歌って踊れっていうの……。
「『熱』」
レイニーは魔法を上手く発動させた。
先ほどは一〇秒と持たなかった魔法の継続時間が一気に伸びて三分経った後でも手が温かいままだった。
「よし! 思った通りに出来たぞ!」
「レイニー、魔法の才能がやっぱりあるっぽいよ。私が魔法を使えるようになるまで一年くらいかかったのに……。一ヶ月ちょっとでここまで出来るようになるなんて思わなかったよ」
「教える相手がいるのといないのとでは成長速度が全然違うだろ。キララは母親に教えてもらったんだっけか?」
「そうだけど、お母さんも本当に簡単な魔法しか使えなかった。それこそ『ファイア』くらいしか使えないんだよ。お母さんは昔冒険者だったお父さんの友達で今、病院の先生をやっているリーズさんに特別に教わったんだって」
「リーズ……? あぁ、リーズ病院の先生か。この前、体の傷を治してくれためっちゃいい人な。あの人、元冒険者だったのか。初めて知ったぜ」
「結構なの知れた冒険者パーティーのメンバーだったらしいよ。でも、歳だからと言って辞めたんだって。リーズさんは回復魔法が得意だから本当にすごいよ。私も尊敬してる。私は回復魔法が使えないから、傷は治せないんだよね」
「回復魔法なんて本当に限られた人しか出来ない魔法なんだろ。ライトも出来ないって言ってたしな」
「うん。回復魔法があればお金を稼ぐのなんてすっごく簡単なんだけど、限られた人にしか出来ないから、凡人は諦めるしかないね」
私は苦笑いしながら呟く。
「そうだな。出来ないことはさっさと諦めて出来ることに全力で集中する。俺は魔法を伸ばしたい。頼むぜ、キララ。お前達だけが頼りなんだ!」
「はぁ、仕方ないなぁ。レイニーのためじゃなくて子供達のためなんだからね」
「わかってる。俺も子供達のために魔法を覚える。あと、マザーを取り返すためだ。それ以外の力は必要ない。魔法の基礎と攻撃魔法の二種類を徹底的に教えてくれ!」
レイニーは私の手を握り、強くお願いしてきた。
「あ、熱い! レイニーの手、『ヒート』がついたままになってるから!」
熱したフライパンのように熱くなった手が私の手に当たり、火傷しそうになる。
「あ、すまない。ってこれ、どうやって解除すればいいんだ?」
「手に集めている魔力の流れを塞き止めるの。手に流している状態から途中で魔力の流れを切るように意識してみて」
「あ、ああ。わかった」
赤色に鈍く光っていたレイニーの手はしだいに光らなくなり、肌色に戻った。
「と、止まった。なるほど、こうすれば魔法は止まるのか」
「持続型の魔法はそうやって止めればいい。でも攻撃魔法は一度放つと止めるのが難しいから、誤射しないように気を付けてね」
「そうなのか。わかった。気を付ける」
私はレイニーに『ファイア』の魔法陣を覚えさせ、指先に魔法陣を展開させられるか試させた。
「『ファイア』」
レイニーは詠唱を放ったのだが魔法陣は展開せず、指先から『ファイア』は出なかった。
そもそも、私は『ファイア』の魔法陣を知らずに『ファイア』を放つことができた。魔法陣に魔力を通した方が火力が上がるので最近は魔法陣を展開させてから『ファイア』を放っている。
「キララ、魔法陣と魔法陣無しで魔法が使えるのって何でなんだ? 魔法陣の必要性ってなんだ?」
「魔法陣っているのは言わば魔法の設計図みたいなもので魔法を安定して発動できるの。別に魔法陣を用いなくても魔法自体は放てる。でも無駄な魔力を使ったり、途中で魔力が分散しちゃう可能性があるから安定を取るなら魔法陣を展開してから魔力を流しこんで発動と言う工程をちゃんと踏んだ方がいい」
「なるほどな。それじゃあ、キララはどんな時に魔法陣を使うんだ?」
「私は火力を必要とする時、膨大な魔力を使うから効率よく魔法に変換できるように魔法陣を使ってる。でも、使わなくても多少制御できるから、用途によって使い分けるといいよ」
「なら、魔法陣の悪い点とかあるのか?」
「そうだなぁ……。知らない魔法陣は使えないし、魔法陣を展開するにもその分、魔力が必要な点とか、展開した魔法陣に魔力を込めると光るから魔法の発動が気づかれるとかかな。敵が魔物とかなら全く問題ないけど、対人戦とかになったら、魔法を発動するって気づかれると不利になる」
