学園に入ったあとも難しい
――ドラグニティ魔法学園、エルツ工魔学園、フリジア魔術学園。学園の三強かな?
「えっと……ドラグニティ、エルツ、フリジアはどれも誰かの名前ですよね?」
「ま、そうにゃ。ドラグニティはルークス王国で名をはせた最強の冒険者、エルツは工魔学による魔法陣の構築で名をはせた魔術師、フリジアは女性で初のルークス勲章を得た魔法使いなのにゃ」
「何となく凄い人達が学園長をしているというのだけわかりました。とりあえずどこの学園に行っても損はしなさそうですね」
「どこに行っても大金をはたく価値はあると思うのにゃ。でも、卒業しないと意味がないから、学業はおろそかに出来ないのにゃ」
「そりゃあ、そうですよね」
「難しい学園は進級するのも一苦労だって聞くにゃ。親のコネで良い学園に入学しても何年も留年して格下の学園に編入するなんて話はざらにゃ。だからこそ、学園を卒業したという証明があると、どの国でも重宝される人物になれるのにゃ。フロックとカイリがそのいい例にゃ」
「た、確かに。あの二人は強いですし、どこにでも行きますもんね」
「強いのは当たり前なのにゃ。なんせ、強くなきゃドラグニティ魔法学園は卒業出来ないのにゃ。学園の上位一〇○名しか卒業出来ない決まりなのにゃ」
「え、えぇ……。強さで卒業できるかどうか決まるなんてありなんですか……」
「強さだけじゃなく、勉強の方も力を入れているからべらぼうに難しい試験を解いて進級し、最後のトーナメント戦で勝ち残ってようやく卒業なのにゃ」
「め、めんどくさ……。ドラグニティ魔法学園で勝ち残るなんて簡単な話じゃないですよね?」
「当たり前にゃ。カイリの『バリア』みたいな超優秀なスキルを持った生徒がごろごろいるのにゃ。ニャーみたいな平凡なスキルとは大違い。戦闘をバリバリこなせるスキルや、援護に長けたスキルまで幅広く強力なスキルが集うのにゃ。まぁ、貴族のボンボンもいるから強い奴と弱い奴の差が歴然になるのにゃ」
「何か、残酷な場所ですね……。私、勝ち残れる気がしないですよ……」
「キララちゃんが勝ち残れない? そんなこと、今気にしても仕方ないのにゃ。一二歳から入学して順調に順当に進級し、三年後の一五歳の時に強くなっていればいいのにゃ。まだあと四年もあるのにゃ。そもそも、ブラックベアーと渡り合えるだけで素質が充分あるのにゃ」
トラスさんは人生経験が豊富なのか、私の頭を撫でてやる気を出させてくれた。
――トラスさんってなんか、お母さん気質があるな……。結婚しているのだろうか。聞いてもいいかな。
私は、結婚しているのかと言う質問をするのはあまりにタブーな気がしてぐっと押し留まる。
トラスさんの手に撫でられていると、ギルドの扉が開き、私のスキルが戻ってきた。
「キララ様。ただいま戻りました」
ベスパは木箱の四つ角から糸を伸ばし、吊り下げながら持ってきた。
――その木箱の中に雨具が入っているの?
