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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
『風の悪魔』が笑えば街が吹き飛ぶ ~大雨の中でも仕事する編~
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菓子職人が試食すると……。

 私は今の生活を維持するために仕事をしなければならない。他の子供達は何も知らないのだ。恐怖する必要が無いよう、私達が恐怖を煽るような行動はよそう。どうせ一年半後、私、自ら敵地に赴くのだ。その時まで、世界が残っていればの話だが……。


 私達は小雨の中、ショウさんのお店に向った。


「さてと、今は仕事の時間。私はキャリアウーマン。営業職は仕事の花形。契約をバンバン取って事業拡大! なんていう気はないが、お得意様相手に良い品をコツコツ卸し続ける縁の下の力持ちを維持し、好機が来たら自ら手に取れるよう、余裕を持っていないと」


 私は悪魔のことをなるべく思い出さないよう、仕事のことだけを考えていた。


 恐怖は何事も効率を悪くする。恐怖は何も生み出さない。


 恐怖心が有効に働くときは逃げる時か、行動を起こす時だけだ。


 仕事の途中に恐怖心を抱いても全くもって無意味、そう思えば思うほど心が少し軽くなる。


 私は瞑想をして心をさらに落ち着かせ、ショウさんのお店の前に到着した。


「ふぅ~。はぁ~。さてと、ショウさんにバターが完成したと教えてあげないと。何気に一番喜んでくれそうなんだよな」


 私はウシ君を道の端に寄せておく。雨がやんできたので人の行き来が増えていたのだ。


「ベスパはクーラーボックスを持って私について来て」


「了解」


 ベスパは荷台からクーラーボックスを持ち、私の後方に着く。私はショウさんのお店に入店した。


「こんにちは。ショウさんはいますか」


「やあ! キララさん! バターは出来ましたか!」


 ショウさんは二一日くらい前からバターの話しかしない。もう、今回で三回目だ。


――会うたびにバターの話をするなんて、そんなに食べたいのだろうか。まぁ、菓子職人にとってバターは大切だよな。さすがに何度も言われると頭の中にショウさんの言葉が残って無意識にバターを作らなければならないという思考に陥ってしまったよ。


 私はバター作製を後回しにしていたのだが、ショウさんがあまりにもしつこく言ってくるのでとうとう完成させてしまった。


 モークル達から取れた新鮮な牛乳を使ったバター。しかも、モークル達には牧草しか食べさせていないのでグラステッドバターと言う体にとても良い食材を生み出してしまったのだ。


 私は世界を終わらせるのではなく変えてしまうかもしれない。悪魔ではなく天使なのだ。なぜ天使なんて言うのかって? そんなの私が天使みたいに可愛いからに決まっている。うぬぼれ? 違う、実際に私はとても可愛い。


 私は天使のような笑顔でショウさんに答える。


「はい、バターは出来ましたよ」


「と、とうとう、とうとう出来たんですね……」


 ショウさんはこの日を待ちわびていたかと言わんばかりに泣きそうな顔をしていた。


――はぁ、仕方ない、泣かせてやろうか。私にバターを作らせたことを後悔するといい。


 私とショウさんは別室に入り、話し合う。話し合うと言っても今日は試食会だ。


 私とショウさんは椅子に座ってテーブルに置かれたクーラーボックスに視線を送る。


「この中にバターがあるのですか?」


「はい。ありますよ。ショウさんが待ちに待っていたバターがクーラーボックスの中に入っています」


「はわわ……、き、緊張しますね。ん、んん。あ、ああ。よし。体長は万全、味覚もいい、鼻もよく通っている。視力も……いい感じだ!」


 今日のショウさんは限りなく気分(テンション)が高い。水をがぶ飲みし、口の中を通常に保っていた。何度も鼻をかみ、鼻水を一滴たりとも残さない徹底ぶり。


 食材を完璧な状態で感じるための準備が凄まじかった。さすが本職(プロ)。こだわりが違う。牛乳の時以上の期待をしているみたいで、私の方としても緊張している。出来れば美味しいと言ってもらいたい。


