気色が悪い姉
「はぁ……。父さんはお爺ちゃんにぼろくそ言われて心がズタズタだ……。いつになったら認めてもらえるのだろうか……」
お父さんはお爺ちゃんの風当たりが一番強い人物だ。この世界でも男の人が働き、女性が家事をするといった風習が根強く残っている。そのため、子供や妻にまで働かせているお父さんに古風なお爺ちゃんの風当たりが強くなるのは仕方がないのかもしれない。
当のお父さん本人も、酔っぱらっていた時に自分一人で家族を養っていきたかったと零していた。仕事をして家を守るというのがお父さんの夢であり、冒険者を諦めた本当の理由でもあるそうだ。
「お爺ちゃんはお父さんに期待しているから、沢山怒ってくれるんだよ。何も気にしていない相手だったら怒ったりしない。無視されるのが関の山。ほんと、その場にいないみたいな存在になっちゃうんだから。でも、お父さんはまだお爺ちゃんに見捨てられていないんだよ。あと、お父さんにはいつも感謝している。ありがとうね」
私はお父さんの心を癒すため、席を立ち、椅子に飛び乗って胸にムギュっと抱き着く。子供の特権だ。親の傷を癒すのに効果が最も高いのは、子供からの応援に他ならない。
「うぅ……、キララ~。ありがとう~。父さん嬉しいよ~」
お父さんは私にギュッと抱き着いて髭の伸びた肌を擦りつけてくる。
「姉さん……、よく父さんに抱き着けるね。もう、ぼくにも無理かな。父さんに抱き着くなんて、子供っぽいし」
「うん……、お姉ちゃん、本当によくやるよ。私には無理」
双子は少々ませているのか、恥ずかしがり屋なのか、お父さんに興味を示さない。
そんなことを言っていたら、いつかお父さんが亡くなった時、絶対後悔するのに……。
「ライト、シャイン。お父さんがいるから二人がいるんだよ。恥ずかしがる必要ない。だってお父さんなんだもん。私達の親。私達に唯一無償の愛をくれる人達なの。私達は愛を還元しないといけないんだよ」
「な、なんか。キララ……、計画的な犯行に思えるのだが……、父さんだけかな」
「ううん。違うよお父さん。私はお父さんにもっともっとも~っと頑張ってほしいからムギュ~てしてるの。父さんがいなかったら、牧場を広げるのは難しいし、力仕事で皆は助かってるんだから、本当にいつもありがとうね。お父さん、大好きだよ~」
「う、うおおおお~! キララ~!」
お父さんは私を高い高いしてクルクルと回る。
「私、お姉ちゃんみたく計画的に行うのは無理かな……」
「うん、僕も姉さんみたく、父さんを自分の手ゴマみたいに使うのは無理かも」
「ん?」
どうやら、双子はお父さんに抱き着くのが恥ずかしい訳ではなく、私の行動の方に不審がっていたようだ。つまり、私がおかしい子という認定をされている。おかしいのかな?
