木の根状に広がっている
「キララ様、荷台の修繕が終わりました」
「そう、お疲れ様。にしても、ビーの数が増えた気がするけど、なんで?」
「ま、外が温かい方がビー達も動きやすいんですよ。集団で行動すれば寒さにも対応できますが、一個体で移動すると凍死します。でも、夏であれば一個体で移動しても全然平気なので仕事を一匹一匹に振り分けられるんです」
「えっと、今、家の周りを飛んでいるビー達は皆、仕事をしている訳ね。何の仕事をしてるの?」
「今はキララ様の部下を増やすため、ビーの巣をせっせと作っているところです。以前の戦いで数が減りましたし、増やしておかなければならないので、森の中に大量のビーの巣を作ろうとしています」
「あんまり増えすぎても、困りものだし、村の人たちに迷惑が掛かるから、なるべく目立たないようにやってよ」
「わかっていますよ。まぁ、来年の春ごろには約十倍の数になっていると思います。その翌年には一〇○倍から一〇○○倍を目途に増やしていくつもりです」
「そ、そんなに増えるの。今でさえ大量なのにこれ以上増えたら困るよ。ディアの増殖でさえ大変なんだからさ」
ディアの方も繁殖力が強く、放っておけばどこまでも増殖するため、今は繁殖するのを抑えてもらっている。
ブラットディアが溢れかえってしまう村なんて誰も絶対に住みたくない。
ビーもブンブン飛んでるし……。
「あとさ、しれっと住みついてるけどネアちゃん。私の部屋の天井につり床みたいな巣を作ってるよね」
私は髪留めに擬態しているネアちゃんに話かける。
「キララさんの近くが一番心地よくてですね。自然と家の中に住みついてしまいました」
「ネアちゃんは森の中で同種を増やすのが目的なんじゃなかったの?」
「それが……、ベスパさんが手を回してくれたらしくて多くの雄と雌が引き合わせられて大量に繁殖しているそうなんです。なので、もう森に居座る必要がなくなりました」
「ベスパはアラーネアたちの繁殖を手伝ってるの?」
「はい。アラーネアたちの繁殖の際、キララ様の魔力を分け与えれば増える子供達にも魔力は付与されます。つまり、先駆けておいたわけですよ。さすが私。やはり私は仕事の出来る社畜ですね」
ベスパはどや顔で自分の行動を賞賛している。何もカッコよくないけどね。
ベスパは送粉者(花粉を運ぶ虫たちの総称)ならぬ、他の虫たちの繁殖を助ける恋のキューピットになっていた。もちろん、花粉を運ぶ役割も担っていると思うが、私の魔力を広げるために増えやすい昆虫をわざわざ狙っているのが何とも計算されている。
「そんなに仲間の数を増やして制御できるの? あんまり増やしすぎると面倒なことにならない?」
「いえ、数がどれだけ増えてもキララ様に逆らうなんて出来ませんよ。もしそんな行動を起こしたら他の虫たちが速攻食い散らかします」
「うぇ……容赦ない。というか、命が軽い。まぁ、虫はそんなものか」
「私達の潜在能力として様々な場所に分布し、数を増やせます。キララ様の魔力を持った仲間が大量に増えれば増えるだけ、キララ様の魔力を溜めておけます。この世界のどこにいても魔力が尽きないような状態にしておけば、来たる戦いにも有利に働きますし、情報も手に入ります」
「ま、ブラットディア達にでも任せればどんな場所にでもいられそうだけどね」
「ディアたちは驚異の生命力を持っています。本来苦手な極寒地でもキララ様の魔力を持っていれば生存が可能となりますから、世界のどこからでもディアたちの力を借りられますよ」
「ほんと……、毎回思うけど私のスキルは規模が大きすぎるんだよなぁ。本当、どうなっているんだろう。でも、強くなれるのなら強く成っておいた方が得だし……」
「そうですよ。キララ様は無限大に強くなります。なんせ、大量の仲間の魔力を受け取り続けている訳ですから、魔力量は膨大になり、使える量と溜められる量が増えます。そうなれば攻撃の回数や威力を強められるんです」
「無限大に強くなるとか言い過ぎでしょ。限界はさすがにあるって。私はただの少女なんだからね……」
