どんな人にも欠点はある
「そうだよね。あと、今日、受注を新しく貰ったんだけど、今までは騎士団に牛乳パックを月に四〇本卸していたけど、こんどから月に六〇〇本卸すことになった。七日おきに一五○本の牛乳パックを運ばないといけない計算になるね」
私はライトの話に乗る。
「じゃあ……、来月から一六○○本の牛乳パックが増えるってことでいいの?」
「えっと、国王への献上品の方は月に一〇〇〇本を送るのは不可能だから、送る本数を小なくしようと思うんだけど、騎士団の方は四回に分けて配達できるから何とか可能じゃない?」
「まぁ、確かに……。でも、モークル達への負担が少なからず掛かるよ。数を増やせば増やすだけ、厩舎は狭くなるし、掃除なんかの労力も馬鹿にならない。まぁ、子供達が、魔法が使えるようになれば一掃出来るけど……、来月に魔法が使えるようにならないからなぁ」
「問題は多い訳ね。でも、私達の牧場を広げる好機だし検討してみない?」
「ん~、いったん計算してみないとどうも……」
ライトは腕を組み、目を瞑った。どうやら頭の中でいろいろと計算しているらしい。
「じゃあ、ライトは計算をしておいて。私はお皿を片付けて洗うから、皆は寝る準備をして。体を拭くためにお湯が欲しい人は私かライトに言ってね」
――ベスパ、テーブルの皿を全部、大きな桶の中に入れてくれる。
「了解です」
ベスパはテーブルの上に置かれている皿を集め、台所に置いてある大きな木桶の中に入れて行った。
私は『ウォーター』を使い、掌から水を出して食器を洗っていく。木皿にこべりつくような脂っこい料理はないので、サッと水洗いすれば汚れはすぐに落ちた。
洗い終わった皿を乾いた布で綺麗に拭き、ベスパに渡す。
――ベスパは皿を綺麗に整頓していってね。
「了解しました」
木の皿を受け取ったベスパは棚に入れていく。
私は全ての皿を洗い終わり、汚れた水を魔力で浮かび上がらせて台所の前の壁についている窓から外の地面に落とす。すると、水は地面に浸透し、食べカスはディアの仲間たちが綺麗に食べてくれるのだ。まぁ、あまり気持ちのいい光景ではない。
私が皿を洗い終えたころ。
「キララ、お湯を貰ってもいいか?」
フロックさんはすでに上裸の状態で私にお湯を求めてきた。全身の筋肉がしっかりと盛り上がっており、腹筋はバッキバキで少年っぽい顏に全く似合わない。
「な、なんでもう、服を脱いでいるんですか。そういうのは部屋でしてくださいよ」
「あぁ、すまん。別に上裸くらい見られてもいいんだが……」
フロックさんは実家かよ、と思うくらいに馴染んでいた。まぁ、それだけ居心地がいいと思ってくれるのはいいがここには私以外の乙女が一人いる訳で……。
「うわぁ~。フロックさんの筋肉すご~い。触ってもいいですか!」
「おう、いいぜ」
「すごい、カチカチだ~。いいな、私にもこんな筋肉つかないかな~」
目をキラキラと輝かせているシャインはフロックさんの腹筋に触れていた。子供の無邪気だからこそできる触れ合い。私も触りたい……。と思うが何とか堪え、中くらいの桶にお湯を出す。
お湯の出し方は右手と左手に『ヒート』と『ウォーター』を同時に使えば出てくる。もちろん、桶に水を張ってから温めてもいいがいちいち時間が掛かるので同時に行ったほうが早い。これは『ヒート』と『ウィンド』の合わせ技でおなじみ『ドライヤー』と同じ原理だ。
私はシャインとフロックさんがいちゃつく現場を見ながらお湯を作り、桶に張った。
「フロックさん! お湯が出来ましたよ!」
「おう、ありがとうな」
フロックさんは私から桶を受け取るとライトの部屋がある二階に上がっていった。
「はぁ~、ほんと家に馴染み過ぎなんだよなぁ。まだ二日目なのに……」
「お姉ちゃん、フロックさんって気さくな人だね。剣の腕前は凄いのに話は面白いの」
シャインは食事後なのに眠気を一切感じさせないくらい元気に喋る。
「まぁ、確かにそうだね……。それにしてもシャインは凄く仲良さそうにしてたね」
「フロックさん、私に色々教えてくれるの。剣術の基本とか体の動かし方とか。そのお陰で私の動き、もっと良くなったんだよ」