私には父親がいなかったので、どういう関係を築けばいいのかわからなかった。だから、お父さんに頑張ってもらうため、可愛い子供を演じていたのだが……。演じているから不審がられるのか。
椅子に座り、私を膝の上に下ろしたお父さんの顔を見ると、何やら得体のしれない者を見ているかのような表情をしている。
――おかしいな。私は完璧に近いくらい可愛いはずなんだけど……。
私は思った、別に可愛い子ぶらなくてもいいのではないかと。なんせ、親からしたら私達は皆可愛いのだ。可愛い子が可愛い子ぶっても意味がない。効果が薄いのは当たり前だった。
――そうか。昔、みたくする必要はない。なんせ、私の性格が少し変わってもう六年も一緒にいるんだ。性格を知っている人がいきなり豹変したら怖がるのも無理はないか。
「ん、んんん。ちょ~っと昔見たいにしてみたんだけど、どうだった、お父さん」
「ん? ああ、すごく可愛かったぞ。いつも以上に生き生きしていた気がする」
「そうなんだ。よっこいしょ」
私はお父さんの膝の上から飛び降り、自分の席に座って何事もなかったかのようにふるまう。
すると……。双子は私ならやりかねないなという顔で笑い、お父さんも私ならそうするだろうという顔をしている。何なら、私が普通の子よりませているのだ。だから、これでいい。私は私を貫き通すのみ。そうしていれば、周りは私の印象を勝手に構築してくれる。
その後、私達は夏の間、どういった体制で働くのかや、街へ売り出す牛乳の量を増やせないかという話、新たな牧場を作るための土地購入の話などを夜の午後九時あたりまで行っていた。
本当は朝行うのがいいのだけど、皆で集まる時間が夜くらいしかないので仕方がなく夜の家族会議が行われている。
家族会議が終わると、私は歯を綺麗に磨いたあと部屋に移動して桶に入れた水を使って体を拭く。午後九時から午後一一時まで勉強し、日記をしたためる。
ライトはフロックさんとカイリさんがいなくなったため、二階の自室で眠るらしく、私の部屋を出て行った。久しぶりに一人で寝るのだが結構寂しい。恋人が彼氏と寝たがるのがよくわかった気がする……。
誕生日の二日後、私の休日がやってきた。この日はすることが決まっており、ライトが起こしに来た。
ライトは木製の扉が壊れるのではないかと思うほど強く叩き、大きな音を出してくる。
「姉さん! 朝だよ! 早く起きて!」
「うぅ……。わかった、わかった……。でも……あと五分だけ寝かせて……」
「駄目! 今日はネ―ド村に行ってデイジーちゃんに会いに行くんでしょ。早く行かないと一緒にいれる時間が短くなっちゃうよ」
「でも……、まだ外が暗いよ……。今の季節は夏だから、多分午前四時三○分くらいか……。さすがに早すぎるって……」
「あっちに着くころには午前五時だよ。丁度明るくなり始める時間だから完璧でしょ」
「もぅ……。わかった。着替えるからちょっと待っていて」
「わかった。シャインとガンマ君も一緒に来るから、今日はバートン車で行こう。僕は牧場で出発の準備をしているから、早く来てね」
「はいはい……」
私が相槌を打つと、扉の向こうにいたライトは颯爽といなくなった。
――ほんとデイジーちゃんが好きすぎるんだから……。一途なのは良いけど、周りを巻き込むのはやめてもらいたいなぁ。ま、デイジーちゃんはライトにどんな感情を抱いているのかわからないけど、なかなか二人の間もいい感じだし、妹が増える時が近いな。
私は寝間着から作業服になっているいつもの服装を着て部屋を出た。
水溜めからコップ一杯の水を汲んで飲む。その後、桶に魔法で出した水を注ぎ、顔をチャプチャプと洗ったら乾いた布で水分を拭き取る。
すると頭がスッキリして思考が回る。このまま、勉強したら絶対に捗るだろうなと思いながらも、私は家を出て牧場に向った。ベスパ達は起きていなくてもすぐに追いついてこれるので置いて行こう。
私が牧場に到着すると、シャインとガンマ君、ライトの同い年三人が話していた。
「ふわぁ~。おはよう、三人とも。今日は早いね……」
「おはようございます、キララさん。今日は僕も行っていいですか?」
ガンマ君は一礼して聞いてくる。
「別にいつでもいいんだけど……。まぁ、行ける時間はお休みの時くらいか。そう考えるとガンマ君が他の村に行くことってなかったよね?」
「はい。他の村に行くことは今日が初めてです。二人が言うには同い年の子に勉強や鍛錬を教えに行くとのことなので、僕も一緒に行けば成長できると思ってやってきました」
「うんうん。いい心がけだね。私達が今から向かう村はネ―ド村と言って山を一つ越えた場所にあるんだよ。この村に負けず劣らずの良い風景が見れるから、期待しておいてね」
「わかりました。楽しみにしています」
ライトはすでにバートン車の準備をしており、いつでも出発できる状態だった。
「じゃあ、出発しようか。ネ―ド村までね」
私は荷台の前座席に座り、他の三人は荷台に乗る。その頃、ベスパがようやく飛んできて私の頭上に到着した。
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