魔法陣で文字の練習
私は指先に魔力を溜め、魔法陣の基本を忠実に守り、描いていく。
魔法陣の基本は主に丸型で呪文も外枠にそって描いていく。この工程が凄く難しい。
構築した呪文を書き終わった後、内側に円をもう一度描き、別に構築した呪文を書き込んでいく。
まぁ、ビザ生地の周りから具材を乗せていく感じと同じだ。ピザ生地の大きさと乗せる具材の密度で魔法の難しさは決まると言っても過言じゃない。
超大きな魔法陣に大量の文字で構築された呪文が書かれていれば、それはもう超級魔法だ。
ライトが以前構築し、大量のアンデッドを倒すために使用した『クリア』の魔法陣が超級魔法といっても過言ではない大きさと密度だった。
「姉さんは魔法陣を描くのは上手だから、呪文の文字を意識して初級魔法を全部ルークス語で書いて行こう」
「わ、わかった」
私はライトが使用している魔法『ライト』で照らされながら、紙と向き合う。魔法陣に『ファイア』と『ウォーター』『ウィンド』『ストーン』『ボルト』『ライト』『ドレイン』の呪文を書いた。
上から炎属性魔法、水属性魔法、風属性魔法、雷属性魔法、土属性魔法、光属性魔法、闇属性魔法の七種類の初級魔法だ。この世界には数多くの属性魔法がある。基本はこの七種類らしい。組み合わせて別の属性を作ることも可能だ。『ドライヤー』や『ヒート』は応用の魔法である。
「んぐぐぐ……。あぁあ~~、書けた」
私は椅子の背もたれに背中を押し付けて伸びをする。
「お疲れ様。頑張って書いているってわかる字だね……」
ライトは私の書いた呪文を見て苦笑いしている。どうやら相当読みづらいみたいだ。
私は字がもともと綺麗な方だったので凄く悔しい。そう思い、何度も練習しているのだが五年経っても上達しない……。
「でも、呪文で間違っている部分は無いから、入学試験の問題で、こういう字を書いても正解にしてくれると思うよ。まぁ、採点する人がどんな人かにもよるけどさ」
どうやらライトは問題を採点する人が私の文字を見て不正解と見なしてしまうのを危惧しているらしい。
――まぁ、日本にも字に厳しい先生いたなぁ。文字が汚いから不正解とか、名前の文字が綺麗に書けていないから減点とか、ちょっと理不尽すぎませんかね……、と思ってしまう。
日本ではまだよかったがここは異世界。
加えて入学しようとしている学園は貴族が多い。まぁ、教授になる人は皆、貴族出だと思うので採点する人も貴族の可能性が高い訳だ。そうなると汚い字を見ただけで不合格にされる可能性は十分ありうる。
「姉さん、お手本を透かしてなぞりながらしっかりと書いてみよう。綺麗な文字を真似していれば、必然と上手くなるはずだよ」
ライトは魔法陣が描かれた紙を私に渡してきた。文字は炭で書かれているので見やすい。
「わかった」
私はライトから紙を受け取ると、新しい紙の下に引き、透かして見る。ライトの書いた魔法陣をなぞりながら八枚練習した。
「はぁ、はぁ、はぁ……。もう、集中力が切れて来たよ……」
「姉さん、最後の一枚は透かさずに自分の力で描いてみよう」
「う、うん。よし! 最後の一枚。頑張って描くぞ!」
「その意気だよ、姉さん」
私は初めと同じように何も見ず、透明な魔力を使って魔法陣を描いて行った。ニ〇分ほどかけて完成した魔法陣をライトに見せる。
「ふむふむ……。まぁまぁいい感じになってると思うよ。姉さんが初めに書いた奴と見比べてみて」
ライトは二枚の紙に魔力を流し、光らせた。
「本当だ。初めよりは綺麗に描けてる。でもまだ粗いね……。ライトの文字みたくカッコよくない」
私の文字は活字書体に見え、ライトの文字は筆記体に似ている。
ルークス語は英文を書くときのような筆記体なので、漢文のような活字書体では不格好に見えてしまう。
