努力しているよ……
「じゃあ、行くよ~。よ~い、始め!」
シャインが声をあげ、デイジーちゃんの家の前から走り始める。
ガンマ君とシャインはあっという間に見えなくなった。
私とライト、デイジーちゃんは目を丸くする。そりゃあ、爆発音かと思うような踏み込みによって加速し、すでに見えなくなるなんてジェット機でもありえないでしょ。
「はぁ、あんなのが体に当たったらグシャグシャだよ。じゃあ、デイジーさん。僕達も行きましょう。少しでも近づくために身体強化を使います。デイジーさんも一部分だけなら使えますよね」
ライトは黒いローブを鞄にしまう。今日の服装は黒の長ズボンに白っぽい色の長袖シャツを着ていた。
「うん、出来るよ。まだライト君みたく全身じゃないけど、脚だけなら出来るようになったんだ。よ~し。私もシャインちゃんに追いつくぞ~!」
「『身体強化!』」×ライト、デイジー。
ライトは全身から淡い光を放つ。
デイジーちゃんは半袖の服と短パンを着ており、脚だけ淡い光を放っている。
「ふっつ!」
「はっ!」
両者は地面の土を巻き上げながら、思いっきり走っていった。私が見る限り、地面が足裏の形で抉れ、バートンが思いっきり走ったように凸凹になっている。
「はぁ……。まさかここまで成長するとは思ってなかったよ……。ガンマ君とデイジーちゃんはいったい何者なんだろう。さすがに天才って言うのはもう疲れたよ」
「ガンマさんとデイジーさんともども、体が特異体質なんですかね。ガンマさんは耐久力、デイジーさんは体力、どちらも人の域を脱していると思われます。理由は定かではありませんが才能に努力が加わることで爆発的な進化を遂げたのかと」
私の頭上を飛んでいるベスパは遠くを見つめながら呟いた。
「才能に努力ね……。私は努力しかないんだけど……、いや、一応魔力量が多いという特異体質だから才能もあるのか。つまり、私の努力が足りないということね」
「まぁ、キララ様はお仕事がありますからね。いつもいつも鍛えられるという訳ではありませんから、地道に行っていきましょう」
「うん。じゃあ、長距離走を頑張りますか」
「頑張ってください。私はキララ様を応援し続けますよ」
ベスパは応援団長のように手を動かして声を掛けてくれる。
「ありがとう。声援ありとなしじゃ、全然違うからね。あと、この凸凹道を土で埋めておいて」
「了解です」
私は屈伸運動をしたあと数回飛び跳ね、両脚をプラプラさせていた。すると、私の隣を物凄い勢いで通過する者達がいた。
「はぁ、はぁ、はぁ……。あれ、お姉ちゃん。いつの間に……」
シャインは息を切らせながら私の方を見て来た。
「え?」
「はぁ、はぁ、はぁ……。キララさん、僕達よりも早く走ってたんですか。凄いですね。息もぜんぜん切れていないですし、いったいどうやって……」
ガンマ君も息を切らせながら私に話かけてくる。
「えぇ……」
シャインとガンマ君は私が走り終えたように思っているようだが、私はまだ走っていない。
ここでまだ走っていないんだよね、というべきなのだろうが私は皆を待たせるわけにもいかなかった。どう考えても私は二時間以上かかる。なら、ここは……。
「そ、そうかな。ちょっと早く走り過ぎたかも~」
「やっぱりお姉ちゃんはすごいね。私でも見えなかったよ~。どんな風に走ってたの!」
シャインが私に走りについて聞いてきた。だが、私は走っていないので口をつぐむ。
そうしていると、ライトとデイジーちゃんが戻ってきた。はやり、両者共に早い。私が混じっていたら皆の邪魔になってしまう。
――うん。私はあとで走ろう。シャインが皆に指示を出してからでいいか。
「キララ様……、努力は?」
ベスパは私の前に出来てジト目を向ける。
――す、するよ。努力。と言うか、する予定だよ。
私はベスパから視線を反らした。
「ふぅ~、あれ、姉さん、いつの間に走り切ったの。全然見えなかったよ」
「はぁ、はぁ、はぁ……。ほんとだ、キララさんがもう走り終わってる。すごいすごい~!」
ライトとデイジーちゃんも私が先を越したと勝手に勘違いする。
――いったい私の評価はどれだけ高いんだ。止めてほしいな。私はあなた達みたいな天才児じゃないんだよ。
「じゃあ、みんな帰ってきたということで、素振りを行うよ。木剣を持って縦に一〇〇〇回、右左から横に一〇〇〇回、下から上に一〇〇〇回。全部合わせて一〇〇〇回。を二回ずつ!」
「はい!」ガンマ君、デイジーちゃん。
