シャインが頑張って考えたこと
「あ、あの……、シャインさん、この後の仕事はどうするんですか?」
ガンマ君はシャインに質問した。
「ちょ、ちょっとここで待ってて! 私はお姉ちゃんと話があるから!」
「ちょ、シャイン。押さないで。そんなに強く押されたらこけちゃうよ」
私はシャインに背中を押され、森の茂みにまで移動させられた。
「お、お姉ちゃん。私は別に助言なんて求めてないから。というか、どんな助言してるの。私とガンマ君の関係なんてお姉ちゃんには関係ないでしょ」
「まぁまぁ、シャイン。一度落ち着いてよ。そんなに怒らなくても……」
「私、別にガンマ君が好きとかじゃないし、一緒にいたいとか思ってないから。友達ってだけ。本当にそれだけ! 普通に喋ってるだけで十分だもん。一緒にいるだけで楽しいし、別に手を繋ぎたいとか思ったことないし……」
シャインは耳まで真っ赤にしながら恥ずかしい本音をつらつらと語っている。
ガンマ君に言えば手を繋ぐくらい普通にやってくれそうだが、きっとシャインの方から言うのは自尊心が許さないのだろう。
――はぁ、典型的なツンデレになっちゃって……。ほんと、誰に似たんだか。
シャイン、私は一言もガンマ君について聞いてないよ。といいたかったが、恋焦がれる私の妹を見るのはとても面白い。
なんせ、男勝りな妹の初恋なのだ。是非とも応援してあげたいじゃないか。
まぁ、八歳の初恋なんていつまで続くかわからないか……。そう考えると私の初恋っていつだったんだろう。あんまり記憶にないんだよな。しいて言うならアニメキャラクターかな。ん~、現実世界で恋した経験がない。ほんと、昔の私の人生勿体ないことをしなぁ。恋の一つも出来ずに終わるなんて。私は日本中の男女問わずの初恋を奪っちゃった張本人だからなぁ~。私の方がうばわれてみたいっつ~の。
私は過去の栄光を価値観の全く違う異世界にて自慢げに思っていた。
なんせ……私が地球でなし得たことがトップアイドルになったことしかなかった。
「お姉ちゃんはどんな風にして男の人を篭絡してるの! 教えて!」
シャインは私にいきなり質問してきた。
「え? 篭絡……。そんな言葉をいったいどこで覚えたの……」
「メリーさんに教わったの。男の人を手玉に取らないとこの先、力のない者は生きて行けないって言ってた。私は他の子よりも強いけど、世界一強い訳じゃないから、篭絡の方法を知っておこうと思って!」
「いや、まぁ、そうだとしても。なぜ私にそんなことを聞くの。メリーさんに聞けばいいんじゃ……」
「そうか、メリーさんに聞いてもいいのか」
――いや、まてまて。メリーさんに男の篭絡の仕方なんて聞いたらいったい何を教えるかわからない。むむむ……、私の武器を教えるしかないか。
「ちょ、ちょっと待って。シャイン、そもそも何で男の人を篭絡したいの?」
「私は男の人よりも強くなりたい。でも、アイクさんやフロックさんと戦ってわかった。今の私じゃ、男の人に勝てないって。だから、どうにかして勝つ方法を考えたの」
「男の人に勝つ方法が篭絡って……、脱線しすぎだよ……」
「わ、私、馬鹿だもん。ライトやお姉ちゃんみたいに頭よくないし、うんうんうなって頑張って考えたんだもん」
シャインは瞳をうるうるさせて泣きそうになっていた。
――あらあら、シャイン。精神が安定していないぞ。そんなに悩んでたのか。でも、シャインはまだ八歳だし、男の人に勝てないって言っても相手は剣聖のアイクとSランク冒険者のフロックさんだよ。その二人を男の基準にするのはちょっと……、基準が高すぎるんじゃないかな。
シャインの基準は世の一般男性が飛び越えるのが不可能な領域な気がするんだけど。
逆に、シャインが少し飛び越えそうな気がするというのも困りものだ。
「ごめんね、シャイン。そうだよね。いっぱい考えたんだもんね。お姉ちゃんが悪かったよ。じゃあ、教えてあげる。男の人を篭絡するにはね、笑顔でいればいいんだよ」
私はシャインに笑顔を見せる。
「笑顔……?」
「そう、笑顔。口角をに~ってあげてニコニコ笑っていれば、いざ困った時に男の人が勝手に助けてくれるの。私は可愛いから守って~って感じでいれば、自尊心の高い男の人が守ってくれる。でも、シャインは男の人に勝ちたいんだよね?」
「うん……」
