デイジーちゃんとガンマ君
「はぁ、はぁ、はぁ……。キララ様、私を毎回毎回置いていかないでくださいよ……。心臓に悪いです」
――ベスパには心臓が無いでしょ。魔力体なんだし。
「まぁ、無いですけど、胸の動悸がするのは確かなので、キララ様にいきなりいなくなられたら私達は相当焦ってしまうんです。まぁ、ビーの眼を介してキララ様の姿がわかるようになっていますから、無事なのはわかるんですけど、キララ様の姿を現実で見ないと不安で不安で……」
――ごめん、ベスパがそんなに落ち込むとは思っていなかったよ。まぁ、村の中なら危険なことはほぼ起こりえないでしょ、だからそんなに気張らなくても大丈夫だよ。
「ですが、一昨日、ブラックベアーが襲撃してきた件もありますし、この先いったい何が起こるかわからないじゃないですか」
――まぁ、そうなんだけどさ。私の近くには心強い妹弟がいるし、他のビー達にはこの村を守っていてもらいたいし。って、この村から私とシャイン、ライトがいなくなったら他の魔物が攻めて来た時、誰も対処できないじゃん。
「ご安心ください。森の中にいるビー達が他の魔物が村を襲ってきたさいに時間を必死になって稼ぎますから」
ベスパは胸を叩いて言う。
――何だろう、すごく心もとない……。そうだ。最悪何かが襲ってきたらクロクマさんを解放して村を守ってもらって。なんなら、村の中を随時徘徊してもらえば村にブラックベアーがいても怖がられないし、護衛としての仕事も与えられるでしょ。
「ですが、クロクマさん達はブラックベアーという狂暴な魔物なんですよ。そんなに信じ切っては危ないです」
――そうだけど、クロクマさん達も私達が怖いって言っていた。だから、お互い恐怖心は同じなんだよ。互いを理解し合わないと仲間にはなれない。別に仲間になるつもりはないけど、仕事をしてもらわないと食事を与えている意味がないからね。村の中で暴れたらどうなるか、シャインとライトがわからせてくれると思う。
「そうですか……。わかりました。他のビー達に命令しておきます。何かあった時、ブラックベアーの檻を解放しろと……。今は徘徊させられませんが、キララ様とライトさん、シャインさんの三名がいる時は徘徊できるようにしてみましょう」
――うん。きっとクロクマさんなら私達の力になってくれるよ。信じないと相手にも信用されない。私はあの家族を一度助けた。感情があるのなら恩を仇で返すような真似は出来ないはず。そうなったらあの家族は生きて行けなくなるからね。
「キララ様は結構残忍な性格をしていますよね」
ベスパは苦笑いをしながら、私の話を聞いていた。そんなつもりは一切無かったのだが、恐怖心を与えてしまったようだ。
私達はレクーを走らせ、ネ―ド村に向かう。結構長い道のりだが、レクーならものの三○分で到着できる。
三〇分間、レクーを走らせると綺麗になった柵が見えてきた。少し前まで巨大な瘴気の塊に壊されたまま、柵が無かったのだが新しく作り直したらしい。
私達が柵に近づくとデイジーちゃんのお爺ちゃんが扉を開けてくれた。
「おはようございます! 今日もよろしくお願いします!」
ライトは荷台を降り、デイジーちゃんのお爺ちゃんに何度も頭を下げる。用意周到なのか、外堀を着実に埋めるつもりだ。周りから攻めて確実に落としにかかっている。ほんと、頭が良いんだから……。
私は忙しすぎてなかなかネ―ド村に来てあげられなかった。
実に二カ月ぶりか、一ヶ月半ぶりだ。この短期間で、家がゾクゾクと作られ始めている。
ネ―ド村は川のせせらぎとレモネのさわやかな香りが漂う、心が穏やかになるほど爽やかな場所だ。
皆の活気もよく、四カ月ほど前にあったブラックベアーの暴走の傷跡をもろともしていない。逆に、その頃より皆の笑顔が眩しかった。
私はデイジーちゃんたちが住んでいる家をライトに教えてもらい、案内してもらっていると両手を振り、ピョンピョンと跳ねる可愛らしい美少女がいた。
「あ~、キララさん、お久しぶりです。元気でしたか。私は見ての通り、元気モリモリです~!」
茶色っぽい髪が少々伸び、大人っぽさが出始めたデイジーちゃんだ。三つ編みにしているのでどこか洋風の少女にも見える。人形かと思うほどの美形なので多くの男が振り向くのは間違いない。
