神様からのアンコール?
三曲目ともなれば全身に汗は掻くし、疲れも出てくる。だが、喉の調子としては最高潮。振りつけだって最高の動きで出来るはず。ここから下がり続ける一方だから、このまま良い雰囲気で締めくくる。それが元トップアイドルとしての意地。
子供の体形に加え、体力のない今の私が出せる全力は三曲のみ。
――ほんと昔はよく二〇曲くらい歌ってたよ……。昔の私の体力がすごい……。今の私は三曲の前半で体力ギリギリなんですけど……。なのに、なぜか歌って踊れてしまうのがアイドルなんだよなぁ。周りの力を受け取って皆に力を返す。ほんとよくできた仕組みだ。
私は全力で歌って踊った。
そりゃあもう、ここら一帯にいる人全員に活力を与えるがごとく、全力で輝いた。
神様にも見てもらえているだろうか。
神父様が言うには神様は歌と踊りが大大好きらしいから、喜んでくれていると嬉しいんだけど……。
残念ながら今の私には誰かを探して歌う余裕はない。なので、今、神父様がどこにいるのかわからなかった。
――フロックさんはこんな私を見てどう思うだろうか。いったい何を言ってくれるだろうか。可愛いかな、綺麗かな、面白かったかな、もしかしたら気持ち悪いとか言われるかも。まぁ、アイドルが嫌いな男の人もいるだろうし。フロックさんに何を思われようと私をさらけ出しているんだからいいか。
私は三曲目がきつ過ぎて片目が半開きになり、ぐちゃっと潰されたような表情になる。加えて全身から汗が滲み出し、服が肌にくっ付いていた。
――靴がヒールじゃなくてよかった。ヒールなんて履いていたら絶対にこけている。声も掠れてきた。私の限界が近い。残りはCパートのみ。
歌って踊り切れ、元トップアイドルの私!
私は前世の振りつけをほぼ完璧に踊り切り、少し高めの声で歌いきった。最後の最後は始まりと同じ天にピースを掲げて仁王立ちの姿を取る。
ライトかベスパか知らないが、気を聞かせてくれたらしく、私の歌が終わり、決めポーズをとった瞬間に後方から花火が上がった。
夏の日本の風物詩とオタク文化が融合し、何とも華やかな一瞬だ。
――こんな初ライブをプレゼントしてくれるとは……、やばい、なんか泣きそうだ。
私が泣きそうになっていると、暗いはずの天から白い光が一本伸びて地上におちた。
そのもとには私がいて、正しく天からのスポットライトだった。
周りから白い羽が舞っているような雰囲気を醸しだしており、もう終わり? とでも言われているようだった。
――なんだ、なんだ、神様も欲しがりだなぁ~。もしかしてアンコール? そんなに私の歌と踊りが見たいわけ。ん~、どうしようかな~。神様が私にも贈り物くれるならやってあげてもいいよ。
私は神様が聞いているかもわからないのに心の中で神に祈った。ばかばかしいと思っていたが、どうも光が消えない。周りの人も、何が起こっているのかわからないといった表情をしていた。
沈黙の状態が続き、一人が声をあげる。
「もう一回……。もう一度……、見せてくれ……」
声をあげたのは意外にもフロックさんだった。
観客席で涙を流し、意外にも感動してくれていた。
感動以上の何かがあるような気がしなくもないが、フロックさんに言われてしまったら仕方ない……。
やるかと思っていたら、観客席からもう一回、もう一度、もう一回、もう一度のアンコールが巻き起こった。
アンコールが貰えれば、私はまだやっていける。
そんな謎めいた自信が当時の自分にあったが、ほんと頑張れる力を貰えるんだよなぁ。さっきまで全力で歌って踊ったのに……。
「ふぅ……。よおおおおし! じゃあ、三曲目! もう一回いっくよ~!!」
「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」×全員
私は天から伸びる光の下で踊って歌った。
天の光を浴びていると無性に力が湧いてくる。何かの魔法かな。そう思わざるを得ないくらい体がよく動いてくれる。
――アイドル好きの神様、見ててよ。これが平成と令和を股に掛けた元トップアイドルの姿なんだから。私がこの世界で何をもたらせるかわからないけど、今、最高に楽しいんで、もっともっと世界を存続させる方向でよろしくお願いします!
