三種類の学園で特待生をとればいいってこと……。
「ドラグニティ魔法学園の良い所は意識の高い奴らが集まっている。言わば目標の高い奴だな。国の中枢を担う貴族の子供らも来るし、王の息子だっているかもしれない。そう言うやつらは大概意識が高いから、共に成長していける」
「何か凄そう……」
「あと、就職先だが行くとこ行くとこ引く手あまただ。たとえ卒業成績が最下位でも大概どこでも仕事が出来る。能力が高いと思われているだけでだ。実際に働いてどうなるかは二の次、ドラグニティ魔法学園の卒業生を皆ほしがっている」
「えぇ……、学歴フィルターじゃん……」
「学歴フィルター?」
フロックさんは目を細め、私を睨む。
「あ、いえ……。何でもないです」
「悪い所としては意識が高いだけあって誇りも大きい。そのせいで平民を毛嫌いしている貴族も多い。だが、実力でねじ伏せれば関係ない」
「はは……、簡単に言ってくれちゃって……」
「加えて、卒業するのはとんでもなく難しい。俺は頭が悪かったからなおさら難しかったな。優等生のカイリは卒業成績が二位だった」
「へぇ~。カイリさん凄い。逆にフロックさんは何位だったんですか?」
「お、おれは……、八八位だ。まぁ、最終試合では一位だったがな!」
フロックさんは胸を張る。
「フロックは記述や魔法の試験のときにいつも適当にしていたから平常点が悪かったんだよ。だから、全体の卒業成績は八八位だったんだ。でも、最終試合では私を倒した相手を倒し、一位になっている」
カイリさんが補足してくれた。
「フロックさん、試験を適当にやって学園をよく卒業出来ましたね。試験に加えて通常の授業も凄く難しいんですよね?」
「まぁ、フロックは地頭がいいから、ちゃんと勉強すればギリギリ進級できるだけの学力を短時間で身につけたんだよ。要領よく行えばいいのに、鍛錬にいそしみ過ぎていたんだ」
カイリさんはフロックさんの方を見て、やれやれと言った表情をしていた。
「とにかく、ドラグニティ魔法学園は入学することが難しいしのに加え卒業するのも難しい。だが、卒業した後は男だろうが女だろうが関係なく重宝される人間になる。それがドラグニティ魔法学園だ」
フロックさんはカイリさんの視線を遮り、総括した。
「ん~。難しい……。皆はどこに行きたいと思う?」
私は部屋にいる皆に聞いてみた。
「僕はドラグニティ魔法学園かな。なんか、話が合う人がいそう。あと、村の牧場にドラグニティ魔法学園の卒業生がいるってなったら知名度が上がりそうじゃない?」
ライトはドラグニティ魔法学園を当然のように選んだ。
「んっと、私はフリジア魔術学園かな……。私、スカートは着たくないし。王都の制約に縛られるのは辛いかも……」
シャインは男勝りな性格があるのでフリジア魔術学園を選んだ。確かにシャインがスカートなんて履いたら何度パンチラするかわからない。一八〇度開脚したらパンツが丸見えになっちゃう。
――女性が尊重されている学園ならシャインの性格も受け入れられそう。
「父さんはエルツ工魔学園だな。大人になってからわかるが専門職は強いぞ。絶対に食いっぱくれないからな。安定して仕事があるし、結構稼げる。俺が、頭がもっとよければ……」
お父さんは自分の力量の無さを嘆いていた。
「行けるとしたら私はドラグニティ魔法学園に入るわね。優良物件の男性がいるかもしれないし、卒業すれば貴族だろうが平民だろうが関係なく接してくれるんでしょ。それなら今のスキル重視社会でもスゴく生きやすくなりそう」
お母さんの考えは出来る女性と言った感じだった。結婚前提の話だが確かに罷り通っている。
「俺は……悩ましい所がだがドラグニティ魔法学園だな。エルツ工魔学園もいいが、学園に女はやはりいてほしい……。目の保養になるだけで生きていける……」
フロックさんの発言に男性陣は頷き、女性陣は引いた。
「私からするとエルツ工魔学園でもよかったと思います。許嫁もいましたし、父上の仕事を継ぐと決めていたのであれば専門的に学んだ方が父上の力にすぐなれましたからね」
カイリさんは完璧に未来の線路が決まっている状況の話をした。
皆、意見がバラバラでいい所もあれば、悪い所もある。一つに絞るはずが、よけいにどこに行ったらいいのかわからなくなってしまった。