「はぁ~、色々あるんだな。でも、すごく面白い。ライトが魔法に沼る理由がわかったぜ!」
「ライトはちょっと好きすぎるから参考にしない方がいいよ」
私とレイニーは一時間ほど、勉強したあと部屋を出た。
今日はレイニーが魔力操作を覚えたというのがわかり、一歩前進した。はっきり言うと魔力操作さえできれば、魔法は簡単だ。
呪文の意味を理解し、詠唱に落とし込む。この工程をふみ、詠唱を放てば呪文を絵にした魔法陣が浮かびあがる。この魔法陣に魔力を流せば、魔力が返還されて魔法になる。
「キララお姉ちゃん、もう終わったの?」
「うん、終わったよ。じゃあ、神様に祈ろうか」
「うん!」
子供達は長い椅子に座り、両手を合わせて祈る。指と指の間に指を挟むようにして握っていた。クリスタルガラスがいろんな色の光を放ち、弱弱しい斜光が部屋の中に降り注いでいる。
私も椅子に座り、神様に祈る。
――悪魔が世界を滅ぼしませんようにどうか世界をお守りください。私はまだ死にたくありません。こんな年齢で死ぬなんて嫌です。
私が祈ると日の光が強く差しこみ、弱弱しかった斜光が一気に明るくなって床にまで伸びるているようだ。眼を瞑っていても、瞼の上から光を感じるほど強い。
瞼を通して見える光はオレンジ色になっており、目を瞑っているのにとても眩しかった。
私は祈り終え、瞳を開ける。
目の前に伸びている斜光の先にマザーのような美しい者が立っていた。
私がボーっと眺めていると、とても優しい笑顔浮かべながら祭壇の前にたたずんでいる。
いったい誰なのかわからないが、頭が冴え、視界が完全に開けると祭壇の前には誰もいなかった。
私はマザーの幻覚でも見たのかと思い、ちょっと嬉しくなる。あれが神様だと言われても私は信じるだろう。それくらい、垣間見た方は綺麗だった。
その人は最後の方に踊り、マイクのような物を持って歌っているいるようだった。
――何? 歌って踊れっていうの……。
私は神様のお告げを受けたような気分になっていた。自分でもよくわからなかったが、立ち上がって前の方に向かい、スタンドガラスから伸びたスポットライトの当たる場所に立ち、いつも通り歌って踊った。
以前、子供達と仲良くなるために歌って踊ったたら、滅茶苦茶好評だったのだ。
初めはアカペラで歌い、踊りは無し。私の美声で皆の心を引き付けたのち、切れのある踊りで心を鷲掴む。そのまま引き付けてサビまで持っていき、完璧な歌と踊りを掛け合わせ、皆の心をぶち上げる。
最後、両脚を肩幅に開き、片手でピースを作って天に向かって刺し伸ばした。
――はぁ、はぁ、はぁ……。これで満足ですか……。神様。
私が歌って踊り切ると拍手喝采の嵐が巻き起こる。加えて斜光が私の視界をパアッと埋め尽くし、すぐにもとに戻った。
当時は嫌々やっていたが今では皆に喜んでもらえるのが嬉しくて仕方がない。なぜアイドル時代、こんな気持ちのいいことが嫌いだったんだろうと思えるくらいに、私は歌って踊るのが好きだったようだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……。皆、楽しんでくれたかな?」
「いえ~い! 最高~!」×子供達
子供達がアイドルの追っかけのような大きな声を出して私を褒めてくれた。
「キララは踊りと歌もすっごく上手いんだな。いつ見ても感動するぜ。いったいいつからそんなに上手くなったんだよ」
レイニーも拍手を私に送ってくれていた。
「え、えっと~。五歳くらいから練習したらこれだけ踊って歌えるようになったよ。でも、レイニーも練習すれば歌って踊れるようになるよ。魔法と一緒に練習してみる?」
「いや……。俺は遠慮しておく。どうせなら子供達に教えてやってくれよ。このキラキラした眼が温かい内にさ」
レイニーの言う通り、子供達は目を輝かせ私の方を見ていた。
特に女の子たちは皆、輝きの眼差しを向けてくれる。
男の子も私があまりにも可愛いから恋しちゃったかもしれない。残念ながら私は子供に興味がないのだ。
男子諸君は諦めておくれ。
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