牛乳の味
次の日。
私はベッドから飛び起きると居間にすぐさま向かい、テーブルに置いてあった牛乳瓶を手に取る。
「おはようお母さん! 行ってきます!」
寝起きの悪い私が余りにも早い動きを見せたのでお母さんは目を丸くし、呆然と立っていた。
外で鍛錬をしていたライトとシャインに合流し、早朝の牧場へと向かう。
沢山寝たおかげか視界が凄く鮮明に見える。昨日とはまるで違う景色だ。
「うん、容器は濡れていても問題なく使える。強めに握っても壊れない! これなら使える。ベスパ! この牛乳瓶と昨日作った牛乳パックをできるだけ作っておいてくれる!」
「了解しました! 直ちに作成してまいります!」
ベスパは頭を一度下げた後、山へと飛んで行った。
「ライト! シャイン! 今日はお手伝いよろしくね!」
「任せといて!」
ライトとシャインは元気よく返事をする。
私は前日に仕事を手伝ってほしいと約束していたのだ。
「ライト! 今日はあなたにトコトン頑張ってもらうよ!」
私は超カッコよく成長しているライトを見ながら言う。
「うん! 任せてよ、姉さん!」
私達は駆け足で牧場に到着し、仕事に早速取り掛かる。
「うわ~凄い! こんなふうになってたんだ! 姉さん、ここでずっと何やってたの?」
ライトは牧場を見て、瞳を輝かせながら興奮していた。
「ふふ! お姉ちゃんは、ここでこの子たちを育ててたんだよ!」
私はライトとシャインにミルクとウシ君、チーズ、レクーを見せた。
「ずっと忙しそうにしてたから、何しているのかと思ったら、動物さんたちを育てていたんだ……」
シャインは動物達を見て、瞳を輝かせる。
「そうだよ。今日は待ちに待った、牛乳を取ります!」
「牛乳? って何」
好奇心旺盛なライトが訊いてきた。
「牛乳っていのは……、え~と、このモークルたちのミルクのことね。この子の名前がミルクっていうからちょっとややこしいってことで牛乳っていう名前にしました!」
――牛乳は加工品で、乳しぼりを行ったあとの飲み物は生乳って言うけど、まあ細かい説明はいいか。
「へ~、牛乳ってどんな味なの?」
「ふふふっ……、それは最後のお楽しみ。まずは、ミルクから牛乳を搾ります! それじゃあ二人とも見ててね」
私はアイドルの仕事で行った乳しぼり体験を思い出し、ライトとシャインに説明する。
ミルクのお乳は木製の桶にしっかりと出てくれた。色は白、とても綺麗で完全に生乳だ。
「どう、わかった? できるだけ優しくしてあげてね。それじゃあ、二人とも一回やってみようか!」
「うん! でも、初めてこんな仕事をやるから少し緊張しちゃう……」
ライトは身を固くし、呼吸が浅くなっていた。
「優しくすれば問題ないよ。ミルクも大人しい子だし、怖がらないで」
ライトとシャインはミルクから牛乳を上手に搾りとった。
「すごい、いっぱい取れた! 桶いっぱいになるなんて思わなかったよ! もっとしたい!」
シャインは桶を持ち上げ、私に見せてきた。
「本当にたくさん取れた。牛乳はまだまだ出そうだよ……」
ライトは乳しぼりをもう少ししたいのか、ミルクの方を見ていた。
――名残惜しそうにしている所申し訳ないけど、今あまり多く絞ってもすぐ腐っちゃうから処理を先に試したいんだよね。
「ごめんね、二人とも。まずはこの牛乳を牛乳瓶に一回詰めてみようと思う」
「この牛乳を茶色い入れ物にそのまま入れるの?」
ライトは首をかしげながら訊いてきた。
「ううん、違うよ。この牛乳瓶に入れる前に、牛乳の処理をしっかりとしないと腐っちゃう」
「牛乳の処理?」
「そう! 今絞ったばかりの牛乳だと、飲むのは危険なの。牛乳は綺麗に処理してから飲まないとお腹壊しちゃうんだよ」
「そうなんだ……、すごく美味しそうだけど」