 私はクーラーボックスの蓋を開け、中に入っているバターの入っている紙箱を取り出した。


「この中にバターが入っています。どうぞ。ご確認ください」


「し、失礼します」


 ショウさんは宝くじの当選金を受け取る時よりも緊張した様子で私の手に持っている紙箱を手に取る。


「バターの重さは二五〇グラムくらいです」


「なるほど、十分な量ですね。で、では、開けます」


 ショウさんは受け取ったバターの箱の端を開け、少し傾けた。中からクッキングシートのようなつるつるとした紙で包まれているバターが出てきた。


「なるほど……、バターが紙で包まれているんですね。これは衛生的で使いやすい」


 ショウさんはバターをテーブルに置き、慎重に紙の包装を取っていく。


「お、おぉ……。こ、これがバター!」


 ショウさんは紙の包装を外し、中身を見た。


 クリーム色のバターが姿を現し、すでにほどよい乳の香りが漂ってくる。


「お、おぉ……、ここまで綺麗なバターは初めて見ました。こんなに美しい薄黄色になるんですね。眼福です……」


 バター一つで大げさだと思うが、きっとショウさんにとっては衝撃なのだろう。ただのバターを間近で凝視していた。


――いや、バターを見ただけでは幸福にはなりませんよ。幸福にするのはショウさんなんですから。


「で、では。早速試食させてもらいます」


「はい。どうぞ」


 ショウさんはナイフとフォークを使って高級な料理を食べるかの如く、バターを小さく小さく切り取り、香りを楽しんで口にそっと運んだ。


「うぐああっ!!」


「は?」


 ショウさんは『ドサッ……』と床に倒れた。


 私は訳が分からず放心中。


――私がショウさんを殺してしまったのか、え、バターで人が死ぬの? 何それ、ど、どど、どうしよう。殺人犯になったら人生終わりだよ!


「キララ様、落ちつていください。ショウさんは死んではいないようです。どうやらバターが美味しすぎて意識が昇天してしまったようですね」


――何その訳の分からない表現。とりあえず安否確認をしないと。


 私は椅子を飛び降りて床に倒れているショウさんのもとに向う。手首に指を当て脈を測ると微かに心臓が動いているのを感じた。どうやら生きているらしい。


「ショウさん。ショウさん。大丈夫ですか。しっかりしてください」


 私の呼びかけにショウさんは手を挙げて答える。どうやら声は聞こえているみたいだ。


 数秒後、ショウさんは上半身をむくりと起こし、立ち上がる。


「はぁ、はぁ、はぁ……。し、死んだかと思いました。これがバターなんて信じられません。これがバターなら今まで使ってきた品はいったい何だったのか……。さっきまで使っていたバターを今、嗅いだら、もう腐った乳と同じくらい酷い臭いに感じてしまうんでしょうね」


 ショウさんは椅子に座り直し、先ほどと同じように少量バターを切り、フォークに刺して香りを楽しんだ後、口にそっと運ぶ。


「はわぁぁ……。い、一瞬で溶けた……。凄い、凄い凄い! 凄いですよ!」


「よ、よかったです。お気に召してくれたようですね」


「お気に召すどころか私の方が頭をつくばりたいくらいです! キララさん。とんでもない食品を私に食べさせてくれましたね……」


 ショウさんは嬉しそうな悲しそうな、ちょっと怒った顔で私を見てきた。どうやら、ショウさんの味覚を超越した食品を作ってしまったみたいだ。


 ショウさんは何度か味見をしたあと、何度も何度も首を縦に振って涙を流していた。さすがにここまで来ると変人としか、言いようがなくなるのだが、それだけ食材選びにこだわっている証拠だ。


「キララさん、これがバターなんですね」


「はい、それがバターです。私の牧場で捕れた新鮮なモークルの乳を使い、作られたバターです。ショウさんにはこれも持ってきました」


 私は牛乳パックの四分の一ほど小さいパックを手に取り、ショウさんに渡す。


「これは?」


「生クリームです。ショウさんのお店が一番多用するかなと思って持ってきました。質とか、意見を聞きたいので、試飲か使用してみてください」


「生クリーム。まさか、生クリームまで……。ま、まぁ、モークルの乳で作られているのだからキララさんが作れるのは当たり前か」


 ショウさんは生クリームの入ったパックを開け、中身をぐびっと飲んだ。


 あまりにいきなりすぎて止めるのが遅れたが、ショウさんは案の定倒れた。いったい何度倒れたら気が済むのだろう。


 数分後、ショウさんは目を覚まし、立ち上がる。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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生クリームはコーヒーにも必要だるぉ!? 花見喫茶にも売ってあげて!
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