私は意識しているのだが、一五年以上使い続けた活字書体は頭から中々消えず、体の方が覚えているようだった。魂の同調とでも言うべきか、二〇代から英語の勉強をしている感覚に近い。
「はぁ、練習あるのみだね。でも、今日は疲れたからもう寝よう。寝不足は体に悪いからさ」
「そうだね。じゃあ、この最後に描いた魔法陣は残しておこう。自分がどれだけ成長したかわかる指標だからさ」
「うん。そうだね。あ、そうだライト。ライトの文字を写した紙も残しておこう。ちょっとした本が作れるかもしれない」
「いいね。二年後には姉さんの描いた魔法陣がいっぱい乗っている魔導書が出来ているかも」
「でしょ。だから残しておこう。毎日一〇枚描いて行けば一〇冊の魔導書になるはず。年月が一年半くらいだから……。五〇○日くらいかな。まぁまぁ分厚い魔導書になりそう」
「初めの期間は練習だから同じ魔法陣が続くかもしれないけど、毎日練習してたらさすがに上手くなるはずだから実質三○○ページくらいの魔導書になるんじゃないかな」
「なるほどね。そうなったら、村の子供達に魔法の教科書としてちょっとは使えるようになるかな?」
「十分なりえるとおもうよ。僕が作った魔導書はデイジーちゃん専用だけど、他の子供達にもわかりやすく伝えられるような本を作れるようにいろいろ改良してみるよ」
「そうしたら子供達の魔法の練習も少しは効率が良くなるかもね。子供達が魔法をつかえるようになれば、日頃の負担も軽減できるし、牧場の拡大も用意に出来る。そう考えると魔法の教育は大切になってくるっぽい。でも、犯罪ギリギリだよ」
「そこが問題なんだよね。僕が作った魔法書は僕が作ったなんて誰も思わないし、デイジーちゃんが持っていることも知られない。もし、見つかりそうになったら僕の手もとに戻ってくるよう細工がしてあるから、売られる心配もない。これくらい考慮してやっと一冊貸し出せている状況なんだ」
「ほんと教会が魔法の教育を教育機関以外でしてはいけないなんて制約を作るからこんな面倒な真似をしないといけないんだ……。何で教育を制限しているんだろう。人は皆教育を受ける権利があるのに……」
「そりゃあ、貴族が有利に立つためにきまっているよ。もし貴族以外の者が教育を受けて賢くなったら自分たちの地位が危ういでしょ。僕みたいな異端児が貴族ならいいけど、僕はどう見たって姉さんの弟で平民だ。僕も本気を出せば貴族になれる可能性すらある。こういう子が増えないようにしているんじゃないかな?」
「まぁ、それはあるかもね。自分の地位を守るために危険因子を生み出さないよう教育を制限しているのか……。それで国の安泰につながるとは思えないけどな……」
「ほんとだよね。貴族が力を持っていられるのは平民の税金が必要なのに平民が貧乏になったら貴族自体も貧乏になる。自業自得だよ。ま、この村は見放されているから税金がないんだけどね」
「はは……。でも、いつか払わないといけない時が来るよ。それか、私達でこの村に税金の体制を作るのも面白いかもね。牛乳を少し値上げして、税金にするの。税金は村の教会や施設の設備などなど、色々向上させられるかもよ」
「面白いけど、今の僕たちにはまだ難しいよ。税金を導入するってことはただの村から街になるってことだし、この場所にそんな価値はないよ」
「確かにそうだね。少し話が飛躍しすぎちゃったみたい。って、そろそろ寝ないと明日に支障をきたしちゃうよ」
私は硬いベッドに飛び乗った。そのままライトを手招き、布団にくるまる。ベスパは丸太の穴に、ネアちゃんは天井のアラーネアの巣に、ディアは天井裏に向かい就寝するようだ。
「えへへ~、ライト、むぎゅ~」
私はライトにくっ付く。
「姉さん、くっ付き過ぎだよ……。息苦しい」
