大型の渦巻いた雲が街に迫ってきている
「美味しい……。いろんな味がする……。と言うか、麦飯を初めて食べたけど案外行けるな……」
「お、キララは麦飯も行けるのか。料理によってパンと麦飯が変わるのも王食の特徴だな」
「ルークス王国の王都では毎食こんな豪華な料理を食べているんですか?」
「さすがに毎食ではないと思うぞ。夜会や冠婚葬祭などの他の貴族にふるまわれる料理でもある。それこそ、誕生日とかな」
「なるほど。だから作ってくれたんですね。ありがとうございます! 残さず全部食べますね!」
私はウロトさんの出してくれた料理を全て食べる。途中から地球の食事とほぼ変わらない味がして、心から幸せだった。誕生日の贈り物にこんな良い体験をさせてもらって感謝しかない。
「私の作ったバターがいい味してますね。いろんな食材を上手くまとめてくれている感じがします」
「そうなんだよ! まさかバターがここまで料理を美味くさせるとは思わなかった。王都でもバターは使われているが、ここまで上質なバターは売っていないはずだ。キララ、貴族に見つかったら捕まってバターを一生作らされる羽目になるかもしれないから、気を付けるんだぞ」
ウロトさんは興奮しながら力説した。
「な、何かそんなふうに言われると王都の人たちがちょっと怖くなっちゃいます……。出来るだけ匿名で販売するのがいいみたいですね」
「そうだな。誰が作っているのか知らなければ、バターの評価だけするはずだ。その分、収入は減るがバターなら十分匿名でも売れると思うぞ」
「とりあえず、研究員のスグルさんにバターを見せて食品安全委員会の許可を貰わないといけないので王都に売り出すかどうかはまだ決めあぐねています。そこまでお金に困っている訳じゃないので、様子見した方が得策な気がしますね」
私はウロトさんの作った料理を全て食べきった。もう、皿に着いたソースを舐めとりたいと思うほど美味しかった。王食を王都で食べたらいったいいくらするのか気になったが怖かったのでやめた。また食べたくなってしまうと恐怖でしかない。王食依存症は人生を破滅させそうだ……。
「ごちそうさまでした。本当に美味しかったです」
「そう思ってくれてよかった。キララにはいろいろ助けてもらったしな、俺に出来るのは料理くらいだ。それで喜んでもらえたらもう、なにもいらない」
「はは、職人さんって感じですね」
「じゃあ、これが牛乳の代金だ」
ウロトさんは私に小袋を渡してきた。中には金貨五枚が入っている。
「ありがとうございます。では、また七日後に会いましょう」
「ああ、またな」
私はウロトさんのお店を出る。
『ビュオオオオオオオオーー!』
風が強すぎて私の体が横に流されそうになる。
「か、風が強い……。ウシ君は大丈夫かな」
私は腕で顔の前を覆いながら荷台に向う。
道の端でウシ君はあくびをしながら待っており、大雨強風の中余裕で過ごしていた。さすがの耐久力だなと感心する。
「ウシ君、ごめんね。こんな雨風の強いところで待たせちゃって」
「雨で体が洗われて良い気分だから、別に嫌じゃない」
「あ、そうなんだ。確かにブラッシングだけしかしてあげてないもんね。ちゃんと洗ってあげるのは七日に一回くらいだし、それにしても涼しげな表情だったね」
「最近は熱かったし、涼しい方が俺は好きなんで心地いいんだ」
「ま、夏は暑いのが辛いから、ウシ君にとってはいいかもしれないけど、私にとっては最悪の天気なんだよ。何で昨日は晴天だったのに、今日に限ってこんな大荒れの天気なんだ~~!」
「キララ様、誰もいないからって叫ぶのはやめた方がいいですよ。キララ様の声はよく通りますから、大雨や強風だろうが遠くまではっきりと聞こえてしまいます。なので出来るだけ音量を下げた方がいいですよ」
ベスパは涼しげな表情で私の頭上に飛んでいる。
「そ、そうなの? うわぁ、恥ずかしぃ……。誰もいないしこんな天気なら大声出してもいいかなって思ってたのにまさか聞こえてたなんて……」