「はい。雨具が強風で飛ばされないように木箱に入れて運んできたんです」
――そうなんだ。それじゃあ、トラスさんの足下においてくれる。
「了解です」
ベスパは一片が一メートルほどある木箱をトラスさんの足下に置いた。
「トラスさん、この木箱の中に雨具が入っているはずなので、確認してください」
「わかったのにゃ」
トラスさんは木箱の蓋をガバッと開けて、中身を覗く。私も隙間から中身を確認した。
一〇着ずつ紐でくくられており、一〇束入っていたので一〇○着あるようだ。
「確かに一〇○着あるのにゃ。じゃあ、これがお代にゃ」
トラスさんは金貨五○枚入った革製の袋を私に手渡してきた。
――ベスパ、革袋を持って金貨の枚数を確認して。
「了解です」
ベスパは革袋を持ち、金貨一枚の重さと比較して五○枚入っているか調べる。
「キララ様、金貨が五○枚しっかりと入っています」
――そう、分かった。
「金貨五○枚、確かにいただきました。えっと、トラスさん。気になる小冊子を持って行ってもいいですか?」
「もちろんにゃ。全部無料だから、好きなだけ持って行ってほしいのにゃ。小冊子が沢山あっても置き場所に困るのにゃ」
「ありがとうございます」
私はとりあえずトラスさんがお勧めしてくれた三強の学園の小冊子を持ち、あと菓子職人専門学校の小冊子、料理人専門学校の小冊子を共に数冊貰った。両手で抱えるほどの量になり、結構重たい。
――三強の学園の小冊子には去年の入試問題が乗っていた。三強の学園の入試問題を全部見て勉強すれば、王都のどこかの学園には入れるかもしれない。だって、一位から三位までのテストより難しい学園の入試が行われるわけがないからだ。つまり、通常の学園に通う場合はドラグニティ魔法学園、エルツ工魔学園、フリジア魔術学園の三強の入試を勉強すればルークス王国の教育機関のどこにでも入学できるはず。
私に勉強を教えてくれる人は今のところいない。
知識は神父様に教わったけど、神父様に魔術学や実践などを教えてもらう訳にはいかない。
そうなると、私は独学で勉強するしかない。いや、卒業生から勉強を教えてもらうと言う手もあるか。フロックさんは馬鹿そうだから無理でしょ。カイリさんなら丁寧に教えてくれそう。でも、二人とも忙しい身だから、毎日教えてくれるわけじゃない。
――ん? そう言えばルドラさんもフロックさん達と同級生なんだよな。じゃあ、ルドラさんもドラグニティ魔法学園で上位の一〇○人には入れたということか……。もしかしてルドラさんも強いのかな。でも、そんなふうには見えなかったけどなぁ。
私はルドラさんに対する認識が低い。頭は良さそうだが運動方面は悪そうだ。収納のスキルで相手と戦うのは難しいだろうし。どうやって卒業したんだろう。
私は疑問に思い、考えるも答えは出てこなかった。
――ま、家にはライトがいるし、何とかなるでしょ。ちょっと楽観的すぎるか。もう少し真剣に考えた方がいいな。本当にどうしようもなかったらルドラさんにでも聞いてみるか。
「トラスさん。ありがとうございました。また来ますから、追加の注文が必要なら七日後にまた教えてください」
「わかったのにゃ。じゃあ、キララちゃん。気を付けて帰るのにゃ」
トラスさんは満面の笑みで私に手を振ってくれた。
「はい。もちろんです」
私はフードを被り小雨の中をゆっくりと歩く。ビー達にお願いして荷台に小冊子を置いたあと、ウシ君のもとに向かい、厩舎から出して荷台に縄で繋いだ。
「ウシ君、雨と風は大丈夫だった?」
「ああ。全然問題なかったぞ。涼しいくらいだった」
「そうなんだ、あの雨風の中を平然といれるのはウシ君くらいだよ……。ベスパは金貨を荷台に乗せておいて」
「了解です」
ベスパは荷台に金貨の入った革袋を置く。
――トラスさんは自分勝手にお金を使ってもよかったんだろうか。あとでシグマさんに怒られそうな気もするけど、他の冒険者さんがカッパを買ってくれるのを願うしかない。
「そうだ、ベスパ。今のところテュフォーンの進行状況はどうなってる? ベスパのことだから、悪魔にビーを着けさせていると思ったんだけど?」
「はい。もちろん着けさせています。今のところは何ら問題なく進んでいるようです。草木などはまい上げられていますがそれ以外の被害は出ていません」
「そうなんだ。王都に到着したらどうなるのかな……」
「悪魔の考えていることなどわかりませんよ。何か起こるか、何も起こらないかの二択だと思います」
「まぁ、極論はそうだけど……」
「私達はまだ奴を倒せるだけの力を持っていません。その試験管に入っている液体を悪魔にぶっかけたらどうなるか、わかりませんけどね」
ベスパは私の腰に巻いてある試験管ホルダーを指さす。試験官内に入っている特効薬が悪魔に効くのだろうか……。まぁ、スグルさん曰く、特効薬は聖水と近しいって言っていたから何かしら効果はあるかもしれない。
「もし、特効薬をぶっかけて悪魔が機嫌を損ねたら状況がもっと悪化するかもしれないし、無駄な干渉はしない方がいいかな」
「そうですね。今はなるべく距離を取っておくほうがいいと思います」
私達は自重し、無鉄砲な行動を起こさないと決めた。世界を滅ぼすような力を持っている敵に無暗に近づいたら即殺されると思ったのだ。
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