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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
『風の悪魔』が笑えば街が吹き飛ぶ ~大雨の中でも仕事する編~

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商品が被った

「今日私が持ってきたのはモークルの乳油(バター)なんですけど、スグルさんの意見も聞きたくて一箱持ってきました」


 私はクーラーボックスを開けて中に入っている厚紙の箱を取り出す。そのあと箱を開けて薄い紙に包まれたバター本体を取り出す。


「スグルさん、スプーンとかありますか?」


「あ、ああ。薬さじならある」


 スグルさんは綺麗に洗われた小さなスプーンを私に渡してくれた。


 私はスプーンを受けとり、バターを少しだけ掬い取り、スグルさんの口もとに持っていく。


「どうぞ」


「い、いただきます」


 スグルさんはスプーンをかぷっと咥え、少し味わう。


「こ、これが……、バターだと……」


 スグルさんがスプーンを口から抜き取り、バターをバターなのかと疑っていた。


「はい、バターですよ。正真正銘、モークルの乳だけで作ったバターです。加えて牧草しか食べていないモークル達の乳から作っているのでグラスフェッドバターと言って貴重品なんですよ」


「そ、そうなのか……。じゃ、じゃあ。俺が今まで食べていたバターはいったい何なんだ……」


 スグルさんは椅子にヘロヘロと座り、脱力してしまった。


「スグルさんはバターを食べた覚えがあるんですか?」


「ある。と言うか、最近調べていたところだ……。他の牧場が作ったバターを持ち込んできて調べてほしいと言われていた。まぁ、少し前まで仕事をしていたんだが……、その時のバターとこのバターは全くの別ものだ。はぁ……、その牧場のバターは一般的に見ればそこそこ良い品だったんだがこんな物を持って来られたらゴミとしか言いようがないじゃないか……」


 スグルさんは額に手を当て、前髪をぐっと後ろに掻き揚げる。すると、イケメンの顔がさらに強調され、騎士団の女騎士がほれぼれするのも分かる美貌だった。私はもう慣れているので何とも思わないが、初めて見る女性なら、おっふ! となってしまうかもしれない。


「そ、そうなんですか」


――あぁ~、どうしよう。他の牧場と被った。ここに持ち込んでると言うことは結構な自信をもってやってきたんだろうなぁ。でも勝負の世界はそう甘くないと言う現実を叩きつけるか……。ん~。難しいところ。


「あの、その牧場のバターを見させてもらってもいいですか? 私なら何か助言できるかもしれませんから」


「いいのか? 助言なんてしたら他の牧場を助ける羽目になるかもしれないんだぞ?」


「別に構いませんよ。そもそも、バターが作れるということはモークルの乳が取れると言うことです。モークルはとても育てるのが難しいと聞きました。そんなモークルを育てられる技術があるのなら、絶やさない方がいいと思うんです。ただでさえモークルの乳は私が独占してしまいそうな勢いですし、あまり反感を買うと何か事件に巻き込まれそうなので、助言くらいなら矢も無しです」


「そうか……。確かにそうだな。分かった、ちょっと待っていてくれ。今持ってくる」


 スグルさんは椅子から立ち上がり、移動し始めた。いくつもクーラーボックスが置いてある場所に向かい、一箱のクーラーボックスを開け、何かに包まれている物体を持ってきた。


「クーラーボックスを使い続けているんですね」


「あの箱は凄くいい。氷を入れておくだけで素材が長持ちする。それだけで俺の仕事がやりやすくなったのなんのって。魔道具は高いし、魔法を使い続けるのはきつい。単純な構造だが、凄く重宝している。他の研究者も欲しいと言うくらいだ」


