魔法陣の動作確認
「はぁ、はぁ、はぁ……。メリーさん、もう一個付け足しときます。人の顔をおっぱいで包むのはやめてください。窒息します……」
「えぇ~。それじゃあ、抱きつけないじゃん」
メリーさんは残念そうにつぶやいた。
「後ろから抱き着けばいいじゃないですか」
「後ろからだと、なんか密着している感じしないのよね~」
「とにもかくにも、谷間の汗が凄いですし、建物の中にいったん入ってください。涼しいですから。あと、ルドラさん、鼻血がすごい出てますよ。熱中症かもしれないので涼しい建物の中に早く入ってください」
「あ、本当だ……。すみません、眼福でした……」
ルドラさんは自分の手を鼻に持っていき、血が付いているのを確認して苦笑いをしていた。
――この人も大概変態だ……。ほんと、これだから男は皆、おっぱい大好き人間なんだから、困っちゃうよ。私もあれくらいおっぱい大きくならないかなぁ……。って! 嫉妬している場合ではない!
私はメリーさんとルドラさんに牛乳を作っている施設内に入ってもらった。
「すずしぃ~。なにこれ。この建物の中すごい涼しいよ」
「ほんとですね。外とは大違いです」
二人とも驚いてくれたようでよかった。
「これからもっと暑くなりますし、なるべく室内で過ごすようにしてください。こまめな水分補給は必ずしてくださいね」
私は水の入った牛乳瓶をメリーさんに渡す。
「ありがとう、キララちゃん。こんなに涼しい場所で夏に仕事できるなんて……。こりゃあ、もっと頑張らないと駄目だね!」
「ほどほどにしてくださいね。メリーさんが仕事をしているだけで男性陣のやる気が違いますから」
「ほよ?」
メリーさんは自分の美貌をわかっておらず、首をかしげて大きな胸をぽよんと動かした。ほんと、無自覚って怖いね。
「じゃあ、メリーさん、午後の仕事も頑張ってくださいね」
「うん。わかった。頑張るよ」
メリーさんは両手を握りしめ、脇を閉めた後一度ぴょんと跳ねて意気込む。すると……バキッという音がした。
「あ……、またやっちゃった。ごめんね、キララちゃん。ブラジャーが壊れちゃった」
メリーさんの胸はブラジャーで圧迫されていたのか、一回り大きく膨らむ。
「じゃ、じゃあ、私がそのブラジャーを……」
ルドラさんは何を思ったのか、メリーさんに触れようとした。
「ふっつ!」
「うごぉぉ……」
メリーさんは思いっきりルドラさんの股間を蹴り、ルドラさんは情けなく這いつくばる。
「わ、私はただ……、そのブラジャーがどうなっているのか知りたかっただけなのに……」
ルドラさんは商人であるため、私の作ったブラジャーに興味があったらしい。いや、どうだろう。ただただ、メリーさんの付けていたブラジャーが欲しかっただけなのでは……。
とりあえず、私はメリーさんに新しいブラジャーを渡し、被服室で着替えてきてもらう。
「うぅ……」
ルドラさんは地面に未だに這いつくばっていた。
「てい、てい……」
私は貧乳代表として、おっぱい星人を倒す。靴の先っちょでルドラさんの頭を小突き、ちょっと満足した。
「さてと。他の箇所は魔法陣がちゃんと作動しているのかな」
私は、フロックさんがいるはずのバートン場の方に向かった。
「ふっ、ふっ、ふっ!」
「なかなかやるな。もう少し、腰を落として前のめりになれ」
「は、はい!」
バートン場ではフロックさんとお爺ちゃんがいた。加えて、カイト君と他の子供達が見守っている。
私はバートン場の周りでフロックさん達を見ているカイト君のもとに向った。
「カイト君、フロックさんとお爺ちゃんは何しているの?」
「あ、キララさん。えっと、お爺ちゃんはフロックさんにバートンを売ってもいいか考えているみたいです」
「なるほど……。それで、今のところどんな感じ?」
「フロックさんは凄く上手です。学園の授業でちょっと齧っただけだと言ってたんですけど、今は僕より断然上手くなっちゃいました」
カイト君は子供たちの中でバートンのことが一番好きだ。なので、レクーが非番の時はいつも一緒にバートンに乗る練習をしている。