私はカッパのフードを深く被り、赤面する顔をを隠す。
「聞こえると言っても注意していないと聞き漏らすくらいの音量なのであまり気にしないでください」
「よかった。それならまだましだよ。ふぅ、ここにいても雨でびしょ濡れになるから、次のお店に早く行こう。ウシ君、カロネさんのお店に向ってくれる」
「分かった」
私は荷台の前座席にのり、手綱を握る。
「あ、キララ様。一応報告しておきます。他のビーの情報によると、大型の渦巻いた雲がこの街に迫ってきているようです。それがものすごい勢力らしく、森にいる魔物や動物達、虫達が恐怖しているらしいですよ」
「え……。渦巻いた雲。街に危険が迫ってきているのか……。私達の村には直撃しない?」
「はい。渦巻いた雲が進む場所を考えると綺麗に直撃を避けて通るみたいです。デイジーさんのいる、ネ―ド村も無事ですよ」
「よかった。さすがにそんな大型の化け物がネ―ド村に来たら危険だった。でも、この街に迫ってきているのなら建物の補強を早く完成させないと大変な事態になる。ベスパとネアちゃんは他の皆に急がせるように言って。でも、中途半端な補強だと簡単に吹き飛ばされるから、なるべく頑丈に補強しながら作業を早めて」
「キララ様の命令とあれば、どんなに厳しくても作業を行います。その分、魔力をいただきますがよろしいですか?」
「うん。元から補強以外に魔力を使うつもりはないし、なるべく早く終わるのならどんどん使ってよ」
「分かりました。キララ様の魔力を使い、動いていない仲間をもっと集めます」
ベスパが暗い空に飛んで行き、眩しいくらいに光ると街の外から大量のビーとアラーネアが共にやってくる。ビー数匹がアラーネアを一匹抱えて移動していたのだ。
私はその光景を見ただけでとても気持ちが悪いのだが、これは魔力の使い過ぎの時に起る魔力痛だと思いたい。
「ふぅ……。やっぱり慣れないなぁ。気持ち悪いの。でも、時間が経てばもとに戻るはずだからさっさと仕事を終わらせちゃおう。ウシ君、進んでくれる」
「分かった」
ウシ君は私の命令を聞き、いつも通りの速度で進んだ。こんな状況の中いったい誰がバートン車に乗るのか疑問だった。思いっきり走らせようと思った時……。
『ビュオオオオオオオオーー!』
荷台を傾かせるほどの強風が吹く。
「うわっ! あ、危ない!」
強風が吹く度、私の乗っている荷台が傾きそうになるのだ。その都度、ウシ君が踏ん張り、横転せずに済んでいる。
「こんなに荷台が傾いたら、中身がぐちゃぐちゃになる……。ベスパ、荷台に当たる風を制御できない?」
「そうですね……。荷台が大きいので風を全て受けないようにするのは難しいです」
「そうか……。じゃあ、どうやって安定させよう」
「キララ様、ネアちゃんの糸を使えば何とかなると思いますよ」
「え? どうやって使うの」
「車輪の面に私の粘着性の糸を巻き付けていきます。地面にもくっ付くのでそう簡単に浮き上がったりしないようになるかと」
ネアちゃんはお尻から出した糸を私に見せながら提案する。
「でも、糸に土とかがくっ付いて来ちゃうんじゃない?」
「ご心配なく。魔力を流せば粘着効果は無くなります。地面から離れた時に魔力を流せば土砂はくっ付いて来ません」
「そんな作業できるの……?」
「車輪が半回転したら魔力が流れる仕組みを作れば可能です。ちょっとした魔法陣を書き込めばいいんですよ」
ベスパはネアちゃんの提案を実行できるように改善案を提示してきた。
「また難しいこと言って……。私はライトみたいな天才じゃないんだから、そんな簡単に魔法陣が描けるわけないでしょ」
「魔力を流す、切るの交互させるだけの魔法陣ですよ。それくらいキララ様でも描けます」
「まぁ、やってみるけどさ……」
私は荷台を下りて車輪に視線を向ける。
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