シャインの特異体質
「キララ……。お母さん、ちょっとお話があるのだけど。いいかしら?」
「お、悪寒……の正体はオカンだったのか……」
私は夏に寒いダジャレを言い、辺りを凍えさせたあと、お母さんに首根っこを掴まれて肩に担がれたのち、家まで連行される。
ベスパは助けてくれず、お化けのようにスーっと透明になって消えた。薄情な奴め……。
私はお母さんからのお説教を一から二時間ほど受けた。女の子がどうとか、危険な行動がどうとか……。『分かってるって』と言いたいが、行動が伴っていないのでお母さんは激怒しているのだろう。
シャインとライトはなぜ怒られないのかわからない。まぁ、姉の私がしっかりしないでどうするのと言った説教が続いた。
「もう! 危険な行動は、いいかげんやめなさい! わかった!」
「うぅ……、はいぃ……」
「じゃあ、お母さんは牧場に行って皆の手伝いをしてくるから、キララはもう少ししたら来なさい」
「わかりました……」
お母さんは家から出ていき、私は燃え尽きた炭のように真っ白になる……。
「お母さんのお説教が、お、終わったぁ……。日に日に長くなっている気がするのはなぜ……」
「キララ様が全く反省していないからではないですか?」
ベスパは私の頭上に戻ってくる。
「あ、ベスパ。私を置いて逃げるなんて卑怯な真似をした害虫」
「酷い言い草ですけど、もとはと言えばキララ様が危険な行動をとるのがいけないんですよ。逆に私は奥様の行動が正しいと思います。キララ様も怒られるのを重々承知のうえで行動を起こされていますよね」
「うぅ……。正論で何も言い返せない……。でも、ブラックベアーの親子は助けたかったんだよ。お母さんにもわかってもらいたかったんだけど、魔物を助ける行為がおかしいって言われてなんか悲しくなっちゃった」
「まぁ、魔物は動物のように懐かないとカイリさんも言っていたではありませんか。私達はお話が出来るので意思疎通できますが、意思疎通の出来ない狂暴な相手と仲良く出来るほど人は強くありません」
「はは……、確かにね。人とブラックベアーの力量を比べたらブラックベアーの方が遥かに強い。一部例外を除いてだけど……」
「シャインさんのことですか?」
「そうだよ。シャインの力はどう考えてもブラックベアーより強いでしょ。何であんなに強いのかわからないのがちょっと怖いよね。私の妹だからいいけど、知らない子だったら恐怖しか覚えないかも……」
「シャインさんの強さの秘訣は体質にあると思われます」
「体質? 汗をかきやすいとか、そう言う感じ?」
「はい。キララ様も特異体質なので、他の方よりも魔力の回復が著しく早いのです」
「あぁ、そう言えば私も特異体質なのか。じゃあ、シャインも特異体質ってこと?」
「その可能性が高いですね。常人の一〇倍から一〇○倍までの差がありそうです。これを可能にしているのが体内の魔力なんですけど……、異質なほど濃いんですよね」
「魔力が濃い……。つまり、質が高いってこと?」
「はい。シャインさんのマナからあふれ出る魔力の質はキララ様が五分程練った魔力に相当します。あの超巨大ブラックベアーの首を焼き切った『超高圧熱放射』を打つ時の魔力と同じです」
「え……、あの時の魔力、私はすごく頑張って練り込んだのにシャインは体に流れている魔力が同じ質なの?」
「はい。なので体を流れる血液と共に幼いころから体が魔力に耐えられるよう変化してきた結果、あのような爆発力を発揮できているのかと思われます」
「なるほど……。自分の力に耐えられるよう体が幼いころから変化したのか。でも、成長には栄養が不可欠。シャインはいい食事が取れたから、あそこまで強くなった可能性があるのかも。また仮説を立てられるね」
「そうですね。ビーの子を摂取していたことで魔力や栄養を随時供給出来たのかもしれません。食事が成長に欠かせませんからね」
「シャインの強さの秘訣は私と同じ特異体質だったとして……、ライトの頭の良さは何なの? あれも特異体質?」
「頭の良さの原因はわかりませんが、ライトさんは魔力操作に長けた方です。概念さえわかってしまえばどのような魔法でも造り出せてしまうほど、魔力操作が得意なようですから、得意なことを伸ばし続けたらどうなってしまうのか。簡単な魔法なら無詠唱で発動できるなんて前代未聞だとカイリさんも言っていましたね」
「無詠唱……、私もちょっとは出来るけど、小さいファイアくらいしか出せない。でも、ライトはあんな大岩を出しちゃうんだからほんと規格外だよね。世間に出したとき常識が全く以て通用しないかも……。あの二人も学園に行かせないと腐っちゃう」
「まぁ、学園が正解とも言えませんよ。シャインさんなんかは特にそうじゃないですかね。自分と似た人に会いたいという気持ちの方が学園で学ばせるよりも価値があるような気がします」
「た、確かに……。なに、ベスパ。そんな論理的な思考まで出来るようになっちゃったの?」
「私はもとからこういった思考は得意ですよ。なんせキララ様の魔力ですからね。キララ様の得意なことは私も得意なんですよ」
ベスパはエッヘんと胸を張り、威張っている。まぁ、私の頭が二つになっていると考えれば楽だ。だが、私がこんなに偉そうな態度を取るとは思えないのだけど……、深層心理にベスパのような感情があるのかな。
私とベスパが話していると家にシャインがやってきた。
「お姉ちゃん、準備が出来たよ。外で夕食を取るから一緒に来て」
シャインは椅子に座っている私の腕を掴み、グイグイと引っ張ってくる。腕が抜けそうなのでやめてほしい。まぁ、シャインにとっては普通に引っ張っているだけなんだよな。
「はいはい。わかったよ」
私は椅子を降りてシャインについていく。
家ではなく牧場で誕生日を行ってくれるなんて私だけ優遇されすぎな気もするが、皆が企画してくれたのだ。私は精一杯楽しもうじゃないか。神様も賑やかな雰囲気の方が好きだと神父様が言っていた。そう考えると、いつもニコニコしていた方が神様に好かれやすいかもしれない。
私は神を信じている訳ではないが、神様っぽい女神をうっすらと見たのでちょっくら現実味が増していると思い、神様への信仰心を少し持とうと考えた。そうした方が私の胸も大きくなると思ったのだ。
私はシャインに連れられ牧場に移動した。先ほどチラッと見てしまったがため、何となく飾りつけは知っていたが、仕上がっている状態をまだ見ていないので感動できるかもしれない。
「おぉ~。凄い、こんなに明るくなってるなんて……。綺麗だよ」
牧場の広間はライトが発生させている明りによってとても煌びやかになっていた。夏なのにクリスマスのような雰囲気なのがちょっと面白い。でも、誕生日パーティーの飾り着け自体、クリスマスっぽいので仕方ない。
お祭りのような提灯を飾られても何か違うし、綺麗な明りとリボンに飾られた会場はとても素晴らしかった。なぜ皆がこれほどまで私の誕生日を祝ってくれるのかというと、理由が一つあった。
「はい、姉さん! 今年もお願いするよ。歌と踊り。姉さんが誕生日と聖典式の時だけしてくれる舞を見せて!」
ライトは牧場の広間に特別ステージを作っていた。
まぁ、石の上に木の板を置いているだけの小さなステージだ。学校の体育館のステージよりも小さく、教室の半分くらいの大きさで、地下アイドルっぽい雰囲気を放っている。
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