レクーが補佐してくれるのでカイト君の騎乗もたいしたものなのだが……、やはりドラグニティ魔法学園を卒業しているフロックさんに掛かればバートンに乗るのもおちゃのこさいさいというわけか……。
「はぁ、はぁ、はぁ……。師匠、どうっすか。俺にバートンを売ってくれる気になりましたか?」
「筋は良いな。だが、まだバートンを道具のように扱っている部分が見て取れる。バートンは相棒だ。腑抜けた心が抜けるまでは売れんな」
「わ、わかりました……。俺、もっと頑張ります!」
――お爺ちゃん、バートンに対して本気すぎるからなぁ。まぁ、本職だし、仕方ないか。今、フロックさんの乗っているバートンは舎弟君かな? へえ、大出世じゃん。
私はバートン場の周りに作られた休憩所、というかバートンの競争を見るために作られた観客席と言うべきか。その場所に子供達を移動させる。
「あれ、この場所、すごく涼しいです。どうなっているんですか?」
カイト君の額にも汗がにじんていたので、私はハンカチで汗を拭き取ったあと、水の入った牛乳瓶を子供達皆に渡す。まぁ、実際に運んでるのはベスパなんだけど。
「えっとね、この場所には魔法陣が設置されているから涼しくなっているんだよ。この魔法陣は建物の中とか、厩舎にも設置されているから、夏の暑さは心配しなくていいからね」
「夏、暑くないんですか……」
「うん。涼しい場所を作ったから、熱くて辛い時はすぐに移動して水を飲んで休むんだよ。皆も、わかった?」
「はい!」×子供数人。
「じゃあ、カイト君。午後の仕事も頑張ってね」
「はい! 頑張ります!」
私はバートン場の魔法陣の効果を確認したと、モークルの厩舎へと向かった。
「はわわわ……。な、なにしているんですか……」
「麗しき、ビューティフルレディー。私にあなたの力に是非ならせてください」
モークル達のいる前でカイリさんがテリアちゃんの手の甲にキスをしながら跪いている。
「だ、駄目ですよ……。私はお兄ちゃんが……」
「えっと、何の茶番ですか?」
――カイリさんのキザっぽくて面倒臭い動作は可愛い子達にしているのかな? 貴族って大変。だなぁ。
「テリア!!」
「お、お兄ちゃん……」
テリアちゃんがナンパされているところに一番来てほしくない人が大声で走ってきた。ちょっと前よりも確実に早い。私の髪が靡くほどの速さで走るとか普通あり得ないもん。でも、その少年はやってのけた。まるで私の妹のようだ……。
「おっと。これは、これは。麗しきレディーのお兄様であられますか。大変申し訳ございませんでした。レディーが困ってらっしゃったので、お力添えをと思いましてね」
カイリさんはテリアちゃんから離れ、両手を顔の近くにあげて敵意が無いことを示す。
「テリアに手を出したら許さないぞ……」
ガンマ君はテリアちゃんの前に立ち、もの凄い剣幕でカイリさんを睨みつける。
「お、お兄ちゃん、喧嘩は駄目だよ。あと、カイリさんは悪い人じゃないから、そんな怖い顔しないで」
「テリア、何もされてないか。うん、大丈夫かな。髪がちょっと乱れてるよ。綺麗に解かないと」
ガンマ君はテリアちゃんの顔を見回し、全体をよく観察したあと、あまり乱れていない髪を、櫛を使って綺麗に解いている。さすがにシスコン過ぎるのだが……。まぁ、手を出している状態のシスコンではなく重度な過保護の状態に近い。
カイリさんは自分が元凶なのに微笑ましい笑顔を向けていた。何だろう、カイリさんもシスコン気質があるのか。今、ガンマ君を見ている顔は、あぁ~、私も昔こんな感じだったなぁ~と言った表情である。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします。
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。
毎日更新できるように頑張っていきます。
これからもどうぞよろしくお願いします。