シャインは桶一杯に溜まった牛乳を眺めながら呟く。
――そうなのだ。私もてっきりそのまま飲めると思っていたのだが、どうやら危ないらしい。昔の仕事で覚えた知識を使えるなんて……。なんかすごく嬉しいな。
「それじゃあまず、この牛乳の中にあるゴミを取り除きます!」
「どうやって?」
「ここで、ライトの出番です! ライト、この牛乳を宙に浮かせられる?」
「それくらい簡単だよ。ほいっと!」
ライトが指先を牛乳に向けると淡い光が牛乳を包む。すると牛乳だけが樽から浮かび上がり、空中に白い球体を作った。
「じゃあその牛乳をものすごい速さで回転させられる?」
「やってみる……」
ライトは牛乳に集中する。すると球体状の牛乳が高速回転していき、楕円形へと変化していく。その過程で牛乳内のごみが遠心力によって外に排出された。
「よし! 後は私の『ファイア』を使って熱殺菌する!」
ゴミが無くなった牛乳を高温で熱し、微生物や細菌を殺す。殺菌し終わった牛乳を牛乳瓶の中に入れ、すぐさま蓋をした。牛乳が入った牛乳瓶を川まで持って行き、温まった牛乳を冷水で冷やす。
時間がたち、牛乳もよく冷えたころ。
「できた……。できたよ。何か工程を一つ忘れちゃったけど……、でもできた。ちゃんと殺菌はしたから問題ないと思う。もしこれでお腹壊したら、もっと強めに殺菌すればいいんだ! でも、とうとう……牛乳が飲めるんだ」
私は感無量だ。今まで周りに無かった物をこの場所に作り出したのだから、興奮しない方が難しい。
――これでようやくスタートラインに立てたのかな。
牛乳瓶の色が茶色っぽいためコーヒー牛乳みたいな見た目をしているが実際は真っ白な牛乳が入っている。
私は牛乳瓶の蓋を開けて勢いよく持ち上げる。飲み口に唇をつけて牛乳を口の中に流し込んだ!
「姉さん……、何泣いてるの?」
ライトは私の涙の理由が理解できていない。
「ううう……、牛乳、牛乳だよ……」
私は牛乳が美味しすぎて涙を流してしまった。
味は牛乳そのもの。甘みがあり、滑らかなのど越し。お風呂上りに飲めたら最高なのだがこの場に銭湯が無いのが残念でならない。
――これなら色々な料理に使える。今ある料理に加えるだけでも全然違う料理になるはずだ。
私はライトとシャインにも牛乳を飲ませた。
「本当に美味しい……、これが毎日飲めるなんて、贅沢すぎる」
ライトは目を見開き、驚いていた。
「お姉ちゃん! この牛乳すごく美味しい! 毎日飲みたいくらい美味しいよ!」
シャインは飛び跳ね、大きな声を出す。
二人ともどうやら気に入ってくれたみたいだ。
私達は川辺から牧場に戻り、厩舎にいるとお爺ちゃんが来た。
「キララ、ここにいたのか。牧場の裏山の方に変な箱がいっぱい置いてあったぞ。いったいあれはなんだ?」
「え! もしかして……」
私はお爺ちゃんが指さした方向にすぐさま走って行く。
「えっ! ええええええええ~!」
私の視界に映っていたのは、牛乳パックがいったい何パックあるのかわからないほど山のように積まれている光景だった。
「あ! キララ様! 今のところこれくらいが限界みたいです! あと少ししたら、この倍が作れるそうなので、少しお待ちください!」
ベスパは牛乳パックの頂上に立ち、大きな声をあげた。
「ベスパ! 止めて! 止めて! もうこれ以上要らない! 要らないから!」
「え? そうなのですか。わかりました。では、皆さんに伝えておきますね~」
ベスパは牛乳パックから飛び立ち、山の方に向かう。
「は~、この数……、どうやって処理するの……」
私はベスパを舐めていた。そのせいで、大量の在庫を抱えてしまった。
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