絶賛の嵐
「キララ! おかわりあるか! 金貨を払うから皿にもってくれ!」
「あ、ズルいぞ。フロック! レディー、私にもおかわりをください!」
フロックさんとカイリさんは学校の給食で振舞われるカレーをお代わりしたい男子生徒並にシチュー風スープを完食し、おかわりをねだってきた。
「おかわりは沢山あるので急がなくても大丈夫ですよ。料理はゆっくり食べた方が体に負担が掛かりませんから、今度はゆっくり食べてくださいね」
「あ、ああ。分かった。もっと味わって食べる」
「は、はい。私も焦り過ぎてしまった……。貴族にしては、はしたな過ぎましたね。はんせいします」
私はフロックさんとカイリさんのお皿にシチュー風スープを盛って、二人の前に置いた。
「どうぞ。あ、黒パンと一緒に食べても美味しいと思いますよ」
「そ、そうだな」
「試してみようか」
シチュー風スープはフロックさんとカイリさんにとてもいい印象を与えられたようだ。
「お姉ちゃん! なにこれ! なにこれ! ほわほわする! 胸の辺りすっごく暖かいよ!」
シャインは口の周りを子供っぽく汚し、眼をかっぴらいて何が起こっているのか理解できていないみたいだ。
「う、うん……。凄い……。魔法じゃないのに体が熱くなる……。胸に沁みる感じがするよ」
ライトは笑みをこぼす。魔法を使っている時以外滅多に笑顔にならないライトが満面の笑みでシチュー風スープを食べていた。
「うぅぅ……。これで、どこに嫁に出しても恥ずかしくないな……。母さん」
「そうね。こんなに美味しい料理が作れちゃうんですもの。どこに出しても恥ずかしくないわ」
お父さんはなぜか泣き、お母さんは温かい目でシチュー風スープを見つめている。
何だろう、すごく恥ずかしい。私をお嫁に行かせる気があるのかと思う所もあるが、喜んでくれているのでまぁ、いいか。
皆、シチュー風スープを半分ほど食べたあと、黒パンに手を伸ばす。
「キララ、この黒パンに塗ってるのは何だ?」
フロックさんはバターの乗っている黒パンを見て、不思議に思ったのか私に聞いてきた。
「それは乳油です。モークルの乳から油分を抽出して集めた食べ物になります。今回、私が作った新作です。乳油はもとからあると思うんですけど、牧場で捕れた牛乳を使って作りました」
「こ、これが……、バター。嘘だろ。こんないい香りがするものなのか……」
フロックさんは黒パンに鼻をちかづけ、恥ずかしがる素振りすら見せず、バターの匂を嗅ぐ。
「はい。新鮮な牛乳を使って作っているのでとてもまろやかで優しい甘い香りがすると思います」
「カイリ、お前、こんなバター見た覚えあるか?」
「ある訳ないでしょ……。そもそもバターだと言う食材だけで高級品なんだよ。家ではよく出てましたけど、パンに砂糖を塗って食べた方がましだと思うくらい酷い品でした。いったいなんのためにある食材なのかといつも思ってましたよ。でも……、これはバターなんだよな……」
カイリさんも黒パンに鼻を近づけ、バターの匂を嗅いでいる。
「うっとりするくらい、いい香りだ……。これは、期待が高まりますよ……」
カイリさんは匂いの嗅ぎ方からして貴族の上品さが出ており、フロックさんとは似ても似つかない。
「じゃあ、食べようぜ」
「はい。いただきましょう」
フロックさんとカイリさんは黒パンを食す。
『サクッ……』
薄く切られた黒パンは『熱』によって熱せられホカホカになり多少柔らかくなっていた。加えて表面を『ファイア』でこんがりと焼いているのでカリッカリの表面に前歯がめり込むだけで快音がなる。
「サク、サク、サク、サク……、ゴックン……」×フロック、カイリ。
「どうですか?」
「ハグハグハグハグハグハグ!!」×フロック、カイリ。