「篭絡は男の人を盾にする方法。戦いに応用できなくはないけど、実践では絶対に使えないよ。なんせ、相手は残虐非道の男かもしれないし、無感情の極悪人かもしれない。だから、篭絡なんて覚えなくてもいい。それよりも男の人の前では笑顔でいることを意識した方が利益は大きい。ま、男の人に勝ちたいなら股間を蹴り飛ばせば大概勝てる。シャインならなおさらね」
「で、でも……。股間を蹴るのは反則でしょ……。昔、アイクさんの股間を蹴ったら、アイクさんが気絶しちゃったし。眼を覚ましたあとアイクさんは股間を蹴るのは反則だって泣きながら言ってたよ」
「あらぁ……、アイク可哀そう。でも、相手が残虐非道な極悪人なら全然問題ないよ。股間にぶら下がっている物はぶっ潰してもいいからね」
「ライトとお父さんの股間にぶら下がっているあれのこと?」
「そうだよ。でも健全な試合では絶対にしたら駄目だからね。シャインが蹴ったら相手が本当に死んじゃう」
「わ、わかった。じゃあ、私は笑顔でいればいいんだね。あと、男の人に勝つにはお股を蹴りつける」
シャインは女性の護身術の一つ、金的を覚えた。だが、一番覚えさせてはならない人物だったかもしれない。シャインに思いっきり蹴られたら生殖機能が働かなくなるに決まってる。
シャインに見つかるかもしれない極悪非道の皆さま、南無阿弥陀仏……。
「じゃあ、私はガンマ君のところに戻るね。も、もう覗かないでよ。見るなら堂々と見て!」
「はいはい。そうするよ」
シャインはぷんすかと怒りながらガンマ君のもとに走って行った。
「はは……、堂々と見てもいいのか。あと、シャイン。もう笑顔を忘れてるけど……」
私は苦笑いをしてシャインを見送った。その後、牧場付近に設置した魔法陣が全て作動しているのを確認した。その頃には午後五時の鐘が鳴り、子供達の仕事が終わる。
「皆、お疲れさま。これ、小腹の足しにしてね~」
「は~い。キララさんありがとうございます」×子供達。
私は牧場の入り口でビーの子が入った小袋を子供達に渡していく。今、この場で給料を渡してもいいが、途中で落とす子がいるいけないので、あとの楽しみに取っておこう。
子供達は皆、家に帰っていった。
シャインとお母さん、カイリさん、ルドラさんは私の実家に帰り、レイトとお父さん、お爺ちゃん、フロックさんは残業していくらしい。
フロックさんはお手伝いなのに、残業までしてくれるなんて、と思ったが、バートンにただ乗りたいだけっぽい。ま、乗バートンは練習しないと上手くならないし、練習するのは悪くないか。
私は子供達の夕食の準備をしておき、給料も荷台に一緒に乗せておく。
「うん。準備完了。あとは子供達の住んでいる家に持っていくだけだ」
「キララ様。ご報告したいことがあります」
「ん? どうしたの、ベスパ」
「どうも、山頂付近のブラックベアーが喧嘩しているようでして、牧場や村に降りてくる可能性があります」
「そ、それは大変だ。でも、まだ降りてきていないんでしょ?」
「はい。降りてきていません」
「なら、大丈夫でしょ。今、村にはフロックさん達もいるし、先月は超巨大なブラックベアーを倒したんだよ。今更、普通のブラックベアーごときで、私はてんやわんやしないよ」
「ま、それもそうですね。ブラックベアーの方も痴話喧嘩のようですし、場所も村から相当離れた場所なので脅威にはならないでしょう」
「方角とかわかる?」
「北東の方向になりますね。丁度ビースト共和国のある方向です」
「そうなんだ……」
――いや、ビースト共和国ってここからどこやねん。私、地理苦手なんだよなぁ……。あんなの暗記科目じゃん。というか、この世界の地図を見た覚えないし。まぁ、ビースト共和国はちょくちょく耳にするから何となく記憶してるけど、どんな場所なんだろう。王国というわけじゃないから、ルークス王国のような王政国家ではないのか。じゃあ、内閣総理大臣とかがいる民主主義国家なのかな。
「ともかく、ブラックベアーが村に万が一降りてきたらきたらすぐに連絡して」
「了解です」
――ちょっと警戒しすぎな気もするけど、ドリミア教会や正教会の実態がわからない以上、ブラックベアーという単語だけで敏感に反応しちゃう。もう少し、可愛い魔物いないのかな。毎回毎回、ザ殺人鬼みたいな見た目のブラックベアーに出会いたくない。
私はレクーを厩舎から出し、荷台を引いてもらって子供達の住む家にまで向かった。
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