「え~、いいじゃん。姉弟なんだからさ。二人で寝るなんて久しぶりだし。ちょっとくらいくっ付いて寝てもいいでしょ~」
「ま、まぁ、そうだけど……」
私はライトに抱き着き、眠る。別に弟に抱き着いて寝ようが犯罪にはならない。なんせ姉弟なのだから、しっかり合法だ。
前世、弟妹がいると言う現実に憧れていた私にとってライトは可愛くて仕方のない存在なのだ。
自分より出来の良い弟だけど、それがどうした。私はライトやシャインのためならなんだって出来ると思う。まぁ、夜の店は無理だけど……。でも、二人が学園に行きたいと言うのならお姉ちゃんは一生懸命に働いてお金をいっぱい稼いで、絶対にいかせてあげる。
二人に無償の愛を注げるのは私とお父さん、お母さんだけ。
昔から愛を注いできたが未だに衰えを知らず、ずっと注げそうだ。
きっといつか、姉さんうざい! どっか行って! とか言う反抗期が来るまで、お姉ちゃん! 今は彼氏と一緒にいたいからあっちに行ってて! という彼氏彼女との時間を邪魔しそうになるまでは、私の愛を全力で注いであげよう。
ライトとシャインのもいつか大人になる。まぁ……いったいどんな大人になるのかはわからないが、ニートになるのならそれ相応の理由がなければ許可しない。でも、心的外傷なら、牧場で働けばいいし、何ら問題はない。
そう考えると私達の今の未来は明るい。世界の未来は暗いかもしれないが……。
ライトが寝息を立て始めたころ、私はライトの頬にキスをして頭を撫でた。
――ベスパ、悪魔の様子はどうなったかわかる?
私は頭の中でベスパに話しかけた。
「悪魔の行方ですが消息不明になりました」
――え? 消息不明……。見失ったってこと?
「監視していたビーの証言によるとテュフォーンは空中で突如として消えたそうです。まぁ、悪魔ですからよくわからないのが現状ですし、ルークス王国付近での出来事なので、誰かが倒したという可能性もあります」
――じゃあ、世界が終わると言う訳じゃないんだね。
「今のところはそう考えていいんじゃないでしょうか。見失った以上、探すのは困難です。私のように魔力になり姿をくらまされられれば普通の視覚による認識は出来ません」
――そうだよね。報告ありがとうベスパ。今日はもう寝るよ。お休み。
「お休みなさいませ、キララ様」
私はライトに再度抱き着き、眠る。ほどよく暖かくて寝心地が良い。
次の日の朝。
「うぅ……。何だろう……。息苦しい……」
「姉さん……。なんか硬い……」
私は寝苦しい気持ちで目を覚ます。すると、抱きつかれていたライトが逆に私に抱き着いていた。
――私の胸に顔を埋めているくせに硬いなんてほざきやがって……。悪かったね、ぺったんこで。そりゃあ、少し前までお母さんの乳を吸っていた赤子なんだからふかふかの方が好きでしょうよ。
「キララ様、朝からご立腹ですね……」
ベスパは丸太の穴から出て来た。
「ライトが天才変態児にならないか不安でさ」
「まぁ、ライトさんはまだ八歳ですよ。女性に惹かれるとしたらやはり局地的な部分かと思われます。視覚的観点から見て、顔が可愛いやら、胸やら、お尻などが大きいといった部分を重視するでしょう。ま、ライトさんもまだまだ子供だと言うことです」
「そう言われてみればそうか……。なら、心配しなくてもいいや。お姉ちゃんの硬い胸でお眠り……、ぼく」
「うぅぅ……」
「ライトさん、悪夢でも見ているような表情になってますよ。きっと苦しいんです」
「し、失礼な。美少女の包容力抜群の胸に何てこと言うの」
「キララ様の胸には包容力など皆無ですが……」
「『ファイア!』」
「ふんぎゃあっ!」
ベスパは朝の日差しに照らされながら燃えカスとなった。
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