牧場の環境を改善する
「さてと、これで畑仕事も終わり。あとは昼食を得て午後の時間に子供達に給料を渡すだけだ」
私は走りながら、ベスパは空を飛びながら牧場に向った。
体力を少しでも付けておきたい一心で、始めた長距離走は今でも続いている。といっても一ヶ月ほどしか経っていない。それでも、毎日走っていたら初めほど疲れなくなった。もちろんシャインに勝てる訳じゃないが、陸上部時代の感覚を取り戻してきた気分だ。
「ふっふっ……、はぁっはぁっ……。はぁ~、やっと着いた」
私が牧場に着くとフロックさん達がバートンの姿を未だに見ていた。どうやら、自分の相棒を本気で探しているらしい。カイリさんやルドラさんも混ざってバートンを見ているのを考えると、二人もバートンが欲しいのかもしれない。
日が真上にやってきて、昼食の時間となる。日差しだと熱いので皆、日陰で過ごしており、モークルやバートン、メークルたちも同じような状態だった。
部屋の中や、風通しの悪い場所が熱すぎるせいで従業員達や動物達が熱中症になってしまう場合が考えられる。そうならないために、牧場全体の気温に気を付けないといけない。
メークルは温度に敏感で毛の質にかかわる。来年に良い毛並みが取れるかどうかは環境による要因が大きい。もちろん環境以外にも関係してくるが、今は環境を改善していきたい。
「じゃじゃ~ん。温度調節器の付き、辺りの熱を吸収する魔法陣~」
私は宝の地図のように丸めた紙を頭上に掲げる。
「姉さん、紙は普通に出しなよ……」
環境の改善に使用するのは魔法陣だ。ライトが作り出し、改良していった魔法陣で、あたりの気温を奪い取れる。
奪い取った熱は地下に溜められ、お湯を沸かすときの力として借りられる。絶対に無理だと思っていたのだが、太陽光を魔力と練り混ぜて石状に変えられるらしく、新たなエネルギーを作り出せてしまうと言った。訳が分からないので割愛する。
「えっと、この魔法陣を設置しておけば熱が奪われるんだよね?」
「そうだよ。空気中の温められた熱を奪って魔力と共に結晶化させる。魔石が魔力だけの塊だとするなら、熱力と魔力の塊を熱石と言った具合かな。何に使えるかどうかは置いておいて、魔法陣の置いてある一定区域は熱が奪われるから涼しくなるはずだよ。流す魔力量で温度調節も出来る」
「また、変わった魔法陣を作ったね。『冷やす(コールド)』とは違うの?」
「まぁ、原理は一緒だよ。熱を奪って溜めるか溜めないかの違いしかない。だから、気にしないでいいよ」
「そ、そうなんだ……。じゃあ、この魔法陣は『コールド改』という名前にしよう」
「はは……、い、いいんじゃないかな……」
ライトは苦笑いしながら、私を哀れみの眼で見てくる。
私達は子供たちの熱中症を考慮し、牧場の厩舎と施設内は殆ど『コールド改』を天井に張り、冷たい空気が上から落ちてくるようにした。牧場の土地は一定区域を涼しい空間にしておく。全体を涼しくすると逆に風邪を引いてしまう可能性があるため、体温を調節できるようにしておく。
「ライト、夏の間は良いけど冬は寒いから『ヒート』の魔法陣も用意しておいてよ」
「わかってるよ。もう、準備してあるから安心して」
「そうなんだ……。さすがに早いね……」
私とライト、ビー達で魔法陣を張り付けていき、牧場全体を涼しくする準備は整った。
「よし、あとは魔力を流すだけだ。出力は魔力量の多い姉さんに頼るけどいいかな?」
「うん。任せておいて」
――ベスパ、ビー達を魔法陣のもとに向かわせてくれる。
「了解です」
ベスパは他のビー達に命令し、魔法陣一枚に対し、一匹向かわせた。
「キララ様、魔法陣にビー達を配備できました。魔力を流せばいいですかね?」
――うん、お願い。少しずつでいいからね。一気に寒くし過ぎても困るからさ。
「了解しました」
ベスパが光るとビー達に魔力が流れ、魔法陣が光った。そのお陰であたりの熱が奪われ始め、冷たい空気が上から落ちてくる。