「え……」
フロックさんとカイリさんは早食い大会かと思うほどの速度で黒パンを食していく。
フロックさんは先ほどよりもさらに豪快になり、カイリさんは貴族の上品さを一欠けらも感じない。それこそ、冒険者の食べ方なのでは……と思うほど貪り食っていた。
「えっと。感想を貰えますか?」
「キララ。これは黒パンじゃない。別の何かだ。あと、バターはやばい。語彙力が無くて済まんがとにかくヤバイ」
フロックさんは眼を血走しらせながら大事なことを二回言った。
「確認するけど、これは黒パンなのかい?」
カイリさんまで黒パンじゃない別の食べ物だと疑っているらしい。
「正真正銘、黒パンですよ。まだあるので持ってきましょうか?」
「は、はい」
私は台所に置いてある黒パンを手に取り、フロックさん達のもとに持って行った。
「この黒パンが、お二人がさっき食べていた黒パンと同じものです」
「く、黒パンだ……。本当に黒パンじゃねえか……」
「黒パンがあれほど食べやすくなるなんて……」
「黒パンを薄く切って温めただけですよ。出来立てはもっと美味しいと思いますけど、食べ物は大概暖かいものの方が美味しく感じるんです」
「温めるだけでここまで黒パンが美味しくなるものなんだね。貴族の食べている高級な白パンと酷似している部分が多々ありまして驚きましたよ……」
カイリさんはただの黒パンを絶賛していた。ただ温めただけなのに……。
「そうですか。でも、黒パンなので白パンには味が劣りますよ。でも、栄養価と食べ応えは黒パンの方が断然いいですし、何より安いですからね」
「黒パンに塗ってあったバターだけど、完全に王都を超えている。美味しすぎて、そのまま食べたいくらいなんだけど……」
「ほんとですか。よかった~。カイリさんに言ってもらえると凄い安心します」
私は上流貴族のカイリさんが食べても美味しいと感じるバターが作れたみたいだ。
「お姉ちゃん! この黒パンをスープに浸けたら、あり得ないくらい美味しいんだけど! と言うか、もうないからお代わり!」
シャインは子供っぽさ全開で食事を楽しんでいた。私としても、テーブルを少し汚しちゃうくらい子供っぽくいてくれる方が安心する。
私はシャインの皿にシチュー風スープを注ぎ、新しい黒パンを切って温めたあと、手渡した。
「黒パンとスープは昔からよく浸けて食べてたけど……。今日のは一段と美味しいよ。スープが濃厚だから、サクサクの黒パンに染みると食べ応えが凄い。普段はさらっとしたスープだから、黒パンに染みるくらいだったのに、今回はもう一体化しちゃって別の料理になっちゃってるよ」
ライトは黒パンをシチュー風スープにひたひたに浸して、スプーンですくって食べている。いわゆる浸たパン。バターと牛乳があるなら、あとトウモロコシさえ見つければコーンスープも作れそうだ。
ライトは一口一口噛み締めて味わいながら食べ進め、おかわりをしてきた。
私はライトにシチューを注いだ皿をさっと渡す。
「うぅぅ……。こんなにうまい料理を食べさせてくれるなんて……。立派になったなぁ」
「お父さん。キララはまだ一〇歳よ。もうすぐ一一歳だから、成人まであと四年もあるのに、もう泣いているの?」
「そりゃぁ、こんなうまい料理を食べたら泣くだろぉ」
「もぅ、お酒が入るとすぐ泣くんだから……」
お父さんのグラスに注がれていた葡萄酒がいつの間にかなくなっていた。
結構な液量があったのにすっからかんになっている。
葡萄酒のアルコール度数は一二から一四パーセントくらい。アルコール度数が結構強いので、グラス一杯飲んだだけでも酔ってしまうのも無理はない。
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