『消滅(クリア)』
私は大量に作られた牛乳パックと牛乳瓶の二種類をどうするか考えながら、ライトとシャインの元に戻った。
「あ! 姉さん、ちょっといい!」
ライトは瞳を輝かせながら私に訊いてきた。
「ん、どうしたの?」
「ちょっと試してみたい魔法があるんだ。その牛乳を使ってもいい?」
ライトの指先に牛乳が入った桶が二個あり、一個はさっき飲んでしまったが、もう一個の桶の中に牛乳がまだ入っている。
「うん、いいけど、何をする気?」
――牛乳を使って試したい魔法……。いったい何だろう。ぱっと思いつかないな。
「ありがとう! さっきの工程を行うのもいいんだけど、もうちょっと楽にできる方法があるかもしれないんだ」
ライトは牛乳の上に手を翳し、空気がぴりつくほど集中している。
先ほどは牛乳だけが光っていたが、今回はライトまでもが淡い緑色を放つ。ライトを中心として緑色の魔法陣が地面に浮かび上がった。
その場にいる私たちの髪がふわふわと持ち上がるほど魔力があたり一帯に充満する。
ライトは練り込んだ魔力を体内で循環させる。魔力の質を高め終えた彼は詠唱を放った。
「『消滅』」
牛乳が光り、漂っていた魔力が一気に散らばって行く。
「よし! これで安全に飲めるはずだよ」
ライトはやり切ったと言う表情を浮かべ、呟いた。
「え……。どういうこと……。いったい何をしたの?」
私はいったい何が起こったのか全く理解できず、ライトに質問してしまった。
「牛乳の中にある悪い物を消したんだ。『クリア』はそう言う魔法だよ。僕が試行錯誤を繰り返して作ったんだ! どう、凄いでしょ~」
ライトは無邪気に笑いかけてくる。
――この世界に『クリア』という魔法があるかどうかは知らない。そもそも私はライトにお母さんから教えてもらった魔法の基本しか教えていない。そんな最低限の知識だけで『クリア』を作ってしまったライトは……やはり天才なのかもしれない。
「いや……、凄いもなにも……。革命だよ。もし『クリア』だけで安全に飲めるようになるなら超時間短縮だよ!」
私は今更興奮する。
興奮しすぎて頭に血が上り、頭痛が起きそうになるがそんなことはどうでもいい。
「行ける! 行けるよ! ライト、あと何回『クリア』を完璧に使える? 牛乳は食品だから絶対に悪いものを入れられないんだよ、だから完璧な処理を行わないといけないの」
「え~とね……。完璧に行うなら、あと桶八杯分くらいかな」
ライトは顎に手を置き、自分の状態をしっかりと把握していた。
「よし! 私とシャインはさっきと同じように牛乳を搾ってここまで運んでくる。次の桶を運んでくる間にライトは『クリア』を掛けておく。三人でこの工程をあと八回繰り返そう」
「わかった! それじゃあ私はミルクから牛乳を絞ってくる!」
シャインは空になった桶を持ってミルクのもとへと向かった。
「桶一杯が多分三リットルくらいで……、牛乳パックに入る量が一リットルだったから最低でも二四パック入れられる。家に一パック、お爺ちゃん家にも一パック、この村の家に一パックずつ配っていこう。配れなかった家は明日に配りに行こうかな。でも、ミルクの負担が大きいよね……」
ミルクの負担を考えたが、チーズもすでに妊娠していたため、ミルクの負担は思ったほど大きくないという結論に至った。
私達は昼頃になるまで乳を絞り、牛乳パック詰め作業を行った。
「よし! これが今日最後の『クリア』だ……」
ライトは二個の桶に『クリア』を掛けた。
「ふ~、お疲れさま。ライトとシャインは、よく頑張ってくれたね。ありがとう」
私はライトとシャインに感謝した。
「ううん、楽しかったから全然いいよ! 牛乳もおいしかったし。でも、これだけ取れたってことは、明日も牛乳が飲めるの!」
シャインは瞳を輝かせながら私に質問してきた。
「うん、毎日飲めるようになるよ」
「やったぁ! それなら私、毎日でもお手伝いするよ!」
シャインは数回飛び跳ね、空中で後方宙返りを行う。喜び方が軽業すぎる……。
「ほんと! 力持ちのシャインが手伝ってくれたら凄く助かるよ。でもシャインの好きなことをしてからでもいいからね」
「そう……、じゃあ、私は朝に剣術の練習をしてから手伝いに来るよ!」
「僕もそうしようかな、『クリア』が無いと姉さんも大変でしょ?」
「二人とも……、本当にありがとう。私がお駄賃でもあげられたらいいんだけど……、まだそんなお金ないんだよね」
「私はお金なんていらないよ。だって木剣を振っているだけで楽しいもん! なんなら乳絞りも楽しい! それだけで十分!」
「僕も別にお金はいらないかな~。あるには越したことないけど、今は魔法のことを考えてるだけで時間が潰せるし、お金を持ってる必要がないんだよね」
「二人とも無欲なんだね……」
――私は大金が欲しくて仕方がないよぉ~。心が醜いおばさんだよぉ。
私は無垢な七歳児に当てられ、心の醜さが浮き彫りになる。
「よし! 仕事を切り換えて、この牛乳パックを皆に配りに行こう!」
「うん!」
私とライト、シャインはそれぞれ二パックずつ、ベスパに残りの一八パックをすべて持ってもらった。
「キララ様! 私だけ量が多くないですか!」
ベスパは頭上を飛びながら叫ぶ。
「ベスパが牛乳パックを大量に作ったんだから、責任もって運んで」
「も~! ビー使いが荒いんですから!」
ベスパはなんだかんだ言って、一八パックを全て運んでくれた。
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