「キララ様の下には私を含め多くの配下がいるのですよ。その者達の力を総動員するとなると、木の根状に力は広がって行き、結果、全てがキララ様の力になるのです。木の根は永遠に広がり続け、世界中を包み込むほど拡大すれば、キララ様が世界の頂点に君臨してもおかしくないのですよ!」
ベスパは大きな声で高らかに喋っていた。どこか悪魔のような口調で少し恐ろしい。
「まぁ、私も体力を着けて強くなる努力はするし、力の源はベスパに任せるよ。体を鍛えて剣でも振れるようになれば、私の戦いの幅も広がるでしょ」
「そうですね。ブラックベアーのように魔法が効かない魔物は多く見受けられます。そのため、冒険者の方々も剣や槍、斧などの武器と一緒に魔法を使うと考えられますから、魔法一本で戦うのはこれから厳しくなるかと。まぁ、キララ様と私の合わせ技である爆発は魔法と物理攻撃の両方を兼ね備えた攻撃ですから、大概の敵には対処できますけど、場所を選ぶのが現状です」
「うん、小さな爆発じゃ威力が足らないし、大きすぎると周りに被害が出る。何かしら他の方法で攻撃手段を獲得しないといつか、お荷物になりそう……。あ、ベスパ。ビーンズの葉を間引きしよう」
私は畑に生えたビーンズの若葉で弱弱しい芽を摘む。
「なぜ、せっかく生えているのに抜くのですか?」
「ひと纏まりの内で一番大きい葉以外は抜いて栄養が大きな葉に行くようにするの。そうした方が、育ちが良くなるでしょ」
「なるほど、強い個体だけを残して弱い個体は捨てるのですね。つまり、強い個体にのみ栄養を与えることで育つ個体は強い個体しかいなくなる。これはビー達の育児でも使えるかもしれませんね!」
ベスパは翅をブンブンと鳴らし、口角をあげた。
「まさか、弱いビーの子は全部捨てる気?」
「いえいえ、戦闘要員と情報収集要員、魔力回収要員といった具合に分けて育成すれば、むらなく育てられるじゃないですか。戦闘要員は強く大きな個体に育て上げ、情報収集要員は小さく速くといった具合に長所を伸ばせるようにするんです」
「そんな、難しい選抜がビーの子の頃からできるの?」
「キララ様の魔力をより多く受け取れる個体は、成虫になっても強い傾向にありますから、卵の時点である程度わかります」
「そ、そうなんだ……。なんか想像したら気持ち悪くなってきた」
私はビーの子達が六角形の部屋の中でうにうにしている状態を想像してしまい、気分が滅入る。そのため、土をさっさと弄り、ビーンズの葉を一芽だけにした。全部で十芽くらいになり、水をさっとあげる。
「大きくなれ、大きくなれ~。増えたら増えた分だけ、食べれるし売れるし、私の夢に近づくのだよ~」
私はトゥーベルの方も間引きして根に繋がる葉を一本にする。こうすると根に栄養が集中して大きく育ちやすいのだ。
「ズミちゃん、どこにいるの?」
私は土に向ってオリゴチャメタのズミちゃんを呼んだ。
ズミちゃんの頭が柔らかい土の中からモグラたたきのモグラのようにズボっと出てきた。頭がツルツルテカテカで光を反射しており、とてもさわり心地がよさそうだ。
私はズミちゃんの頭を撫でてあげる。ひんやりとしており、水晶玉のようだった。弾力はゴムボールくらいかな。
「こんにちはキララさん。何か御用ですか?」
「えっと、土の具合はどうかなと思ってさ。植物が育ちやすい環境ならいいんだけど、雨や風で土の質が変わっちゃったかもしれないし、教えてくれないかな」
「土の様態ならとてもいいですよ。森の中よりずっと快適な土壌になっています。でも、これ以上栄養が高くなると逆に育たなくなる可能性がありますね。なので、この状態を保つ方向で考えた方がいいと思います」
「なるほど、ありがとうね。じゃあ、ベスパ、ズミちゃんの食事を持って来て」
「了解です」
ベスパは村で拾った紙パックや瓶を持ってきた。どれもこれもゴミなのだが、ズミちゃんにとってはとても美味しい料理らしく嬉しそうに食べていった。その光景があまりにも異質なので子供達には絶対に見せられない。テレビ番組ならモザイク確定だ。
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