いらしいし。アクマたちを倒してくれるのは四人の最強スキルさん達にお願いしたいな。私は裏で支える係が丁度いい気がする。なんかビーも裏方っぽいし。テレビ番組だって裏方がいないと成り立たないもんね。
私が一〇〇回の素振りが終わるとシャインの声が響く。
「よし。終わり。皆は?」
「僕も同じく終わりました。デイジーさんとライトさんはどうですか?」
「私はもうすぐ終わりそうだよ」
「僕はまだ半分も終わってない……。姉さんはどれくらい終わったの?」
「え……。わ、私は……半分くらい……」
「姉さん、遅れて始めたのにもう半分も終わったの。凄いなぁ~。僕も負けてられないよ!」
ライトは私の言葉を信じ、剣をさらに振りだした。私は一〇分の一が終わったくらいなんだけど……。まぁ、ライトがやる気を出してくれたのならいいか。
「キララ様。さぼると癖になりますよ。そのままずるずると楽な方に流れていく展開なんじゃないでしょうか」
ベスパは私の頭上に飛んできて呟く。
――う……。そ、そんなこと言わないでよ。私だって全力でやってるんだってば。ここにいる子供達がおかしいの、私はいたって普通なんだって。どう考えても周りの方がおかしいって思わないの?
「周りの方々は自分の限界を超えようと頑張っているのですよ。キララ様は出来る範囲でやりくりしようと目論んでいるように思えます」
――あはは……。ま、まぁね~。でも、そうしないと体が持たないよ。でも確かに自分の限界を超えようと努力した経験はあまりないかもしれない。
「周りの方たちは皆限界を超えようと努力してますよ。キララ様は限界を超えたくないんですか?」
――最近、限界を超えたのはこの前の誕生日講演くらいだよ。あの時は限界の限界だった。でもあれ、すっごく疲れたんだから。もう、脚ガクガクで倒れちゃうくらいだし。あんな経験を何度もしていたら体が壊れちゃうよ。
「キララ様の体は魔力が多いですから、そんな簡単に体は壊れませんよ。逆に限界を超え続けた方が体が強くなっていくんですから、魔法の鍛錬の時はぜひ魔力が空っぽになるまで使用しましょう。そうした方がキララ様の力に絶対になりますよ」
――うぅ。全力を出したら力になるのはわかるけど……。魔力枯渇症が結構辛いんだよ。
「なら、ビー達に魔力を分けて置き、全力を出してスッカラカンの体に魔力を戻すと言った練習法はどうでしょうか?」
――魔力をビー達に預けといてスッカラカンにしたあと、魔力を戻してもらうの? でもそれって意味ある?
「もちろんですよ。キララ様の魔力量をあげる鍛錬になると思い、私が考えました」
ベスパはドンと胸を叩き、翅をばたつかせている。
「キララ様の魔力をビー達に預けて限界ギリギリの状態にしたあと魔力を使用し、枯渇させる。そうすると、キララ様の体の中にある魔力回路が強くなり、魔力を生み出そうとします。そうなった時、少量の魔力を戻し、魔力枯渇症の症状を緩和する措置です」
――えっと。そんな単純に成長できるのかな。
「試してみないとわかりませんが、この鍛錬を行えば短期間で魔力を消費し、魔力量の増加が得られますよ。加えて、ビー達へ配る魔力が増える訳ですから、その分、戻ってくる魔力も多くなりますし、仕事の忙しいキララ様でも行えるかと思いまして」
――ん~。つまり、超絶短縮した鍛錬が出来るわけね。私が膨大な魔力を使い切るというのがまぁ、難しくなっちゃってるから、すごく良い鍛錬方法かも。
私は剣の鍛錬を早々に終わらせたいと思っていたが、一〇○○○回振るなんて私には不可能だった。だが、限界まで行うというシャインの克己な鍛錬にしがみ付き、何とか二○○○回まで振り続けた。もう、腕が上がらない。これじゃあ、指差しも出来ないよ。
「うぅ……。限界までやってこのざまとは……」
「お姉ちゃん、剣は全く使わないのによく頑張りました。でも、半分までは余裕そうだったのに、もう半分終わらせる途中でそこまでヘロヘロになっちゃうんだね」
シャインは私が一〇○○○回剣を振れたと思っているようだ。
「はは……。そ、そうだね。疲れは積み重なって一気に降り注いでくるんだよ」
実際は五分の一しか触れていない。ライトも半分からほぼ進んでおらず、剣が持ち上がっていなかった。ライトも限界を超えているらしい。ライトに力までついたらどこまで強くなるかわからない。出来れば魔法だけのままでいてほしい。
体の鍛錬が終わり、魔法の鍛錬が始まった。
「じゃあ、私は河川敷の方で魔法の練習をしているよ。皆も河川敷近くの広場で練習しよう」
「そうだね。僕は三人に教えないといけないし、姉さんが聞く必要もないから、自主練をしていて」
ライトは乾いた布で顔を拭き、私に言ってきた。
「わかった。じゃあ、行ってくるね」
私は河川敷に向かい、三人から少し離れる。他の三人は堤防を隔てた反対側の広場に移動する。
ライトは先ほどよりもあり得ないくらい生き生きとしており、逆にシャインはしおれた花の如くやる気がない。
シャインにも魔力は流れているものの、上手く使いこなせないのだ。
まぁ、シャインの場合、魔力の質が良すぎて扱いこなせていないだけなので、鍛錬すればきっと使えるようになるだろう。だが、彼女に魔法を使う気がないのか、あまり乗り気ではない。
「『ファイア』」
ガンマ君が詠唱をすると掌に火の玉が現れる。安定し、存在しているので魔法は成功だ。
「おぉ~、ガンマ君。凄い。もう魔法が使えるようになったの?」
「ライトさんに教えてもらって少し出来るようになりました。でも、まだまだ使いこなせている気はしないので、もっともっと努力しようと思います」
ガンマ君は何にでも努力できるシスコンだった。
うん、本当にもったいない。シスコンでさえなければ完璧だったのに……。
ガンマ君は女子あたりがよく、誰にでも優しくて、もの凄くイケメン、加えて頭もよく努力家。はぁ、まぁでも、妹のテリアちゃんが可愛すぎるのがいけないのか……。
こうなったら、カイト君を滅茶苦茶イケメンに育て上げてテリアちゃんを奪ってもらうか……。って、私はなにを言っているんだ。さっさと鍛錬鍛錬。
「そうですよ。キララ様。無駄な思考をするくらいなら魔力を練っていた方が鍛錬になります。キララ様には強くなってもらわないと困るんですからね」
ベスパは腕を組み、熱血教師のように全身からやる気が満ち溢れていた。
――もぅ、わかってるよ。私だって強くなりたいもん。それじゃあ、ベスパ。私の魔力を八割くらいビー達に預けておいて。
「了解しました」
ベスパが一度光ると、私の体から魔力が八割消えた。すると私の体に倦怠感が一気に襲ってくる。加えて頭が重い。周りの生き物たちが騒ぎだしたかと思えば、ビー達が魔力を大量に貰ってあらぶっているだけだった。頭が痛すぎて気にしていられない。
――うぅ、魔力をすぐに枯渇させて体からスッカラカンにしないと。気持ち悪くて倒れそう。
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