バルディアギルドに連絡
「ベスパ、街の補強は終わった?」
「はい。だいたい終わったそうです。大きな闘技場や時計台はまだのようですが、じきに終了すると思われます」
「分かった。それじゃあ、私達はギルドに向うよ。今見た現象を知らせておかないといけないし、王都にある学園の話も聞いておきたい」
「そうですね。映像は私が記憶してありますから見せられますけど、どこまで信じてもらえるか……」
「分からないけど、ギルドも悪魔が現れたんじゃ、動き出さない訳にはいかないんじゃないかな。他の街や村、王都がどんな被害にあうのか想像もできないよ」
「無暗に人を殺すような悪魔ではなさそうでしたが、ただ移動するだけで建物が吹き飛ばされるんですから、困ったものですよね」
「いったいどこから来たんだろう……。私達の村は街を中心に考え、王都を北として東の方向だから、東の方から来たのかな?」
「進行方向からして南東の方から来たと考えられますね。ネ―ド村の家は私達が事前に補強していなかったら簡単に吹き飛ばされていたと思います」
「ネ―ド村の皆は無事なんだね。じゃあ、デイジーちゃんも生きてるんだ。で、でも、穀物の方は甚大な被害にあってるんじゃないの?」
「いえ、穀物は無事です。ネ―ド村にいるビーによるとライトさんがすぐに駆けつけて魔法によって氾濫しそうな川に堤防を作り、押し倒れそうな穀物と無人の教会、崩壊寸前の建物を保護したそうです」
「ライト……。行動がさすがに早いね。村はもう大丈夫だと踏んで、ネ―ド村に飛んで行ったんだ」
「ライトさんが到着してデイジーさんは大喜びでしたよ。あとでその映像でも見ますか?」
「そうだね、楽しみはあとに取っておくよ。さてと私達は仕事をしないといけないし、ギルドにさっさと行って今の話をしてこよう」
私はウシ君のもとに戻り、荷台の前座席に乗る。
「ウシ君、バルディアギルドに向ってくれる」
「分かった」
ウシ君はのそのそと動きだし、脚が少しずつ速まってレクーが遅めで走るくらいの速度になった。視界の悪い現状ではこれくらいの速度で丁度いい。体感で時速ニ〇キロメートル。原付より遅いが、強風大雨の中はあまりにも視界が悪いので十分な速さだと思う。
私達は一五分ほど移動してバルディアギルドに到着した。
私はウシ君を厩舎に運び、荷台をバルディアギルドの壁際に寄せておく。車輪の四面が地面にくっ付いているので吹き飛ばされる心配はないはずだ。
「じゃあ、ウシ君。少し待っていてね」
「分かった。でも、ここが生肉所だったらすぐに逃げるんで」
「こんな時に冗談言わないの」
私はウシ君の頭を撫でて、厩舎をあとにする。
私とベスパはバルディアギルドの入り口に向かい、様子をいったん見てから中に入る。
「はぁ、はぁ、はぁ……。疲れた……」
「キララちゃん。そんなに慌ててどうしたのにゃ?」
バルディアギルドの中にはメイド姿のトラスさんがおり、綺麗な布巾でテーブルを拭いていた。
「トラスさん、今日は凄く酷い天気ですね。私、こんな暴風雨を初めて経験しました」
日本では毎年のように経験していたのだが、この世界に来てからは初の経験だった。こっちの世界の建物は台風の影響を考えていないような造りだったのでどうしても怖くなってしまう。
「確かに今日は凄い大荒れの天気なのにゃ。キララちゃん、こんな天気なのにどうしてギルドに来たのかにゃ?」
「シグマさんに話したいことがあって。今、会えますかね?」
「今、ギルドマスターは街にいないのにゃ。ルークス王国の王都の方に出張中にゃ」
「そうですか……。シグマさんは何しに行ったんですか?」
「以前、ブラックベアーが街で暴れた出来事でバルディアギルドに冒険者が足りないと言うことが分かったから、王都に行って冒険者の募集をするみたいにゃ。ただ、あんまり期待はしていないみたいだけどにゃ」
「冒険者さんの募集ですか。ブラックベアーを倒すために集まった人数が足りなかったから、もっといっぱい増やしておきたいと言うことですね」
「簡単にいえばそうにゃ。まあ、仕事が多すぎて困っているって言うのもあるのにゃ。依頼はギルドにいっぱい来るのに冒険者がいないから、仕事が溜まっていく一方なのにゃ」