「ん~。どうしよう~」
私が頭を抱えていると、ライトが全ての冊子を集めた。
「ふむふむ……」
ライトは冊子の演習問題を見ているらしい。演習問題を一通り見てライトは冊子を閉じた。
「姉さん、全部の学園を受けたらいいんじゃない?」
「ん、どういうこと?」
「全部の演習問題を見てみたんだけど、姉さんなら余裕で解ける問題ばかりだよ。だからさ、全部の学園で特待生を取って相手側に決めさせたらいいんじゃないかな?」
「何ともまぁ、天才が言いそうな発言……。そんなバカげたことが出来るのはライトくらいでしょ。私にはそんな自信ないよ」
「大丈夫、姉さんなら出来るよ。だって、僕に魔法を教えてくれたのは姉さんだし、他にもいっぱい助言してくれるくらい、姉さんは頭がいいんだ。姉さんならどの学園に行っても特待生を絶対に取れるよ」
ライトは私に尊敬の眼差しを向けてくる。過去の出来事を今でも同じような風にとらえていた。
――すっごい困る。昔と今では状況が全然違うのだ。たまたま助言っぽい話が出来ただけで、私、実際はライトの魔法の話、半分もわかってないんだよ~。
「ライト君の話も一理あるね。この三学園で全て特待生をとった生徒がいたら、学園の園長らはいったいどんな反応をするのだろうか。すっごく気になる。と言っても、ドラグニティ魔法学園で特待生を取るのは至難の業じゃないよ。創立八〇〇年以上ある中で一人も特待生に選ばれていないんだ」
カイリさんは顎に手を置きながら苦笑いをする。
「そ、そうなんですか。なんか、皆の期待が重いなあぁ……」
ドラグニティ魔法学園の特待生になれるかもしれないと言う期待が、全員から発せられ、私への圧力へと変わる。
圧力には耐性があるので心拍数の上昇はしていないが、ただの一般人である私に多大な期待が寄せられている状況が辛い。
ちょっと出来る子を演じすぎたつけが回って来たみたいだ。
――私は、本当はただ要領が良い子なんです。周りに合わせるのが上手くて相手をよいしょするのが癖で、流れに身を任せるのが得意な元アイドルなんですぅ~。そんな私にルークス王国の王都にある、最高峰の学園に特待生で入れると思いか! 例えるなら日本の田舎にある貧乏な家庭で育った女の子がマサチューセッツ工科大学(QS世界大学ランキング11年連続一位)で首席入学するみたいな奇跡じゃないですか! 普通そんなの無理だろぉ~!
私は心の中で叫んだのだが誰も私の気持ちに気づいてはくれなかった。
――私はただ、自分の生きたいように生きたいだけなのに……。ん? そうだよ。私の生きたいように生きればいいんだよ。何を迷っているんだろう。
私はふと思ってしまった。
私の通いたい学園だと思わない学園に入学する必要は無いのではないだろうかと……。
なら、私に入学したいと思わせてくれる学園に行くべきだ。
――そうなると全ての学園で試験を受ける必要があるかもな。ライトの言った通り、全ての学園を受験して学園の雰囲気や先生の態度、学園の生徒の態度などを見て、どこに入学するか決める。そうすれば、何も問題ないじゃん。そうだよ。今から頑張れば何とかなるって!
私は流れに逆らって自分の道を探す。
「わかった。私は私の行きたい学園に行く。ライトの言った通り、三種類の学園の試験を受けて……、というか受けられるのかな?」
皆は冊子をみて試験の日時を調べた。
「エルツ工魔学園の入学試験は一月に行われるみたい」
「フリジア魔術学園の入学試験は二月に行われるみたいよ」
「ドラグニティ魔法学園の入学試験は三月に行われるみたいだ」
ライト、お母さん、フロックさんは次々に答えた。
「綺麗にずれてる。私以外にも同じような考えをしている人がいるのかも……」
「普通に受ける人数の多さ順じゃないかな? エルツ工魔学園は他国からも大勢来るみたいだよ。市民も多いみたいだから、早めに試験を行わないと選定出来ないんだよ」
ライトは的確に考えていた。
おまけ。
フロックはドラグニティ魔法学園に最下位で入学した。
カイリはドラグニティ魔法学園を次席で入学した。
フロックは筆記試験を適当に行い、実技試験を一位通過したため入学できたようだ。
カイリは筆記試験でほぼ満点を取り、実技試験は三位だった。