私は神にお願いしておいた。復活した大勢の悪魔達が同じ個所に集まれば、世界は崩壊する。でも、神なら何とかしてくれるのではないかと思ったのだ。
私は異世界転生でも転移でもない。ただ、過去の自分を思い出しただけのキララなのだ。なので、神様とのつながりは特にない。そう思う。
私に何かしらの使命があるのなら神様からの干渉があってもいいはずなので多分無いのだろう。
私の新しい人生を最大限に生きろって言う思し召しかもしれない。
私は三曲目を二回目歌って踊り終え、ステージの床に尻もちをべたんとついて終わった。
最後の最後まで締めくくれなかったのは悔しいが今の私にしては上出来だ。体力を着ければ一〇曲は無理でも八曲くらいならいけるかもしれない。
「はぁ、はぁ、はぁ……。み、みんなぁ~、いぇ~い」
私はヘロヘロのピースサインを頭上に掲げ、満面の笑みを浮かべた。自分では一〇〇〇万点の笑顔が出来ていたと思う。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』×全員
会場全体が爆発したのかと思うほどの歓声が小さな村で響いた。長い間、鳴りやまず、八キロメートル以上離れた別の村まで大きな声が届いているかもしれない。
――ほんと、一回の公演でこんなに疲れるのに何回もやってられないよ。
天からの光が少しずつ消えていき、暗くなった。
ライトとベスパは光っているのだが、天からの光りが強すぎて私の間隔が麻痺している。もう蛍光灯と太陽くらい違った。太陽の明りが強すぎて他の明りが全て弱く見える感じ。
――視界がしゃばしゃばする……、眼を少し休めないと……。
私はステージの床にペタンコ座りをして息を整える。全身が汗でぐっしょりだ。内着だけならともかく、アイドル衣装や下半身の方も酷い。
今の私は一〇キロメートル走った時以上に疲れてる。もう、歌って踊った方が私に体力がつくのでは……とすら思うくらいきつかった。
「姉さん最高だったよー! 姉さんの誕生日なのに、僕たちの方が喜んじゃってるよ!」
「お姉ちゃん可愛すぎるよ! もう、歌も踊りも凄すぎるよ! 私にも絶対教えてね!」
ライトとシャインは私のいるステージに走って来てくれた。二人の瞳は名前同様に輝いている。
――私が二人に勝てる分野は歌と踊りくらいか……。姉の威厳を保つには歌と踊りを極めねば……。
私は力を振り絞って立ち上がり、一礼すると会場にいた皆は大きな拍手を送ってくれた。
私はペコペコと頭を下げ、ステージを降りる。そのままステージ裏に向かい、ぐしょぐしょになった服と下着を変えることにした。さすがにこのままの状態で誕生日会を続けるわけにはいかなかったのだ。
垂れ幕に隠された場所だったので、私は普通に全裸になり、着替え始めていた。そんな時……。
「キララ! あ、すまん……。何も見てないぞ」
天幕をおもむろに開けてきたフロックさんが私の後ろ姿を見て顔を反らし、立ち去る。
「え、え、えぇ……。み、見られた。わ、私の悲壮な幼女体型を……」
私はショックすぎて脚の力が抜け、地面に座り込む。
「キララ様落ち着いてください。フロックさんは背中だけしか見てません。この私が確かに確認しましたから、安心してください」
ベスパは私の目の前に移動し、教えてくれる。
――まぁ、フロックさんが私の体を見たところで何も思わないか……。ちょっと残念だけど、こんな貧相な状態じゃ、篭絡なんて無理だよね。
私は自分がまだ子供だったことを理由に立ち直る。加えて背中しか見られていないのならまぁ、ちょっとサービスシーンが多めのグラビアアイドルにでもなったつもりで乗り切れそう。
そう思いながら私は乾いた布で汗を拭き取り、服を着て外に出た。
天幕の横にフロックさんが立っており、私が天幕から出るや否や。私の肩に手をおいて覗き込んできた。
私の眼を……。
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