ライトには教えることが無い
私は居間に向う。靴が二足分多いのでフロックさんとカイリさんはまだ家の中で泊まっているらしい。
商人のルドラさんが戻ってくるまでは、家にいてもいいと言ってあるので別にいてもおかしくないのだが、ちょっと変な感じがした。
私はフロックさん達に雨具の遣い心地を聞いてみることにした。私の報告は食事中か後でもいいだろう。
「ん~。腕をもう少し左側に寄せてみろ」
「は、はい」
私が居間に入るとフロックさんがシャインの体にベタベタと触れている。何事かと思って蹴り掛かろうとしたら別にやましいことをしている訳ではないとカイリさんに止められてしまった。
「カイリさん、フロックさんは何をしているんですか?」
「今、フロックがシャインちゃんの体の癖を直しているんだよ。戦いの最中に出る癖がシャインちゃんには多いみたいなんだ。その癖を敵に読まれるとシャインちゃんの攻撃が全く当たらなくなるんだよ」
「なるほど……。つまり、剣術の講師をしている訳ですか?」
「そいうことだ。よし、シャイン。木剣を一度だけ軽く振ってみろ」
フロックさんはシャインから離れ、腕を組む。
「わ、わかりました」
シャインはフロックさんに木剣の構えを直されて少しぎこちない表情になっている。
私からしたらただの剣道の構えに見えたが、よくよく見ると剣道ではない。
今、私は木剣を構えているシャインからどうやって攻撃を加えたらいいかという想像が出来なかった。つまり、構えに隙が全く見当たらなかったのだ。
「ふっ!」
シャインは木剣を頭上から振り下ろした。
音がせず、剣の空気抵抗を感じさせない。剣を本当に振ったのかすらわからないかった。
「うん。良い感じだな。音がほぼ鳴らなかった。素振りが完璧に近いほど音はならなくなる。音が鳴らない剣は全ての力が加わっていて威力が数段階上がるぞ。あと不意打ちをするさいにも気づかれない。ま、殺気がだだ漏れだと気づかれるけどな」
「なるほど……」
「剣を振る時、音が出ないよう意識すれば、自然と力の加わりやすい整った剣筋になっていくはずだ。ときおり、シャイン独特の剣術と混ぜ合わせてシャインだけにしか使えない攻撃に昇華していくだろう」
「あ、ありがとうございます。私、なんか初めてちゃんとした知識を貰えた気がします。フロックさんに言われた通りに練習してみますね!」
「おう、頑張れよ。応援してるぜ」
フロックさんはシャインの頭を無造作に撫でていた。シャインは照れているが嬉しそうだ。
「じ~~。いいなぁ~。いいなぁ~。シャインだけ。僕にも何か知識くれないかな~」
ライトはテーブルに突っ伏しながら講義を受けているシャインを見ていた。
シャインよりも勉強熱心なライトは特段知識を欲する本の虫なので教会にある本は全て読みつくし、記憶しているらしい。というか、教会に置いてある本にはいろんな国の言語が使われてるのに全部暗記したって言うこと? ライトはいったい何か国の文字が読めるようになったのだろうか。
「カイリさんはライトに何か教えてあげられることってないんですか? 一応、魔導士騎士ですよね。凄い魔法の一つや二つ、ライトに伝授してあげてくださいよ」
「いやいや。私なんかよりもライト君の方が、魔法を扱うのが何倍も上手いよ。あと、私の最上位魔法なんかよりはるか上を行く魔法を何種類も使えるんだから教えることなんてほぼない。というか、私の方が教わりたいくらいなんだよね……」
カイリさんは頭に手を置きながら苦笑いしていた。
「え? 大貴族のカイリさんでもライトに魔法を教えられないんですか……」