シャインのわけ分からない素振りの回数に私は怖気づき、全部一〇分の一にさせてもらう。まぁ、その前に走りに行かなくてはならない。
「えっと、シャイン。私はもうちょっと走ってくるから、周りに迷惑をかけないように鍛錬をしていてね」
「わかった!」
シャインは首を縦に振って了承してくれた。ライトは死にそうな顔をしていたので私は耳打ちする。
「ライト、デイジーちゃんは筋肉がある男の子の方が好きっぽいから、もう少し筋肉を着ければいいと思うよ」
「ほ、ほんと! うぅ……。体を動かす鍛錬は嫌いだけど……少しくらいやってみるよ」
ライトはとても嫌そうな顔をしていたが、どうやら好きな相手にはカッコいい所を見せたいようだ。
まぁ、筋肉のある男性の方がない男性より魅力的に見えるのは、あながち間違いなじゃい。加えてこんな殺伐とした世界でなよなよしい男より、がっしりした男の方がカッコよく見えるのも仕方ない。でも、がっしりしている理由としてはしっかりと食べているというのも一つある。
ガンマ君は村に来てから食事を毎日しっかりととっていた。高たんぱくのビーの子や牛乳などを食べ、栄養が筋肉に変わっているのだ。そう考えると栄養をどれだけ取るかが強くなる秘訣だと私は再確認する。
六年前、フロックさんに言われた『食え』という言葉は今でも私の頭に残り続けているのだ。
私はライトとシャインのもとを離れ、ネード村の周りを走り始める。
「はぁ~。自分の住んでいる村の周りを走るのもいいけど、あまり知らない場所を走るのも楽しいかもしれない。体力のないこの体に、少しでも走れるようになってもらわないと」
私はチョコチョコと走り、歩幅の狭さを確認したのち、少しずつ間を広くしていく。そうしないと、体力がすぐに尽きてしまうのだ。
以前、長距離を走ろうと思った時、あまりにも走れなくて悔しかった。私はこれでも一応元陸上部なのだ。まぁ他にも兼部をしていたけど……。
お願いされて入った陸上部だったが、痩せた体を維持するためにはあまりにも最適な部活だった。なんせ走り続けるのだから、食べても勝手に痩せてくれる。
アイドル活動の傍ら、脚が太くならない程度に走り、体力には結構な自信があった。
だが、今はどうだ。
三キロメートルを走ることすらままならない。つまり、魂と体の思っている行動が出来ない。
――うん。キララの体は走るのに向いていないということか。いや、鍛錬を続ければ心臓も強くなるはず。心拍が安定して走れるようになれば、魔法を放つ時もばてずにいられるのではないだろうか。
私は自分の身を守るために走る。戦って勝てない相手には逃げればいい。レクーが私の足になってくれるがレクーのいない時に襲われたら一巻の終わりだ。
「ふふはぁ、ふふはぁ、ふふぁ……」
私は息を整えながら走る。歩幅は少しずつ伸ばし、気持ちいい距離を探し出す。歩幅は約八〇センチメートル。子供にしては大きいかもしれない。いや、走っているのでこれくらいか。腕を小さく振り、体がブレないよう意識しながら走り続けた。
私の想定通り、ネード村の周りを走るには一時間以上かかり、大量の汗を垂れ流しながら、地面に四つん這いになる。肺の中の空気が全部無くなってしまった感覚に陥り、死にそうになる。でも、立ち上がって鼻から息を吸い、少しずつ歩く。いきなり止まると心臓に余分な負担がかかってしまう。
「はぁ、はぁ、はぁ……。脚が重い……、走り切れたのは嬉しいけど、さすがに頑張りすぎた……」
脚が重すぎてあまりにも動かなかった。この後、剣の素振りがあると言われても出来そうにない。
デイジーちゃんの家の前に戻ってくるとライトとシャイン、デイジーちゃん、ガンマ君が剣を振っていた。皆、汗だくになり、ライトはすでにヘロヘロだ。でも、ついて行っている。身体強化の効果だろうか。だが、淡い光が出ていないので魔法を使わずについて行っているようだ。私も見習わなくては……。
私はベスパに用意してもらった木剣を持ち、シャインたちの後ろに立つ。
木剣の長さは一メートルほど。通常よりも短いが私からしたら十分な長さだ。木剣を持つなんてあまりないので気分が少々上がる。
まぁ、剣の腕なんて素人に毛が生えた程度なので期待はされていない。でも、以前起こったブラックベアー事件の時、私にも剣戟が使えていたらマザーと領主さんを普通に助けられた気がする。剣の技術はこの先何かしらで約に立つはずだ。
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