シャインは剣を振る動作を私に見せる。こんなにかわいい女の子が剣を持つと化け物みたく強くなるなんて誰が思うのだろうか。ほぼ不意打ちと言っても過言じゃない。
「フロックさんにいっぱい教えてもらって剣がもっと好きになったよ。私も早く学園に行けるようになりたいな~。それで、いろんな人といっぱい戦って剣を競いあうの」
シャインは自分よりも強い相手を見つけ、とても喜んでいた。まぁ、フロックさんはSランク冒険者だし、シャインよりも劣っていたら、大問題だ。シャインがSランク冒険者並みの強さを持っているという証明になってしまう。
「じゃあ、シャインは学園に入るために勉強しないとね」
「うげげ……。わ、私……、勉強は良いかな……」
シャインは私のもとから床を滑らかに動き、息をひそめて去っていった。
「シャインも勉強が好きならよかったんだけど、剣にしか興味がないんだよなぁ。まぁ、何もないよりはましだけど」
実際、私も日本にいた時は勉強があまり好きではなかった。
理由は単純、色々と遅れていたからだ。
高校時代からアイドル活動を始め、高校の勉強には何とか食らいついていた感じだ。でも決していい成績とはいかなかった。なんせ、アイドル活動が多忙だったからだ。
そりゃあもう、大変な日々だった。
多忙な毎日を送っていたのに高校を退学せず、ちゃんと卒業した私は自分自身で偉いと言いたくなるくらい。
高校三年生はほぼ出席できないくらい、仕事の予定がびっしりと埋まっていた。高校側の先生たちが何とかしてくれたのか卒業は出来たが大学はいけなかった。
勉強する時間がなかったと言ったら、いい訳になるが、それまでの基礎的な学力が欠落していたのだ。そのせいで勉強が嫌いだった。
でも今は違う。もとからある知能に一〇歳児の要領がいい脳が加わり、勉強が捗る捗る。
子供時代にどれだけ集中して勉強できるかが、のちに大きな成果を生むと実感しているのも数年前からだ。
五歳の時、この世界に来ていろいろ学んだ。言葉、文字、魔法、どれもこれも初めてなのにもとから少し知っていたおかげで今、何とか形になっている。
私は文字がとりわけ苦手で字が汚い。
理由は日本語と混ざるから。英語っぽい文字配列なのに日本語のような表現が多々ある。なんだろう、ドイツ語と英語、フランス語、日本語、ごちゃまぜ言語みたいで困ってしまう。
「私も勉強しないと。書きがやっぱり問題だよな……」
私が居間から部屋に戻ろうとした時、ライトがやってきた。
「姉さん、ちょっといい」
「ん?」
私はライトのもとに歩いて行った。
「どうしたのライト、計算がもう終わったの?」
「うん。計算はもう終わった。だけど他の問題があるんだ……」
ライトは自分の部屋がある二階の方に視線を向ける。
「フロックさんとカイリさんが何か迷惑をかけているの?」
「その、夜がうるさいんだよね……。いびきというか歯ぎしりが……」
「え、そうなんだ。フロックさんの方を別の部屋に移動させようか?」
「いや、フロックさんじゃなくて……。カイリさんが……」
「あ……。カイリさんなんだ。意外だね」
「僕も思った。どんなに完璧そうに見えても人には欠点があるんだな~って」
ライトはうんうんと頷きながら何かを悟ってしまったようだ。
「逆にフロックさんは凄く静かで綺麗な寝方なんだよ。寝顔がけっこう可愛いんだ。意外だよね」
「ふ、ふぅ~ん。別に全然興味ないけど」
――やべぇ、めっちゃみたい。ベスパ、二階に行ってフロックさんの寝顔を見てきて。
「別に自分で行けばいいじゃないですか。二階なんですから」
――私が行けるわけないでしょ。ベスパがフロックさんの寝顔を見たら『視覚共有』をしてくれる。
「はいはい、了解しました」
ベスパは二階に飛んで行った。すると『視覚共有』がすぐさま行われ、私の目の前にフロックさんの寝顔がでかでかと映し出される。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや評価をぜひお願いします。
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすればできます。
毎日更新できるように頑張っていきます。
これからもどうぞよろしくお願いします。




