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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
『風の悪魔』が笑えば街が吹き飛ぶ ~大雨の中でも仕事する編~
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バター紅茶

 私はルークス王国の王都でどんな生活を送ろうか考える。


「まだ王都でどれだけのお金が掛かるのかも分からないし、学費すら貯められてない。受験する学園も決めないといけない。受験の勉強や鍛錬も積まないと……。ほんとやることが沢山あって困るなぁ。きっと家からの仕送りだけじゃどう考えても生活費を賄えないだろうし、私も王都で働かないと……」


「ま、キララ様なら悩むまで心配しなくてもいいと思いますよ。働き口をすぐに見つけてしまうかもしれませんし、自分でお金を生み出すようになってしまうかもしれません」


 ベスパはテーブルに降り立ち、カンデラによりかかりながら話かけてくる。


「まぁ、そうだけどさ。こうやって自分の未来を想像している時が一番楽しいんだよ。私も怖いけど、それ以上に楽しみなんだ~」


 私は少々上の空になり、楽しい青春の日々を送れるのかと思うと胸が高鳴る。


「キララ様、王都に行く目的は楽しむだけじゃありませんよ」


「分かってるよ。王都にいるアイクと勇者に正教会が危ないって教えに行くのが一番の目的。あと賢者と聖女が現れたのなら、その二人も説得しないといけない」


「ほんと、キララ様がなぜそのような危険な目に自ら飛び込んでいくのか理解に苦しみますよ」


 ベスパは腕を組み、首を横に振りながら呆れていた。


「私だって本当はしたくないけど、私がやらないと他に託せる人がいないんだもん。フロックさんとカイリさんには話してあるけど、二人より三人の方が役割を分担できるでしょ」


「そうですが……」


「時間はあるんだから、私達に出来る範囲の仕事をすればいいんだよ」


「まぁ……そうですね」


 私はベスパと話してると、カロネさんが板にカップを乗せて持ってきた。


「お待たせしました。バター紅茶です」


 カロネさんは私の前に小皿に乗っているカップを置く。


「紅茶がすごく綺麗な色をしていますね」


 私が紅茶を覗き込むと透けていた液体が白濁し、ミルクティーのようになっていた。水面に油が浮いているが、その輝きもまた、金粉が入っているお酒のようにお洒落に見える。


「はい。私も驚きました。バターが紅茶に混ざり合うまで馴染むなんて思ってもいませんでしたよ。そもそも、バターの甘い香りが素晴らしいですね。箱に入っていたバターが綺麗すぎて驚きましたし、初めて見ました。味見をしなくても紅茶とバターが混ざり合った香りを嗅いだだけでも素晴らしい品だと思ってしまいます」


「ありがとうございます。じゃあ、いただきますね」


 私はバター紅茶の入ったカップを手に取り、香りを楽しむ。やはりカロネさんの入れた紅茶は香りから違う。なぜカップを持って鼻に近づけるまでもなく香り立つ入れ方が出来るのか、私には謎だ。色と匂いは共に完璧で最後は味……。だが、試飲するまでもなく結果は分かっている。


 私はバター紅茶を口に含んだ。飲み口が柔らかく、あっち! とならない適切な温度調節……。さすが紅茶のプロだ。素人とは一口目から違う……。


「ジワァ……」


 紅茶を口の中に含むと、バターの甘味とミルキーな風味が広がる。その後、紅茶の渋みと深い香りが合わさりあう。紅茶とバターは口の中で全く喧嘩せずに溶け合っていた。何なら手を取り合ってワルツでも踊っているかのよう……。


 私は紅茶の美味しさに手が震え、カップから液体が出てしまいそうになる。でも、小皿にすぐさまおいてカロネさんの方を見た。


「うぅぅうぅ……。うぅぅぅ……。美味しいぃ……」


 カロネさんは泣いていた。私も泣きそうになっていたがすっと冷静になる。カロネさんがあまりにも泣いていたので私の涙がひっこんでしまったのだ。


「キララちゃんの作ったバター、素晴らしぃよぉ。絶対に売れるぅ……。断言できますぅ」


 カロネさんは泣きながら答えた。


「そうですか、ありがとうございます」


 私は一礼を一応しておく。


「こんなに美味しいバター紅茶は飲んだ覚えがないよ。これだけバターが美味しかったらコーヒーに入れてバターコーヒーも作れそう。あぁ、こんなに美味しい食品に巡り合える時が来るなんて……。私はなんて幸運なの……」