「へぇー。そんなに使いどころがあるんですね。あ、火には気を付けてくださいよ。すぐに燃えてしまうので火事のもとになります」


「分かってる。俺も職業がら、火には細心の注意を払っている。ポーションや薬品は燃えやすいんだ。だから、火気厳禁と学園でも教わった」


「そうですか。それなら良いんです」


 スグルさんは手に持った謎の物体を皿の上に乗せて私に見せてくる。何だろう、固められた牛糞にしか見えない……。


 ――この黒い物体をバターと言ってもいいのだろうか……。


「えっと、これは何ですか?」


「バターだ」


「え? どこがバターなんですか? なんか、バターと言うより黒い塊にしか見えないんですけど」


「そうだな。キララちゃんのバターを見たらそう思うかもしれない。王都ではもう少しましなバターが売られているが、一般市民に提供できるくらいのバターとなるとこれくらいだ」


「えぇ……。これはいったいどうやって作ったらこうなるんでしょう……」


「モークルの乳を火で煮詰めていき、固まった成分を集めたものだそうだ。俺はバターの知識が無いからよく分からないが、食えなくはない」


「あぁ……、なるほど。でもその黒い塊はバターではないと思いますよ」


「なに? バターじゃない?」


「火で煮詰めて固まって出た物を集めたんですよね。それならバターではありません。モークルの乳内に含まれる物質が固まっただけの物です」


「つまり、バターだと思っていた物がバターではないと……」


 スグルさんは冷や汗を額に掻き、動揺している。


「おそらく……。王都で売られているバターはどうかしりませんがバターの作り方はとても面倒なんですよ」


 私はスグルさんにバターの作り方を紙に書いて教えた。


「まずはモークルの乳を煮沸して腹痛の素を取り除きます。その後、超高速回転させ、モークルの乳を二種類の乳に分け、油分の少ない方を取り除き、冷却……」


「ちょ、ちょっと待て。いっぺんに言われても理解できない!」


 私は長い説明をスグルさんにして理解してもらおうとしたが、一気に話しすぎてどうもついてこられなかったみたいだ。


「そうですね。とりあえず、熱するだけではバターは作れません。そう言ってあげるといいと思いますよ」


「そ、そうだな。バターでない物を食品安全委員会に送っても許可されるわけないか。だが、キララちゃんの作ったバターは半端ないな……。もう、美味いを通り越して訳が分からない」


「そう言ってもらえると私も丹精を込めて作った甲斐があります。熱々のパンに塗って食べると凄く美味しいですよ。バターが一番よく合う食べ方だと思います」


「パンに塗ってバターを食べるのか……。どう考えても美味いじゃないか。試してみるか」


 スグルさんは朝に食べようと思っていたパンか、昼に食べようと思っていたパンか分からないが、バスケットから黒パンを取り出し、手で少し千切る。スプーンですくったバターをパンの表面に少量塗って口に放り込んだ。


「こ、これは……、美味い……。ど、どうしてくれる。これじゃあもう、ただのパンを食えなくなっちまうぞ……」


 スグルさんは手を震わせ、禁断症状でも起こしてしまったのかと思うほど止まらない。だが、スグルさんの手は次から次に黒パンを千切り、バターを塗って口に放り込んでいく。ただ、その工程を繰り返していると、あっという間に黒パンがなくなってしまった。


「はっ! い、いつの間に……」


 スグルさんは手もとに無くなっている黒パンを探すように辺りを見回し、最後に私を見た。


「俺はパンをもう食べ終わったのか?」


 スグルさんは目を丸くして驚いている。


「はい。もう、パクパク~って食べてしまっていましたよ。バターを塗った黒パンは美味しかったですか?」


「あ、ああ。美味すぎて記憶が飛んでた……」


「美味しすぎて記憶は飛ばないですよ……」


 私はスグルさんがパンを食べ終わり、口の中から唾液が無くなって喉が渇いてきたころを見計らい、クーラーボックスから、バターミルクを取り出して手渡す。


「これは?」


「その牛乳瓶の中にはバターを作るさいに出たバターミルクが入っています。体を元気にしてくれる飲み物なので、グイっと飲み干しちゃってください」


「バターを作る時に出た液体が牛乳瓶の中に入っているのか……。そんな貴重な飲み物を飲んでもいいのか?」


「はい。なんせ、スグルさんはお得意様ですからね。試飲してもらえると嬉しいです」


「わ、分かった。丁度喉が渇いていたところだ」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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