「おぉ……、涼しい。あんなに熱かったのに、一瞬で過ごしやすい空間になった。この涼しい空間をどれだけの間維持できるの?」
「魔力が切れなければずっと涼しいままだよ。一定量を入れておけば自動的に動くようになってる。普通に止めたければ魔力の巡回を止めればいい。たまった熱はお湯を沸かせるくらい簡単に出来るから、冬とかに使うと便利だよ」
――この村には電気を使った暖房や石油を使ったストーブなんかもないから、家の中にある暖炉で部屋をあたためるんだよな。でも牧場には暖炉なんてないから、極寒だし、ライトの作った熱石がいい仕事をしてくれそう。
私達は牧場の様子を見に行くため、巡回した。
「うわぁ~。すずし~。ほんと夏は汗かくから大変なのよね~。特にこことか~。ルドラさ~ん、布を持っていませんか~」
「も、もも、もちろん。持ってますよ。どうぞ」
外で働いていたメリーさんは全身汗だくの状態で大きな胸もとをパタパタと仰ぎ、働く大人の女性感を漂わせていた。そのフェロモンにおびき寄せられたのか、ルドラさんはフラフラと寄っていき、布を渡している。
手を出している訳ではないのでいいが、万が一出したときにはビー達で肉を食い尽くしてもらおうか。
私が脅迫するような視線をルドラさんに与えると、ルドラさんは涼しい場所ではないのに全身から血の気が引いていくような表情をしていた。
「あ~、キララちゃん。お疲れさまぁ~。むぎゅ~っと」
「ふぐつ!」
メリーさんは私に気づき、胸をぶるんぶるんと跳ねさせながら走ってきて私に抱き着いた。
作業着越しからでもわかる乳の柔らかさ、漂う雌臭……。
――メリーさん、こんなに色っぽいのにまだ一四歳なんてどうかしてるよ。私が女の子じゃなかったらほんと性癖ねじ曲がっちゃう。ルドラさんは被害者だと思うと少し可哀そうだ。もう婚約者がいるというのに……。
「ぷはっ~。め、メリーさん。誰彼構わず抱き着くのはやめてください。相手の子の将来が心配です」
「え~? だってさ、むぎゅ~っとしてあげると私の方がうれしくなるんだよ。なんか心があったかくなる感じ。でも、キララちゃんが止めろって言うなら仕方ないかな」
メリーさんは少し悲しそうな顔をした。
――メリーさん、そんなに誰かに抱き着くのが好きだったのか。なら、条件を付ければ何とかなるかな。
「あの、メリーさん。一つだけ条件を付けます。その条件さえ満たせば抱き着いても良いので、ちゃんと守ってくださいね」
「え、いったい何を守ればいいの?」
「抱き着く相手は女性だけにしてください。男の子と男性には抱き着いたらだめです。わかりましたか?」
「男性はわかるけど、男の子も駄目なの?」
「はい。そうしないと男の子の将来が心配です」
――あのライトですら巨乳の女性に靡くくらいなんだから、こんな乳爆弾に抱き着かれた時点で男の子の性癖が歪んじゃうよ。そう考えるとカイト君はよく耐えてるよなぁ。まぁ、お姉ちゃんだと思っているからか。でも、今から離しておかないと将来どんな大人になるかわかったものじゃない。
「じゃあ、キララちゃんには抱き着いてもいいってことね。よかったぁ~。キララちゃん、むぎゅ~っと」
メリーさんは私の鼻と口を乳で塞ぐように抱き着いてきた。
「ふぐぐぐう!!」
――だから、頻度を考えてって! あぁ……、またなんか心地よくなってきた……。
「キララ様、窒息しかけています。このまま行くと死にますよ!」
ベスパはブンブンと翅を鳴らし、警告音を発した。
――はっ! またしても死にかけるところだった。この殺人おっぱいめ。こんな凶器を堂々と持ち歩くなんて、銃刀法違反だ! 銃刀法違反に、おっぱいを含めるよう法律改正を求む!
私は自分の凶器の無さに絶望し、メリーさんの大きな胸を手で押し出して離れた。
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