 カロネさんは天にでも召されるのかと言うほど上機嫌になっていた。両手を握り合わせ、魂が抜かれているようにも見える。


「ん……。そう言えば……、建物の軋みが鳴らなくなってる……。もしかして、もう晴れたのかな?」


 カロネさんは外の天気が気になったのか、入り口を開ける。


『ビュオオオオオオオ!!』


 カロネさんの長い髪を一瞬にしてなびかせ、木の葉が室内に飛び込んできていた。


「うわっ! 全然おさまってない!」


 カロネさんは扉を思いっきりバンっと閉める。


「はぁ、はぁ、はぁ。あんなに風が吹いているのに、なんでお店がまったく軋まなくなったんだろう……」


 カロネさんの髪はボサボサになっているが、そう言う髪型があるのと言われたらそうなんだ……と思うくらい芸術的な髪型をしている。頭を振ると、髪がサラサラに戻り、元通りになった。


「カロネさん。私が建物の補強をしておきました。なので凄い風が吹いてもお店が倒壊しないので安心してください」


「え……。キララちゃんがお店の補強をした? いったいいつ?」


 カロネさんは私の方に歩いてきた。


「えっと……、このお店に入る少し前から……ですかね」


「??」


 カロネさんは私の発言がおかしいと思っているのか、頭を『?』で埋め尽くしていた。そりゃあそうなるはずだ。なんせ、子供がお店の補強などできる訳がない。ウロトさんも半信半疑だったし、まぁ、別に信じてもらう必要もないんだけど……、疑われているのも気分がよくない。


「音がしなくなったという事実だけを考えてもらえるとありがたいんですけど……。そうすれば補強されているって分かりますよね?」


「そうだけど……。でも、詮索するのも悪いよね。じゃあ、私はキララちゃんの言っている言葉を信じるよ。キララちゃんが悪いことをしている訳じゃないし、逆に、私の方が助けられちゃってるんだから」


 カロネさんは笑って私の発言を信じてくれた。


「じゃあ、何かお礼しないと」


 カロネさんは顎に手を置いて、考えている。


「キララちゃんの誕生日はいつ?」


「誕生日ですか? 八月八日ですけど……」


「八月八日って! もうすぐじゃん。と言うか、今度会う時には過ぎちゃってるよ! なんだ、もっと早く言ってくれればよかったのに」


「いや、別に言う必要はないかな……と思いまして」


「もう、水臭いな~。誕生日の贈り物と今回の補強のお礼を合わせてもいいかな?」


「お、お構いなく」


 カロネさんはお店の奥にドタドタと走って行き、革製のアタッシュケースのような鞄を持ってきた。


「はい。キララちゃん。これをあげる。紅茶とコーヒーを入れるための道具一式がこの鞄に入っているから、ぜひ使って」


「え……、いやいや。そんな貴重な道具は貰えませんよ」


「いいのいいの~。私が学生時代に使っていたお下がりだから」


「そ、そうだとしても……」


「キララちゃんはルークス王国の王都の学園に行くんでしょ。それならお茶道具一式は絶対に必要だから。形式は古いけど、どれも高級品だよ。丁寧に使ってたから、まだまだ現役になれる。お店にあるのは全部新調した道具だし、今の私はどこかへお茶を入れに行くような仕事はしていないから、気にせず使って」


「そ、そうですか。ありがとうございます。ぜひ使わせて貰います」


 私はカロネさんから鞄を貰った。金具を外して鞄の中を見ると、光沢が凄い道具たちが姿を現す。ポットやコーヒーミル、茶こし、などなど……。紅茶とコーヒーを入れるための道具が揃っていた。


 私が一番目を引いたのは一つの道具だ。


「こ、これは砂時計じゃないですか……。いいんですか、こんなに高い道具までもらってしまっても……」


「うん。いいよ。その砂時計は一分しか測れないから最近はあまり使われてないの。でも、砂が落ちきってからすぐにひっくり返せば二分を測れるし、またひっくり返せば三分を測れる。結構使い勝手は良いよ」


「あ、ありがとうございます! 大切に使わせてもらいます!」


 私は手に持っていた砂時計を両手で包み込むようにして持ち、カロネさんに頭を下げる。


「そんなに喜んでもらえると、私も嬉しいよ。キララちゃんの一二歳の誕生日には何をあげようかな~。もう、悩んじゃうよ」


「はは……、まだ一年先の話ですよ……」


「はは~それもそうだね。あ……、牛乳のお金をまだ払ってなかったね。すぐ持ってくるよ」


 カロネさんはまたしてもお店の奥に走って行った。


 どこか落ち着きがなく、何となく私に似ているような気がする……。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
そういえば喫茶店と菓子店には生クリームが定番食材だけど売らないのかな?
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