トラスさんは依頼の張り付けられている壁を指さした。もう、壁一面に依頼書が張られている。ただ、いつ見てもてっぺんにある色あせた依頼書だけは別格の威圧感を放っていた。
「あれは全部、バルディアギルドに来た依頼なんですか?」
「そうにゃ。魔物の討伐や薬草採取、護衛、洞窟探索、色々あるのにゃ。でも、今はこの街の復興に人手を割いているから、なかなか消化できないのにゃ。はぁ~。人手が欲しいのにゃ~」
トラスさんは大きなため息をついて椅子に座り、テーブルにぐてーっと張り付く。猫が溶けたようですごく可愛らしい。これで三十路を越えているのかと思うと、美魔女にもほどがある。
「えっと、トラスさん。お疲れのところ悪いんですけど……。少しいいですか?」
私は改まって話始めた。
「どうしたのかにゃ? なんか、顔がいつも以上に真剣なのにゃ」
「この暴風雨の原因なんですけど、多分……」
「悪魔の仕業、ですね」
私の声を遮っていったのは服が全く濡れていない状態のノルドさんだった。青っぽい冒険着に使い古されているが高そうな剣を腰に掛けている。
ノルドさんの両隣には赤髪のラルさん、緑髪のメルさんがいた。服装が濡れていなのと、あまりにも一瞬で現れたので、ラルさんの瞬間移動で飛んできたのだろう。
ラルさんはフンっ、といった具合に腕を組んでおり、メルさんは私の方に笑顔で手を振っていた。
「ノルドさん、どうしてバルディアギルドに?」
「キララさんと同じことをするために、バルディアギルドまで飛んで着ました」
「私と同じこと?」
「はい。この暴風雨の原因を調べようと思っていたところ、上空に空が見えてまがまがしい靄が見えたんです。あれだけでもう確信しました。歴史書に書かれている悪魔の情報とそっくりだったので、もう、慌てて飛んできましたよ」
「ノルド、どういうことなのにゃ? 悪魔って、まだそんなおとぎ話を信じているのかにゃ?」
トラスさんは上半身を持ち上げて、子どもっぽいな~っと言いたそうに笑っている。
「おとぎ話ではありませんよ、トラスさん。確かにおとぎ話のような出来事ですが、悪魔は存在している。今回の暴風雨がいい証拠です」
ノルドさんは引かず、トラスさんに真剣に話しかけていた。
「外の状態は異常なくらいの暴風雨だけど、悪魔って決めつけるのは早すぎるのにゃ。いったいなんで悪魔だって分かったのにゃ?」
「歴史書の中に『強風、大雨吹き荒れる時、空に一点の穴ありけり。覗く者、皆、気を失い、恐怖することあらん。建物、川、木々、全てをなぎ倒し、己が道を征く。気を戻し者、皆口にして言う、悪魔:テュフォーン』と……」
――え、あの穴を見ていたら気絶しちゃうの。私はずっと見ていたわけじゃないから気絶せずに済んだのかな……。危なかったぁ……。街の人は建物内にいたからほぼ見てない。騎士達も私のことを見ていたから多分大丈夫。
「えっと、ノルドさんは穴を見たのに大丈夫だったんですか?」
「私は気絶しかけましたけどメルに助けてもらいました。情けない話ですが怖気づいてバルディアギルドに慌てて飛んできてしまいましたよ」
「ノルドさんの判断はきっと正しいですよ。あんな化け物に勝負を挑もうとする人なんていません」
「はぁ……。そうだといいんですけどね……」
ノルドさんは何か心当たりがあると言った具合にため息をついていた。
「ブレイクなら突っかかっていきそうなのにゃ……。はぁ、あいつ、死んだにゃ……」
トラスさんは頬杖をついてため息をつく。
「そうですね。なんだかんだいい人でしたから、死んじゃったらちょっと悲しいですね」
私は両手を合わせて拝んだ。
「はぁ、ブレイクが死んだら、Aランク冒険者への依頼が私の方にほぼ回ってくるんですね……。とても忙しくなりそうです」
ノルドさんはラルさんとメルさんの頭を撫でながらため息をついていた。
「ノルド様と私達が力を合わせれば、ブレイクなんていなくても大丈夫ですよ! 私はあんな奴死んでくれても構いません!」
ラルさんは握り拳を作り、意気込んでいる。
「お姉ちゃん、確かにブレイクさんは女好きで変態の最低だけど、死んじゃったら悲しいよ」
メルさんは少し涙目になって悲しんでいた。
私達はブレイクさんが死んだと勝手に決めつけていた。そんな時……。
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