――この世界の住民は皆美形なのか……。いや、まぁ……多分違うと思うけど、そう思ってしまうほど皆可愛いよな。
私達はデイジーちゃんの家というか、小屋というか……。家族三人で過ごすにはちょうどいい一軒家の前に到着した。
「デイジー! 会いたかったよ~!」
「む~。私も合いたかったよ~。シャインちゃん」
シャインとデイジーちゃんは互いに抱き合い、シャインがデイジーちゃんをクルクルと回している。
ライトもデイジーちゃんに抱き着きたいと言いたげな表情をしているが、どうも一歩踏み出せない感じだ。
まぁ、抱き着くのはなかなか勇気がいるか。女の子といちゃいちゃできるのは子供の特権なのに、もったいない。八歳くらいなら全く以て抱き着いても問題ないと思うのだけど……。
「よっこいしょっと。ん……。あなたが二人の言っていた友達さんですか?」
ガンマ君も荷台から降り、デイジーちゃんのもとに歩く。
「え……。だ、誰ですか……」
デイジーちゃんはシャインの後ろに隠れ、覗き込むような体勢でガンマ君を見ていた。
「えっと、初めまして。ガンマ・サリンズと言います。年齢は七歳ですけど、一二月に八歳になりますから、多分、同い年です」
「は、初めまして……。デイジー・ラベンスです。私も七歳で一二月に八歳になります……。えっと、その……。ガンマさんか、ガンマ君か、どう呼べばいいですか?」
「別に好きな呼び方で構いませんけど……。僕はデイジーさんと呼びますね」
ガンマ君は凛々しい笑顔でデイジーちゃんに微笑みかけた。すると、デイジーちゃんはなぜか顔を隠す。
――およよ……。そ、そんなバナナ。あのデイジーちゃんが赤面だと。もしかして、デイジーちゃんはガンマ君に好印象を抱いている。私としてはライトの方がカッコいいと思うけど、まぁ、ガンマ君も負けず劣らずカッコいいか。いや、違うな。体つきが全く違う。
ライトは全身をローブで包み、細い線を隠しているような服装なのだが、ガンマ君は長ズボンに半そでの服、加えてローブを肩から羽織った感じの服装なので結構筋肉質な体が見える。腕や肩回りは大分男らしい。
――まぁ、シャインの馬鹿みたいな鍛錬について行っているのだから体つきが男らしくなるのもしかたないか……。
「えっと、その……。ガンマ君。私とお友達になってくれますか?」
デイジーちゃんはシャインの後ろから一歩前に出て呟いた。
「もちろんです。僕もデイジーさんとお友達になりたかったですから、是非、よろしくお願いします」
ガンマ君はデイジーちゃんに手を差し伸べる。
デイジーちゃんは恐る恐る手を伸ばし、ガンマ君と手を握った。その光景を微笑ましいなと言って見守るのは私のみ。あとの二人は互いに苦笑いをかまし、両手を握りしめている。
――うん、修羅場になりそうだ。
「と、とりあえず。皆で友達になったわけだし、勉強と鍛錬を午前中にやっちゃおう。そうすれば、午後にはいっぱい遊べるからさ」
私は場を和ませるために進行役に徹する。
「そ、そうだね。姉さん。じゃあ、皆で家の中に入って勉強しよう」
私達はデイジーちゃんの家に入り、デイジーちゃんのお母さんと弟君に挨拶したあと、木の箱を並べて机代わりにした。
ライトはデイジーちゃんとガンマ君をなるべく離そうとしたのだが、デイジーちゃん自ら、ガンマ君の隣に座り、縮こまりながらそわそわしている。
そうなると、ガンマ君の隣にシャインがくっ付き、デイジーちゃんの隣にライトがくっ付く。もう、一つの木箱で勉強する気なのかというくらいぎゅうぎゅう詰めになっていた。これでは勉強に集中できるわけがない。
「はぁ……。皆、勉強は集中しないと何も意味がないよ。勉強をする時は勉強にだけ集中。他のことは考えない。だから、皆の席は二メートル以上開けます。わからない所があったら、私かライトに聴くこと。良い?」
「はい!」
ガンマ君は何の下心もなく純粋な返事をした。
「は、はい……」×ライト、シャイン、デイジーちゃん。
他の三人は下心でもあったのか、少々落ち込んだ返事をした。
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