「うん。まぁ、私は腐っても貴族だから、幼少のころに多くの知識を頭に入れたよ。もちろん魔法もね。学園に行ってからは父の役職を継ぐために政治と魔法、騎士の心得と言った教えを受けていた。でも、この歳になるまでライト君ほどの魔法使いに会ったお覚えがない。いや、一人だけいるか。まぁ、レディーがライト君と肩を並べられるくらい凄いのも驚きだけど、ライト君の知識はすでに学園の講師を超えている可能性があるんだ」
「えぇ……。何でそうなっちゃったんですか? そもそも、なんで超えているとわかるんですか?」
「魔法の使い方や技術は各国によって異なる。ルークス王国で主に使われているのは魔法陣や詠唱、呪文と言った昔からよく使われている方法。ビースト共和国で主に使われているのは体内に気を溜めて己の身体能力を上げると言った独自の方法。プルウィウス連邦では魔道具と呼ばれる道具に魔法の術式を組み込んで魔法を使用する近代型の魔法。色々ある中、全てに通ずるのが魔法陣なんだ」
「魔法陣がいろんな魔法に使えると言う訳ですか?」
「理解が早いね。さすがレディーだ」
「えっと、ライトは確かに魔法陣を多用しますけど、なぜライトが凄いんですか?」
「ライト君の使用する魔法陣は全ての使用方法に応用できる。つまり、ライト君は全ての魔法の使い方を応用できると言っても過言じゃない」
「え……。三種類の魔法をもう、使えると言うことですか?」
「そう。魔法陣を使える魔術師や魔法使いは多い。でも、その意味を理解し、新しい魔法陣を生み出せる者はそうそういない。だから、新しい魔法を生み出せるライト君は凄い。今にでも学園の教授になってもおかしくないよ。僕が推薦状を出せば学園にも入学できるかもしれない」
「それは凄いですね……。でも、ライトはまだ子供なのでこの村でのびのびと育ってほしいと思ってますから、別に今すぐに学べとは言いませんよ」
「子供のころから魔法を習ったほうが習得と成長速度が上がるんだよ。歳をとるにつれどんどんと成長しにくくなっていくから、早ければ早いほどいいんだけど……」
カイリさんの顔には天才がさらに努力したらどうなるのか見たいと言う自己満足げな感情が混じっている気がした。
私は何でも出来る子共だったのでよく、母から色んな習い事をさせられ、子供時代を楽しめなかった過去を持っている。大人の都合で子供の時代が怪我されるのは我慢できなかった。
私はライトのもとに向かい、聴く。
「ライトはどう思う? カイリさんが言うのは今すぐにでも学園の教授になれるみたいだけど、なりたい?」
「ん~。別になろうとは思わない。僕はただ面白いから魔法を勉強しているだけであって、誰かに教えたいと思ってやってないよ。だから、教授なんかに興味はないかな。新しい知識には興味あるけど、今の楽しさを捨ててまで得たいとは思わないかも」
「だそうです! ライトもあと四年すれば学園に行けるようになるんですから、その時までまったりさせればいいんですよ」
「そうか……。ちょっと残念だね。ライト君ほどの実力があれば国王も黙ってないでしょうから、いつか多くの貴族の眼にとまるでしょう。貴族の子供でもない少年が自分たちの地位を脅かす力を持っていると。もし、周りの貴族が潰しにかかってきたのなら私が力になりますので、是非頼ってください」
「だってライト、今のうちに大貴族と仲良くしとく?」
「僕、貴族の厄介ごとに巻き込まれるのは面倒だからな~。でも、貴族はいろんな知識を持ってそうだし、仲良くしておくのも悪くない選択かもね」
ライトは椅子から降り、カイリさんの方に歩いて行った。そのまま手を差し出し、握手をしようと持ち掛ける。
ライトとカイリさんは握手をして友好関係を結んだ。まぁ、カイリさんの家系、大貴族であるクウォータ家の後ろ盾があればライトも何か悪事に巻き込まれた時、支えになってくれるかもしれない。
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